第6話:雨の日
朝から雨だった。
強くもなく、 弱くもなく、 ただずっと降り続いているような雨。
こういう日は、 店の床が少しだけ忙しくなる。
傘の水滴。 濡れた靴。 入口のマットが重くなる。
レジから見える景色も、 いつもより少し暗い。
昼を過ぎた頃、 自動ドアが開いた。
あの人だった。
傘を閉じて、 軽く水を払ってから入ってくる。
いつもと同じ動き。
服は少し濡れているように見えた。 肩のあたりに、 細かい雨の跡が残っている。
でも、 歩き方は変わらない。
急ぐ様子もなく、 気にしている様子もない。
棚を回って、 いつもの場所で立ち止まる。
少し考えるような間があって、 それから商品を手に取った。
レジに来る。
「お願いします」
変わらない声。
会計をしながら、 ふと足元が目に入った。
靴は濡れているはずだった。
外はずっと雨だったし、 水たまりもできていたはずだ。
それなのに、 なぜか不思議と、 濡れている感じがしなかった。
気のせいかもしれない。
そう思って、それ以上は考えなかった。
商品を渡す。
その人は軽く会釈をして、 雨の中へ戻っていった。
自動ドアの向こうで、 傘が開く。
それを見送りながら、 特に何も思わなかった。
ただ、 「雨の日でも変わらない人もいるんだな」 と、 ぼんやり考えただけだった。
次の客が入ってくる。
床に落ちる水滴の音が、 さっきより少しだけ増えていた。




