第7話:言葉の断片
レジは、いつも同じリズムで進んでいく。
夕方になると、そのテンポが少しだけ速くなる。
仕事帰りの人。 急いでいる人。 何を買うか決めないまま入ってくる人。
レジの音だけが、途切れず続いていた。
その合間に、 あの人が入ってきた。
いつもの時間。
特に意識せず、 視界の端でそれを認識する。
棚を回る動きも、 商品を手に取る順番も、 だいたい同じだった。
ただ、 今日は少し違った。
スマートフォンを耳に当てていた。
小さな声で、 誰かと話している。
店内では珍しくない光景だったから、 特に気にすることはない。
——はずだった。
レジに並ぶ直前、 その人の声が少しだけはっきり聞こえた。
「……うん。まあ、いいか」
それだけだった。
深い意味があるようにも、 何も考えていないようにも聞こえる言い方。
通話はそこで終わったらしく、 スマートフォンがポケットにしまわれる。
いつも通り会計をする。
商品を受け取って、 軽く会釈。
変わらない。
本当に、 いつも通りだった。
なのに、 さっきの言葉だけが残った。
「まあ、いいか」
別に珍しい言葉じゃない。
誰でも言う。 自分だって言ったことがあるはずだ。
それなのに、 なぜか耳に残っていた。
理由は分からない。
印象的な出来事があったわけでもない。
ただ、 言葉の欠片だけが、 どこにも収まらないまま残っている。
次の客の会計をしながら、 考えようとして、 やめた。
意味なんて、 たぶんない。
考えなくても、 仕事は進む。
レジの音が続く。
気づけば、 さっきの人はもういなかった。
気づけば、店の外は暗くなっていた。




