プロローグ7
俺はピクルと合流できた。
聞くべきことや言いたいことは山程あるが、
お腹を空かせたエリーを待たせる訳にもいかないので、詳しい話は村についてからということになった。
一「それにしても、再構築かなんか知らないけどなんで俺は空から落ちたわけさ?」
ピ「ごめんごめん、座標位置は合っていたけど高さ間違えちゃったんだよ。でも、それ以外はちゃんとこの世界に合わせてチューニングできてるよ!」
チューニングと言われると何だか嫌な気持ちになるが、この世界の人々と会話できたり服装がファンタジー感あるのに変わっているのもそれのおかげなのだろう。
エ「一軸さんって神の御使い様とお知り合いなんですね、びっくりしました」
一「神の御使いってこれのこと?この世界は妖精は珍しいの?」
災難続きの俺にとっては小悪魔みたいなやつなんだが。
ピ「これ呼ばわりは失礼だなぁ」
エ「妖精が珍しいわけではありません、ピッコロ種と呼ばれる妖精はいますが、ピクルさんはいわゆるピクシー種という神に仕える種族です。神による世界の運営の調律を守るために動くごく僅かな者達と聞いています。それに転生者と供をするというのも聞いたことがないです」
確かにホンニは世界の運営の調律とやらをしてるみたいだし、その話は間違っているわけではなさそうだ。
ピ「わりかし貴重で希少な存在で、そんなアタシが一軸のオペレーターなんだからもっと感謝してよね」
一「感謝する程にまだお前は何にもしてないからな!それに神の御使いといっても、神はあのおっさんだろ?どんな気持ちでありがためばいいんだよ」
ピ「ホンニ様に対してそんな言い草許さないんだから!」
一「痛い痛い!耳引っ張るなって!」
エ「………シッ、静かに」
エリーは人差し指を口に当てこちらに沈黙を促した。
どうやら周囲の音を聞き分けようとしているみたいだ。
俺はこのポージングの意味合いは万国共通ならぬ異世界共通なのだなと思っていたのだが、
それ以上に先程までの彼女の温かい柔和さがまるで感じられず、
その代わりに研ぎ澄まされた刃のような鋭い圧に変わっていくのに驚愕した。
俺は知ってるわけでもないし感じたこともないが、一流の戦士のように思えた。
エ「悲鳴、それに金属音と風切り音。誰かが戦ってる!二人はそこで待っていて下さい!」
エリーは疾風のような軽やかな走りで駆け出す。
一瞬にしてその姿が視界から消える。
一「ちょっとエリー!…速過ぎ」
ピ「どうする」
一「どうするもこうするもないだろ、エリーは俺の恩人だし、あの子はどんな相手でも助けるって言ってたんだ。なら、俺があの子を助けに行かないわけにはいかないだろ!」
ピ「うんうん、それでこそ“調停者”にふさわしい良い精神だよ」
ここでまた新たなワードが出てきた。
調停者、だけど今はそんなことに気を取られている場合ではない。
一「よしいくぞ!」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
【Side Elizabeth】
森の木々をかき分け、できるだけ一直線に目的地へ向かう。
戦いは膠着することもあれば、ひょんなことで一瞬にして終わることもある。
瞬きの間に人の命が失われることは珍しいことではないのだ。
だから、わたしは人を救うことに全力を尽くし命を懸けることも厭わない。
この足を緩めることは、誰かの死に直結してしまう。
未熟な自分でもそれを許したり、認めてはいけないことはわかる。
なぜなら、わたしは“勇者”なのだから!
エ「皆さんご無事ですか!?」
村1「エリちゃん!?こっちに来ちゃダメだ!」
着いた先では村人が大型モンスターに襲われていた。
村人達は馬車を引いている、村に帰る道中にモンスターと出くわしたみたいだ。
人数は3人、一人は剣を持ちモンスターを威嚇しており、残りの二人は血を流して倒れていた。
村人達は自分が幼い時から共に暮らしてきた見知った者達。
退くという選択肢は最初からないのだが。
エ「山の狩猟王…」
相手はただの大型モンスターではない。
この山の主であり支配者、長い永い年月を生き続け犬種としての限界を超え遥か高み至ってしまった忌むべき獣。
狼帝“ガルムニル”。
通称、山の狩猟王 。
この獣と出会ってしまったものは必ず鋭い牙と爪によって葬られる。
ただこの獣は決して悪ではない、人を襲う回数事態はそれほど多くない。
しかしこの森はガルムニルのテリトリーであり自らを守るため、生きるために戦い人を殺めるだけなのだ。
エ「あなたも積極的に人を食べたい訳ではないでしょうが、会いまみえた以上退く気はないのでしょうね。わたしも同じです。例えレベルの差があっても、勇者の血の誇りに懸けて!」
腰の鞘から自分の得物である木剣を手に取る。
真剣より脆く殺傷能力には欠けるが、木の刀身は魔力を通しやすく術の応用が利きやすい。
何より自分の愛用品、日々修行を一緒に熟してきた相棒だ。
村1「ダメだエリちゃん!俺たちのことは構わず逃げろ!」
エ「いえ、ワンスさんこそ早く逃げて下さい!ツーモさんとスーリオさんは傷は深いですが、まだ鼓動は聞こえます。急いで村で治療すればまだ助かります!」
シュッと空気を裂く音が静かに響く。
背後のワンスさん達に気に取られた刹那を見逃さない敵の一撃。
眼前には人の腕程ある獣の爪が迫っている。
避けることも受け止めることもできない埒外な暴力。
わたしにできることはただ一つ。
エ「エアパウンズ(空弾柔抗)!!」
相手の攻撃を見切り、横から弾くことで逸らし身を守る。
刀身を中心に圧縮させた空気をもって、攻撃を横から柔らかく叩く。
自分を上回る攻撃力と素早さに対抗する為に身に着けた、勇者の技術の一つ。
エ「簡単にこの首が取れるとは思わないで下さい」
ただ、今の一合で自分の劣勢がわかってしまう。
こちらには相手の攻撃を防げる手立てがあるが、必ず防げるわけじゃない。
いずれ来る限界はそう遠くはないし、その時点で死が待っている。
加えて体格の不利、こちらは相手の命に届く程の決定打が不足している。
大きな一撃を決めるには相応の準備が必要だが、この賢い獣がそれを許すわけがない。
ガルムニルは先程の一撃以降は静観を保っている。
闇雲に攻撃するのではなく、必勝の機を伺っているのだ。
エ(安易に大技を使おうとした時点で死ぬ予感がある。何かフェイントをかけて揺さぶるか…でも、もし失敗したらその時はもう…)
一「ちょっと待てーい!!!」
エ「えっ?」
【Side End】
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~