第1話:レジ越しの人たち
レジに立っていると、時間の流れ方が少しだけ変わる。
忙しいわけではない。 暇すぎるわけでもない。
一定の速さで、 人が来て、去っていく。
「お願いします」 「ありがとうございます」
同じ言葉を、何度も繰り返す。
それでも、 同じ一日は一度もない。
客はたくさん来るけれど、 顔を覚えようとは思わない。
覚えてしまうと、 少しだけ疲れるからだ。
誰がどんな仕事をしていて、 どんな一日を過ごしてきたのか。 考え始めると、きりがない。
だから、 レジ越しに見える時間だけを受け取る。
商品を受け取り、 バーコードを通すたび、 短い電子音が同じ高さで鳴る。
それで終わり。
客は、 流れていく存在だった。
朝に急いでいる人。 夜に疲れた顔をしている人。 楽しそうに話しながら入ってくる人。
みんな違うのに、 店を出ていけば、 すぐに景色の一部になる。
名前も知らない。 これから先、会わないかもしれない。
それでいいと思っていた。
ここは、 誰かの人生が交差する場所ではあるけれど、 立ち止まる場所ではない。
ただ通り過ぎるだけの場所。
レジの前に立つ人も、 レジの内側にいる自分も、 きっと同じだ。
次の客が来る。
自動ドアの音が鳴り、 冷たい外気が少しだけ店内に入り込む。
顔を上げる。
「いらっしゃいませ」
そう言いながら、 また一人、 知らない誰かを迎えた。




