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1、この世界のこと

説明回です。


※2015年7月4日、魔法表現について追記しました。

 


 とは言ったものの、重大な問題が発生した。


 魔王がどこにいるのか分からない。


 無闇に適当な所に突っ込む訳にもいかないので、とりあえず国王の部屋にアポ無しで突撃しようと思う。

 忙しかったら悪いとは思いつつも、自分の部屋を出る。

 こんな右も左も知らない場所で一人。

 心配で胸が張り裂けそうだ。


 その心配は杞憂に終わり、国王の部屋に辿り着けた。

 ここだけは教えてもらっていたのだった。



「国王いますか?」



 思いっきりノブを捻って力いっぱい奥に押し、扉を開ける。


 中には、書類だらけの執務机に国王が座っていて、俺の突然の登場に目を丸くしていた。

 どう見ても書類を片付けていたとしか思えないので、仕事中に突っ込んできたという事だろう。

 心の中で謝る。



(すいません)



 俺が心の中で謝っているのを、どう受け取ったのかは分からないが、椅子から国王が立ち上がった。

 急に俺が黙ってしまったので、少し心配したような表情を見せつつも、



「和夫殿か。

 どうした?」



 先程の事を全く気にしていないような笑顔で尋ねてくる。

 

 この時点で俺は、この人はいい国王なのだ、と直感で思った。

 もう器が大き過ぎる。

 そんな国王に統治されているこの国の人は幸せだろう。


 さて、そんな国王のためにも、長居しちゃ悪いのでさっさと本題に入る。



「魔王ってどこにいるんですか?」



 余談も何も無く、本題をダイレクトに伝えると、流石に国王とはいえ、少し困ったような表情を見せた。

 しかし、直ぐに自分の中で納得したかのように、あぁと呟き頷いていた。



「そうか。和夫殿はこの世界の地理を知らないのだな。

 すまない、失念していた」

「いや、別に大丈夫ですけど」



 ちなみに要件を説明された際に俺自身の自己紹介はしている。

 なので、国王が俺の名前を知っているのは当然っちゃあ当然である。



「だが今、私は見ての通り仕事に追われていてな。

 他の誰かに聞いてくれると助かる」



 書類の山々を指差して大げさなポーズをしながら、豪快に笑う国王を見ていると、こちらにも笑いが移ってしまった。



「分かった。

 ありがとう」



 でも本気で忙しそうなので、感謝の言葉を口にして一礼。

 後ろを向き、入って来た扉から部屋を出ると、



「うわっ」



 その扉の横に渋い執事さん────男性、五十代くらい────がいた。


 いやマジでびびった。

 全く気配を感じられなかった。

 鳥肌が立っている。

 声が漏れてしまったし、思わず仰け反った。

 俺の方に視線が向けられる。恐らく先程までの会話を聞いていたのだろう。 

 国王もそれを分かって話していたというのなら、国王も凄い。


 なんなんだこの人達は。



「勇者殿、こちらへ」



 落ち着いた声で一言。

 それには有無を言わせぬ迫力――あくまでも、俺は、である――が感じられた。

 その後、ピシッとした良い姿勢で俺の前に立って歩き始めた。

 大人しくついて行く。


 そういえば俺の扱いは勇者らしい。

 まぁテンプレ通り、魔王を討伐する人なんて『勇者』と呼ばれてしまうんだろう。

 普通に名前で呼んでもらいたいものだ。



 うす暗く、広い廊下の真ん中を歩く執事さんの後をただただついて行くが、もう正直ここがどこだか分からなくなってきた。

 広すぎるよここ。

 執事さんとはぐれると、自分の部屋にも多分戻れないだろう。


 この歳で迷子とか恥ずかしい。





 幸い迷子になるという事も無く。

 しばらく歩いた所で、ある部屋の前で執事さんが立ち止まって俺の方に向き直った。



「ここは図書室です」



 それだけを言うと、観音開きの大きな扉を開いて、中に入っていった。

 それをぼけーっと見つめる俺。


 なるほど。

 ここで国王の言っていたこの国の地理、とやらを教えてくれるのだろうか?

 というか魔王の居る場所を知りたいだけだったのに、何でこんな事に。


 魔王の居る場所を知るためには、一応地理の知識も必要という事なのか。



 ずっと中に入らないでいるのは不自然すぎるので、もうどうにでもなれ、と覚悟を決めて中に入ってみる。

 照明の光が俺の目を襲った。

 明るさに目がようやく慣れた頃、見えた景色に呆然とする。


 広大すぎる部屋。

 見渡す限り本棚。本棚。本棚。

 その中に収められている膨大な数の書籍。

 本棚の高さは俺の身長を遥かに凌駕し、並の一軒家くらいの高さはあるのではないだろうか。

 一体どれだけの本をかき集めれば、これほどまでになるのだろうか。

 見当もつかない。

 考えたくもない。


 一瞬だけ、魔法で風を起こして本を全部飛び散らかせたらどうなるのかなぁ、という好奇心に襲われたが、なんか執事さんにぼっこぼこにされる幻覚を見た。


 しつじさんつよい。こわい。



 ちなみにその執事さんはというと、俺が執事さんを見つけた時には、何の迷いもなく一つ本棚へ向かっていき、なんか色んな事をしたかと思えば一冊の本を取り出していた。

 何をしたのか全く分からなかった。


 つまり、よく分からなかった。

 しかし、分かった事もある。


 しつじさんすごい。



 本を脇に抱えて、執事さんが戻って来る。

 学校の図書室などでよく見かけるようなあの長い机から椅子を引き出すと、俺に座るよう促す。

 逆らうはずも無く、座った。

 俺が椅子に座ると、音を立てずに俺のすぐ側に立ち、邪魔にならないよう配慮しながら先程取ってきた本を使い、説明を始めた。



「まず、この星には八つに分けられています。

 球を八等分したような感じです」



 執事さんが開いたページには日本語のような字と、球を八等分した図が載っていた。

 ちなみに文字は日本語のよう、であり全く読めない。

 何で言葉は通じたのかは分からない。

 めんどくさいからいいや。


 図を使ってざっくりいってしまえば、球を縦切りして、横切りして、球の位置を縦に90度変えてさらに縦切りって事らしい。

 確かに八等分だ。

 分からないなら書いてみると早いか。



「ここまで分かりますか?」

「大丈夫です」



 本が分かりやすいですからね。



「続けます。

 その八等分した中でも、今私達がいる方は『表』、魔王がいる方は『裏』、と言われています」



 本当に図を見ると分かりやすいのだが、今開いているページには半球が二つある。

 で、その半球はどちらも四等分されている。

 一方の半球が表、もう一方の半球が裏ということなのだろう。


 こんなに分かりやすいって、この本、もしかして子供向けかもしれない。

 まぁ未成年だけど。



「『表』には四つの国、地域があります。

 この図だと、右上、右下、左上、左下に分かれていますが、右上が私達のいる国、フォレストランドです」



 中心角が直角の扇形が四つ描いてあり、日本の地図で見るような東西南北を示す記号も書かれていた。

 北を示す方が真上を向いていた。


 ていうか、なんでこれがあるんだよ。



「その他の地域は割愛しますが、このフォレストランドの『裏』には魔物達が巣食っています。

 ここに、勇者殿が倒すべき魔王もいる訳です」



 裏は魔物がいる、と。しかし表と裏の区別はどうすればいいのだろうか。

 聞いてみた。



「えぇ、表と裏の境、といいますか、八つの地域の境は白い大地で別たれていますので、非常に分かりやすいです。それに、表と裏の境には青い障壁が張られているので、間違えるという事はほぼありません」



 じゃあ魔王は、八分の一等分した球に障壁を挟んだ裏の球にいるという事か。

 でも魔物とかそういうよく分からん生物に襲われないのか?

 これも聞いてみる。



「あ、魔物とか魔王ってこっちには来ないんですか?」

「障壁はそういった負の生物は通り抜け出来ませんので、大丈夫です」



 間髪開けず答えてくれた。

 障壁万能だな。

 ということは、障壁を張った人がどれだけ凄かったのかが伺える。


 説明は続く。



「そして、それぞれ地が司る魔法の属性もあります。

 ここ、というかこの国が属している場所が『地』の魔法を司る場所です。

 『裏』の魔王や魔物も地の属性です。

 他の属性は、火、水、風の三つがあります」



 多分さっきの球の図で考えると、表が四つ、裏が四つだから、障壁挟んで表裏合わせると四つ。だから属性も四つ、ということだろう。

 そもそもここにも魔法あるんだ。

 そうなんだ。

 でも自然由来の魔法という感じがする。

 ちなみに俺は風の魔法を使えるので、この世界でも通用しそうでよかった。


 思考を巡らせていると、本をパタンと閉める音がした。

 唐突ではあったが、これで勉強タイムは終わりらしい。

 執事さんの方を向くと、微笑みを見せた。



「というような感じですが、いかがでしたか?」



 いかがも何も最高でしたよ。



「はい、とても勉強になりました。

 ありがとう」



 深く感謝の礼をしておく。


 それにせよ、魔王がどこにいるのかは分かった訳だ。

 殴れるかと思うと、自然に笑顔が溢れる。

 まぁ今すぐ殴りに行ける訳じゃない。



「それでは、部屋に戻りましょう」



 そう。

 俺は執事さんについて行かないと部屋に戻ることすら不可能という、迷子すれすれの状態。

 それは執事さんも分かっていたらしく、図書室に来た時のように誘導してくれた。


 執事さん、ありがとうございます。





 というわけで、ようやく部屋に戻ってきた。



「よし、早速殴りに行こう」



 もう気持ちが空の上まで舞い上がっている。

 比喩では無く、魔法を使えば空も飛べる。


 そう、飛べるのだ。


 精神的には既にフライアウェイしているが、物理的にもフライアウェイ出来る。

 そうすれば、上空から障壁を見つけて、『裏』に行って、魔王を殴れる。

 しかし何も言わないで行ってしまうと、執事さん辺りに怒られそうなので、まずは国王に挨拶しに行こうか。




 国王の執務室(?)前にて。



「失礼します」



 ノックだけはして、返答を聞かずに国王の部屋に入る。

 国王が歓迎してくれるかと思いきや、国王の姿はそこには無かった。

 すぐに執務机に目をやるが、書類が散乱していた。


 急用だったのだろうか?



「マジか」



 という訳で国王に許可を貰って、さくっと魔王を殴りに行けなくなった。

 他に国王の居る場所に心当たりはない。

 だってここ広いんだよ。


 だからこその疑問が浮かぶ。



「あれ?

 そういやここってなんなの?」



 そんなにも広い、つまりそれだけの権益を持っているという事は伺える。

 まぁこれは国王がいる時点で分かるような事だ。

 そうとなればここは城、と想像できる。



「まぁ、そういう事か」



 勝手に自問自答した所で、魔王殴る事に思考を切り替える。

 許可は貰っていない。

 しかしこの部屋を見てみよう。


 インクにペン、紙がある。

 そして執務机の裏には大きな窓。

 試しに色々と触ってみると、鍵はかかっていない事が分かった。

 なので、すぐに開放できる。


 そして極めつきが、



 ―――-部屋には俺以外、誰もいない。




 もちろん、この状況から考える事は一つ。



「書き置きをして、窓から飛ぶ!」



 よし、決まったとなれば早い行動を心がけよう。

 勢いのままに行動だ。


 まずは「魔王殴ってきます^ ^」と紙に記す。


 そして大きな窓を開放。

 風が気持ちいい。

 窓のすぐ下には屋根では無く、柵の無いベランダがある。

 広さは大人が二人いて少し余裕のある程度。

 降りようと思えば楽勝で降りれる高さだけど、そんな人はいないと思われる。


 ちなみに両脇にはかなりの角度がついた屋根があり、足を踏み外したら下まで一直線。

 下、といってもこの部屋がある階の一つ下の屋根である。

 地上は遠い。



 だがしかし、別に飛ぶのには何ら問題はない。



 息を吸って、吐く。



 よし、飛べる。


 しかし、この際もう一度明確にしておこう。

 俺は魔法の存在する科学もある世界から来ました。

 どのような魔法を使えるのかというと、風の魔法が使えます。


 どうでもよかった。

 まぁ言いたかったことは飛べます、って事だ。



 やるべき事は終わった。

 行こう、大空へ。



 窓枠に右足を掛け、左足で強く踏み出す。

 浮遊感と共に解放感が俺を包む。

 よし、このまま空中へ飛び出す。


 そして、自らを風と化させ、展開の単語を呟く。



「“Fly”」



 重力を無視したかのように見えるかもしれない。

 しかし、それは違う。

 俺自身の想像、先程でいえば『風』を体に反映したのだ。


 そして展開の単語によって、それは認識される。

 つまり風になる=飛ぶ事が可能となるのだ。

 もちろん自由に動く事が出来る。


 これが俺の世界で認識される『魔法』というものだ。

 このように自分に反映する事も出来るし、現象として発生させる事も出来る。

 後者の例は竜巻を発生させるなど。


 なお、魔法を使うためには干渉力といわれる、人としての理を超える力を身に宿している必要がある。

 まぁ俺の世界ではほぼ誰もがそれを持っているので、標準が魔法を使える事になってしまっている。

 この世界での魔法というものがどういうものかは分からないが、干渉力が正常に働いているので、自然の理は破られていないとみた。



「和夫殿!?」



 空中にいる俺を見つけてしまったのか、後ろの窓から国王の裏返った声が聞こえたが、気にせずスピードを上げる。



「そこには……」



 最後まで国王の声は聞こえなかった。が、体を持って実感する事となる。



「ぶべっ」



 強い衝撃。

 屋根無しベランダを少し過ぎた辺りで、空中に体を強く打ち付けた。

 意味が分からない!



「……あぁ、見えない障壁が張られているんだ」



 今更感を滲ませながらも、国王が優しく諭してくれた。

 そして一つ下の階まで落ちて行き、そこの屋根の上に乱雑な不時着をした。

 錐揉み落下。

 これでも優しい表現だ。


 ちなみに、風になっていたはずなのに何故衝撃があるのか。

 それはいくら風と化していると認識されて、風になっているとしてもそこに俺の肉体があるという事実があるので、障害物に当たると普通に痛いのである。


 というかこんな悠長に解説してる暇なんてないんだけどね。





 一応下降する風をクッション代わりにして、衝撃を吸収していたのだが、かなり体にきた。

 幸いにして怪我は全く無く、その後なんとか国王の部屋まで戻ると、まずは俺の体について本気で心配され、大丈夫だと必死になだめた。

 そして先程の見えない障壁とやらについて説明してくれた。

 もちろん執事さんの言っていた、表裏を分かつ障壁の事ではない。



「何代か前の王が、勇者を召喚したらしいのだかな?

 その勇者が、当時もこの部屋の窓から勝手に空に飛び出したらしいのだ。

 それで、王がそういう事は危ないから止めてほしい、と見えない障壁を設置したそうだ。

 言っても、私も今初めて障壁にぶつかる人を見たがな」



 そう言いながら国王は苦笑する。

 いつもなら俺も苦笑するタイミングだが笑えもしない。


 なんかその人俺っぽいな……。

 いやいや異世界召喚同じ世界な訳無いし。

 というか魔王復活するのって三、四年って早すぎるし。


 とりあえず王の話は終わりらしいので、今回の件について礼と謝罪をして、退出する。

 疑問は放置。



 でもまぁ、ね。

 もう、早い所魔王を殴って帰りたい。




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