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愚者の選択  作者: 宮糸百舌
第一章・保護施設編
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2.魔法

《真騎》


 余りにも現実的では無い事を言われてしまうと、逆に信じるしかありません。だって、そうでなければ相手は頭がおかしいということになります。目の前にいる女性、アルメルアさんを見る限り、そんな風にはとても見えないけどね。


 「迎えに行きますね。」と言ってから、3分位でアルメルアさんは部屋にやってきた。武装した怖い人を連れて来るということもなく、とても無防備な感じで普通に部屋にやってきた。その後、案内されるままに別の部屋へと移動して、今、来訪とこの世界について教えてもらうところだ。


「マキさん、何か飲まれますか?」


 うん、アルメルアさん、こっちの世界の飲み物がわからないよ。


「私の世界でいうコーヒーみたいなものありますか?無ければ暖かいお茶をください。」


 とりあえず探りを入れる目的で注文してみたんだけど、どうかな?


「はい、コーヒーですね。ふふっ、マキさんは本当に賢い方なのですね。この世界にもコーヒーがあるってわかっていたような注文です。しかもコーヒーは無くても、流石にお茶はあるだろうというところがまたすばらしいですね。」


 コーヒーあんのかい!うむむ、なんというかこの施設を見ているとあまり異世界という感じがしない。普通に電灯が点いているし、さっきの部屋と同じように廊下やこの部屋にも監視カメラがあるし。さらに、先ほどの部屋のベッドやこの部屋の椅子や机も私が良く見るような形をしていた。しかも、アルメルアさんが着ている服は白衣に見える。というか白衣だろう。私が知っている研究所の職員さんという感じそのままの姿なのだ。


「なんというか、とても地球の日本に近い環境なのが気になっているのですが、これはわざわざそのようにしているのでしょうか?」

「いえいえ、そういうわけではないんですよ。これはチキュウの技術を真似て作っていますので、そのように感じるのだと思います。」

「真似ている?つまり、この技術は地球の物と同じなのですか?」

「はい、その通りですね。チキュウから来訪された方から聞いた情報を元にこのディメルでも再現できそうなものを模倣させていただいております。ですので、こういった食べ物や電化製品などの他にも文化的なものもチキュウから学ばせてもらっていたりしますね。学校などがそういったものになるでしょうか。」


 ふむ、そんなに見事に電化製品の正確な作り方を知っているやつがたまたま来訪したのだろうか?料理くらいなら、私でも別の世界で再現できそうだが、電化製品となると話は別だろうに。


「この世界でも元々機械技術は発達していたのですか?」

「いえ、ほとんど発達していませんでしたね。チキュウから機械という技術が入ってきたときには、もう大騒ぎだったほどですよ。」

「だとすると、そんなすごい知識を持った人間がたまたま来訪したということですか?」


 コーヒーを入れたカップを持ってアルメルアさんが席へ戻ってきた。彼女は微笑むと、


「ふふっ、流石にマキさんでもわからないことがあるんですね。実は人の知識から物の情報を読み取れる技能を持った方がいまして、その方が読み取って得た情報を元にディメルにも科学や機械の技術が充実していったのです。」


と言って、カップを私に差し出した。一口飲んでみるが、間違いなくコーヒーである。彼女の説明の意味がわからないが、どうやら彼女は本当の事を言っているのだろう。だとすると、


「たぶん、私はまずこの言葉の意味を聞かないといけないようですね。『ギノウ』とはなんでしょうか?」

「あ、そうでしたね。あんまりマキさんが普通に会話しているので、説明するのを忘れていました。来訪についてご説明する前に、絶対に説明しておかないといけないことがあったんでした。」


 そう言って、彼女は私の前の椅子に座った。


「まず、もう一度きちんと自己紹介をさせていただきますね。私の名前はアルメルア。純帝都の来訪者保護施設責任者になります。来訪された方を当施設へと誘導し、この世界ディメルについての基本的な知識を教え、ディメルで来訪者がきちんと生きていけるようにするためのお手伝いをさせていただいています。今から、少し長い説明を聞いてもらうことになりますが、体調は大丈夫でしょうか?」

「そういえば、異世界に移動したというのに体調は悪くないですね。これも保護のおかげなのでしょうか?何にせよ、まずは説明をしていただかないと、ゆっくり休む事も出来そうにありませんので、お気になさらず、しっかりと説明をお願いいたします。」

「はい、それでは長くなりますが、最初から説明をさせていただきますね。あなたの世界とこの世界には大きな違いが二つあります。それは魔法と技能です。」


 ふむ、魔法と来ましたか。まぁ、それくらいはありだろう。うん、ありってなんだろうか。感覚が徐々にだがおかしくなっているような気がしてきたよ。


「まず、魔法について説明させていただきますね。マキさんは魔法というものがどういうものなのか思い描くことは出来ますでしょうか?」

「そうですね。私の思い描く『マホウ』は精神力のように体の中にある何かの力を消費して、普通ではあり得ないようなことを起こせるもの、という感じでしょうか。」

「はい、大体は合っていますね。チキュウには魔法が無いということですが、みなさん大体はそのような感じのものを思い描いてくださいますね。ちなみにですが、魔法が無いという世界はとても珍しく、私たち来訪者保護施設で把握しているものでは、チキュウ以外には例がありません。」


 ふむ、つまりこの説明は地球出身の来訪者用ってことかな。だとしたら、わかりやすい説明がもらえそうで、一安心だね。


「魔法とは地球のみなさんが思い描いている程、万能なものではありません。魔法とは8種類の精霊に呼びかけて力を借りる方法、という説明が一番適格だと言われています。」


 うむむ、次はセイレイか。セイレイというものがよくわかりませんよ。まぁ、この流れなら大体は想像出来るけれど、きちんと説明を聞いていこう。


「アルメルアさん、『セイレイ』とは何でしょうか?」

「マキさん、アルメルアって呼びにくいでしょう?アルで構いませんよ。みんなそう呼ぶんです。」

「あぁ、それではお言葉に甘えて。アルさん、『セイレイ』とは何なのでしょうか?」

「はい、精霊とは、世界に宿る人とは違う知的生命体ですね。いろいろな世界の情報を集めましたが、精霊はどの世界でも最高で8種類。足りない世界も確認されていますが、この8種類以外には発見されておりません。」

「つまり、地球には1種類もそれがいないためマホウは出来ていないということですね。」

「どうやらそのようですね。ちなみにこのディメルには全ての精霊がいるんですよ。そのため全部の魔法がここでは使えるんです。」

「ふむふむ、それでセイレイの8種類というのはどのようなものなのでしょうか?」

「はい、火、水、地、風、光、闇、木、金の8種類ですね。お時間かかりますけど全て詳しく説明いたしましょうか?」

「間違った知識があると困るのでお願いできますか?」

「了解いたしました。それでは、精霊の種類は、この後の魔法を説明してからじっくりと説明させてもらいますね。そっちの方がわかりやすいと思うので!」


 ふむふむ、だとすると、これで精霊については大雑把には理解できたということだろう。ただ気になるのはその次である。


「わかりました。それでは早速なのですが、その精霊がどのようにマホウに関わってくるのでしょうか?」

「はい、先ほども説明しましたが、魔法は精霊たちにこういうことをして欲しいと伝えると、精霊たちがそれをやってくれる。そういうものです。マキさんが、精神力を使ってという感じで話していましたが、確かに魔法を使うには精霊への対価が必要になります。私たちはそれを魔法力と呼びますが、どのようなものかと言われると、説明が難しいですね。」

「ふむ、つまり何か物が取られるというわけではなく、目に見えない何かを奪われるのですね。」

「はい、その通りです。それとチキュウから来られた方はよく勘違いするので、先に説明しておきますが、魔法力は薬剤などでは回復できません。どうやら、そういった物で回復できるという創作物が多いとのことで、よく誤解をされている方がいますが、魔法力は言ってみれば体力などと同じもので、基本的には本人の自己治癒でのみ回復できます。薬剤などで早く回復するということなら出来ますが、無いものをいきなり回復することは出来ませんし、ぎりぎりまで魔法力を使ってしまうと、さらに回復が遅くなります。」

「形は違えど、本当に体力と同じようなものなんですね。」


 確かにゲームなどでは魔法力のようなものは回復用の道具で簡単に補充できるような感じがあるよね。これはありがたい忠告をもらえた気がする。


「ちなみにですが、魔法力を使いすぎると、意識が朦朧となったり、最悪の場合には気絶します。ですので、魔法力は人の考える力なのではないか、というのが一般的な説なんですけど、詳しくは解き明かされておりません。」

「なるほど。完全にはわかりませんが、どのようなものであるかは理解できたと思います。特に先ほどの回復についての説明はとてもありがたかったです。私も聞いていなけば薬剤で回復できるような感じをもっていたと思います。」

「あ、やっぱりマキさんもそういう風に勘違いされていたんですね。」

「えぇ、お恥ずかしながら、そういうものだと思い込んでいましたね。ところで、魔法力の正体が解明されていないということでしたが、精霊が知的生命体であるならば、それを聞いてみたことはないのですか?」


 先程の説明で精霊は知的生命体と表現されていた。ということであれば、当然だが魔法力が何なのか?ということを聞いていても、良さそうなものである。


「残念ながら、精霊とは対話は成功しておりません。意思を持っているという事は間違いないようなのですが・・・。」

「それではどうしてそう考えられているのですか?対話が成立していないのであれば、相手に知性があるかはわからないと思うのですけれども。」

「あぁ、それは魔法が場合によっては発動したり、発動しなかったりするからですね。」


 うむむ?どういうことだろうか?これは今までと違ってどういう意味なのかが全くわからない・・・。


「えっとですね。もしも、精霊がただの世界の仕組みだとするならば、どんな時でも同じ対価で同じように魔法は発動するはずですよね?」

「それはそうでしょうね。」

「でも、魔法はとある条件では絶対に発動しないときがあるんです。」

「ふむ?それはどのような時なのですか?」

「魔法を使うものが魔法力を支払ったら、死亡する場合です。正確には死亡するだろうと予想されるような状態の時には発動しないそうです。どうやら精霊にとって魔法力は食事のようなものだということはわかっています。つまり、別に相手の人間が死のうが生きようが、対価を払ってくれるならば、それを受け取っても良いはずなんです。ですが、精霊はそれを絶対に良しとはしないんです。」

「それは食事の元を減らさないようにしているのでは・・・あぁ、なるほど。つまりそういったことを考えているというだけで、知的生命体であるということですね。」

「ふふっ、本当にマキさんは賢い方ですね。話していて楽しくなってしまいます。偉い学者の方もそのような結論に至ったようです。どの程度の知能があるかはわからないが精霊は意思を持っている知的生命体である、ということらしいです。」

「なるほど。ところで、もう一つ質問を追加しても良いですか?」

「はい、なんでもどうぞ!」


 なんというか、アルさんはとても楽しそうだ。今までの来訪者がどれだけ話が進まなかったんだということが、このやり取りだけで少しだけ窺えてくる。


「『発動する場合』はなんなのでしょう?」

「はい?」

「いえ、先程の例は『発動しない』場合の例ですよね?発動する場合もあるというように言っていたと思うのですが。」

「あぁ、そうなんですよ。これは状況がいろいろとあるのですが、本来は魔法を発動するのに必要な魔法力を精霊がもっていかない事もあるそうなんです。これはどうしてなのかはわかっていませんが、精霊が機械みたいに決められたことだけするものであれば、こういったことは起きないだろうと言われているわけです。」

「なるほど。つまり精霊はただ単純に決められた事をするわけではないことから、意思があり、知性があると判断されているわけですね。」

「はい、そう言われていますね。もしかしたら、魔人まじん混人こんじんには対話が出来る種族もいるのかもしれませんけど、純人じゅんじんにはできないようです。」


 また、謎の言葉が出てきたよ。マジン?コンジン?ジュンジン?まぁ、これは後で聞くとしましょうかね。今はとりあえず、魔法と精霊について聞いておかないといけませんよ。


「では、そろそろお聞きしても良いですかね?先程もお願いした通りで、精霊の種類について聞いておきたいのですが。」

「あ、そうでしたね。えっと、魔法は説明した通りで、精霊が力を貸してくれるものなのですが、それぞれの精霊はそれぞれ決まったものにしか影響を与えられません。その影響を与えられるもの、つまり魔法をかけることができるもので精霊は分類されているのです。」


 なるほど、魔法の説明が無かったら、精霊の種類を聞いてもピンと来ない人が多かったのだろう。魔法ってもの自体がしっかり理解できていない私たち地球の人間では確実に誤解がどこかで生まれそうである。


「まずはわかりやすいのからいきますね。風、水、金の三つ。これはそれぞれ気体、液体、固体に作用する精霊です。」


 うん、聞いておいて良かった。早速だけど、考えていた印象とは違うことを言われている。


「ですが、例外として、水は所謂『水』にはどの状態でも影響を与えられます。また金は、金属にはどの状態でも影響を与えられます。また、風は振動の力も司っています。音に関する力も持っているというとわかりやすいのでしょうか。」


 なるほど、正直なところ、こっちの追加要素が私の持っている感覚に近いかな。


「次は木と闇ですね。木は肉体へ干渉し、闇は精神へ干渉します。つまりどちらの精霊も生き物にしか影響を与えられません。これも例外として、木は植物には強い影響力を発揮しますね。」

「ふむふむ、闇には例外は無いのですか?」

「闇は例外と言いますか、死体には肉体にも影響を及ぼせるようになります。逆に死んでしまった肉体には木の精霊は働きかけることができなくなるようです。」

「だとすると、例えばなのですが、死体には闇の精霊と金の精霊の両方が影響するということもあり得るのですか?」

「はい、複数の種類が寄り付けるという場合もありますね。そもそも人間というか生き物は全ての精霊から影響されていますし。」


 それもそうですよね。うむ、これはちょっと混乱しそうだけど、しっかり覚えておかないといけない気がする。忘れないようにメモを取りたいけど、メモを取るものが無いから、忘れないように脳に刻み付けておこう。


「では、残りも説明してしまいますね。地の精霊は地面全般にいますね。大地にくっついた状態ならば、鉱物などにもかなり柔軟に影響を与えれますが、対象が地面から離れると途端に影響力を失っていくのが特徴です。他には重力に関わっているということです。火は温度に関わります。若干、違和感があるかもしれませんが、暖かさだけではなく冷たさについても火の精霊は力を発揮出来ます。光は明るさと電気に影響します。さらに、時間にも影響できるようなのですが、それには莫大な魔法力が消費されるので、適性がある人でも難しいと言われていますね。」

「魔法には適性があるのですか?」

「はい、人にはそれぞれ得意不得意が普通はありますね。ですが、日常生活に使うくらいならどの魔法も使えますよ。これで魔法の説明は終わりになりますけど、何か質問はありますか?」

「そうですね。質問では無いのですが、後で魔法を見せてもらうことはできるのでしょうか?」


 そう言うと、アルさんはにっこりとほほ笑んだ。


「もちろんいいですよ!でも、それは技能の説明の後にしましょう。」


 どうやら、まだまだ覚えないといけないことは多いみたいだなぁ。



 

しばらくは、世界観の説明回が続きます。この世界での魔法はこのようなものになります。次回はこの作品の肝となる技能の説明回です。ちなみにですが、カタカナで表記されている単語は意味が理解できていないものです。意味が理解できたという認識になったときには漢字表記になります。つまりアルメルアさんはチキュウをほとんど理解しておりません。

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