01 一度死ねば二度は死ねない
「手紙が来た」
村長の呼び出しに応じ、村中の人間が村の中央に集まっていた。
甘い香りがするその手紙が来るということは、ほとんど訃報の知らせと変わらない。
それはこの村の誰しもが思っている。
アニーは横目でブノワ夫妻の顔色を窺う。
蒼白とした顔色でその手紙を呆然と見ている夫妻は今にも崩れ落ちそうな雰囲気だった。
「――また、選ばねば」
重苦しく響く村長の声に皆、沈黙で答える。
……あのイカレ領主が。
アニーは胸中で毒づいた。
この村の領主は、この辺り一帯を治めている国王の弟だ。
なぜそのような高貴な立場の者がこんな辺境に追いやられたのか。
それはその容貌があまりに醜く、その見目に比例するかのように性格が歪んでいたからに他ならない。
王弟を持て余した国王は、この辺境に弟の領地を与え国を追い出した。
その全てが歪な領主は、不定期な期間ごとに小間使いを必要とする旨を書いた手紙を、村長に送ってくる。
小間使いと言えば聞こえが良いが、領主の下へ行き無事に帰ってきたものなど誰も居やしない。
ある者は精神を患い、ある者は帰って来た途端に自殺を図り、またある者は領主の城から帰ってくることさえ無かった。
そして前回領主の小間使いとして選ばれた人はブノワ夫妻の息子だった。
彼は、帰って来なかった。
村を逃げ出そうとした者も大勢居たのだが、それらは決まって剣で串刺しにされ死体となって帰ってきた。
王は厄介者の弟をこの村に、いやこの村ごと捨てたのだ。
「若いもんをこれ以上、死なせたくはないが…」
村長がしわがれた声で零す。
「本当なら、先に死ぬのは年寄りと相場が決まっとるのにのう」
「ワシがなんとか話しを付けに行こうか」
「おやめなさいな。そんな事をしても死人が増えるだけだ」
領主は小間使いの年齢を13~40までと定めている。
いつも苦しそうに若者を送り出すご老人達が、アニーには逆に痛ましかった。
「今回は私が行くよ」
アニーはさもまたここに帰ってこれるかのような言い回しを、選ぶ。
父と母がなにか叫んでいるが、それはアニーの脳に到達することなく流れていった。
驚いた皆をなるべく視界に入れないようにしながら、少し離れた丘に建っているクソみたいに小奇麗な領主の屋敷を睨み付けた。