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4、想定外の猫耳

少々投稿遅れました。


 脱出するとかのたまっておいて、何にも計画が無い訳じゃない。

 国王の執務机の後ろにある大きな窓。

 ここから脱出しようと思う。

 まぁ前もここから脱出しようとして、錐揉み落下してしまったのだけれど。


 その経験を生かし、この平凡極まりない頭で考えた。


 いつ考えていたのか、というと。

 大体は、脱出失敗した後の暇な時間全て。

 部屋でぼーっとしている時然り。

 執事さんやメイドさんに案内されてもらっている時然り。

 意外と時間は無駄にしたくないタイプだ。


 さて、その方法である。


 正面から行けばぶつかるのであって、屋根伝いにそろそろと下に降りて行けば、案外行けるのではないかと。



「よし」



 出来るならば誰にも見つかりたくない。

 音を立てないようにゆっくりと窓を開ける。

 というか国王の執務室に通じている窓の鍵が閉まってないとか、セキュリティ的な問題は大丈夫なのか。


 僅かな窓の隙間からも見える光、吹いて来る風。

 あくまでもゆっくりと、窓を開き切った。

 何故か変な汗をかいている。



「ふぅっ」



 一度呼吸を整え、額の汗を手の平で拭うと、窓枠の下にある屋根無しベランダに降りるべく、窓枠に足をかける。

 やはり大した高さも無いので、すぐに降りられた。

 右足から着地。

 左足も同じようにして何事も無く着地出来た。

 後は気持ち的な問題で窓を一応閉めておく。

 外からでも容易に閉められた。

 これで分かった事は外からの侵入はとても簡単だという事。

 国王さん、貴方いつか狙われますよ。


 もし国王の敵みたいな人等がいるなら言ってやりたい。

 あんた等の目は節穴でしょうか?

 と、まぁどうでもいい事に気付いたり突っ込んだりしている暇はもうなくなっていた。

 

 ベランダに降りてからが一番危ない作業となる。


 結構な高さのある場所なので、遠くに広がる風景はかなり低い位置にある。

 少し向こう側には今俺がいる高さと同じくらいの高さの塔があり、ここが城だということをはっきりと確信した。

 ベランダの左右の端からは、急角度の屋根が一つ下の階の屋根まで続いている。

 下手したら二つ下くらいだろうか。


 俺からみて左側の方にゆっくりと一歩。

 ベランダの上は平らな事もあり、安定して歩けるので、安堵の笑みを浮かべつつ順調に進んでいく。



 そう、俺が今からしようとしているのは急角度の屋根を降りていくという危険極まりない行為だった。



 本来なら外側にある障壁に当たらないように魔法を使って飛び、安全に下まで降りていく所だが、俺の中の誰かが『それはだめだ』と言っているような気がした。

 なのでこんな事になっている。

 俺の中の誰か、誰だろうな。


 しかし、いざ降りようとすると、胸の鼓動が速くなり、手が汗でびっしょりだった。

 思えば、こんな風にきちんと『高さ』と向き合った事が無かったからかもしれない。

 それを意識すれば意識するだけ、胸の奥が苦しい。

 あ、別に恋している感情ではない。確かにそう取れるけども、それとは全く違う。

 まず何に恋しろってんだ。


 ……あー、現実逃避しても緊張は収まりません。

 集中。

 自然と視界が狭まり、息も荒くなる。

 そして震える足で一歩踏み出そうとする――




 ――と、ソイツは俺を竦み上がらせた。




「にゃあ」

「ぶわああああああああっ!?」



 あ、危ない。

 思いっきり前に倒れるところだった。

 そうなると屋根に真っ逆さまでジ・エンド。

 さようなら。

 おつです☆

 いやそれどころの騒ぎじゃねぇよ。


 多分衝撃を吸収するような魔法の展開は出来るとは思うが、動揺していたら不可能だ。

 先程までの恐怖による緊張とは別に、焦りで心臓がものすごくバクバクと音を立てている。


 あーびびった。

 しかし呼吸が安定してくれない。


「すー……はー……すー……はー……。

 よし」


 なんとか呼吸が安定するようになると、ロボットのようにギギギと擬音を発せんばかりに、ゆっくりと後ろを振り向く。



 そこにいたのは何であろうか。


 ピンとしている一対の耳。

 こちらを見透かすような目。

 頬から伸びる何本かのひげ。

 ゆらりゆらりと揺れる尻尾。

 孤高を好み、死に逝く時にはひっそりと命を落とすという。

 なによりも自由な存在。

 だが多くの人々に愛される動物。



 まぁ猫だ。



 猫は俺がいるベランダの端の反対側にいた。

 恐らく屋根を上って来たのだろう。

 そして、緊張しまくっている俺をビビらせたと。

 性格悪っ!


 それにしても猫凄いな。

 いや流石猫というべきか。

 こんな急角度の屋根を昇るなんて、並の人には出来ない。

 だが、並の猫には出来る。

 これは大変大きな違いだ。


 そしてたかが猫にこんなにも脅えてしまった自分が恥ずかしい。

 一応補足しておくが、俺自身猫が苦手だからビビった、という訳ではない。



「さて、もう関係無い関係無い」



 想定外の出来事だったが、たかが猫一匹。

 頬を自分で叩いて気持ちを切り替える。

 あ、痛い。


 緊張が適度にほぐれていたので、猫との邂逅は案外好都合だったかもしれない。

 仕切り直しで一歩踏み出そうと、右足を上げる。



「くっふふふふ、まさかこんなに簡単に侵入できるとはな」



 はぁ?



「いや待てよ今誰が言った?」



 おかしい。

 今確かに俺の後ろの方で、虫唾が走るような汚ねぇおっさんの声が聞こえたはずだ。

 しかし首を思いっきり後ろに向けてみるも、



「にゃあ」



 猫しかいない。

 あまりの意味不明さに首を傾げるどころか180度回転しそうだ。

 フクロウになりたい。

 今の状況、俺の視覚がおかしくなっていないのなら、全く問題はない。

 でも脳にこびりついて離れないあの声は幻だったというのだろうか。

 全くもって意味不明だ。

 つまり、俺の聴覚がおかしいのか!?



「……まぁ、全部おかしくなっちゃったんだな、うん」



 猫が人間になる訳ないし、恐らく全ての感覚がおかしくなってしまったんだろうそう信じたい。

 俺がおかしいのではなく、世界がおかしいという可能性もあるがもうそこはどうでもいい。


 大丈夫。

 よし、もう一回チャレンジ。



「ふぅ」



 一度呼吸。

 視界がクリアになる。

 再び右足から――――



「いやはや、ここまで安易だとは思っていなんだ。

 先程、そこの小僧に振り向かれた時は」



「だからあああああああッッッ!!!」



 本当に誰だっつの!

 最初の方は思考が凍結してしまっていたが、半ばで振り向く事が出来た。

 しかし、やっぱりどうしても猫しかいない。



「にゃあ?」

「そうだよな、お前しかいないよな」



 うん、やっぱりなんともない。

 異常無し。

 右も左も後ろも正面も後戻り出来ない状況。

 俺は脱出するんだ。

 それでいい。


 三度目の正直、今度は左足から前に踏み出す――――



「この小僧、何者だ?」



「いい加減にしろおおおッッ!!」



 首がもげる程の勢いで振り向く。

 猫がいるだけ。



「にゃあ」

「よし」


 正面を向く。



「ま、まさか私の正体に」

「ふんっっ!!」


 後ろを振り向く。



「にゃあ」



 猫がいた。



「よし」



 再び正面を向く。



「く、くそ、これでは」

「はい!」



 後ろを振り向く。



「にゃあ」



 猫がいる。



「うぃす」



 会釈して正面を向く。



「早く行k」

「はーい」



 返事をしながら後ろを振り向く。



「にゃあ……」



 猫がいるだけだ。



「どもっす」



 挨拶をして正面を向く。



「いい加減に」

「Hey!」



 ちょっと軽い感じで後ろを振り向く。



「しろこの小僧!!

 振り向きすぎだああッ!!」



 そこには猫はいなかった。

 そして猫の代わりに俺の後ろにいるのはパンツ一丁で猫耳カチューシャをつけ、体は無駄に引き締まっているがとても毛深いおっさんだった。

 顔は怒りで赤くなっている。

 なるほど、猫が人間に化けるのではなく、人間が猫に化けていたのか。

 俺はおかしくなかったらしい。

 少し安心。


 俺は全て納得したような気分になり、笑顔を浮かべながら猫耳おっさん(へんたい)に近付いた。

 そして一言。



「気色悪いわあああああッッッッ!!!!」

「ぎゃああああああああ!!!!」



 とりあえず鳩尾に向かって右ストレートを全力で叩きこんだ。

 そうしたらなすすべも無く、変態はあっさり悲鳴を上げて吹き飛ばされる。

 そのまま下まで落ちていくかのように見えたが、突然空中で見えない壁に当たったかのようにビタン、と全身を強く打ち付けると、気絶したらしくドサッと落下した。



「あーすっきり」



 いやぁ本当に気色悪かった。

 何で異世界でパンツ一丁の猫耳変態を見なければいけなかったのか、未だに疑問だ。

 それにしてもこの変態の言葉を信じるならば、侵入者だったようだ。

 この部屋、というか国王の執務室に繋がる窓に上がって来たので、国王を害そうとする者だったに違いない。

 ほれ見ろ、狙われたじゃないか。


 いや待てよ、そうすると敵さんも案外バカじゃなかったらしい。

 訂正。

 あんた等の目は節穴では無かったようだ。

 しかし変態を寄こすのはどうかと思う。


 そして分かった事はもう一つ。

 俺の謎の勘は当たっていて、屋根の上にも見えない障壁はあるという事だった。

 一応確認したのは変態が上がって来た屋根側だけだが、十中八九俺が下ろうとしている方の屋根にも、途中で障壁があるのだろう。

 魔法で飛ばなくて良かったと本当に思う。

 俺の中の誰か、ありがとう。


 でも猫化した変態がここまで来れたのを見ると、障壁の下には小動物が通り抜け出来るくらいの隙間はあるということだろうか。

 そうしたら今回のようなケースがまた起こるぞおい。


 とりあえず、変態をこのままにしておくといずれ目覚めてしまう危険性があると判断したので、執務室に再び忍び込んだ。

 中にはまだ誰もいなかった。

 幸い、ロープ的な紐があったので、それを拝借し、変態が立ち上がれないようにぐるっぐるにしておいた。

 口もガムテープか何かで塞げればよかったが、流石にガムテープは無かったので口はそのままにしておいた。



 あぁ、結局脱出は出来てないし時間だけ過ぎたなぁ……。





すいません猫耳で期待した方すいません。猫耳美少女は出てきませんでした。


代わりの

とりあえず変態殴ってきた

です。

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