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7、襲われた

元々は次話とセットでしたが、長くなってしまったので二話に分けました。おかげで短めです。


「んあ?」



 すやすやと心地良く眠っていた俺が目覚めた理由は、障壁からの警鐘だった。

 即ち、部外者のこの家への侵入を意味する。

 窓から外を覗くと、空はまだ闇に包まれていた。



「襲撃者……?」



 障壁を張っていたのが幸いし、襲撃者に気付く事が出来たが、こんな展開になるとは自分でも望んでいなかった事なのでとてもめんどくさい。



「つーかどこでフラグ立ったし」



 急に起こされたせいで完璧に覚醒して出来ていない。

 欠伸が漏れる。

 ベッドから降り、靴を履く。


 というか狙いは誰だろうか。

 俺?

 もしくは老婆?

 もし俺だったらかなり迷惑をかけた事になるな。

 ジャンピング土下座で済むかどうか。



「まぁ決まった訳じゃないし、ふわあぁっ」



 耳を澄ませると怒鳴り声が下から聞こえてきた。



「おい、いい加減にしろよババァ」

「だから、ここは立ち退かないと言っているだろう」

「何回もそう言われてるから、こんな夜遅くに押し掛けたんだろうが。

 意味は分かってるよな? あぁ!?」



 うん。

 どう考えても老婆絡みの厄介事っぽかった。

 話に出てきた『立ち退き』という単語からして、老婆に「さっさと土地売れ」、って脅しているんだろう。


 理由はどうあれ、なんとなくなら推測できる。



 多分この家の土地が欲しいから、何回も老婆に日中に交渉していたけど、なかなか良しとしない老婆に痺れを切らし、先方は夜中に脅す作戦を決行。

 どうせ夫もいない老婆だし、命が危険だよ?

 と教えてあげれば売るだろう。

 まじちょろいわ。


 という計画だろうか。

 ちょろいのはお前らの頭だバカ野郎。


 なんだか日本でもリゾート開発のために土地売れ、みたいな事をマンガとかで見た事があるけど、それの異世界バージョンか。

 どんな世界でもこういう事情はあるんだな。


 この城下町、沢山の建物が立ち並んでいる。

 その中の一つであるこの場所。

 偶然なのか狙われたのか、悲しきかな。

 老婆に白羽の矢は立ってしまった、ということだろう。


 もう少し話を聞いてみる。

 両者とも声が上まで聞こえてくるくらいの声量で言い争いをしているけど、近所迷惑じゃないのだろうか。



「この家は、私と夫の思い出だ。

 ここから立ち退くような真似は死んでもしない」

「ほう、言ったな?

 じゃあお前を殺せばいい訳だ」



 いやいやいや。

 そういうことじゃないって。

 バカじゃねぇの?

 確かに老婆もそう言ったけどさ、そういう意味じゃないと思うんだ。


 というかそんな思い出の場所にのうのうと泊まらせてもらっている俺の心に、今更罪悪感が産まれてきた。

 まぁ老婆はそんな節を一切見せなかったし、ケジメをきちんとつけているのだろう。

 やっぱりかっこいい人だ。



「おい、ババァをとりあえず抑えとけ。

 後、上の部屋全部見てこい。

 誰かいたらここまで強引に来させろ」



 ちっ、と舌打ちが聞こえそうなくらいな台詞だった。



「ほう……?」



 思わず、声が漏れた。

 この会話から推測できる事は二つ。

 まず襲撃者は二人以上いる。

 そして俺の所にも十中八九来るだろう、という事。

 そう考えている内にも誰かが階段を上がって来た。

 違う部屋で扉が開く音がする。

 虱潰しに部屋を探していくつもりだろう。


 何故か俺は、こんな状況にも関わらず、胸が熱くなってきてしまった。



「っくふふふ」



 自分で引くくらいに不気味な笑いが漏れた。

 だがそれ以上に楽しみが心を支配していく。


 ご飯も作ってくれた、寝床まで提供してくれた老婆には感謝してもしきれない。

 だったら老婆にとって絶望的な状況を打破してみせることが、俺に出来る精一杯の恩返し。


 借りを返そうじゃないか。



「いいねぇ……!」



 気分は最高に高揚している。

 扉トラップに巻き込まれるのはまっぴらごめんなので、あらかじめ扉からは十分に離れておく。

 侵入者が俺のいる部屋の前で止まり、扉のノブに手を掛けて回した。

 一気に扉が開く。

 扉の先にいたのはいかにもチンピラっぽい男だった。



「おい、大人しくこっちに来い」



 部屋の中にいたのがただの青年だった、と視認すると気を張った表情が緩み、にやにやと笑いを浮かべて、少々の怒りを滲ませた声で言った。

 俺はそれに応じず部屋の奥に立っている。



「来ないなら、こっちから行くぞ?」



 どうせ抵抗したとしても大した力もあるまい、と侮ったのか部屋の中に一歩踏み入れた。

 だがしかし、それがお前の終わりだ。



「罠、発動」



 思わず呟く。



「うおわぁっ!?」



 男は見事なまでに俺の仕掛けた魔法の罠にはまり、体の前面を床に叩きつけ、立ち上がる事も出来なくなった。



「よっしゃ」



 鮮やかに決まった事にガッツポーズをかます。

 よくやった“暴走下降気流・罠”。

 俺が解除しなければ魔法はずっと発動しているので、男はきゅうと肺から空気を絞り出したような声を出している。



「罠解除、そしてさようならッ!!」



 扉の前にずっと居られると俺が外に出られない。

 なので魔法を解除したと同時に距離を一気に詰め、起き上がってしまう前に強く背中を踏みつけてあげた。



「くぴゃ」



 体全体にかかる圧力から解放されたかと思えば、背中の一点を思いっきり踏みつけられた男は変な声を出して、動かなくなった。

 気絶したらしい。



「ちょろいな」



 ふんふふん、と軽快な効果音を口ずさみながらしゃがみ込む。

 一応本当に気絶したかを確認し、服の首元を掴んで部屋の外に放り投げる。

 暫くの間気絶しててくれるとありがたいです。



「さてと」



 二階の廊下には一部に柵がある。

 柵の向こう側は吹き抜けになっているので、下の様子が分かる。


 という訳で静かに下の様子を窺う。

 周りの様子を窺っている男は主犯、というかリーダーぽかったが、上にいる俺には気付いていない。

 確かに物音は立てないように気を配ったけど、声くらい聞こえててもおかしくはないと思う。

 まぁ気付いていないのなら好都合。


 その隣にはもう一人チンピラっぽいのがいた。

 コイツは粗末なナイフを持っていて、老婆を脅していた。

 つまり、今確認出来るだけでいうと、ここで倒れているのも合わせて襲撃者は三人か。

 まだ外にいる可能性も無い訳じゃないので、決め付けられない。


 だけど下にいるのが二人、という事は分かっている。

 まぁ二人ならどうにかなるな。



 すぐに突撃はせず、準備を整える。

 まずは一応武器を手に入れるために、気絶している男のポケット等を探る。



「あ、ナイフ」



 ナイフを手に入れた!

 しかし切れ味はとても悪そうだ。



「なら床を剥ぎ取って武器にしよう!」



 床は木で作られており、当然ながらフローリング加工などされていない。

 なので下の二人に気付かれないように気をつけながら、板と板の隙間にナイフを差し込み、てこの原理を使って強引に剥がす。



「意外と厚いな」



 一枚分の板はかなり重さがあったが、振り回せない事はない。

 当たったら痛そうだ。

 だけど板一枚だけでは心許ないので、もう一枚ナイフを使って剥がす。

 よし、これで二刀流ならぬ二板流だ。



「だっさ……」



 我ながら腐ったネーミングセンスだと思う。

 それと後で老婆には謝らないといけない。

 だって勝手に家壊しちゃってるし。


 しばらく二板流以外にいい名前がないか考えていると、



「おい、まだか?」



 いらつきを滲ませた声で、リーダーの叫び声が下から聞こえた。

 上を見に行った人が遅い事を不審に思ったのだろう。

 まぁ気絶してるし。

 二板流(仮)の新たな名前は諦めるしかないようだ。


 そろそろ行くか、と覚悟を決めて、二枚の板を持ちながら階段をゆっくり降りていく。

 シュールすぎるなこれ。


 そしてチンピラ共に俺の姿を確認される前に階段から飛び出し、チンピラ共に向かって叫ぶ。



「とりまテメェ等ぶん殴るッ!!!!」



 その時の俺の顔は、狂気に満ちた笑顔を浮かべていたらしい。

 両手にある板に目をつけなければ、十分に怖かったのだろう。




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