最弱少年
村の決起集会?が終わったので、俺は快く手伝いを申し出てくれたクロウを伴って、家の裏手にある水汲み場へ向かっていた。
清廉な空気を肺一杯吸い込むと、身体ごと浄化される気がする。
濃い新緑の匂いに交じって、わずかに雨の匂いがして
「雨・・・・・。」
ぽつりとつぶやくと、隣にいたクロウが、山頂にかかる雲をさして
「ああ、あと半刻もすれば降ってくるな。」
両手にもった木組みの桶を抱えなおし、
「リチェ、ちょっと急いだほうがいいぞ。」
と慌てて申し訳程度に切り開かれた山道を小走りに走り出した。
対して、なぜか手ぶらの俺は、その後ろ姿に置いて行かれまいと慌ててついていくが、
キングオブひ弱なこのリチェルカーレの身体は、10mも走り切らないうちに息が上がる。
ゼイゼイと肩で息をしている俺をしり目に、
細身の体躯ながらしっかり筋肉のついているクロウは、サクサクと山を駆け上がり、
100mほど先の岩場地帯へと一直線に進んでいく。
この岩場の隙間から、ちょろちょろと湧水が流れており、先人が作ったという石造りの貯水桶
に流れ込んでいる。ホッチ村には何か所か共同の井戸があったが、村から少し離れている
リチェの家では飲料を含む主な生活用水は、この湧水に頼っていた。
どちらも同じ山の恵み、味に差はないらしいが、より山に近いこの湧水は、俺にも飲みやすい軟水で、
きっとミネラルたっぷりなんだろう、その辺のミネラルウォーターよりおいしくて、
ついついがぶ飲みして、レオンハルトをびっくりさせたのは秘密だ。
俺がもたもたと歩いている間に、健脚のクロウがあっさりと、両手の桶になみなみの水を汲んで引き返してきた。もちろん、俺に持たせてくれる気配はない。
彼を紳士と呼んで任せるべきか、男の沽券にかかわるから持たせろと言い募るべきか。
悩んでいる間に、
「リチェ、雨が続きそうだし、もう一往復ぐらいしておいたほうがよさそうだな。
俺が行ってくるから、家で休んでいなよ。」
(クロウ、紳士っ!!)
全俺がちょっと感動した。
初対面で簀巻きにされ殺されそうになったことを多少恨んでいたんだけど、
いや、今、俺の彼に対する評価がうなぎのぼりだ。
というか、全く戦力に認定されていないのもどうかと思うけど、
リチェルカーレの身体では、この山道の往復で三日くらい熱が出そうなので、
ここは素直にお礼を言って、言葉に甘えさせてもらった。
鈍足の俺が、ゆっくりと家にたどり着いたころ、
湧水へと向かう山道とは逆に、
村へと続く一本道から、慌てた様子の男が駆け上がってきた。
「たっ大変だ!メっメヌ湖にスピサーガがでたらしいぞ!!」