同窓会
お久しぶりです。みやです。
一月の季節小説ということで、成人の日をテーマにしました。
といっても成人式は話のきっかけでしかないですが。
ライトホラーですので気軽に驚いてくださると幸いです。
「それでさ、あいつなんて言ってると思う? こんなことになるならあなたと付き合わなければよかった……だってよ。めっちゃむかつかね? あんな売れ残りと付き合ってやってるのになんてこと言うんだよってなぁ!!」
「はいはい、ノロケないの。そんなこと言っても好きなんでしょ」
「ま、まぁそうだけどな」
その言葉にヒューヒューと囃し立てる声がし、皆が愉快そうに笑う。そんな中唯一笑えず薄ら笑いを浮かべる男が一人。俺だ。別にノロケが嫌だったわけじゃない。最近初めて彼女ができた俺にリア充への恨みがあるわけない。友達の幸せが憎いわけでもない。そう、友達なら。
俺はこいつらが嫌いだった。中学二年生の時に両親が離婚し、母方の実家であるこの地域に引っ越してきた。引っ越す以前の俺はとてもやんちゃで、誰とでも仲良く遊んでいた。ここではどんな友達とどんな日々を送るのだろうか、と楽しみにしていた。教室につくと同級生はたったの十人。その十人全員が俺を敵を見るような、拒絶した目で見ていた。閉鎖的な村で十四年間十人で一緒に育ってきたのだから、今考えれば彼らが俺に関わってこなかったのは理解できるし、悪意もなかったのかもしれない。でも当時の俺には耐えられなかった。お互いが消極的に構えてしまったせいで俺だけが輪に入れず、楽しそうに話す彼らをこっそりと羨んでいた。話しかけたくても彼らはすでに俺が消極的で他人と関わりを持ちたがらない人間、と陰口を叩いていた。それに俺だって子供だった。そんな状態で自分から仲間に入れてと頼むのは負けた気がしてどうしてもできなかった。
そうこうしているうちに卒業を迎えてしまった。彼らは仲良く最寄の高校に進学したらしい。俺はといえば、孤独に過ごした中学時代から逃げるように都会の高校に入った。それ以来彼らとは会っていない。
気付けば二十歳。季節は冬。そして今日は成人の日だ。同窓会だ。本当は同窓会はおろか成人式も行く気なんてなかった。どうせ行っても無視されるか誰だっけコイツ、ってなるのがオチだ。好き好んでいく訳が無い。でもそうもいかない。俺が中学で唯一お世話になったと思っている中学三年生の時の担任から手紙が届いたのだ。
『久しぶりだね。元気にしているかい? 退院おめでとう。もうじき成人の日だね。もし成人式に出るならついでに中学校に寄ってくれないか。話がしたい。私に最後の卒業生の顔を見せてくれ』
長い入院生活がようやく終わり2年半遅れの大学生活を初めて間もなかった俺に送られた手紙にはこう書かれていた。先生は癌を患っていた。その関係で俺らの卒業と同時に教師を辞めた。教師生活最後の年に受け持った俺が入院していたのが気がかりだったのだろう。気にしてくれているのは嬉しかったが、正直成人式に参加するのは乗り気ではなかった。最初は行くまいかとも考えたがせっかくの恩師の誘いだ。断るわけにはいかないだろうと成人式に参加した後、俺らの代で学び舎としての機能を終えたこの中学校に足を運んだ。しかし、そこに先生の姿はなかった。
廊下をうろついていると茶道室の方から声が聞こえた。顔を覗かせてみると彼らが飲み会をしていた。飛び交う大声と酒臭さが詰まった空間の中にぽつりと一つだけ空席。その席の前には開いていない缶ビールと未使用の紙皿、箸が置いてあった。恐らく先生はみんなと馴染めなかった俺のためにこの会に参加させてくれたのだろう。気持ちは嬉しいが正直迷惑だ。でも俺ももうガキじゃない。先生の計らいを無下にするのも申し訳ないと思い、適当に話を切り上げ帰ろうと考え空席に腰を下ろした。
……そして今に至るのだが。
「そういうお前はいい人できたのか?」
「わ、私のことは別にいいじゃない。そんなことよりあんた--」
話を切り上げて帰るどころか、信じられないことに彼らは話しかけても来ない。まさか二十歳にもなって無視を続けるなんてことがあり得るのだろうか。……嫌な記憶が蘇ってくる。いや、俺ももうガキじゃないんだ。俺からいけばいんじゃないか。
「な、なあ!! 久しぶりだな、みんな俺のこと覚えてるか? 俺だよ、中学二年生の時に転校‐‐」
「そういえば宮本遅いな……」
「あいつなら仕事の都合で昼過ぎにこっちにつくって言ってたからそろそろ着くんじゃないか。こんな田舎の中でも一番田舎臭い格好だったあいつが自分で会社立ち上げて今や大金持ちだからなー。世の中わかんねえもんだな」
皆楽しそうに笑いだす。……俺の言葉を完全に無視して。そんなに俺のことが嫌いだったのだろうか。それにしてもこんな仕打ちはひどいだろ。気に食わないなら嫌いっていえばいいし、帰ってほしいなら追い出せばいい。こんな小学生みたいなやり方で……
「お待たせ~」
茶道室の入り口からどこかで聞こえたような声が聞こえた。振り返るとそこにはスーツを着こなす背の高い一人の男が立っていた。
皆が口々に再会を懐かしむ。ということは恐らく同級生なんだろう。当然俺は思い出せないが。
「おっ、来た来たっ!! 久しぶりだな宮本!! まあここ座れよ」
そう言いながら俺の隣に座る男が俺のすぐ近くの畳を叩く。しかし、俺とその男の間に人が座れるほどの隙間は空いていない。
……あー、そういうことか。元々ここは俺の席じゃなかったわけだ。だからこいつらは俺の行動にむかついて無視したと。どんだけ幼稚なんだよ。もういいや、飲み物や食べ物には手を付けてないからこのまま帰ろう。
皆が宮本の登場に様々なリアクションを見せている中、俺はゆっくりと立ち上がり茶道室の出口を目指す。俺が茶道室を出るのを見世物にするだろうと思っていたら、彼らはそれすらも無視する。
「久しぶりって先月みんなで旅行にいったばっかりだろ。
そういえば聞いてくれよ!! あの旅行以来嫁さんが冷たいんだよ!! さすがに一週間は長すぎたかな……」
宮本は俺が茶道室から出ていくのを待たず、俺が座っていた席に向かってくる。元々それほど広くない茶道室で皆が食べ物飲み物を囲み円を作っている。その上四方を壁に囲まれている茶道室から外に出ようとすれば人一人が歩ける程度の幅しかない。そんな中俺に近づいてくるということは大方俺が譲るとでも思っているのだろう。最後の最後で笑いものにして終ろうということだろうか。イラついてきた。どうせもう一生会うことなんてないんだ。逆にこけさせてやろう。最後に思いっきり出鼻を折って帰ろう。
宮本が目の前まで来た瞬間、俺は全身の筋肉を使って宮本に突進した。
「えっ!?」
……彼を押し飛ばしたはずだった俺の体は気付くと地面に突っ伏していた。顔をあげて後ろを見ると宮本は何もなかったかのように導かれた席に座っていた。意味が分からない。
俺は確かに彼を目の前にしていたはずだ。だが、倒れたのは俺だけで彼は平気で、それどころか誰も俺の奇行にピクリともしない。さすがにただ無視されているのではない気がしてきた。何か得体のしれないことが起きているような……。そんな不安をかき消そうと俺は一番近くに座っていた女性の元にゆっくりと近づいていく。
そしてその肩に手を置こうと……
「なあなあ--っ!?」
その手は肩に止まることなくそのまま降りていった。つまり彼女の肩をすり抜けたのだ。現象の意味は分かるが理解ができない。
俺は半分パニックになりながらも状態を飲み込もうとする。しかし誰に何度触れようとしても触れることができないのだ。
「そういえばさあ、知ってる?
中学二年生の時に引っ越してきた奴いたじゃん、あの地味な奴」
ふと、俺のことが話題になっているのが聞こえた。
「あいつさ、去年の秋に死んだらしいよ」
自分の耳を疑った。
……俺が……死んだ?
「まじで? あいつ死んだの?」
こいつらは何を言ってるんだろう。俺はここにいるのに、お前らにずっと無視されているのに。
「まじまじ。高校卒業してすぐに交通事故で昏睡状態だったらしいんだけどね。それがこの前ついに息を引き取ったんだって」
確かに俺はずっと昏睡状態だった。三ヶ月前に奇跡的に目をさまし退院できた。それから大学に通い始めた。たくさんの友達ができて、バイトも始めた。彼女もできた。空白の二年間があったことも物ともしない幸せな人生を歩み始めていた。それが全部……夢だったのか……?
「知らなかったわ~。まあ俺あいつ嫌いだったしいいけど」
「こら、故人の悪口なんて言わないの」
「お前だって中学の時あいつのことずっと黙ってて気持ち悪いって言ってたじゃねーかよ」
皆が笑ってる。ここにいる俺の死で。
楽しそうに。昔の笑い種として。
どれだけ否定しても彼らは話を続けるし、俺は彼らに触れない。
じゃあ本当に俺は……
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
自分の存在の不安定さに耐えきれず茶道室を飛び出す。
ひたすら校内を走った。
信じたくなかった。
でも思えばあまりにも都合がよすぎた。目が覚めてすぐに大切な人ができて、充実した人生が送れて。
俺は夢を見ていただけなのか。
幸せな夢を見せて最後に絶望させる。
こんな悲劇があるだろうか。
最後まであいつらに見下されて終わった。あんなやつらに……
嫌だ。
嫌だ嫌だ嫌だ。
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌--
「おぉ、烈じゃないか。」
俺を呼ぶ声。まさかと思い後ろを向くと俺を招待した先生がいた。
先生には俺がみえるのだろうか……
「本当に来てくれたのか。よかったよかった。会えて嬉しいよ。本当に嬉しい。
君以外の教え子には先立たれてしまったからな」
というオチでしたがどうでしたか?
少しでも予想外でしたら幸いです。
ではまた。