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15、シナリオ通りに

ちょっぴりシリアスになってます


 不幸なことに死んでしまわなかった黒いのは、リコに首根っこを掴まれていた。

 これが生きても地獄死んでも地獄ってことか。



「早く魔王がどこにいるのか吐いてください」

「ひ、ひいいいいい!!」

「叫べなんて言っていません。

 簡潔に述べなさい」

「は、はわわああううあああ!!」

「……使えない」



 ……なんというか酷い。

 リコは尋問するのに向いてないな。

 必要以上に対象を怖がらせ過ぎだ。


 というかそのキャラ崩壊どうにかなりませんかね?

 いややっぱりこっちがデフォなのか!?

 いつもの「ご主人様~」は幻想だったのか?!

 俺は、いつか寝首をかかれてしまうのか!?


 ……そんなこと考えてる暇があったら、リコを窘めたほうがいいと思われた。



「あの、リコ?

 それだとコイツ絶対口割らないから」

「……そうですかね?」



 渋々ながらもリコが手を離してくれた。

 黒いのが地面にドサッと落ちる。

 完全に脅えきった表情だった。


「いや、お前を殺そうとしているわけじゃないんだよ」


 今すぐは、な。


「少しだけ案内してくれればいいんだよ」

「あ、あんない?」

「あぁ、魔王の場所まで」

「魔王様の……?」



 果たしてコイツが知っているのかどうか。

 返答次第によっては、即証拠隠滅をしなければならない。


 ……遅いな。

 少しの時間も今は惜しい。


 俺の背丈半分位の大きさの黒いの。

 少ししゃがんでコイツの服を背中側から掴んで持ち上げ、ナイフに見立てた親指をそっと首元に添える。



「殺されたくなければ言う事を聞け。

 それだけだ」

「ひいいいい」

「喚くな」

「……」



 結局リコとやる事が一緒になった。

 けれど格下に向かっての脅しはこれくらいがいいんだよ。

 今回は、リコに脅された事からしっかり学習したらしい黒いのは、体を震わせながら首を縦に振った。

 そうだ、素直になればいいんだ。


 というかいつまでも黒いの黒いの、ってコイツがなんなのか分かってなかった。



「お前はどういう生物なんだ?

 魔物なのか?」

「い、いえただの使い魔です!」

「ふーん」



 使い魔ねぇ。

 ちょこっと生えている黒い翼と尻尾は悪魔を連想させた。


 まぁ、メイドか執事みたいなもんだろう。

 それなら魔王の居場所も知っていそうだな。

 いつまでも掴んでいるわけにはいかないので解放する。



「じゃ、案内してくれよ」

「は、はいいいい」



 俺は後方にいたリコに頷くと、ビビりながら先に行く使い魔の後を歩き始める。

 俺の横にはリコもいた。


 まずは門番に守られていた門の、それまた先にあったかなり大きい両開きの門を通り抜ける。

 その先は中庭になっていて、左右に広がっていた。

 そして石レンガで舗装された道を真っ直ぐ歩いて行くと、大きな城の扉が現れる。

 今まで通って来た無愛想な門や扉とは違い、本当のエントランスであろうこの扉は、規則的に仕切られた枠の中にガラスが嵌めこまれていた。

 ただし、そのガラスは透明ではなく、遮光ガラスのように微かに黒く染まっていた。

 しかしそれがさらに幻想的な雰囲気を醸していて、儚げで華麗な世界を生み出していた。

 この扉以外にも、この城の窓は全てそのガラスが嵌めこまれている。


 まるで、悪とされる魔王の根城、魔王城ではないみたいだった。



「きれい、ですね」



 そう思ったのはリコも同じらしく、真剣な表情ながらも感嘆するように呟いていた。



 ――――しかし、いくら城が綺麗であろうと。

 この城に住まう魔王が、この城を建てるだけの素晴らしい感性と感情があろうとも。

 決して判断を誤ることはない。

 俺は魔王を倒す。

 そして元の世界に戻る。


 これだけは揺るぐ事はなく、誰にも邪魔させない。


 その邪魔者が、丁度目の前に現れた。

 使い魔よりも遥かに大きく、黒い翼を生やした人型だ。



「誰だ!?

 おい、何故使い魔である貴様が、敵たる人間を誘導しているのだ!」

「……っ!?」



 現れたのはどうみても悪魔だった。

 使い魔より遥かに高い身長と、大きな翼を有していた。

 魔王城に魔王しかいないという、好都合すぎる展開はあるわけないか。


 これから先も、こういう魔王麾下の者達は絶対に現れる。

 それは、俺が進めなくなってしまうということだ。


 だから、踏みつぶしていくしかない。



「(刈り取れ)“風刃”」



 不可視の刃が吹き付けた。

 悪魔と呼ばれる存在でも、首は簡単に斬れてしまった。

 胴との永遠の生き別れを悟ることなく、命はここで消える。



「安心しろ、お前の邪魔はさせない」

「そうですねっ!」

「……ひっ」



 魔王の元まで案内してもらうまでは、目の前の邪魔な事柄は全て排除するつもりで行こうと思う。

 だからリコ、ちょっと笑顔が怖い。

 何を威圧しているんだ?

 その威圧にビビった(のか?)使い魔は尻餅をついてしまった。



 完全なる侵入者を我が主の元まで、案内してしまうことは正しいことじゃない。

 しかし、自らの命を易々と差し出さなかったがために、違う命が消えた。

 恐らくこれから先も、命は消えていく。


 もし俺がその立場だったら、そのような事を思うだろう。


 たくさんの足音が響いた。



「貴様等、同胞に何をした!?」

「首が斬り落とされている……?

 悪趣味なぁ!」

「生かしてはおかん、かかれえええ!!」

「まだだ!

 包囲してから安全に殺すぞ!」



 また、面倒なのが現れた。

 どうやら、先程殺した悪魔は何かの組織に属していたようで、複数人の悪魔がそんな台詞を叫び、飛びかからんばかりだった。


 その誰もは中庭から飛び出してきた。

 ということは、中庭を巡回していたと取れる。

 俺の世界でいう警察みたいな役目をしていたのだろうか。

 多分彼等は、城の安全を守るためにパトロールを行っていたのだろう。


 ならばパトロール中であっただろう悪魔を殺した俺達は、どう考えても侵入者だって分かる訳だ。


 だけど残念ながら、侵入者というものはあなた方にここで殺されるためにここまで来た訳ではないんですよ。


 先程声を上げていたのは五人程度だったが、その五人の声を聞いた仲間達が駆けつけて来ていた。

 あっという間に俺達は数十人に包囲され、どこにも逃げられなくなっている。

 なんてこった、こんなの戦える訳ない……?


 そんな諦めは許してもらえない。

 絶望的でもあがいてみせるのが、哀れな勇者(おれ)のすべき事なんだろ?

 運命さん?


 だからまずは、リコに話し掛ける。

 今話しておかないと、何かを忘れてしまいそうだった。



「なぁリコ、今聞くのはおかしいのかもしれないけどさ。

 どうしてお前は俺を『主人』と呼ぶんだ?」



 それは、俺がリコに初めて会った時から思っていたこと。

 俺が雇用した訳でもなく、他の誰かにその事実を教えられたのでもなく、俺が貴族の御曹司でその家のメイドだったからという訳でもなく、唐突にリコはその事実を突き付けていた。


 はにかんだ様な笑顔を浮かべて、リコはぽつりと語った。


「……私は、そうなるよう生み出された存在ですから。

 ご主人様がご主人様である限り、私がそう呼ぶのは、黒宮和夫ただ一人です」




「行けええっっ!!!」


 誰かの号令が聞こえた。

 包囲していた悪魔達が、突進してくる。


 それを、俺はここら辺一帯に常識外の高気圧状態を生み出させ、立ち上がれない、むしろ地にめり込むくらいの下降気流で悪魔達の動きを止めた。

 無論、俺達にはその影響はない。


 リコと、話を続けよう。



「俺に会う前の記憶ってあるのか?」


「……一番最初の記憶は、何もない白い世界で私の使命を話された時です。

 その後は、私という存在のことを、凄く短い間に教えられました。

 この時に、案内役としての知識も頭に入っていきました。

 そして、気がつくとご主人様の横にいました。

 ご主人様の顔を見た時に、私はパズルのピースが噛み合ったように分かったんです。


『私の主人はこの人だ』


 って」


「それであの暴挙か……。

 まぁ、今更だな」



 つまりリコを作り出した誰かがいる訳で、その誰かは『ヒト』ではないことは確かだった。

 これは、魔法があろうとも不可能な事だ。


 俺は、不思議とその『ヒト』に心当たりがあった。



 俺にリコを託したその『ヒト』は、確かに不思議な人だった。



「く……ああああっ!!」


 そろそろ悪魔達が風圧に耐えられなくなってきていた。

 悲鳴ってBGMをずっと聞いていられるほど物好きじゃない。


 ちょっくら命、いただくよ?



「(斬り刻め)“旋風”」



 下降気流は一転して上昇気流となり、その脇を掠めるようにして吹いた一陣の突風は上昇気流に回転をもたらす。

 それは旋風と呼ばれる自然現象。

 しかし、内部で吹き付ける風は風刃である。

 巻き込まれたものは手当たり次第に斬り刻まれる。


 この前みたいに大規模なものじゃなくても、十分な殺傷力があるんだよ。


 それでも死ななかった者もいる訳で、まだその目には闘志を宿していた。



「貴様だけは、ここで殺すッ!!」

「ああああああああッ!!!」



 傷だらけだというのに、二人合わせて飛びかかってきた。

 最後に殴り合うかい?



「おやすみ」



 左から飛び出してきた悪魔は右ストレートで首を砕く。

 振り向いたところで、右から飛び出してきた悪魔の突進を一旦横に飛んでやり過ごし、相手の態勢が整わないうちに距離を詰めて肘打ちで首の骨を折った。

 安らかな眠りを。



「『水の弾丸』」



 リコはリコで生き残りを即潰していた。



 やがて、生きている悪魔はほとんどいなくなった。

 いつのまにか中庭は悪魔達の死体で埋め尽くされていて、血の臭いが充満していた。

 気にする事はない。

 これで先に進める。


 リコの方を見ると、とっても穏やかな笑みを浮かべていた。



「んじゃ、行くか」

「はい!」



 しかし、肝心の案内役である使い魔は唖然としたまま動かなくなっていた。

 うーん、どうしたものか。


 リコの意見も聞いておくか、と後ろを振り向こうとした時。

 不意に、優しい声で後ろから囁かれた。




「ご主人様、まだシナリオは終わらないんです。

 だから少しの間、夢の中にいてください」




 おい、一体なんの真似だ?

 と、聞く暇さえなく、衝撃に襲われた。


 そのせいで途切れ行く意識の中、俺はなんとなくこの先の展開が分かったような気がした。



 この城では、全ては終わらない。



 運命はまだ、俺に魔王以外の誰かを殴らせようとしているのかもしれない、と。





次回は和夫の過去ダイジェスト編になります。

今日中に投稿です

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