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意味のある扇動

作者: 田貫うどん
掲載日:2015/10/20

社会科の時間に流されたビデオは、人が人を殺しているスナッフビデオだった。

担任は他の教材と間違えて上映してしまったようだ。

生徒たちは皆唖然としていて、中には気分が悪くなり吐きだしたり、泣きだす生徒もいた。

担任は授業開始直後に学級委員の生徒にビデオ再生を頼み、見ている間は教室を出て行って他の仕事をしていた。

よくある光景であるが、間違えて見せるビデオとしては最悪だった。

人々の中にある醜い姿をこれでもかと映し出している。

外国語を話しているのでどのような内容かは分からないが、拳銃で頭を撃ちぬき血が噴き出す姿や、人々をはね飛ばしている車。

画像は荒いのでそれほど現実味のあるものではなかったが、トラウマを植え付けるのには最適であった。

隣のクラスが騒がしいと様子を見に来た先生が、この異様な光景を目の当たりにしたのは再生開始二十分後であった。


「皆さん落ち着いてください、目を閉じて何も見ないで!」


急いで停止ボタンを押し止めたが、どのようにこの場を治めるか困惑していた。

その中で唖然としながらも冷静だった一人の生徒に担任を呼んでくるように頼み行かせた。

生徒は急いで教室から出て行ったが、途中で気分が悪くなりうずくまってしまった。

教室は地獄絵図の如く、誰かの吐いた汚物で辺りは嫌な臭いが充満していた。

堪らなくなってきた先生もこの現場には居られないと教室を出てしまった。

一人の生徒は冷静に停止ボタンの押されたビデオデッキに近寄り再生ボタンを押した。

再び映像が流れ音は漏れる程大きく上げ、黙り込む生徒たちにこう告げた。


「皆これを見ろ、これが本来の僕たちの姿だ、誰も彼も人を虫けらの様に殺している。

こんなことがあっていいと思うか?いいや思わない!

僕たちが教えられた勉強も嘘ばかりで、平和なんてどこにも無いんだ。

抵抗することもなく殺される人を見て、やっぱり力のある奴が生き残ることが出来るって事を知った。

僕はそれが悔しい、皆僕たちに今力が無いと思っている大人たちに証明してやろう」


その声は夢を見ているような頭の生徒たちを洗脳するかのように響いた。

更に映像から流れてくる音とも混ざってその場にいる生徒は徐々に飲み込まれていった。

映像が切り替わり、今度は子供が大人の手によって蹴られていた。

ここのいる生徒たちと同じくらいの年齢だろう、どうしてここまでできるのかというくらい激しかった。

画面の中で叫び声をあげ、皆がその方へ注目した。

あれは見た事のある顔だった。

登校拒否をしていたクラスメイト、間違いなかった。


「見てみろ、力を失った者がここまで執拗に折檻されている姿を。

この子はクラスメイトなのは知っているだろう。

僕たちの仲間だ、こんなことがあってはならないんだ。復讐の準備をしよう」


図画工作で使う彫刻刀やハサミを手に持ち掲げた。

目の色の変わった生徒たち、それを先導する一人の生徒、彼もまた虐待を受けている一人であった。

担任が血相を変え教室に入ってきた頃には皆手に刃物を持ち、どこか虚ろであるが異様なまでの闘争心をむき出しにしていた。


「これはいったい?」


担任は驚いたが、今の状況を知らないので堂々としていた。


「行くぞ!」


ある一人が声を上げる、堰を切ったように走りだし担任に向かっていく。


「な、や、やめなさい!うわぁ」


倒された担任に群がる生徒たち、力の入った手を振りかざし思い切り突き立てる。

まだ流れている映像とリンクするように何度も何度も繰り返し、ビデオを見る為にカーテンの閉め切った部屋の中でもそれが真っ赤だと分かる程に。

彼らは見境が無かった、まだやめようとしない生徒を蹴飛ばし、馬乗りになり担任と同じように染め上げていった。

叫び声があろうものならそこへ向かっていき、またしても力の限り押し倒すのだった。

もはや誰も止めることなどできなかった、五人ほど教室を出て隣の教室へ行った。

そこから聞こえる叫び声、隣の担任は職員室で他の先生たちと今後の対応について話し合っていた為居なかった。

誰でも急に攻められたら対応するのは困難である。

抵抗する間もなく叫び声さえ途切れている。

逃げ出そうと窓から落ちる生徒、腰を抜かし動けない生徒、ただ見守るしかない生徒。

息絶え絶えの仲間はもうそこからいなくなっていた。


廊下を歩いてくる先生たちの前には教室からぞろぞろ出てくる生徒たちが居た。

姿は汚い化け物のようで、目は光を失っていた。

歩く度に湿った音を立て、手を振ると飛沫しぶきが壁にかかった。

呆気にとられる先生は声を上げる、それに反応し生徒たちは走り出した。

制止など聞こえるはずもなく、次々に倒されてしまった。

数が減っている中で始めに声を上げ先導した生徒は平然としていた。

次はあの教室へ、その次は理科準備室と行動範囲は拡大していく。

呼応する者もいれば、なすすべもなく空を見上げる者もいた。

校舎内だけにとどまらず、その勢いは近隣住民にまで影響を与えた。


無辜の命は消え、何の為にナイフを握っているのか分からないままに隣にいる友人を突き刺す。

悲鳴は聞こえる事がなく、ただ最初に立ち上がった少年が叫んだ。


「凶行はどこの誰でも自分を変えてしまう。見ていろ、これが僕の姿だ」


腹を掻っ捌き、中にある長い紐を引っ張り出しぶちまける。

周りからは歓声が上がり、僕も私もと続いた。

辺りは静まりかえり、地面だけが水を飲みこむ音が聞こえた。



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