6.思考
《真騎》
もしも、目の前のアルメルアが、構えているでかい火の玉を私に向けて解き放ったら、その瞬間に私の命は終わりだろう。だが、そうはさせない。させてたまるかよ。私はまだ死にたくはない。
おかしなことに巻き込まれるのは日常だ。そういう日常に生きてきた。だからこそ、極限の状態には慣れてしまった。こういう時も何度もあった。どうやっても生き残る事など出来そうも無い絶望。自分の力が何も通じない圧倒的な暴力による無慈悲。わけのわからない事態による恐怖。どれもこれも乗り越えてきた。
そうだ!!
考える事をやめない限りは生き延びられた。今日も何も変わらない。俺は何としてでも生き残る!
さぁ、俺の戦いの始まりだ!!!
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勝利条件の確認
勝利条件 「???」
俺の目標はなんだ?
生き残る事だ。
どうしたら生き残れる。
俺はどうして殺される?
考えろ!!
【私たちはあなたに危害を加えたりはしませんから。】
そうだ!
アルメルアは最初、俺には危害を加えないと言っていた。
保護されていたはずだった。
ではなぜ殺される?
思い出せ!!
【あなたを特級危険指定来訪者として、査問審議を行います!】
これだ!
トッキュウキケンシテイライホウシャ・・・特級危険指定来訪者!
アルメルアは俺が危険だと判断した。
だから殺される。
俺は失敗した。
何を失敗した?
わからない。
情報が足りない。
だが失敗した。
奴らにとって俺は危険に見えた。
俺の何かが奴らには危険に見えた。
・・・奴ら!!
そうだ!!
監視されていた!
カメラがあった。
他の人間も見ていたのだ。
ユーファも様子がおかしかった。
演習場へ来た時点で俺は危険だと思われていたんだ。
俺は他の来訪者とは違う何かがあった。
その結果、奴らに危険と思われた。
俺は危険では無い。
奴らは誤解している。
そう、それは誤解だ!
それならばやるべきことは決まっている!
そうだ!!
勝利条件は決まった!
俺は危険では無い。
奴らが俺を危険だと思った理由。
その理由を見つけ出す!
なんとしてでも見つけ出す!!
そして、特級危険指定来訪者という汚名を返上する!!
状況更新!!
勝利条件 『特級危険指定来訪者ではないと証明する』
こうなると避けられない。
どうやっても避けられない。
目の前の女性。
アルメルア!!
こいつは敵か?
それとも味方か?
この選択が運命を分かつ!!
もしも、こいつが味方なら?
俺が失敗したということだ。
何かを失敗した。
奴らからしたら恐ろしい何かをした?
奴らからしたらあり得ない何かをした?
それはまだわからない。
だが、何かをしてしまった。
その何かを見つけられれば良い。
しかも、アルメルアに協力してもらってそれを探せるだろう。
何が誤解を生んだのかを聞けばいい。
こっちの道はかなり楽になる。
もしも、こいつが敵なら?
アルメルアが俺を殺すつもりだったら。
最初からなのか?
それともどこかでそう思ったのか?
そんなことはわからない。
だが、不利なのは間違いない。
アルメルアは俺を簡単に殺せる。
殺せないのは他の奴らの目があるからだ。
つまり、アルメルアは俺の行動を危険だと思わせるようにした。
特級危険指定来訪者に仕立ててきた。
そうならなければ俺は殺せない。
だが、この道は茨だ。
アルメルアには俺が危険だと思われる要素がわかる。
俺には俺が危険だと思われる要素がわからない。
この道は地獄だ。
だが、生き残るためならなんだってやろう!!
運命の選択 「アルメルアは敵か?味方か?」
思い出せ!!
アルメルアは俺に何か嘘をついていないだろうか?
どこかに矛盾は無かっただろうか?
【『汎用技能』、『高位技能』、『最高技能』となります。】
【上位技能 火魔法 7位】
これだ!!!
あの時はさほど不自然には感じなかった。
だが間違いない矛盾だ。
最初は言い間違いかと思っていた。
だが、何度か言葉が出てきたが、間違ない。
アルメルアは『高位技能』そう言っていた!
だが見えた表示には『上位技能』と書かれていた!
もしかしたら・・・これが俺の殺される原因なのだろうか?
アルメルアは、敵なのだろうか?
まだだ!!
これは弱い。
そう弱すぎる。
強引すぎると言っても良い。
この矛盾はアルメルアが敵だという理由にはできない。
ならば次は味方だ。
アルメルアが味方だと思える理由はないか?
あるさ。
いくらでもあるさ!!
【マキさん、何か飲まれますか?】
【体調は大丈夫でしょうか?】
【そろそろお腹も減るかなと思ってクッキー用意してきましたよ。】
何気ないことだろう。
でも、間違いなく優しさがそこにはあった!
【これはどうしてなのかはわかっていません。】
【これは説明しなくても良い事なんですけど】
アルメルアさんは意味の無い事も教えてくれた。
ディメルでもわかっていない事を説明する意味は無い。
これから殺す人間にそんなわけのわからないことするはずない!!
【私もこの演習場へ来るまでは、まだあなたを信じていましたよ。】
この言葉を疑う事にどれほどの意味があるのだろうか。
この選択が間違いだとしても、俺は後悔しないだろう!
選択完了!!
運命の選択 『アルさんは味方』
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「アルさん!」
突然の大声にアルさんはビクッとしていた。だが、そんなことを気にしてはいられない。
「・・・なんでしょうか?」
「悪いが確認したいことがある。」
「あっはい。なんでしょうか?」
「俺は今、この施設にいる他の奴らから危険人物の疑いをかけられている。間違いないか?」
アルさんは、一段と表情が険しくなったが素直に答えてくれた。
「その通りです。どうしたんですか?その口調は?やっと本性を」
「アルさん!!」
ビクン!アルさんは言葉を遮った大声にまたも体を震わせていた。
「俺はあなたを信じる事にする!」
「えっ?えっ?えっと?どういう事でしょうか?」
「俺は今からあなたの質問に全て本当の事を話す。だから、質問して欲しい。俺の何がおかしかったのかが俺にはわからない!俺が何を失敗したのかを教えてほしい!」
「はい?えっと?えっと?」
「わかりにくいよな。そうだと思う。俺の思考はたぶんここにいる人たちに伝わっていない。だから誤解が生まれているんだ。その誤解を俺は解きたい。そのために俺はアルさんを信じて全てを任せる。俺がどうしてそんなことをしたのか、気になったことを質問して欲しいんだ。そうすればきっと誤解が解けると思う。協力してほしい。俺を助けてくれ!」
アルさんはそっと目を閉じて、しばらく動かなかった。そして、俺に向けられていた灼熱球が静かに消えていった。そして、久しぶりに優しい微笑みを俺にくれた。
「マキさん・・・わかりました。私ももう一度あなたを信じます。」
「ありがとう。恩に着るよ。」
「・・・なんか感じ変わりましたね。まぁ、いいです。実は査問審議とはそもそも対象となった危険指定来訪者への質疑応答となります。マキさん言う通りで、来訪者には私たちが何を危険に感じるかなんてわかりませんからね。」
なるほど、どっちみちこの道しか無かったわけか。それでも良いさ。アルさんを信じていける分は気が楽だ。
「この質疑応答の決まりはたった一つです。絶対に本当の事を言ってください。」
「わかった。」
「・・・マキさん。返事が軽くありませんか?命がかかっているんですよ?」
「関係ないさ。」
「マキさん?」
「どうせ、アルさんを信じて、本当の事しか話さないつもりだったんだ。今更本当の事を言ってくれって頼まれても何の関係もない。どうせ、何も変わんないさ。」
アルさんはポカンとしていた。だけど、すぐに微笑み直してくれた。大丈夫だ。この笑顔があるなら、この勝負は楽勝だ!
さぁ、第二回戦といこうじゃないか!!
真騎の本領発揮です。次回で、このバトルは終了です。うまく雰囲気を作れたらいいのですが・・・。