プロローグ
「あぁ、失敗した」
そう呟きジオは地に膝をついた。
目の前では、自分と同じ戦士職のもの達が腐った果実のように容易く肉片へと変わっていっている。
人類の領土拡大のためのダンジョン攻略に挑むなどやはり無謀だったのだ。
金に目が眩み、慣れないことに乗っかった自分を恨む。
そして、首を垂れた。
そもそも、自分のように金も力もないものがこの世界で生きること自体無理なのだ。
ここは14階層。
人類の最終防衛ラインである15階層の一つ上の層だ。
かつては地上を支配していた人類だったが、ある日を境にその支配は終わりを告げた。
いまでは人類はダンジョンと呼ばれる迷宮の中に閉じこもり、地上からダンジョンを攻略してくる魔物達を防ぐだけでいっぱいいっぱいだ。
彼、ジオ ラターチは死と隣り合わせの階層である16階層に住んでいる。
15階層で兵士達が討ち洩らした魔物達が昼夜を問わず攻め入ってくる16階層でだ。
それ故に、今日死なずとも明日死んだかもしれない。
だからといって自分の死を納得しろというのも無理な話だった。
「死にたくない……死にたくなんかない」
手が震え、剣を握ることも儘ならない。
それでも目の前からは四足歩行の猪に似た魔物が迫ってくる。
「お、おい、お前!?」
近くにいた戦士が驚いた様子でジオに声をかけるが当の本人は気づきもしない。
「奇跡でも何でもいい、僕を助けてくれ」
そして、ジオは何もできないまま死んだ。