伝説の獣2
「・・・・本当だったんですね・・・。」
目の前の光景が未だに信じられず、何度も瞬きしてしまう。
「だから言ったろうが、イイモン拾ったって!」
赤毛の男、カインはニヤリと笑う。
簡易とはいえ、堅牢なつくりの獣舎の中には、他の獣と離して、一匹の獣を捕えていた。
件の真白なスピサーガである。
捕えるときに使用されたのだろう、眠り薬草のおかげで、いまだ獣舎の壁にもたれかかるようにして丸くなる姿からは、この獣がいかに獰猛で危険な生き物であるかを忘れさせる。
「・・・まさか、本当に・・・。」
思わずといった雰囲気で数歩近づくと、カインがその腕をとって引っ張った。
「あんま近寄るとあぶねーぞ」
何度見直しても、そこにソレは横たわり、豪快な寝息を立てている。
しかし頭の良い獣でもある、こちらの油断を誘って襲ってくるかもしれない。
「いや~思ったより簡単だったぞ?あのチビっころがいたから、多少の手間はかかったがな。」
カインは、こともなげに言うが、
先刻の少年・・・というよりも幼児、あれにしたっていまだに信じられないのだ。
あの後、幼児はテオやカインをみてはパニックを起こして愚図り、何事か叫んで逃げようとするため
仕方なく部屋を出たのだが・・・。この国であの髪、あの瞳の色を宿すものに出会うなど・・・
髪を黒く染めるものがいないわけではないが、
この国で黒は禁忌の色、髪の色なのだ。神を語るものなどセルシア神殿が黙っていない。
そしてあの瞳・・・瞳の色を変えることなどこの国のどんな術師にだって容易にできることではない。
あれは本物・・・神が顕現したというのだろうか・・・。
一人思考の海にとっぷりつかろうとすると、
隣の赤毛男が
「あぁ、腹へったなぁ~ 久しぶりに実家にかえってレオじいのたまご料理でも食おうかな。」
と暢気にのたまった。
「・・・・・・・・総長。なにを言っているんですか、我々はここに任務で来ているんですよ?
・・・って、は?実家?総長、このあたりのご出身だったのですか?」
思わず、隣の赤毛男を見上げると、
ニヤリと笑って
「ああ、俺はリスラテの東にある、ホッチっていうちっせー村の出だぞ!そこからグラナダ騎士団総長にまで上り詰めるとか、大した出世だろう?」
ホッチ村、
テオはやっと本来の己の仕事、
頭の痛い問題を思い出すに至った。