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2、性格の悪い騎士

一人目殴ります。

 

 フライアウェイの道は閉ざされた。

 ならば、どうすれば外に出る事が出来るのだろうか。

 そんなことをあくまでも平凡な頭で考えるが、いい考えなど浮かぶはずもなく、思わず唸り声を上げていたら。



「勇者殿、よろしいでしょうか」



 コンコンと扉を叩く軽い音。

 扉の向こうから聞こえてきたのは例の執事さんの声だった。



「はい?」



 と、返事をしつつ、先程まで寝っ転がっていたベッドから飛び降りる。

 そのまま扉の方へ歩いていき、扉を少しだけ開けて、顔だけ覗かせる。



「国王様よりお話がありますので、私と一緒に来ていただけますか?」



 扉の向こうにはやはり執事さんがいた訳で、手短に用件を伝えられると、俺が部屋から出てくるのを待っていた。

 恐らく俺が準備をしたら、出発するという事なのだろう。

 がしかし、悲しいかな、特に持っていく物など無い訳で。


 手ぶらのまま廊下に出ると、俺の姿を一度確認し「こちらです」と執事さんが一言。

 そして俺の前に立って、時折こちらの様子を見ながら歩き始めた。

 既視感に襲われたのは、気のせいではないと思う。

 つまるところ、図書室の時のように、俺が迷子になりかねないという事なのだろう。


 手のかかる奴ですいません。





「部屋の中で国王様と、もう一人の方がお待ちです」



 執事さんがある扉の前で止まった時には、既に方向感覚はおかしくなっていた。

 ここまで来るのには、親アヒルの後を一生懸命ついて行く子アヒルのように、執事さんの後を歩いてきただけなので、何も考えちゃいない。


 つまりである。



 どこですかここ。



 執事さんが言うに、恐らくもう一人の方、とやらが俺に用事があると思われた。

 なんだか魔王を殴る計画がどんどん遠くに行ってしまった気がする。早くここから出ていきたい。


 悩んでいる間にも、無情に展開は進んでいってしまう。

 執事さんが、扉のノブを引いて、中に入るよう無言で進めてくる。



「ご武運を」



 執事さんの横を通る時に、物騒な言葉を俺に小声で呟いた。

 そのおかげで急に緊張に襲われる。


 え、何、怖いですから止めてくださいよ。


 うじうじしてても仕方が無いので、半ば自棄気味に覚悟を決めて、部屋の中へ入る。



「おぉ、よく来たな和夫殿」



 部屋の中には国王がふかふかであろう椅子に座っていて、その隣で豪華な鎧を着た人が静かに立っていた。

 俺が入って来るのを確認すると、国王は立ち上がった。


 ちなみに、執事さんは部屋に入って来ないらしい。


 それはともかく、呼んだのはアンタだろ、と心の中で突っ込んでしまった。

 まぁこの国王はいい国王だ。

 俺としても逆らうような真似はしたくない。


 視線を感じたかと思えば、鎧さんが無表情で俺を観察していた。

 いや、中身は人間だけどね。



「和夫殿も敵を倒すための技術が必要だろうと思ってな?

 隣にいるのは、この国を守護する騎士なのだ。

 もう分かるか?

 そう、和夫殿には剣術を習ってほしいんだ」



 眉を顰めたくなったが、それをすんでの所で我慢する。

 本心から言っている悪意のない言葉なので、流石に反論が出来ない。


 反論?

 例えば、別に殴るだけだから必要ないとか。

 魔法使えるとか。


 俺的には全くどうでもいい事なので、溢れ出てくる無関心を必死に抑えている様子を、驚きで言葉も出なくなっていると判断したのだろうか。

 騎士が俺に笑顔で話しかけてきた。



「はじめまして、私は国王様に紹介された通り、この国を守る騎士だ。

 よろしく」

「あぁ、はい。よろしくお願いします」



 ほぼ日本人としての条件反射的な返事だった。

 おかげで言葉に心が微塵もこもっていない。


 握手を求められたので、とりあえず握手をしておく。

 別に断る要素も無かったし、それでよかったと思う。

 騎士の手は冷たかった。



「それではすまないが、退室させていただく。

 私自身、今忙しくてな。

 後は頼んだぞ」



 これで自己紹介も終わったので、丁度いい頃合いだと判断したのだろうか。

 国王が一旦帰るらしい。



「了承しました」



 騎士が敬礼をして、是認の言葉を述べた。



「和夫殿も、怪我はしないように」

「あぁはい」



 俺に向けられた言葉は、早口だったが俺の身を案じている気持ちが伝わって来た。

 その後、かなり急いでいるようで、早足で部屋を出て行った。

 あの書類の山を見れば納得のいくようなものか。



「では、行きましょうか」



 部屋に取り残された俺と騎士。

 騎士は部屋の中にある扉を開いて、迷うことなく入っていく。


 何があるんだよ。


 一人で待っているわけにも行かないので、ゆっくりと様子を伺いながら扉をくぐる。

 中は暗く、階段になっていた。

 騎士の姿が下の方に見えたので、それを頼りに階段を降りていく。

 狭い階段では、足音がとてもよく響いた。


 しばらく降りていくと、光が見えた。

 出口らしい。

 騎士は既に光の向こう側にいた。


 階段の先には、いってみれば野球の球場のようだった。

 中心部は広く平らで、それを囲むように少し高い場所に観客席もある。

 俺と騎士が出てきたのは中心部の端。

 野球でいうベンチから出てきたような感じだ。



「ここは、地下闘技場です。

 闘いが行われたり、騎士達が訓練をしたりしていますね」



 だ円形のグラウンド(かどうかは分からないが)の真ん中に向かって歩きながら、騎士が簡単に説明をしてくれた。

 それを聞いて、この場所がどんな事に使われているのかを脳内で想像する。

 そのため、ぐるりと辺りを見渡していると、騎士が歩みを止めていた。


 そして、吐き捨てる。



「……本当、何でこんなガキの世話をしなくちゃいけないんだか」



 思わず体が凍り付いた。



「はい?」



 え、誰?


 と、思ってしまうほどには騎士の態度が悪くなった。

 思わず聞き返す。



「お前みたいなにわか勇者を、わざわざ育成するのが面倒くさいんだよ。

 ハッ」



 俺の事を睨みながら、怒りを露わにする。

 ついでに唾も吐き捨てた。

 騎士というには柄が悪すぎはしないか。

 国王、人の選択間違ってない?



「今だって王様のお願いだから、渋々やってるだけなんだよ。

 あぁめんどくせっ!

 いやぁ、でもいいことかもなぁ。

 何もしないでも、俺の評価は上がる。

 最高だわ!」



 弱者を見下すような目。

 俺の事も見下しているようだった。

 騎士の方が一回りは上背があるせいで、余計に上から目線になっている。


 なるほど。権力を持っている人の前では媚びへつらう典型的なクソ野郎ということか。


 そう思うと猛烈に胸糞悪くなってきた。

 だけど反論はしない。



「街にでも行って、勇者だって言ってみろ?

 大勢の女どもにちやほやされるぜ?

 まぁ、全員お前の地位狙いだろうけどな!」



 嘲るように大声で笑われる。

 いや、ちやほやされるのは基本どうでもいいんだよね。

 女の人怖いし。


 うーん、つまらん事しか言わないな、この騎士。

 国を守護する、とかよく言えたもんだよ。


 俺は、反論しない。



「おい、なんか言ってみろよ。

 それとも俺にビビってんのか?

 どうせ戦いなんて知らない、内弁慶だろ?

 勇者だから何だ、てめぇはただのおこちゃまだよ!」



 確かに戦いが日常茶飯事な世界からは来ていない。

 しかし内弁慶ではないな。

 後、確かにおこちゃまですね。


 俺は、反論しない。



「何だ、ここから出ていきたくなったか?」



 目を見開いて、バカにするような口調で言った。俺が無反応なのに、怒っていると思ったのだろう。



「いいぜ出てけよ。

 だけど一人この城をうろついてみろよ?

 迷子だよ迷子。

 そうだ、お母さんの手を握ればいいんだよなぁ!

 あ、ここには両親なんていないか!

 ごめんねぇ?

 ぎゃははははは!!!」



 これには少しムカついた。

 確かに迷子にはなるだろう。絶対。

 両親がいない。

 それくらいは承知だ。


 しかし、これだけは絶対に反論したい。



 母さんの手なんぞ握るかバカ野郎。



 お母さんに気味悪がられるに決まってるだろ。

 考えてみようぜ?

 18にもなった息子が、顔を赤らめながら母さんの手を繋ぐんだぞ?

 どんな絵面だ!

 色々とまずいわ!

 あぁイライラする。


 イライラが募っていくのは表情にも出ていたようで、騎士が満足そうに顔を歪める。



「何だ、お母さんの事を思い出したか?

 だったら、あのクソじじいの執事に泣きついてくればいいんじゃね?

 うーわ、マジで笑えるわぁ!」



 騎士は笑いを堪えていたが、噴き出してしまった。

 そして何かのネジが外れたかのように、狂笑が止まらなくなる。


 そして俺はというと、結構ムカついていた。

 あーウザい。何この人。

 ストレス溜まる。

 性格悪すぎるだろ。

 絶対嫌われてる。



「カハハハッ、あぁ、でもあのじじい、もう歳だよな……。

 ククク、アハァッ、明日にはポックリ逝っちゃってるんじゃねぇのか?

 アハハハハハハハッ」


 ごめん、もう無理。

 俺の中の、理性が弾け飛んだ。


 息を吐いて、ゆっくりと騎士に近付いていく。



「お?

 何だ?

 今更殴る気かよ、おい。

 返り討ちにしてやるy」



「黙れ」



 思いっきり、鳩尾の辺りに右ストレートをブチかました。


 興奮と怒りで硬いはずの鎧を殴った痛みなど無かった。


 俺自身の事をいうのは構わない。

 だけどな、俺に優しくしてくれた人の事を悪く言うなら……。



「ぶん殴るぞおい」



 ちなみに、もう殴った後なので遅い。


 執事さんは、俺に優しくしてくれた。

 てめぇになんか、分かるはずもない。



「ちっ」



 騎士は無様に地面に横たわり、痛みに悶絶している。

 大したことをした気はないけど、おかしくないか?


 執事さんの事を考えたら、怒りがぶり返して来た。

 なので、地面で這いつくばっている騎士の背中を思いっきり蹴飛ばして、蹴飛ばしまくって、首元掴んで腹を数発殴って、怒りが消えるまでボコボコにした。

 しかし、顔は殴らなかったし、骨を折らせた感触は無かった。





 ようやく、衝動も治まったのでこの場から速やかに退出する。


 なぜこんなに急ぐのか。

 理由は一つだ。



「騎士が目覚める前に城から出て行かないと……」



 今度は勝てる気がしない。

 冷静になった頭は、結構焦っていた。


 殴れたのはいいけれども、どうやって脱出しようか。

 というか、このまま逃げても、くそ広い廊下に出たら迷う気がする。



 どうしましょう?




今回は、


とりあえず騎士殴ってみた


でした。

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