7.真偽
《真騎》
恐れることは無くなった。このまま突っ走るだけだ!!
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「それでは、最初の質問です。あなたはどうして元の世界へ戻る方法を訊ねないのでしょうか?」
どうして?
そんなことは決まっている。
「出来ないとわかりきっていることを改めて訊ねる必要を感じない。」
「えっ?私、どこかで説明しましたか?」
アルさんは何を言っているんだ?
元の世界へは戻れない。
「【ディメルで来訪者がきちんと生きていけるようにするためのお手伝いをさせていただいています。】」
「えっ?」
「これ、アルさんの言葉だ。その後の説明を含めて言うが、どう考えてもディメルで新しく生活する為の知識を教えてくれたよな。もしも、元の世界へ帰る方法があるのだとしたら、こんなことを説明する意味はない。最初から、『こうやって元の世界へ戻れますから、それまでこの施設で生活していてください。』だけで済むじゃないか。」
「あっ!」
それにもう一つ、決定的な事があった。
そう、これがあるから確信した。
「【・・・つまり、元の世界には来訪を受けた後にも、その音楽家は存在してたということですね。そして、ディメルに来た音楽家とは別に生きていた。】これ覚えてるか?」
「えっと、確か来訪を説明していたときのことですよね。」
「そうだな。これが決定打だった。来訪者を誘導する方法は今でも使われている。俺がこの施設に来訪したんだ。それは間違いないんだろう?」
「はい、そうですけど・・・。」
「だったら、元の世界へ帰る方法があるのに、この誘導技術を使うわけにはいかないよな?もし、来訪者が帰還してしまったら、その世界にはその来訪者が二人になってしまう。むしろ、戻れないから、この技術はわざわざ専用の魔法まで作って採用しているんだろう。元の世界への影響の軽減と、この世界での来訪者の憂いを断つために。元の世界には自分がまだいてちゃんと生活しているって聞けば、おいてきた人たちへの不安も多少は和らぐだろうさ。」
「そ、その通りです。」
おいおい。
こんな事か?
こんな事で疑われてるのか。
「アルさん、こんなことで俺を疑っていたのか?」
「だって、今までの経験ではこの質問をしない人は2種類しかいなかったんですよ!」
なんだ?
他の連中はわざわざわかり切ったこと聞くんだな。
「元の世界の不適合者と異世界に夢見る自称勇者か?」
「えっ?あ、はい。そうです・・・。この質問をしないということは元の世界へ戻りたくないってことです。元の世界へ戻りたくない人は、どうしてもそういう人たちばかりでしたから。そういう人たちは揉め事や犯罪を起こすことが多いので、危険指定されてしまいます。」
「アルさんは、俺をそんな風に見てたんだな。」
「ち、違いますよ。これは審議委員たちがそう思っていたという話です。私がマキさんをおかしいと思ったのは別の事です!」
一歩前進のようだ。
このまま進む。
そうだ、このまま突き進む!
「次の質問は?」
「むむっ、じゃあ聞きますよ。じゃあ、どうして魔法や剛獣を見ても全然驚かなったんですか?えぇ、えぇ、聞きましたよ。魔法はこういうものですよね。剛獣なんて私に比べれば怖いものじゃないですよね。でも、私はそういう反応にはならないと思っていたんですよ!!あそこで少しは驚いてくれていたら私はもっと安心していましたよ。頭の良ーいマキさんなら、私がどうして驚くと思ったのか丸わかりですよね。も・ち・ろ・ん!!」
はい?
なんだ?
おかしなことになった。
また、間違えたか?
いや、間違えたようだが少し違うな。
どうやら、探るしかない。
アルさんとの出来事を。
演習場で起こったことを。
思い出せ!!
ユーファさんに挨拶した
いや、ここではアルさんは普通だった。
魔法の実演は氷でお願いした。
いや、この時は提案に喜んでいた。
魔法を見せてくれた。
この時か!
そうだ!!
この時にアルさんは驚いていた。
俺が驚かないことに驚いていた。
アルさんはここで違うことを期待していた。
さっきもそう言っていた。
剛獣に驚いていないことも驚いていた。
何を期待されていた?
驚くことだろう。
どうして驚くと思い込んでいた?
何かを勘違いされていた?
そうだ!
アルさんは俺の状態を勘違いしていた?
どう勘違いしていた?
【だって、今までの経験ではこの質問をしない人は2種類しかいなかったんですよ!】
【ち、違いますよ。これは審議委員たちがそう思っていたという話です。私がマキさんをおかしいと思ったのは別の事です!】
これだ!!!
そうか。
俺も勘違いしていた。
さっきのはまとめて1種類だったんだ。
もう1種類。
アルさんは、俺をそっちだと思っていたんだ!
「アルさんは、俺がここを異世界だと信じていないと考えてたんだな。」
「ふえぇえ!!な、なんで!?なんでなんで!!?ど、どうしてわかったんですか?」
「いや、そう考えると全ての辻褄があうだけだ。だから氷の魔法を希望した時には喜んでいて、氷の魔法を見せた後は驚いていていたんだろ。」
「はい・・・。あの時も言いましたが、魔法を疑っている方は氷の魔法を希望される場合が多いんです。目の前で氷を作るというのは、魔法を使わないと難しいって考えるみたいです。」
「だからアルさんは、そこまでは予想通りだった。」
「そうなんです。これで魔法を使ったときに凄い驚いてくれていたら、マキさんはここを異世界と信じていないってことですよね。だから、元の世界へ帰れるかどうかを聞くことはないのが当然で、危険な人なんかじゃないってなると思っていたんです・・・。」
「だけど、そうはならなかった。なぜなら俺はただ元の世界へ帰れないと気付いていただけだったから。」
「そうなんですよ。私、あの後、実は諦めていたんです。やっぱりマキさんは前の世界に戻りたくない危険人物だったんだって。そこでマキさんが襲われるように剛獣を解き放つ提案をしたんです。もしも、マキさんがここを異世界だと信じていたのなら、剛獣も本当にいると思っているはずです。だから、この提案は断ってくるだろうって。そしたら、マキさんが信じられない返事をしてくるものだから・・・。」
「構わないっていっちまったな。」
「そうなんですよ!いくら何でもあり得ないでしょう!!・・・でも、そこでもう一回希望を持ったんです。やっぱりマキさんはここを異世界だと信じていないのかもって。でも、その後の剛獣を見てもマキさんは全然驚いていなかった。だから、私わけがわからなくなったんです。」
「それは悪い事したな。」
「はぁ・・・なんか話を聞いてみると、私一人だけ馬鹿みたいですね。もっとマキさんを信じて、お話しを聞いていれば良かったです。あの、最後に一つ質問です。この答えが問題無ければマキさんの危険指定は私の権限でなんとしても取り下げさせましょう。」
これが最後か。
勝利条件の達成も目前だ。
油断するな。
どんな事が来ても大丈夫だ。
だが、油断はするな。
思いがけない事態を招くぞ。
「マキさんはとても頭の良い方なのはわかりました。そしてとても理性的な思考を持っています。そういう方は今まで一度も異世界転移、つまり来訪の事実を素直に受け取ることはありませんでした。ですから、必ず、ここが元いた世界ではないという証拠を見せると、激しく動揺します。ですが、マキさんはそうじゃなかった。ここがチキュウではなくディメルだと確信していました。その理由を教えてもらえますか?」
なるほど。
これが最後の質問か。
俺は今回も生き残ったようだ。
これが最後の答えだ!!
「それは簡単な理由だよ。俺は地球では左目が無かった。目が覚めて最初に感じたのは左目の違和感だったんだ。」
「左目が無かった・・・。あ、そうか!そういうことだったんですね!!」
【実は来訪した方々は、元いた世界であった怪我や病気といった体の不調がディメルに来ると回復するらしいんですよ】
そうだ。
俺も体の不調が回復していた。
左目の再生だ。
いくらなんでも普通じゃないだろう。
俺は理性的に答えを探していた。
だからこそ、すぐに受け入れた。
ここは本当に異世界なんだと。
「それも私が質問される前に説明してしまったんですね。それで私たちにはマキさんが異常な人間に見えてしまっていたということでしたか・・・。うん、納得です。」
「これで俺の危険指定は解いてもらえるんだな?」
「いえ、まだですよ。私、最初に注意しましたよね?【絶対に本当の事を言ってください】って。」
「あぁ。そう言ってたな。」
「ですので、マキさんの言っていたことが本当なら、これで危険指定は解除になります。」
・・・なんだと?
どういう事だ?
まだ、この戦いは続くというのか?
そもそもどうやって本当か判断する?
やばい!!!
俺の思考を超える事態か!!?
「あ、そんなに難しい顔しないでくださいよ。もう、本当の事を言っているって私にはわかっているんですから。大丈夫ですよね?ネー様?」
「あぁ、問題ないな。そこのやつはここまで一回も嘘は言ってねーよ。」
「うん、そうですよね。だって、会話に変なところもありませんでしたからね。これで嘘ついていたら、化け物ですよ。化け物。良かったですね。マキさん、これであなたの危険指定は解除とさせていただきます。お手数をかけまして、申し訳ありません!!」
そう言ってアルさんは頭を下げてくれた。
終わったらしい。
最後は納得できるものじゃないさ。
だが、生き残れば御の字だ。
これで、俺の勝ちだな。
勝利条件 『特級危険指定来訪者ではないと証明する』 達成!!!
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はぁー、全く異世界っていうのはとんでもないね。初日からこんな事態になるなんて思ってもみませんでしたよ。あぁ、しばらくはまったりしたい。でもそうはいかないんだよね。このカッコいいお兄さんが誰か気になるし。
「あの、どうも初めまして。ご存知かもしれませんが、私は、今日こちらの世界へ来訪した明神真騎といいます。あなたは一体どなたですか?」
「あぁ、俺はネーという。よろしく。いきなり災難だったな。」
そう言ってぽんぽんと頭を叩いてきた。あら、イケメンだわ。私ときめいちゃう・・・っていうことは流石に無かった。だが、イケメンである。悔しいがカッコいい。
「こちらはネー様といって究極技能の持ち主なんですよ。あの・・・説明のためにネー様の技能について、彼に教えてしまってもよろしいでしょうか?」
「あぁ、別にいいよ。彼は聞かないと納得しないだろう。俺の技能は『真偽』という。相手が嘘をついているとそれがわかる。」
「なるほど、それでアルさんは私に嘘はつくなと言っていたんですね。納得できました。ありがとうございます。」
「意外だな。」
「何がでしょうか?」
「いや、さっきまでの勢いだったら、どうして『あんたの言葉の真偽は確かめないんだ?』って言いそうだったんでな。」
「それを疑われない人だから、こういうところに呼ばれるんでしょう?そもそもアルさんが敬語で、様をつけて呼ぶような人ですからね。」
「・・・君はもう少し、説明するということを覚えた方が良いな。それと、もう一つ。自分で答えを見つけることは重要だが、気になる事は人に聞け。君は理解する力が高すぎて自分で答えを見つけることが出来すぎる。周りに理解しているということを伝えらえるし、本当にあっているのか確認も出来るだろう。」
むむ、唯一無二の特技なんだけど。まぁ、そうだよね。今回はそのせいで死ぬかもしれなかったわけだし、ちょっとそういうことも出来るようになっていかないとね。そうだ、ちょうどいいや。
「では、一つ聞いてもいいでしょうか?」
「あぁ、なんだ?」
「汎用技能系を確認したときに、アルさんの特技が『上位技能』って表示されていたんです。『高位技能』じゃないんですか?」
「それは来訪弊害だ。気にすることじゃない。というか、それはその時点で質問しろよ。」
ネーさんは呆れたようにそう言った。
「ライホウヘイガイですか?」
「来訪弊害は、来訪者がディメルに来た直後にのみ起こる現象ですね。技能や魔法がうまく使えず、また他人からの技能や魔法を受けた場合にも、少しだけ効果がおかしくなる場合があるんです。」
「あぁ、それで私は自分の技能を確認出来ないんですね。魔法も今は止めておいた方が良いって言ったのはこのためでしたか。」
「はい、その通りです。先程マキさんが言っていた、技能名の誤表示は典型的な例ですね。汎用技能が低位技能とか基本技能とかになる事もあるようです。」
この返しも久しぶりのように感じるね。そうかそうか、この位の確認を挟めば良かったんだ。うんうん、地球の特殊部隊では情報を漏洩は死活問題だったけど、ディメルではそこまで気を遣う必要はなかったって事だね。
「ちなみにだが来訪弊害は長くても1週間もあれば回復できる。だから本当は今日君が学んだ内容は、1週間かけて学ぶものだ。その知識を身に着けないと、この施設からは外出許可が出ない。」
「あ、そうだったんですね。」
「そうさ。君は理解が早すぎる。それも危険人物に疑われた理由だよ。」
「あの、そうだとしたら、私はもう外出できるのですか?」
それを聞いたアルさんは、にっこりと微笑んだ。
「しようと思えば出来ますね。でも、せっかくですから、一日位はこの施設でお泊りしていったらどうですか?」
なるほど、焦る必要もないよね。こうして、ディメルでの最初の戦いは幕を下ろしたのだった。
バトルの後編でした。この形式のバトルは、それほど多く使うつもりはありません。決め時だけです。だって考えるの大変なんだもの。