プロローグ9
オレは心の向くままに飛び出し、岩の上から獣に向かって叫んだ。
一「やい!ワンコロ!!お前の相手は調停者のこのオレだ!!」
皆の目が一斉にこちらへと向く。
視線の種類は警戒に怪訝に驚愕と様々だが、今のオレはすごい役柄だ。
目立ってしまっても、何も申し訳なくない。
エ「ど、どうしてここへ…?」
一「エリー!今こそ恩を返す!そいつはオレが倒す!」
湧きあがる何の根拠も無い自身が、俺の脳内でアドレナリンを大量生産し、
後先考えない狂戦士、もっというなら道化師と化していた。
そんな男に冷ややかな目を向ける妖精が一人。
ピ(どんな能力持ってるか見たかったから煽っちゃったけど大丈夫かな?)
エ「そんなの無理です殺されちゃいます!!早く逃げて下さい!!」
一「いや逃げない!オレは調停者だ、神様とやらに頼まれてこの世界に来たんだ。女の子が頑張ってんのを尻目にスタコラ逃げるなんてありえないっての!!それにエリーが戦うなら、オレも戦うさ」
エ「一軸さん…」
一同が勢いと流れでオレまるで英雄をみるような顔もちとなる。
オレ自身かっこいいセリフを言ったことに対し、身を震わすような感動とその反動による羞恥を味わっていた。
それにより、マジックが解けたかの如くオレは冷静になり一つの疑問が湧いた。
一「ピクル、その力はどうやって使うんだ?」
ピ「さぁ?むしろわたしが知りたい」
その瞬間、衝撃が走る。
そして同時に、時も止まった。
一「ウソォ!!!??マジデナンデ!?お前ナビゲーターなんだろ!?そういうのハウトゥー教えてくれんじゃないの!!?」
ピ「だってわたし自身が使えるわけでもないし、わたし新任だからこれが初めてのナビゲートだし」
一「ハァッ!?素人ってことか!!なんでそんなの寄越したんだクソ神!!」
オレの優位性は無くなってしまった。
いや、もともとそんなのがあったかも怪しい。
この場の空気をぶち壊した申し訳なさに、フライングからのスライディング土下座を披露したい。
エ「一軸さん!!!」
エリーの呼ぶ声と共に、ズァッと地面を破裂させる音が鳴る。
ガルムニルが俺が慌てふためいたのを好機とみて突っ込んできたので。
エ「早く逃げて!!」
ピ「一軸!!」
二人が叫ぶがオレの足はぴくりとも動いてくれない。
駅で男の子を助けた時とはわけが違う。
あれは事故で助けられたのは偶然だが、今回は明確な殺意がオレに向けられている。
どう足掻いても無理だと、本能でわかってしまう。
一「調子乗って申し訳ありませんでしたぁっ!!」
こうして異世界での冒険はあっけなく終わってしまった。
だが、数秒経っても何も起こらない。
恐怖のあまり目を閉じたが、痛みも何も感じない。
もしかしたらこれが死ぬという感触なのかとも思ったが、本当に何もこの身に害をなされていないようだ。
目をゆっくり開けてみる。
一「どうなったんだ?」
そこには茶色の炎に包まれて悶え苦しんでいるモンスターがいた。
炎はは全身を包むどころか、その大きさを徐々にましていく。
エ「すごい…」
村1「信じられん、一体どうなってるんだ?」
モンスターは体を地面に擦りつけて炎を消そうとするが、炎はそんなこと知るかと言わんばかりに燃え盛っていく。
一「もしかして、オレの力?」
ピ「そうだよ!茶色の炎なんて初めて見たけどあのガルムニルに効いてるよ!」
その瞬間、萎えかかっていたオレの自信が再び熱く滾り始め、テンションはボルテージのマックスをリミットオーバーした。
一「コレ!コレだよコレ!!少年マンガのような熱い展開!!最高じゃないか!!」
自分の右手をかざし、今のこの高鳴る鼓動のままに力を込める。
すると掌に茶色の炎が発生し、ソフトボール大の球状へと変化した。
一「コレがオレの力!くらえッ!オレの全身全霊全力全開!!」
とどめと言わんばかりに、相手に茶色の炎球を投げつける。
着弾した瞬間に、火の手は拡大しモンスターは苦しみに耐えきれられずかのたうちまわっていた。
一「いける!これなら異世界で無双プレイできる!こりゃ強すぎて申し訳ないなぁ~アッハッハッハ~」
この先の栄えある未来を想像するだけで、笑いが止まらない。
と高笑いを続けるオレの傍らで、ピクルが何かをいじっていた。
半透明で青く発光する人の手の平サイズのカードのようだ。
一「何してるわけ?」
ピ「一軸の能力を分析してたの」
一「ほぉ~それは興味深い。是非教えて欲しいもんだ!」
上機嫌に質問する。
なんせオレの能力はすごいのは見てわかる。
そんな能力がどういう効果を持っているかは重要だが、すごさを改めて説明してもらい悦に浸りたいという気持ちでいっぱいなのだ。
一「で、どんな能力?やっぱり邪炎とかそんな感じか!」
ピ「デバフね」
何を言われたのか全然理解できなかった。
一「デバフって何?」
ピ「相手のステータスに弱体させるの。呪いとか毒とかそういうの」
……正直がっかりだ。
確かに、茶色の炎ってどこかおかしい。
しかし、曲解的には邪炎みたいなものだろう。
一「で、どんな弱体効果?」
ピ「レベルの減退化、それも極めて強力な」
一「レベルの減退化ぁ?」
また変なワードだ。
単純に破壊力がある技が良かった。
ピ「相手のレベルを強制的に下げるのよ、それも存在レベルだけじゃなくて運動、細部、概念、神秘、なんでも御構い無しにレベルを下げてる。レベルは基本下がらないはずなのに、この技は世界の秩序を崩す力を持っている!」
一「おぉ、なんかわかんないけど凄そう!」
分かりにくいけど、要はレアスキルってやつだな。
期待値が高そうだ!
ピ「スキル説明文分かったから読むね」
ピクルはそういうと先程の宙に浮かぶカードに手を触れる。
なんだかんだでナビゲーターというわけみたいだ。
ピ「その焔は排泄、あらゆる不浄なる願いを込めたもの…」
うん?
ピ「世界を鎮め汚す、黄昏の悪臭…」
ううん?
ピ「頂きにひしめく乱れを失墜せしめる、恥ずべき神々の戯れ…」
…………
ピ「う◯こ」
一「オイッ!」
ピクルは静かに厳かに、聖歌を歌い上げるように小学生低学年男子が好きそうな下品なワードを述べた。
ピ「う◯こう◯こう◯こう◯こう◯こう◯こう◯こう◯こう◯こう◯こう◯こう◯こう◯こう◯こ」
一「オイオイオイちょっと待てい!!めっちゃう◯こって言ってんじゃん!?説明文最初から怪しいと思ってたけどめっちゃう◯こって言ってんじゃん!!!てか、ホントにそれ説明なの!?」
ピ「全ての脱糞の力を集めたその権能の名は…
こっちのリアクションを全シカトを決めながら、紡がれる名前は…
ピ「ファ◯クファイヤー」
一「お前ホントふざけんなよ!」
シュン
その刹那、後ろで酷い臭いを起こし燃え盛っている炎から小さな風切り音が聞こえた。
振り向くと白い毛玉が目の前いっぱいに見えて、それがぶつかった瞬間に俺の意識は消えた。
訂正
俺はそこで一度死んだ。