第4話:少しだけ違った日
その人は、 いつも通りの時間に店へ入ってきた。
自動ドアの開く音で、 なんとなく分かる。
顔を覚えているわけじゃない。 ただ、 流れの一部として馴染んでいるだけだ。
レジから見える棚の前で、 その人が立ち止まった。
缶コーヒーの棚。
いつもなら、 迷わず一本取る。
それで終わりだ。
でも今日は、 少し違った。
手に取って、 戻す。
別の銘柄を見て、 また戻す。
長くはない。 ほんの数秒。
けれど、 なぜかそれが目に残った。
珍しいな、 と思った。
ただ、それだけのことなのに。
レジに並んだとき、 手元を見る。
選ばれたのは、 いつもの缶コーヒーではなかった。
違うラベル。
新商品らしい。
レジに置かれた缶には、 「HOT」の表示があった。
「あ、こちら温かいですが、大丈夫ですか?」
そう声をかける。
少し間があってから、 その人は小さくうなずいた。
それも、 初めてだった気がした。
袋に入れて手渡す。
缶の温かさが、 レジ越しにも分かった。
商品を渡すと、 その人は軽く会釈して店を出ていった。
自動ドアが閉まる。
店の中は、 何も変わっていない。
同じ音楽。 同じ明るさ。
それなのに、 さっきまでと ほんの少しだけ空気が違う気がした。
棚を見る。
いつも減っていた場所には、 缶コーヒーがそのまま残っている。
代わりに、 別の列が一つ空いていた。
人は変わらない。
そう思っていたけれど。
もしかすると、 変わらないように見えるだけなのかもしれない。
そんな考えが浮かんだが、 すぐに次の客がレジに来た。
考えるほどのことじゃない。
そう思いながら、 いつも通りバーコードを読み取った。




