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3、脱出?


 長く広い廊下は、迷宮の如く入り組んでいた。

 壁には薄暗い炎の灯りが一定感覚で取り付けられており、怪しげな雰囲気を纏っている。

 こんな場所では、侵入者が侵入者ですら無くなり、迷子になってしまうであろう。


 そんな廊下を、じんわりと汗を滲ませながら、呼吸荒く走る青年がいる。


 どれ程、直感的に交差点を曲がっただろうか。

 T字路を左右考えず曲がり、やがてこの建物の隅っこにあたるであろう、突き当たりにも辿り着いたが、青年が探し求めているものはなかった。


 青年の足音だけが静かに響いている。

 今になって、自分の後先考えない行動が悔やまれる。


 もしかしたら、あの騎士が怒り狂った形相で追いかけてきているかもしれない。

 そう思うと、焦りが募ってきた。


 しかしどれもこれも、アレが無いのがいけない。



 そう、階を行き来するための、アレが。



 どうして、都合通りに世界は作られていないのだろうか。



「何で、階段無いんだよおおおおッッ!!!」




 理不尽を訴える叫びが廊下を震わせた。



◇(和夫視点)



 はい。

 やっぱり迷いました。


 少し発狂したら気持ちが楽になった。

 だけど誰かに聞かれてたら穴に埋まって自爆したい。


 それはいいとして。

 ついでに今に至るまでの事を、少々省略しながら説明しよう。



 まず、騎士を殴った後速やかに地下から脱出。

 その後地下に繋がっている部屋に着くが、誰もいなかった。

 そっと廊下に出てみても人の気配が全くあらず。

 執事さんもいないようだった。

 騎士に目覚められたら終わりなので、一刻も早くこの城から出ていかなければ、と判断。

 空から出ていく違法ルートは使えないので、とりあえず階段で下の階に行こう!

 適当に走っていればいつか見つかる!


 見つかりませんでした。

 ついでに迷いました。←今ココ



 というように、迷いましたよええ。

 大事な事は何回でも繰り返すべき。

 恐らく、体感時間で大体一時間弱はずっとさ迷っている。

 途中誰かに会っていれば、こんなことにはならなかったんだと思う。


 しかし、ここが広すぎるせいで誰にも会わない。

 寧ろ生物に遭遇していない。


 顔を俯かせると、古くなった赤い絨毯が廊下には敷き詰められているのが分かった。

 その色は、何故か不安な気持ちになってくる。



「あぁもう暗くてもダメだ!」



 自分で自分を鼓舞し、両頬を思いっきりはたく。


 ……痛い。

 泣きそう。

 バカか。


 しかし、暗い感情に蓋をしてもすぐに飛び出してきてしまう。

 やんちゃだ。


 だからなのかは分からないが、微かに音が聞こえた。



 パタン……パタン……



「あぁ……。

 幻聴まで聞こえてきたか」



 こんな所に誰かいるはずない。

 しかし、



 パタン……パタン……



 ――――しっかりと足音が聞こえた。



「あれ?」



 明らかに、俺の足音ではない。


 これはもしや、待ち望んだ展開だろうか。

 ならばもう少し早く来い、と抗議したいが今はじっと静かに息を潜める。


 僅かな希望が心の中に芽生えていた。



(誰だ?

 執事さんか?

 それとも他の誰か……?)



 そう思いながら、心は弾んでいた。

 はっきり言って、この城を把握している人なら誰でもいい。

 実はオバケでした!

 なんてオチだったらオバケを殴るまで。

 あれ、実体が無いから殴れないか?



(……っ!!)



 足音が、迫ってくる。


 どうやら先程曲がった角の奥から来ているらしい。

 唾を飲み込み、ピリリとした緊張が体を震わせる。

 俺は廊下のど真ん中で棒になっていた。



 ――――影が見える。来た。



 そして、俺にもその姿が確認出来た。


 黒いワンピースは膝下まであり、半袖。

 その上に少し汚れた白いエプロンを着た若い女性。


 言うまでもなく、メイドさんだった。



「わっ!

 ……あ、勇者様ですか?

 こんな所で何を?」



 角を曲がった先にいた勇者様。

 そりゃ驚くだろう。

 どうやらメイドさんの方は俺に面識があるらしい。

 正直な所、俺はメイドさんの事を覚えていなかった。

 少し悪い気分。


 脇には書類を挟んでいる。

 国王だけでなくメイドさんまでもが書類って、何をしているんだろうか。


 そして俺は、問いには答えず無言を貫く。



「……大丈夫ですか?」



 心配そうな表情を浮かべて俺の方に小走りで近寄って来る。


 俺は、距離感を測っていた。

 何故かって?

 じきに分かる。


 後、少し。

 もうちょっと。

 ……よし、ここがベストポジション!!


 右足で強く絨毯を蹴り、斜め上に自らの体を射出。

 メイドさんが近寄って来るのもあり、距離は絶妙な位置だった。

 そのまま、重力に逆らう事も無く、落下する。

 その時に、両膝をあらかじめ曲げておく。

 そして、膝から着地。

 強い衝撃。

 目の前にはメイドさんがいるが、上体を倒すだけの距離はあった。


 なので、思いっきり上体を前に倒し、頭を地に思いっきり叩きつけ、両手も頭の横に骨が折れそうな程叩きつけた。



 もうお分かりだろうか?

 最後に、最高の誠意を込めて、叫ぶ。



「俺に道を教えてください!!!!!!

 というか案内してくださいお願いしますっっっっっ!!!!!!」



「え、えええ!?」



 メイドさんが驚くのも無理はない。

 まぁ、平伏しているせいで顔は見れていないのだが。


 平伏。

 即ち土下座。

 否、ただの土下座ではない。


 俺がメイドさんに向かってしたこと。

 それは、ジャンピング土下座の誠意大サービス版だった。





「あ、ここですね」



 メイドさんが一つの部屋の扉を指差す。

 何故か、メイドさんが安心したような顔をしている。


 そう、ジャンピング土下座の甲斐あってか、俺は無事にメイドさんに案内されて自分の部屋の近くにまで辿り着いていた。



 土下座の後、メイドさんが酷く慌てた声で、



『わ、分かりました分かりました!!

 早く顔をあげてくださいいきましょう!!』



 と快く了承してくれたので、今こうしてここにいう訳だ。

 やはり、お願いをするにはそれ相応の事をしなければいけないという事だろう。

 俺の場合は、メイドさん基準で当てはまってくれたようだった。

 しかし、メイドさんの俺を見る目が少し変わった気がする。

 気のせいか。


 それにしても、正直俺が知っている道に来た時には安堵が体を駆け巡った。

 『ああ、俺は生きている、無事だ』と。

 しかしこの感情は思いっきり迷子になった後、お母さんに再開出来た感情でもあるので、そこまで嬉しくはなかった。

 でもやっぱりちょっと瞳がうるっとした。


 さて、目的を果たせた事だし、メイドさんに感謝しなければならない。

 改めてメイドさんに向き直り、



「本当にありがとうございましたこのご恩は一生忘れません」



 と、とりあえず直角でお辞儀をしておく。



「い、いえ! 大丈夫です! むしろありがとうございます!!」



 首と右手を高速でぶんぶんと横に振りながら、顔を凄い赤くしている。

 どうやら、機嫌を損なうようなことはなかったらしい。

 よかった。

 最後の言葉は意味不明だけど、突っ込まない方がいいのだろう。



「そ、それでは!!」

「あ」



 唐突に早口で捲し立てると、もの凄い速さで廊下の向こうに走っていった。そんなに急ぐとか、急用でもあったのか? それだったら悪い事をしたな。


 でも一件落着。



「よし、帰れた」



 一応自分の行動範囲には帰ってこれた。

 ならば次やるべきことは何か?

 部屋に入って寛ぐ?

 いやいや、もちろん決まっている。



「さっさとここからおさらばだああああっっっっ!!!!」



 忘れてなどいない。

 俺は、騎士をぼっこぼこにした身だ。

 早く、ここから脱出しなければいけない。


 だから、俺は自分の部屋には入らずに、()()部屋へと向かう。





「国王いますか」



 部屋の戸をノック。

 返事は無い。

 ならば突撃。

 ドアをそーっと開けて中の様子を伺う。

 人の気配は全くない。


 盗っ人の真似ではありませんよ?


 お分かりだろう。

 俺は国王の執務室らしき場所にまたきている。



 さぁ、ここから脱出しようじゃないか。






――――メイド控え室にて



「や、ヤバい、なんか勇者様に道案内頼まれたよ」

「え、本当に?」

「うらやましいー。

 ていうかかっこいいよね」

「うん。だからびっくりしちゃってさ。

 でもなんだか勇者様にしては誠意が凄いんだよね。

 頼む時に土下座してきたし」

「うわ、イケメンなのに変わった人だ」

「まぁ勇者だから、ってカッコ悪い癖に威張り散らす人よりかはマシでしょ」

「そうだね」

「まぁ、そういう人なんだよ、結局」



――――和夫が変なイケメンだという噂は、メイド達の間で瞬く間に広まった。



はっきりいって土下座させたかっただけですね。

ちなみに和夫は、現実で何人もの女子から告白される程度にはイケメン設定です。しかしそれを全て断る潔さ。


……ねぇ和夫君、作者の私にちょっとイケメン分ける気は無いかい?


どうやら無理らしいです。悔しい。

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