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スリーライティング・上 Three Lighting  作者: タイニ
第十一章 捕まえた時計ウサギ

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88/90

88 それは続くの?それとも……




LUSH+のライブは続く。



功がかすれた声で一節を歌い、


客席にマイクを向けると声が返ってくる。



空気のようなスモークに光り映る、ビームライト。






尚香は知らない。そんな音が東京に響いていることを。






***




都内アートパークのロビー。


ここに、様々な人が無料で演奏を聴くことのできるフロアがある。半分ストリートライブ感覚の小さなコンサート。ベンチもある通路なので、コンサートを待つ人、終わった人、美術を見に来た人、ただの通行人や暇つぶしの人、買い物客、いろんな人がいる。




そこに現る、トナカイの着ぐるみパジャマを着た2人の子供と、仮面を被った緑の妖精。そして昔の物語に出てくる頭からすっぽり布を被った幽霊黒盗賊の格好の男。


ここで演奏する人は、だいたいユニフォームか、お揃いの服、簡単なフォーマルスタイルやドレスで出て来るのに、おかしなこの4人。一応すっぽりの被り物は規定でダメなので、着ぐるみと幽霊は微妙に顔を隠してサングラスをしていた。


全員スマートにセッティングできず、不慣れな感じでこの場所で位置と音合わせをしている。



ここは、プロや音大芸大生も利用する場所。あまりにもの不器用さに見ていられず去っていくものもいれば、何だろうと待っている者もいた。


「……………。」

その端で見守る尚香は少し緊張する。プロ3人が揃って、このベタさはなんだ。幼稚園の発表会か。子供たちのお母さんもセッティングを手伝って、どうにか尚香の横に戻ってきた。




そうして、四者が目を合わせる。


小さな椅子に腰かけた小学校に上がるかというほどの女の子が、お兄ちゃんの合図で上手に小型の鉄琴でクリスマスソングを叩き、温かく迎えられた。



観客はまだら。

暇なのかしょっちゅう来ているおじいさんが、楽しそうに手を叩いてくれる。ご愛嬌だ。



妖精さんはピアノ。

お兄ちゃんトナカイと幽霊盗賊は………そう、バイオリン。



鉄琴の最後の一打が響いた時、ピアノとトナカイのバイオリンが始まる。

そこにゆっくり合わせる黒盗賊。



クリスマスキャロル、他数曲、


そして『グリーンスリーブス』。



アップテンポな曲は幽霊盗賊が暴走してしまうので、子供も入れてゆったり弾いているのにこの男、ある一節で突如アッチェレランドを始め、一気にテンポを上げてしまった。突如だ。



……いっ?!


アホなのか?



兄トナカイがビビってしまう。



バイオリンとピアノは追い付くが、鉄琴が戸惑う……かと思えば、このチビッ子トナカイ。驚くことに次の節から上手に幽霊に合わせている。鉄琴トナカイではなく、音楽を聴き慣れた観客の方がホッとしてしまった。



「……?!」

そしてさらに気が付く。



こいつ歌っている。


兄トナカイは分かる。声は出ないが歌っている。

このバイオリン、歌っている。



……これは、オーケストラで嫌われるわ……と、思ってしまう。




そうして一曲終わると、妖精ピアノと兄トナカイがぐったりした。

「………っ……」


トナカイ、思わず幽霊盗賊を叩きに行った。

「あほか!今日の指揮者は(ぼく)やわ!!指揮者に従えっつーの!!」

と、言ってしまうも、周囲からは拍手が起こった。

「これ、こんな速さで弾く曲やないから!!」

と、観客に怒るも、みんな笑っている。

指揮者トナカイとしては許せない。ゲスト奏者でもないのに指示に従わず、しかも浸って歌い出すとは。奴が世に知れたボーカルと知らなければドン引きである。


「はいはい、大丈夫。仲直りして。15分しか枠、ないから。」

と、ピアノ妖精が出てきて魔法のスティックで二人を宥めて、最後にもう一曲『We with you a Merry Christmas』を演じて終わった。


「わああ!!!」

と、思った以上の拍手が再度起こる。


「よかったよー!!」

「にーちゃん、歌いたかったんだろ!今度歌ってくれ!!」

「………。」

観客にまでバレている。幽霊盗賊は、手を振っておじいさんに答えた。






「尚香ちゃん!!」

「太郎君!」

準備は大変だけれど、撤収は章が鉄琴も椅子も抱きかかえて簡単だったので、観客の中にいた尚香の方に太郎が駆けて行く。


「尚香ちゃん。どうやった?」

「うん、よかったよ!朝ちゃんも最高!」

朝ちゃんは太郎の妹だ。太郎と違って全然喋らないが、腕前は一流であった。


バイオリン太郎とその妹、里愛、そして功の四重奏である。



黙った朝ちゃんも抱き上げて、功も黙ったままいると、尚香と目が合う。

「…………」

「功君もよかったよ。」

「…………うん。」

「何がうん!やの!いかんやろ!!」

ソロで認められている訳でもないのに独走するとは。人をビビらせておいて、功はボーとしている。


「尚香ちゃん、ほんとこの幽霊ひどいんやよ?見たよね?」

「はは。」

妖精の里愛も笑ってから、はぁ…とため息をついていた。そして小さな待機室を借りていたので、そこで簡単に仮装を外してコートやジャケットを着こんだ。


「でも、思ったより楽しかった。客の雰囲気、最後よかったし!」

最後、観客たちは笑っていた。悲劇よりも喜劇の方が難しいのだ。身内でもなければ、下手な演奏で観客は沸かない。少々バランスを崩しても、一定以上の技術があり、何か心に響くものがあったのだろう。それだけでも満足だ。



太郎は続けて聞いてみる。

「今日うち、おばあちゃんたちも来てクリスマスパーティーするけど来る?功は?」

「……仕事。」

里愛はこれからコンサート、功も仕事だ。

「尚香ちゃんは?」

「私もこれから会社の人とパーティーに行くんだ。ごめんね。」

「……そうなの?」

太郎、しょんぼりである。


そこで、功が尚香に詰め寄る。

「……尚香さん、家に帰らないの?おじいちゃんに年末のご馳走買ったんだけど。蟹。」

「蟹?うちは大丈夫だよ。功君のお家で食べて。」

「………でも、おじいちゃんちに持って行くだけ持って行くから今度食べて。」

「そんな高価なものもらえないから。」

「いい。いつもお世話になってるから。おじいちゃんおばあちゃんにも剥き易いの買ったし。後で食べてね。で、パーティーは会社の?兼代さん来るの?柚木さんは?」

「会社じゃありません。」

「え?なら誰?」

「……いちいち説明しないよ。功君だって年末年始は飲み会とかいっぱいあるんでしょ?」

「………金本家でパーティーがいいよ……」



「…………」

そう話している二人を見て、ほんとこの二人何なん?と思う、太郎と里愛、お母さんであった。




***




そしてその夜。

都内の駐在外国人用のマンション。



「金本さん、こっちです!」

「本部長!」

「あの、役職はやめてください。特にここ、みんなファーストネーム呼びです。せめて名字でいいですか?」

「あ、すみません……。えっと久保木さん。」

「はい。」

久保木が笑う。


毎年年末に、独り身や故郷に帰れない外国人たちがパーティーを開催していた。玄関を開けると既にクリスマスの音楽がリビングの方から漏れていた。


「Merry Christmas!! タカシゲ!!」

「Hi, Key!!」

そう言い合って、上司久保木はホストから抱きしめられ、ついでに床に倒されている。

「うわっ!やめろ!!」


「Oh!! タカシゲ!!かわいい子を連れて来たじゃないか!!ついに結婚か?」

「まさか、部下です。」

と言うと、大いに沸き、

「部下!部下!部下!部下!!部下!!」

と意味なく盛り上がって、既に意味が分からない。尚香、ちょっと引くも、中に入れば思ったより年齢層も幅が広く、落ち着いた雰囲気で安心した。


「ライニー。寿司持って来たから。こちらの金本さんとの差し入れ。」

「Hi! タカシゲ!」

と言って、ホストの奥さんらしき人に片手でハグされ、その小さな子供たちにも抱きしめられキスされている。尚香も分けも分からずハグをされたが、男性が来た時には「海外の文化に慣れていないので」と久保木がやんわりお断りしてくれた。ただ、しても一瞬肩を回すか軽い握手程度だが。


最初の熱いお迎えは、酒が入っているのと仲が良すぎるだけである。



ほとんどの人が日本語を話せ、ここに来た子供たちも完璧だ。いろいろな話をしながら、ゆっくりワインを飲む。初めて見る料理もあって、子供たちが作ったミニパフェも配られた。


尚香が落ち着いて周りを見てみると、この家もピアノが置いあった。




胸の中に響く、あの音。



心が…………熱い。


洋子さんがいたらいいのにと思ってしまう。



洋子が十数年ぶりに人前で奏でた演目は、まだ尚香しか知らない。



あの、美しい背中。

弾むブロンズの髪。


狭苦しくも見える、長い足。



なんてもったいないのだろう。

みんなが聴いてくれたら、ピアノはどれだけうれしいのだろうか。


今この時も、音楽にノリノリな外国人たち。

彼らが洋子の演奏を聴き、あの歌を前にしたらどれほどの喜んでくれるだろう。




そして思い出す。

いつかのリサイタル。



煌めくドレス。


あの、二人の、アンサンブル。



アップテンポでどんどん切り替わっていく、マザーグース。

英語圏の人たちは、尚香より楽しく聴けるであろう。故郷の音と、歌だから。



映画のヒロイン役の女優さんような、美しい二人の掛け合い。




二人は踊る。


黒髪と淡い髪色の二人なのに、

いつもどちらがどちらか分からなくなる。




淡い髪のもう一人は、もう、顔も何も思い出せない。



でも、


うれしそうな、

あのうれしそうだった、洋子さんの笑顔。


二人がお互いを見て、笑い合う。




「………………」



「……金本さん?」

「………」

「金本さん?大丈夫?」

「……えっ?」


ふと驚くと、自分の顔を久保木が心配そうに見つめていた。

「え?」

「泣いていますよ。」

「…………へっ?」



自分でも気が付かないうちに、目から涙が流れていた。





***





「政木社長!」


ある日、イットシー事務所に出社した社長政木の元に、一人のスタッフが急いで駆けてきた。



「ネットニュース、見ました?!」

「……いや?」

毎日数回チェックはしているが、今日は取り立てて気になる記事は見ていない。

「功、撮られています。」

「?」

「コウカさんと一緒のところ。」

「………!?」



写真そのものは公の記事には載っていないが、ネットで黒いストレートボブの女性と都内で会っていると書かれていたのだ。マネージャ―?などあるものの、一般女性と書かれている。


政木は考える。

でもそれで何が?もう功はアイドルでもビジュアルでも売っていない。ファンの半分は男。若いとはいえ、お互い成人だ。付き合う付き合わないにしても、本人たちに任せるとしか言えないし、そうなるように準備してきた。

ただ、尚香さんにどう話せばいいのか、どう詫びて、どう対処していくかは話し合いが必要だ。付き合っていないのにこんな話が出てしまった。心証は悪いであろうし、こういうことで普通の関係すらダメになってしまう場合もある。



けれど、気になったのはタイトルと後半の内容であった。



『この女性が、事務所のスタッフに割り込んで迷惑を掛けている。気を引くために奇抜な行動で何度か騒動を起こし、喚き散らしている』


「………は?」

戸惑う政木。


スタッフが、さらに焦る。

「その先も読んでください。」



その後はもっと衝撃的だった。




『ボーカルと親しくしている人物は、過去に様々問題を起こしている。男性職員から非常に評判が悪く、人の昇進や役職も奪ってきた』



そして、寝て大きな仕事を取ってきた女性だと。









アッチェレランド……テンポを上げる。




『スリーライティン・上』一旦ここで終了します。


作品は▼『スリーライティン・中』に続きます。

https://ncode.syosetu.com/n1546jw/


つたない小説を読んでくださった皆様、ありがとうございます!


この後は、別小説でそれぞれ上下とし、『スリーライティング・中』に続きます。やっぱり分けてしまいました。一作品一本が好きな方すみません!

しばらく調整や、この小説の修正、他の仕事のためにお休みしてから再開します。


本業がこれから繁忙期、休憩とあれこれ移り変わっていくので、更新出来たりできなかったりになるかと思います。


NOVELDAYSさんの『ZEROミッシングリンク』のストーリー版も現在4まで進行中。この進行と同ペースで、なろうさんの長編版も修正しています。このストーリー版が終わったら、さらに短縮した『コミック版(仮)』を掲載予定です。元々ネームで進めるはずの作品でした。なので、漫画にしたらこれくらい短縮される予定だった盤です。だいぶ省略される予定。


では皆さま、今までにない季節や情勢の移り変わりがある昨今。お体ご自愛してお過ごしください!


いいねやお星さま、頂けたら幸いです!









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