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セディの今日がはじまる

セディ•トリアーニは、ここで能力を使ってこの男を剣で串刺しにしてやろうか?と激しい怒りに駆られながら必死に耐えていた。


私のスカートの中には、後ろに立っているおじさんの手が入れられている。


誰かが彼女の前に立っていれば彼女の憤怒の表情をみて驚くに違いないが、

満員電車で誰も気づく人はいない。


銃刀法違反、そして殺人罪という言葉が頭の中にこだまする。


セディと言ったが、彼女は異世界からの転生者であり、今は鈴木星羅という名前の女子高生として生きている。

セディが元の世界で魔法剣士として剣を振るっていた頃、最も恐れられていた能力は具現化したソードを対象に向かって振り下ろす力。


具現化されたそれは対象に向かって、真っ直ぐ急所へと向かっていくような仕組みだった。


セディは魔王を倒すためのパーティの一員だったが、圧倒的な魔力を持つ魔王を前に、勇者のパーティは全滅の危機を迎えていた。


すでに仲間の何人かは絶命していた。


セディは最後の力を振り絞り、ソードを具現化する魔法を使おうとしたところで、


魔王は、

「我に刃を向けたことを、別の世界で後悔するがよい」


その言葉と共に意識が遠のき、見慣れぬ世界で目を覚ましたのだった。



「この人チカンですー!」


魔王の言葉ではなく、誰かが車内で叫び、おじさんがびくっと手を離した。

おじさんは声のした方を小さくキョロキョロと見回し、私の方を見ると

私の尋常ではない眼光(人を殺したことはないが、モンスターはいくらででもある)におののき、次の駅でそそくさと降りて行った。


「チッ」


セディは女子高生の姿で、舌打ちをして駅を降りた。

朝から災難だった。学校の授業もわけがわからないし、学校には部活である剣道以外に彼女の興味の対象はない。


この姿になって、そろそろ一年。

ようやくこの世界のことわりにもなれてきたが、

魔法や特殊能力というものはなくて、モンスターもいない。


それまで成績優秀、帰宅部だった鈴木星羅だが、

セディが彼女の中に目を覚ましてから、成績はガタ落ち、剣道部では目覚ましい成績を上げていたが、一変した星羅と距離をおく友達も多かった。


「今日は部活ない日だ。つまんないな。」


それまで周りにいた星羅の友達は、セディが星羅の中に目を覚ましてから少しずつ距離を置くようになり、クラスには友達もいない。

女子高生たちはみんな誰かと一緒にグループを作っている子が多かったが、

星羅はクラスに話が合う子もいなかったので、(異世界の女剣士と話が合う女子高生なんていない)クラスではいつも1人で過ごしていた。


授業が終わった後は、いつもすぐに帰宅し、この世界を知ることと、剣技を磨くことに時間を費やしていた。


セディは家に帰ると、誰もいない家に「ただいま」とつぶやいた。

両親は共働きなので、帰っても誰もいない。

いつも玄関を入るとすぐに2階にある自分の部屋にこもる。

両親達は一年前から星羅の成績が落ち込んでいることにまだ慣れないようだが、

家ではよく言うことを聞くことでなんとか良い娘の体裁を保てていた。


星羅の部屋に入ると、セディはこの世界を知るために星羅の日記を読むことを日課にしていた。

転生してその世界の言葉はあらかじめわかるものとして使えたが、

よく分からないのは星羅の感情のほうだった。

 

「杉本先生も杏奈も殺してやりたい」


日記には何ページにもわたって物騒な言葉が並んでいる。

星羅は心に黒い気持ちを押し込んで暮らしてたんだな。


転生前は、モンスターというわかりやすい倒すべき対象がいて、強くなりたいという分かりやすい目標があって、それに向かって努力していた。


星羅の中にはセディに分からない何かがあるようだった。


「星羅、あなたは何を思ってこの世界で生きていたの?」

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