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愚者の選択  作者: 宮糸百舌
第一章・保護施設編
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3.技能

《真騎》


 魔法ってものはもっとわかりやすいものが良いと思います。でも、魔法が使えるっていうだけでも、ちょっと気分は上がるものですね。


「一区切りついたので、コーヒーのお代わりを入れてきますね。それとも別のものにしますか?」

「ありがとうございます。それではコーヒーのお代わりでお願いします。」

「はい、少しお待ちくださいね。」


 魔法と精霊の説明を一通り聞き終わったみたいだけど、正直なところを言ってしまうと、まだまだ知らないことがありそうで困る。ぶっちゃけ、私は石橋を叩いて渡る、そういう人間だと思っている。つまり情報とは私にとっては死活問題になるのだ。でも、仕方ない。そう、今の段階では何がわかっていないのかがよくわかっていないのだ。それではいくら考えても無駄だろう。今後はわからないと思ったことを随時勉強して補完していくという方法をとるしかないだろうね。


「もう少し休憩しましょうか?」


 コーヒーのお代わりをもってアルさんが戻ってきた。ありがたい申し出ではあるが、今は『ギノウ』とやらが気になっているので、そっちの説明をまずは聞きたい。なので、どんどん説明してもらうことにしよう。


「お気遣いありがたいのですが、『ギノウ』というものが気になっているので、説明を続けていただけますでしょうか?」

「マキさんは、勉強熱心な方なのですね。来訪者の方には全く説明を聞きたがらない人も多く、こんなにまじめに聞いてくれる方は珍しいですよ。」


 馬鹿な事を言う。異世界に来て、その世界の常識を確認しないやつはただの案山子ですよ。それとも何か?自分は勇者として召還されたから死ぬわけないんだ。薔薇色の人生が待っているとでも思っているのだろうか?悪いけど、私はそこまで幸福な頭はしておらんよ。


「私の感覚では、そんな事をしては死期を早めるだけだと思いますが・・・。そもそも普通に生活するにしても揉め事の原因になるでしょう。」

「そうなんですけどね。ですから、私たちもきちんと説明しておきたいのですが、来訪者本人がどうしても聞きたく無いと主張する場合には説明する事は出来ないということになっているものでして。」

「無理にでも説明はするべきだと思いますけどね。まぁ、そういうわけですので、私は最後まできちんと説明聞きますし、知りたい事は質問していこうと思いますが、大丈夫でしょうか?」

「はい、そのために私たちはいますので、どんどん利用しちゃってください!」


 それでは、早速聞いていこう。


「では、『ギノウ』について早速教えてください。」

「はい、技能とはディメルにおける最大の特徴となります。魔法と違い、技能は他の世界には無く、このディメルにのみ存在するものになりますね。」

「ふむふむ、特別な魔法のようなものなのでしょうか?」

「うーんと、その答えだと半分正解という感じですね。技能とはその人の才能を表すようなものです。まず、技能とは大きくわけると2種類。さらにそこから細分化すると全部で6種類あります。」


 なんだ、6種類しかないの。これなら魔法よりも覚えるのは簡単かもしれないな。


「全部で6種類しかないのですか?」

「あ、すみません。言葉が足りませんでしたね。技能自体はとんでもない数があるのですが、分類が6種類しかないんです。まずは『汎用技能系はんようぎのうけい』が3種類。『汎用技能はんようぎのう』、『高位技能こういぎのう』、『最高技能さいこうぎのう』となります。そして、『特殊技能系とくしゅぎのうけい』も3種類。『特殊技能とくしゅぎのう』、『固有技能こゆうぎのう』、『究極技能きゅうきょくぎのう』となりますね。」

「ふむふむ、なんとなく想像が出来るものもあるのですが、まずは一通り、全ての種類のギノウの説明をお願いできますか?」

「了解です。まず汎用技能系ですが、単純に言うと、その人がどういうことが得意なのか、どのようなことに適性があるのかということです。」


 言葉通りの意味だとすると、大体は理解できるかな。先程の魔法での説明にあった適性というのも、このことだったのだろうか。


「例えば、汎用技能系には『火魔法技能かまほうぎのう』というものがあります。この技能を習得できれば、火の精霊に魔法を依頼するときに、効果が強くなったり、魔法力の消費を抑えられるようになったり、強力な火魔法が使えるようになります。」


 ふむ、まぁ予想の範囲を超える回答では無かったね。大体予測通りではあるんだけど、そうなるとちょっと疑問があるよね。


「アルさん、そうだとすると他の世界にギノウが無いというのはどういうことになるのでしょうか?魔法は他の世界にもあるんですよね?」

「はい、そこが疑問になりますよね。実は他の世界にも才能というものはあり、人によって使える魔法には開きがあります。ですが、それをはっきりとわかる形では認識できないそうなんです。つまり、技能はこの世界では、才能がどの位あるのかをはっきりと人と比べることが出来るものなんです。」


 なるほどね。そうなると、ハンヨウギノウケイの3つは大体名前通りなのかな?


「つまり、ハンヨウギノウケイの3つの技能は、その才能の位がどう違うのかによって分かれているだけということですか?」

「はい、その通りですよ。正確には汎用技能系の技能は10段階の評価になっています。1~5は汎用技能、6~9は高位技能、最高位である10に到達したものは最高技能となるのです。」

「結構便利そうなのに、これは他の世界には無いんですね。なんかちょっと意外な感じがします。」

「そう・・・ですね。えっと、これは順番間違えてしまったかもしれないですね。実はこの汎用技能系は後で誕生したものなんですよ。」


 うん?そうなのか。どっちかというと汎用技能系が先に出来ていて、後からトクシュギノウケイが出来たみたいな印象だったんだけどな。


「つまり、このディメルには先にトクシュギノウケイがあったということですか?」

「そうなんです。元々は技能といえば特殊技能系を指す言葉だったんですよ。ディメルでは極めて稀にではありますが、精霊を介さずに魔法を使える人間が現れます。その魔法こそが特殊技能系です。」

「なるほど、最初の半分正解というのはこういう意味でしたか。」

「はい、いきなり核心をつくのでびっくりしちゃいましたよ。特殊技能系とは、本来は精霊たちでも出来ない様なことを一つだけではありますが、人間がそのまま魔法のように扱う事が出来るものを指します。」


 うむむ、今一つよくわからない。ちょっと頭を捻っていると、アルさんが突然笑い出した。


「あはは!マキさんもそんな風に理解できない事があるんですね。ちょっと安心しましたよ。」

「そりゃ、こっちはわからないことだらけですからね。今のところは何とかついていってますけど、わからないこともありますよ。」


 アルさんは私をどういう風に評価しているのだろうか?私は天才とかではないぞー。


「そうですね。具体例を出しましょう。最初にモニター越しに来訪についてちょっとだけ話しましたよね。その時に来訪者が来る時期がわかるということを言っていたのを覚えてますか?」

「はい、覚えてますよ。場所も誘導出来ると言ってましたね。」

「これは『未来視』という特殊技能によるものです。未来視は特定の事柄が発生するときに、その事象を事前に知ることが出来るという技能です。ただし、先に知りたい事象を設定しないといけないし、その事象は予知した時点ではどうしようも無いこともあります。あくまでも一定時間前にその事象が起きるとわかるだけです。」

「えっと、ということはこの来訪者保護施設には来訪を設定して未来視している方がいらっしゃって、その方のおかげで私は無事に保護されたというわけですか。」

「その通りです。ちなみに来訪者を施設内へ誘導しているのは技能とは全く関係ない方法ですね。」

「あ、そうなんですね。そっちも興味がありますけど、とりあえずはギノウについてを全部聞いてからにしましょうか。」

「その方が良いと思いますよ。さて、特殊技能系については理解できましたか?」


 なんとなく今一つではあるが、理解は出来ていると思う。思うんだけど、そうなると気になることが増える。全く、覚えることが多すぎるぜ!


「あの、それではコユウギノウとキュウキョクギノウとはどのようなものなのでしょうか?」

「固有技能は特殊技能の中で、他の人間が覚えることが無い技能を指します。つまり固有技能の使い手はそれぞれの技能で一人ずつしかいないということです。究極技能は固有技能のさらに上位能力です。世界で一人しか使えない上にその技能の効果がとてつもなく大きい技能はそう呼ばれることになります。」

「逆に言えば、特殊技能は、使える人間が世界に何人かはいるんですね。」

「はい、しかしかなり希少なのは間違いありません。未来視も世界で6人しか見つかっていませんからね。来訪者保護のためには絶対に必要な技能であるため、国が世界中を探してもそれだけしか見つかっていないということです。」


 ここまでの説明で納得できないところがあるので、きちんと聞いておこうかな。聞いておかないと今後大変になりそうな気がしてならないしね。


「あの、汎用、高位、最高は位によって変化するということでしたが、その位はどうやって決まっているのでしょうか?また、特殊か固有か究極かは誰が判断しているのですか?特殊技能もそれほど少ないのであれば、固有と勘違いする人が多いでしょう。」

「それが、汎用技能系が他の世界には存在しない理由なんですよ。実は、この技能の可視化は過去にいた人間の究極技能の効果なんです。」

「それはどういうことですか?」

「過去にとても凄い力を持った魔法使いがいたそうです。ありとあらゆる精霊を従えるほどの魔法力を持った化け物。それは最早どんな人間にも止めることが出来ないと思われていましたし、その魔法使いは悪事の限りを尽くしたそうです。しかし、あっさりとその魔法使いを殺したものがいたそうです。その魔法使いを殺した人間は究極技能の持ち主であったにも関わらず、その事を誰にも話さずにいた。簡単に言うなら日陰者の勇者でした。勇者は特に世界を変えようとか思ったわけでも無く、魔法使いはたまたま自分を殺せる技能を持った、その勇者を襲ってしまって返り討ちにあったのです。その時にその魔法使いは究極技能に目覚めたらしいんです。それが、『格付け』と言われているディメルへかかった呪いです。」

「つまりそのカクヅケというのが、この汎用技能系の位を決めて、特殊、固有、究極を分けているんですね。」

「はい、どうやらその魔法使いは相手が自分を倒せる技能を隠していたから死んだのだと、この世界を恨んだようなんです。その結果、死にゆく体で技能を習得し、発動したのだそうです。それからはディメルではこの究極技能による格付けが永遠に続いています。まぁ、ある意味では分かりやすくて良いという意見もあるんですけどね。」


 なんとまぁ、はた迷惑なやつもいたものだね。ということは、汎用技能系は、おそらく他の世界でも魔法をうまく使える使えないという才能はあるんでしょう。あるんでしょうけど、それが目に見てはわからない。このディメルではそれが技能という形で可視化されている。それだけの話ってことだよね。特殊技能系こそが、このディメルの特産品ってことになるわけだ。


「でも、呪いというほど大げさなものには感じませんね。ただ、人の強さをある程度比べられるというだけでしょう?」

「いえ、格付けはとんでもない効果をさらに三つ発揮しています。一つは、汎用技能系は他人でも見ようと思えばいつでも見ることが出来るという事です。マキさん、私に向かって、汎用技能系を確認したいなと思っていください。」

「え?思うだけで良いんですか?」


 そう言われて、言われた通りにやってみる。すると・・・


上位技能 火魔法かまほう 7位

上位技能 水魔法すいまほう 7位

上位技能 地魔法ちまほう 7位

上位技能 風魔法ふうまほう 7位

上位技能 光魔法こうまほう 7位

上位技能 闇魔法あんまほう 7位

上位技能 木魔法もくまほう 7位

上位技能 金魔法きんまほう 7位

上位技能 身体強化しんたいきょうか 6位

上位技能 老化防止ろうかぼうし 6位


という情報が頭の中に刻まれる。


「これは!」

「はい、それが格付けの力です。これにより才能は他人にばれてしまうことになりました。つまり、弱いものはその弱さを隠すことが出来なくなってしまったのです。」

「それは結構大変な事態かもしれませんね。」

「はい、これにより多くの犯罪が起きました。だって、その町の警備員より自分が圧倒的に強いとわかったら、どうなりますか?その警備員は何の価値も無い存在になってしまうんですよ。犯罪の抑止力になんてなるわけありません。」


 ここに来て改めて思うけど、この説明聞かないやつがいるっていうのは正直だめだと思う。こんなの知らないと確実にやばい情報だろうに。


「残りの二つもすぐに体験できますので、やってみましょう。私には特殊技能系があるかどうかを確認したいなと思ってみてください。」


 もうここまでくれば流石にわかりますよ。じっとアルさんを見てみると、


特殊技能系はありません


 そう表示されている。なるほど、特殊技能系がある場合には、これで詳細が見れるという事かな。


「特殊技能系は持っているかどうかしかわかりません。ですが、迂闊に究極技能を持っているものに戦いを挑むという事は無くなるでしょうね。」

「あ、特殊技能系はあることしかわからないんですね。」

「はい、流石に特殊技能系の内容までは把握できません。ですが、持っていることがばれるというだけでも、大変なことなんですよ。ちなみにですが、相手がどこまでの能力を持っているかも見ることは出来ませんね。」


 つまりは、特殊技能系を持っている人間を見ると、特殊技能系があります、に表示が変わるだけなんだろうね。


「最後の一つは何なのですか?」

「最後の一つは絶対強者です。これもただ絶対強者を確認したいと思うだけで効果がでますよ。」


 ふむふむ、やってみましょうか。絶対強者は・・・


絶対強者番付が確認出来ます。基本の100位までを表示しますか?


 うーん?これはなんだろうか?


「変な確認が頭に浮かんでいますけど・・・これは一体?」

「これはこのディメルで、ありとあらゆる手段を用いての勝負をした場合に強い順の表示です。基本は100位まで見れますが、見たいって思えば1000位までは確認出来ますよ。この100位に入っているものを『強者』と呼び、10位以内にいるものを『絶対強者』と呼びます。これにより1000位までに入っているものはその強さをどうやっても隠せなくなりました。」

「むしろ、名前が載ることで助長するものが出てきそうな気がしますね。」

「それについてはむしろ国が積極的に支援する事で収まっています。絶対強者の日に1000位以内である『準強者』に入れれば、それだけで一年間国からの莫大な援助がもらえますよ。ただし、犯罪行為を行えば全ての援助が没収されますけどね。」

「それならばある程度は抑止力になりそうですね。」


 まぁ、本当にやばい奴には意味はないだろうけど。大体聞くことは聞いたって感じかな。


「技能については大体こんなところですね。この後まだ話を聞く元気があるのであれば、来訪についてと、その他にもう少し注意事項などがあるのですけど、どうされますか?」


 ここまで来たら私の答えは決まっていますよね。


「何にせよ、全部の説明は聞きたいので、時間が大丈夫ならこのまま説明してもらえますか?」


 さて、もうひとふんばりですな。

今回は技能についての説明回です。説明回は後1話続きます。来訪とはどうなっているのかを説明したら、ついに物語が進みます。

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