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GOD EARTH  作者:
第一章 生
6/64

(5)

「そういえば、どうして言葉が通じるんだろう?」

「さぁ、カミサマが都合いいように作ってくれたんじゃないの」


 階段を上るまでの短い間にも口から何か言葉が出てくる。それにマリアが乗って返事をきちんとしてくれるわけでもなく、ただ短い会話が続くだけだ。それでも今ここが現実出会うという認識は十分に持てる。

 二言三言、会話を続けていると、もう自分の部屋の前にいた。小さく呼吸を繰り返してドアノブを握る。もしこの先で智也が罪人であるという証明がされれば、理不尽なこのゲームに参加しなくてならなくなるのだ。ゲームもあまりしない、運動神経も人並みな智也が本当にやっていけるのだろうか。その不安に息がつまり、ドアノブを持つ手が震えているのがわかった。


「早くしなさいよ。ここなんでしょ」


 背後からいら立ちの混じった声で急かされる。その声に押されるようにして、智也はドアを開けた。目の前に広がっているいつもと同じでそうでない部屋。誰が何のためにこんな部屋を用意し、智也をここに連れてきたのか。マリアの言うことが本当ならば、智也は罪人で、そのためにカミサマによって連れられたことになる。それにしてもあまりにひどい話だ。唐突に何の説明もない。マリアがたまたま来ていなければ、ずっとこの誰もいない空間に1人だったのか、と思うと背筋が震えた。


「……シンプルな部屋。わたしの家と変わらないわ」


 入口でぼんやりと突っ立っている智也にはお構いなしに中へ入っていったマリアは、軽く部屋を見回して肩をすくめた。そうして部屋の真ん中に立つと智也を手招きする。近くに寄れば、マリアは再び智也を上から下までじっくりと眺めるだけでは飽き足らず、智也の周りを回って、それこそ隅から隅まで見てくる。ここまで見られることに不快感はあるものの、これもきっと必要なことなのだろうと黙ってマリアの観察が終わるのを待った。


「脱いで」

「えっ?!」


 ぼんやりとこの後どうしたらいいんだろう、と考えていた頭に突然届いた言葉に、智也は素っ頓狂な声をあげる。すると智也の正面へと戻ってきたマリアの眉間にぐっと皺が寄った。まるで心外だというような顔だ。


「別に変なこと考えてるわけじゃない、勘違いしないでくれない?」

「マリアさんが、いきなり脱げとか……言うから、」

「仕方ないでしょ? 見たところに烙印はないみたいだし、そうなったらあとは服に隠れて見えないところにあるしか考えられないじゃない。だから、脱いでって言ってんの。でも上半身だけよ。そこになかったらあとは自分で探して!」


 マリアの言葉にあぁ、と納得したように頷くとスウェットの上だけを脱いだ。締まってもなく、たるんでもない平均的と言える体を、ため息をついた後マリアが再び確認していく。舐めるような視線に、むずがゆさと恥ずかしさを感じ、耳が熱くなるのを感じているとマリアの手が智也の腕を掴んだ。


「あったわ。でも、これ……」


 小さく耳に届いた言葉にどくりと脈打ち、じっとりとした汗をかく。掴まれた右腕がキリキリと締め付けられているように感じ、自分の心臓の音がダイレクトに耳へと届いている。すべての感覚が押し寄せるように敏感になっていた。深呼吸を1つして、智也はようやく覚悟を決めて視線を落とした。ちょうど肩の辺りに、痛々しい赤い「5」という烙印が刻まれていたが、マリアにはある黒い数字がなく、ただ赤い数字が肌に埋め込まれているかのように強く主張している。


「赤しかない……黒がない人もいるの?」


 ふと浮かんだ疑問を口に、マリアを見ると眉間に皺を寄せてその刻印をじっと見つめている。その表情からこれが特異なことで、マリアにも理解の出来ないようなことであると見て取れる。マリアは、言葉を探すように視線を伏せて黙り込んでしまった。それを生唾を飲みながら待つ。マリアの口が開くまでが恐ろしく長く感じた。


「普通じゃ考えられない、あり得ないわ。なぜかは……わからないけど、でもこんなことあり得ない。意識(コア)のみ、だなんて」


 震えるマリアの声がそれがどれほど驚くべきことなのか、空気を伝って感じ取れる。状況がいまだに飲み込めていない智也でもなんとなく察した。先ほど学んだこの世界におけるルール、そして敵と呼ばれるものの存在。


意識(コア)は奪われると二度と取り返せないと、そう言ってた……よね?」

「えぇ」

「あの黒い化け物は魂の欠片(チェイン)を狙ってくるって言ったよね」

「そうね」

「じゃあ、もし……もしせっかく手に入れた魂の欠片(チェイン)魂の欠片(化け物)に取られたら、僕はカミサマに会うことが出来なくなる?」

「やっぱり呑み込みが早いじゃないの」


 石のように硬い笑みを浮かべるマリアは、智也が言った言葉に小さく頷いた。口に出した疑問は核心に変わり、そして智也を絶望へと叩き落とす。その瞬間、全身の血を抜かれたように肌が冷え、ガクガクと足が震えた。声を出そうとしてもなかなか出てこない。身体は冷たいのに、喉は乾いて張り付いている。まるで最後まで確認することを拒んでいるかのようだ。それでも智也は、マリアをうかがうように見つめ、声を絞り出した。


「つまり、それって……意識(コア)を失った瞬間、僕はずっと罪人の箱庭(ここ)に閉じ込められるってこと、だよね」

「……そう、なるわね」


 絞り出した声は今までにないくらい震えていた。こんな事態を想像もしていなかったのか困惑したようにマリアが頷いた瞬間、智也は糸の切れた操り人形のようにその場に崩れ落ちた。

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