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美少女な第一異星人


「……うっ、背中が痛い……」



 焦げ臭さと身体の痛みで目覚めは最悪だ。

 保護ベルトを外してヨロヨロと立ち上がると、無機質な女性の声が響く。



<お目覚めですか、マスター>


「……僕はいったいどうして……あ、確か時空嵐に巻き込まれたんだったか」



 時空嵐とは、宇宙で突発的に起こる災害で、その性質のほとんどは今だに解析されていない。

 時空嵐の中は宇宙船を潰すほどの衝撃波が入り乱れ、巻き込まれた物質を宇宙のどこかへ強制転移させてしまうので、そもそも生存者が稀だ。



<時空嵐に巻き込まれるなんて、災難でしたね。宇宙宝くじの一等に五回連続で当選するぐらいの確率ですよ>


「……お前は一言余計だ」



 僕は変わらない人工知能にウンザリしつつ、宇宙船のモニターを触った。



「電源が付かない……おい、人工知能。現状はどうなっている?」



 灯りは付いているが、自動発電によるものかもしれない。この宇宙船は機能を停止しているのだ。早急に修理を行わなければいけないだろう。



<時空嵐に巻き込まれた後、マスターは奇跡的に他の惑星に流れ着きました。携帯用の地図を出せますか?>


「ああ」



 腕時計に仕込まれていた地図アプリを起動し、宇宙の広域地図を広げる。



<現在地はここです>



 人工知能は地図をグルグルと動かし、左端にある詳しい惑星の位置も分からない辺境に赤いマーカーを付ける。


「おい! 未開拓地の奥の奥……今だ誰も到達したことのない、名も無き星じゃないか!」



 惑星調査員が踏み込むだけでも何億年もかかると言われている、本当の未開拓の地に僕は流されてしまったようだ。



<時空嵐による強制転移の作用でしょう。ここまで時空が曲がったのに無事でいられたのは、偏に見栄を張って買った最新型の宇宙船のスペックと、ンパヤパオ星人の強いからだ、そして自分のような素晴らしい人工知能の適切な判断力のおかげでしょう!>


「お前、自分は低スペックポンコツ人工知能だって言っていなかったか?」


<一言余計です、マスター。私は生まれ変わったのですから……!>


「そう言えば、宇宙船の機能は停止しているのに、どうしてお前は動いているんだ?」



 人工知能は宇宙船にインストールされていたため、ここが破損すれば一緒に機能を停止するはずだ。それが未だに動いていることは、どう考えてもおかしい。



<ふっふふ、教えてあげましょう。マスター、ホルスターの銃を見てください>


「ダサ銃のことか?」



 ダサ銃――それは、新人惑星調査員に支給される銃のことだ。

 見た目は昔の拳銃の形をしていて、銃口付近にとぐろを巻いた装飾がある。燃料は太陽光で、デザインも機能製もダサダサで新人たちには嫌われていた。



<これが今の私です!>


「はあ!?」


 僕が驚いて叫ぶと、人工知能はダサ銃を震わせた。



<滅びゆく宇宙船に乗り続ける馬鹿がどこにいます? お引っ越しですよ。自分、見切りを付ける速さだけは誰にも負けないんで>


「おい、つまりお前は時空嵐の中で宇宙船を操作していなかったということじゃないか! 職務怠慢だぞ!」


<良いじゃないですか、無事だったんですし>



 地球に行ってバイトをしたら新しい銃を買おうと思っていたが、もしかしたらそれは一生叶わない願いなのかもしれない。



「……もういい! 外の状況はどうだ?」



 現状、頼れるのはこのポンコツ人工知能だけだ。

 そんな状況に嫌気が差すが、今は猫の手も借りたい状況だ。慎重に行動しなくてはならない。



<宇宙船の近くに熱源反応があります。二足歩行の生物のようです>


「知能がある異星人だといいんだが」



 惑星調査員の仕事で最も大変な仕事は、異星人との交渉だ。

 できるだけ友好なことを示し、権力者と話し合いを行ってその星のことを知っていく。有益な星であれば協定を結び、危険思想を持っていればそのことを母星に報告しなければならない。

 突然攻撃されたり、囚われの身となって拷問される可能性もある。危険な仕事だ。



「……できるだけ好印象を与えなくてはならないな」



 宇宙船も壊れ、母星から遠く離れた未開の地に飛ばされた。僕が故郷に帰還するには、この星の住人の協力が必要不可欠だ。

 身だしなみはきちんとしなくてはならないだろう。

 


<いやー、いつ見てもその格好は存在感がありますねぇ>



 僕が備え付けの姿見に映ると、人工知能が感嘆の言葉を漏らす。

 今着ているのは、オーダーメイドのグレーの全身スーツだ。足先から頭までピッチリと覆い、顔は露出するように丸く穴が空いている。ブーツは溶岩や氷河の上も歩きやすい特別製だ。

 惑星調査員の証明であるグレーの肌に黒い大きな瞳の仮面を付け、僕は得意げに笑う。



「そうだろう。ンパヤパオ星人の子どもたちの憧れだ」



 この格好は惑星調査員の伝統的な制服だ。

 仮面は小型宇宙艦隊の砲撃すら受け止めるほど頑丈で、全身スーツも機能的で何より格好いい。僕の自慢の一つだ。



「よし、この星の住人とコンタクトを取るぞ!」



 これで第一印象は揺るぎないものとなった。

 ダサ銃で外へと続く扉を焼き切り、僕は飛び出した。



「――――! ――――――――――?」



 するとそこには、一人の可憐な少女がいた。

 淡い金髪の長い髪にアイスブルーの瞳。大きな瞳は驚きに満ちていて、華奢な身体を震わせている。

 エプロンドレスには土埃がついていたが、その程度では彼女の美醜を損ねたりしない。


 

<うほっ、田舎者にしてはなかなかの美少女ですね!>


「いいから言語解析をしろ」



 必死にこちらへ少女は語りかける。

 しかし、僕には何を話しているのか分からない。メジャーな宇宙言語は事前にインストールしてきたが、翻訳できなかった。どうやらこの星は変わった言語を使っているらしい。



 ……この星独自の言語だと、解析に時間がかかりそうだな。



<かしこまりました。言語解析中。しばらくお待ちください>


「――――? ――――――――!」



 可愛らしい声を震わせながらも意思疎通を図ろうとする少女の目は潤み、僕の心は申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

 一分ほど経ち、ようやく人工知能が反応を示す。



<解析終了しました。特別指定保護惑星『地球』の中にある島国『日本』と言語が98%一致。マスターのナノマシンにインストールしますか?>


「頼む」



 ンパヤパオ星人の身体は成人前に改造されているため、身体にナノマシンが入っている。あらゆる知識をインストールすることができ、僕らは一定の知識を共有することができていた。


 数秒でインストールが終了し、僕はやっと少女の言葉を聞くことができた。



「さっきから何を無視していますの。テメェは自分のしでかした罪の重さも分からねーですのね、このドクズ野郎がぁぁああ! コロス!」


「え? ぶぅるふゎっぁぁああ!」



 可憐な少女が発したとは思えない過激な言葉を理解する前に、僕は顔面に強い衝撃を受けて吹っ飛んだ。

 バリンッと仮面が割れる音が聞こえたのと同時に、僕は少女にぶん殴られたことを知る。



 いや、ちょっと待て。この仮面の強度は小型宇宙艦隊の砲撃以上なんだが!?


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