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プロローグ(Prologue)
海のほとりに立って私はつぶやいた。
「あと十五年……」
波が静かに打ち寄せ、足元の砂をさらっていく。風は穏やかで、潮の香りが鼻をかすめた。空は夕暮れに染まり、水平線の向こうに陽が沈もうとしている。
十五年という年月が長いのか短いのか、私にはわからなかった。
ふと、目の前に広がる海の深さに思いを馳せる。何もかもが悠久の時を刻んでいるようで、私はその一部に過ぎないと感じる。どれほどこの海が存在してきたのだろう。そして、これからも変わらず波を打ち続けるのだろうか。
海の波が押し寄せては引くように、私は変わらぬ日々を送っている。しかし私の時間は永遠ではない。
波の音に耳を澄ませながら、私はそっと目を閉じる。潮風が髪を揺らし、頬を撫でる。その感覚が、この世界に私が確かに存在していることを思い出させる。
これまで生きてきた時間を、もう一度くり返すだけ――。私は胸に湧く喪失感にそっと蓋をした。
海はただ、静かに波を打ち続けていた。