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人類はだんじょんに引きこもりました零  作者: 伊澄浩一/旧古時計
ぼーい・みーつ・ほーぷれすねす
4/5

それでも彼は情けない

理解ができなかった。

すぐ近くに居て、直接言葉を聞いたというのに何を言ってるのかさっぱり分からなかった。


「ら、ライ。お前何を言ってるんだ」

「気安く呼ぶんじゃねぇっ、化け物っ」


凄い剣幕で怒鳴られ、ジオは萎縮する。


「ば、化け物って。僕は因子持ちですらないだろ。お前だってよく知ってるじゃないか」

「上と下で真っ二つにされたのに再生して、無傷で平然としてるお前が化け物じゃなくて何が化け物なんだよ」

「一体何のことなんだ?」


状況についていけないジオは話が通じないライではなく他の人物に話を聞こうと周りを見た。

だが、生き残っている他の人間も皆、恐怖が混じった目をしてジオに武器を向けている。


「さっきのミノタウロスもお前が呼び寄せたんだろっ」

「違う。そんな訳ないだろ。お前らおかしいよ。そ、そうだ。ハンスを、ハンスを呼んでくれ」

自分が困ったとき助けてくれた人物。自分にとって頼りになる人物であるハンスに助けを請う。


「いないよ。お前が化け物だから見捨て逃げたんだろ。ハンスの親父も不憫だよな、目をかけてた奴がよりによって化け物だったなんて」

「そ、そんな」


周りの人間は皆殺気だっている。

逃げなくてはと思った。

でも、一体何処へ行けばいいというのだろうか。


身内はいない。

仲間だと思った人間には刃を向けられている。

頼りにしていた人間はどこかへ行ってしまった。


「は、ハハッ。あぁ、もうどうしようもないじゃないか」


諦めよう。

もう、どうすることもできない。

膝を地面について項垂れる。


暴力の嵐はすぐに到来した。


「くたばれ、化け物っ」


殴られ、蹴られ、踏みつけられ、斬られる。

数日前に見た因子持ちはこんな気分だったのだろうか。

惨めで、虚しく、とても辛い。

痛い。痛い。痛い。

数日前だけじゃない何度も何度も因子持ちがリンチに合うのを見てみぬ振りをしてきた。自分には関係ない。何もできないといって。

数日前のように立ち向かう因子持ちもいた。だけど、無抵抗のものも多くいた。今の自分のように。

彼らは本当に悪かったのだろうか。

でも今更考えても遅い。

どうせ誰も助けになんて来ないし、行くあてもない。

誰も他人を助けようとなんかしないのだ。

いや、一人いた。



強い炎を瞳に宿した少女が。



確かあの子は言っていた「あなたも同じくせに」「もう今までどうりではいられない」と。

あの子は分かっていたのではないのだろうか。

ジオがいずれこうなることを。


「助けて」


声が溢れ落ちる。悲鳴が滴のように口から垂れる。

痛いのだ。熱いのだ。苦しいのだ。

死にたくないのだ。


死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。



生きていたい。



「あなただけは生き残って、ディン」


懐かしい声が頭の中で響いた。

これが何なのかは分からない。自分はディンという名前ではないし、この声も知らないはずだ。

こんな声に従うなんて頭がおかしいのかもしれない。

でもまだ、死ねない。


「死ねっ、化け物」


降り注ぐ拳を右手で受け止める。


「なっ!?」

ジオが初めて抵抗したことで、抵抗されることはないだろうとすっかり思い込んでいたライ達は驚く。

続いて、ジオは近くの男に拳を振るった。

左腕は既に骨が折れ、肉がちぎれ、皮でなんとかつながっている状態だ。右腕の骨にもひびがはいっている。

だが、ジオは拳を振るい切った。


拳をもろに顔に受けた男は本来のジオよりかなり強い一撃で鼻の骨が粉砕され、床に沈む。

その男の様を見て、他の人間は怯んだ。

だが、ライだけは構わず大剣で横ばいにジオを殴り付ける。

正面からそれを受けたジオは地面をバウンドしながら転がっていった。


「許さない、絶対に」

「ヴヴゥゥゥゥゥゥ」


信じていた仲間に騙されていたからか、もはや聞き分けのない怒りで動くライに対してジオは言葉にならない唸り声を上げた。

ジオ自身、かつての仲間と戦うことに躊躇はもうない。

分かり合うことはできない。そう悟り、ライに飛びかかる。

横に名木はらわれた大剣の腹の部分を力任せに右腕で殴り付けて軌道を反らし、ライの横っ腹を蹴りつけた。


「ぶばっ」


昼食にありつけなかったためか、綺麗な胃液を口から吹き出すライ。

そのライの側頭部にジオは右腕を思いっきり振って叩きつける。


「がっ」

短い悲鳴を上げてライは沈んだ。


「うああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ」

他の人間が我に帰る前に叫び声を上げてジオは走り出す。


目指すは下の階層だ。

下へ行けば行くほど裕福な人間がすんでいる階層だ。自分のような身なりでは入れない階層も多くある。

だが、ダンジョンの特性上、人が住むのには適さない階層も多くある。

そこに逃げこもう。

そして、一先ずは瞳に炎を宿した少女を探すのだ。


走る速度は人間とは思えないほど出た。

なるほど、ライ達が化け物と呼ぶのも納得の速度だ。

走り続けていると下の階層へと続く階段が見えてきた。


あと少し。もう少し。

ジオは必死で走る。


階段を一段飛ばしで一気にかけ降りていく。

そして、突入した下の階層は、






地獄が広がっていた。

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