目覚め
目が覚めると、そこは異世界でした。
ありがちな展開で申し訳ないけれど、まさにそうなのだから、どうしようもない。
見慣れぬ天井を目に、茫然としてしまった。
えっと???
どうにか視線を左右に振ってみる。
丸太が均等に並んだ天井は、なんていうか、ログハウスチック。
アウトドアな趣味なんて持ち合わせ居ないし、虫が大嫌いな母をして、キャンピングなんてあり得ないと、一切そういった経験もないまま典型的な都会っこで育ったので、想像の域をでないけれど、とにかく、「丸太小屋の天井」というのが第一の印象だ。
おまけに電気がないのか、部屋はひどく薄暗く、窓だろうか?わずかにほの暗い明かりが零れている。朝なのか夜なのかさえもわからない。
それよりも、全身が痛い。
身体を包む寝具はなんていうか、ゴワゴワとして決して心地の良いものではないし、満身創痍。全身のどこをとっても痛いというか重だるい。
多分、熱もあるのだろう、風邪をひいている時の、あの強烈な怠さに似ている。
ここ、どこ?
身じろぎ、身体を起こそうと努力はしたが、刺すような激痛にそれもかなわなかった。
なんとかして片手を顔の上にまで持ち上げる。
これだけで冷や汗ものだ。
そうしてようやく自分の手、そう、自分の手と認識したものを目にしてギョッとなった。
異様なくらい白い。
うっすらと赤い血管が浮き出たその手は、
少なくとも16年連れ添った自分の手とはどこをどう見ても違う。
特別体格が良かったわけではないが、平凡を絵に描いたような俺は、体つきだって平均的な男子高校生のそれだ。
少なくとも、目の前で消えていきそうなほど、白く細い長い指なんかじゃない。
どういうことだ・・・おれは・・・どうして?
混乱する頭を必死に働かせるが、考えた端から情報が霧散する。
えっと、えっと、思い出せ、俺。
あれは土曜日、土曜日の学校帰り、いつものように家の玄関アプローチを抜けて、家に入った・・・・いや、入っていない。
そうだ・・・あの時誰かに呼び止められて・・・そう、あれは宅配便の人だ。
ネットショッピングが趣味の多忙な両親は、よくネット通販を利用していて、毎日のように配達員がくるから、そう珍しいことじゃない。
それで、門扉のところまで戻って・・・そうしたら道路を挟んで向こうの歩道から圭が、弟の圭人が走ってきたんだ。
(にいちゃん!!!!!)
学校帰りで、ランドセルを背負った圭は、両手になぜかタマを抱えていて。
それを微笑ましくみていて・・・俺は・・・
いきなり角を曲がってきた大型トラックに気が付いて・・・俺は・・・・
とっさに飛び出して、弟と猫を庇った。
・・・・・・・・・・・・そうか、俺は車に、トラックに轢かれたのか。
どっぷりと汗が噴き出る。
轢かれた瞬間のことは、全く覚えていない。
本当に轢かれたのかどうかもわからないが、
この全身の痛みは、それと関係があるのだろうか。
わからない。・・・・本当にわからない。
感覚的には数時間だが、もしかしたら数分、数十分のことだったかもしれない。
気が付くと、眠っていたようで、先ほどよりも室内が暗く感じる。
あれほど混乱していたのに、一度瞬きをしたら
おもったほど動揺していない自分に気が付いた。
さっきまでの考えをまとめれば、自分は弟と、タマを守れたのだ・・・と思う。
いや、実際には、守り切れたのかどうかまではわからないけれど、
少なくとも、今際の際で良心に悖る行動はしなかった、それがわかっただけでも、少し安心できる。特別、出来のいい兄でもなかったが、大事な弟と、大事な相棒を守れたのなら、決して悪い人生ではなかっただろう。
無理やりそう思い込んで、それよりも、この先どうしたらいいかに考えをシフトする。
これからどうしたら・・・というよりも、ここはどこで、「俺」は「誰」なんだ。