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トワイライト  作者: ねこる
11/15

拾得物

リスラテ村は、サン・グラニデ山脈の山裾にある村民500人にも満たない小さな集落ではあったが、サン・グラニデ山脈の一つ、コロン山を隔てて、隣国トロイとの国境へ続く街道の最後の集落だけあって、行き交う行商人や、それを警護する傭兵たちでいつも活気に溢れていた。

西に抜ければトロイへ、東に行けば、ホッチ村という小さな集落があるばかりで、あとはひたすら山道が続く。たまに薬師の一団が、珍しい山草を求めて向かう以外は人通りのないその東へ続く道を、男はじっと見つめていた。


男、テオドール・リシウスは、グラナダ第一騎士団の副総長を任される立派な体躯の青年だ。

父親が、グラナダ王妃の弟にあたり、グラナダ国王ファビル二世からみれば伯父と甥という関係だが、実際にはほとんど面識はない。叔母であるチェルシー王妃には、徒然にお茶会なる苦行に誘われ、断りきれずに何度か呼ばれているが

ファビル二世は、そういった姦しい貴族の社交の場を嫌い、ほとんど参加することなく、また国政の場ですら、限られた家臣の前にしか姿を現さないことで有名だった。姉である、フィオネスカ巫女姫の傀儡などと揶揄され、一部の貴族に軽んじられているというが、少なくともテオが数年前に謁見した時の印象は、傀儡になるような、ただ弱いだけの人ではない、芯をしっかり持った人物に見えた。それは今のこの国の在り様を見れば、聡い者にはすぐ解ることだろう。グラナダ国は、地形だけとってみれば、さして豊かな土壌があるとは言えない。国の3分の2は険しい山に囲まれ、南方は海に面してはいるが、険しい断崖絶壁に阻まれ、船の接岸には厳しい地形だから、交易をするにしても、他所の国と比べて圧倒的に不利な環境にある。にもかかわらず、近隣国に比べて、この国は豊だ。少なくとも餓えて死ぬような民人はほとんどいないという。人々はそれを女神の恩恵の賜物だとありがたがるが、テオ自身は、神をそれほど信じているわけではない。この国は女神が慈悲を与えた国ではあるが、ただそれだけだ。そもそも、なんの理由もなく神が特定の土地の人間だけに加護を与えるのは、神の在り様として可笑しな話ではないか。よしんば神の威光とやらで、自然災害の類が抑えられたとしても、そこに国を築き、暮らしていくのは、只人なのだ。導くものが一歩間違えば、国は簡単に滅びてしまう。それは、近隣諸国の在り様を見ていればすぐにわかる。どんなに豊かな土壌を有していても、上に立つ人間にそれだけの格がなければ国は亡びる。近年も、海を隔てた向こうの国スゥーリ国が斃れたばかりだ。この国が豊なのは、この国を導くもの、ファビル二世にそれだけの品格があるということではないか。たしかに姉フィオネスカ王姉の意向が影響していないとは言えないが・・・・そういって、手にした封書をちらりと眺める。先だって、伝令兵が届けた文書だ。封蝋には神殿の印章が押されている。中身はその時に確認したが、テオには頭の痛い問題だった。

「ホッチ村のはずれに住む、辺境の巫子を連れてもどれ・・か・・」

ひとりごちして、ため息をつく。


コココン コン


リズムよく、ドアをノックされる。

返事をする前に、木製のドアが勢いよく内側に開かれた。

「よぉ!テオ!来てやったぜ!」

ドアの向こうには、背の高い赤茶毛の大男、カイン・ポルテロドがニヤニヤと笑ってこちらをみてくる。

「・・・返事をする前にドアをあけないでくださいよ。」

いうと、さらにニヤっと悪戯が成功したみたいな、得意げな顔で笑う。

「相変わらず辛気臭いな、お前!」

「大きなお世話ですよ。カイン総長。」

いちいち言い返すのも面倒だが、ここで無視をするとさらに絡んでくるのがこの男、

これでもグラナダ第一騎士団総長を務める、一応の上司なのだ。

この男、カインは、貧しい集落の出と聞くが、実力だけで国の中枢部隊の長にまで上り詰めた剛腕の持ち主。恵まれた体躯もあるが、人一倍努力して今の地位を築いた努力の人なのだ。テオだって、今の地位に行きつくまでにはそれなりの努力と、日々の鍛錬を怠ることなく頑張ってはきたが、所詮貴族の出、土壌が違う。カインは、諸国を巡る傭兵部隊の隊長をやっている頃に、魔物に襲われた旅の一団を助けたら、それがお忍び巡行中だったファビル二世の側近中の側近の一団だったとかで、熱烈なスカウトをされて騎士団に入団したのだという。それから紆余曲折。様々な横やりを入れられながらも、実力で黙らせて、今の地位についている。その点にだけはテオだって十分な敬意を表したいと思っているし、そもそも剣技ではこの男に一度だって勝てたことがないのだから、上司の実力としても文句の付けどころはない・・・・この人を揶揄うところさえなければ。

「・・・ずいぶんとご機嫌ですね。なにかいいことでもあったのですか?」

こっちは頭の痛い問題だらけだというのに、この男は、いつだって余裕綽綽で、そういう面もうらやましさの反面、腹も立つ。苛立ちを隠さずに言うと、

カインは気にした様子もなく、

「いやぁ、ここに来る道中で、イイモン拾った。」

とニヤリと人好きのする顔で笑った。



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