85 女の子の大っ嫌い
※過去までの話数の、設定、名前など細かい部分を一部変更しています。
メイン人物の名前はそのままです。他にもちょっとした部分の名前や名称、設定の変更があるかもしれません。大きな変更なしです。
東京の明るい夜。
大勢の若い女性たちが、それぞれチームで合わせた衣装であちこちに集っている。
その会場の入り口。
「尚香さん!」
仕事帰りの尚香を呼ぶのは、やっと会えてホッとしたような、泣きそうな顔をする、今日もきれいな洋子さんである。
残業を素早く切り上げて来たのは、都内の屋内ステージ。看板を見て分かったことは、ここは『ガールズ・ダンス・ムービング』会場。なぜ洋子がこんなアクティブな場所に来ているのか。
会場内に入り少し遠くのステージを見ると、若い子が躍るような激しい曲が流れどこかのチームが踊っている。ステージ下にはブカブカのパンツスタイルの子もいるけれど、かなり際どい衣装の学生のような子たちも多い。まさにダンスだ。
「ほら、見える?」
洋子がもう少し前方に近付いて、ステージを指す。
「一番あっち。ちょっと長めショートのような子!」
「……?あの子かな?かわいいですね。」
「……ああ、もう終わっちゃっいそう。」
みんなかわいい。大会なのか、発表会なのか。こんなイベントもあるのかと感心して周りを眺めた。少しして終わってしまうが、それでも洋子と拍手を送る。後半しか見られなかったが、洋子の目的の人を観れてよかったと思う。
すると、しばらくして先のショートヘアの子がジャケットを着てこちらに来た。
「良子!」
「来てくれたんだ…。どうだった?!」
「うん、すっごくよかった!!」
と、抱き合っている。
「………?」
一息したその子が、洋子の横にいる尚香に気が付いて、顔をじっと眺めてくる。
そして分かる。この子の正体が。
「……!」
手足は細く、背は普通。横にいる洋子に比べれば低い。顔は小さく整っている。でも、この目、このスッキリしているのにキツめの顔。なのに、キョトンとしている曖昧さ。見慣れたこの顔。
「ママ、この方は?」
当たりだ。娘である。
「……娘さん?」
尚香は一人動揺してしまうも、慌ててこんばんはと礼をした。
「そう!良子、この子がね、尚香さん。私のお友達。」
「……ふ~ん。」
と、何とも言えない顔でじっーーーと見られるので、帽子と眼鏡を着けたまま答えた。
「都内の会社に勤めています、金本と言います。」
「良子、あなたも挨拶しなさい。」
「……あ、そうだね。…………私は、えーと、良い子って書いて良子って言います。お名前は……こうかさんなんですか?」
「はい。」
「………なら、私も、こうかさんって……呼んでもいいですか?」
「…はい。」
「わーい!じゃあ、こうかさんも私のこと良子って呼んでね!」
「……」
性格がきつそうと思ったのに、良子ちゃんは話してみると、なにか間が抜けている。
「ママー。私、ちょっとだけ振り付け間違えたんだよ~」
「大丈夫、世界で一番上手だったよ!尚香さんどうだった?」
「上手だったしカッコいかったですよ。」
「わぁ!!うれしい~。」
と、砕けたような顔でにっこり笑って、かわいい。
「ママ~。この衣装ね、みんなちょっとずつ違うの。」
と、くるっと回る。先のダンスをしていたと思えないほど全部がふんわりだ。突然の会場入りと、ステージの雰囲気補正で分からなかったのか、かなりのんびり屋さんである。
「いっちばんかわいい!」
「ママ好き~」
「………」
なんだこれは。言葉尻は似ているのに、真理の弾けている感じとも違いテンポがぬるい。
そして、また分かったことがある。洋子が娘と買い物に行けない訳が。
もう少し話をしてみないと完全には分からないが、良子ちゃんもおそらく一人で何もできない系ではないのか。このテンポだと二人して迷子になり、二人して計算もせずに買い物をし、二人して街で騙されそうである。
「尚香ちゃん、これだけのことだったんだけど、ごめんね。」
洋子は被っていた帽子をさらに深く被り尚香に笑う。
「一人でここに来て、一人で会うのが怖くて……」
「尚香さん、ごねんね…。ママ弱虫で。」
「大丈夫ですよ。」
でも、思う。せっかく会場に来たなら、洋子さんももっと近くで見ればよかったのに。ここは会場の端だ。
「あ、ママ。待って、巻ちゃん呼んでくるね。」
「待って!巻ちゃんはいいから。」
と言うも、良子は向こうに行ってしまう。
マキちゃん?
しかし、その向こうを見て驚く。
向こうに見える背の高い男。すっぽりフードを被っているが分かる。
章だ。
なぜ章が?と思うが、洋子の子供なら、良子は章の妹でもある。『そういえば妹?!』と、心で二度驚いた。
「!?」
尚香はサッと帽子を深く被り、なんとなく洋子の後ろに身を隠した。あれ以来初めて会うのだ。
「……なんで、あいつまでいるわけ?」
今までのニコニコから、洋子も急に嫌悪を表す。そしてよく見ると、章は誰か女性と揉めていた。良子と同系のデザインの少しセクシーな衣装を着た女の子が、章の肩下をドンと押して怒っている。章はさらにその女の子に何か言い寄っていた。大人っぽいロングウェーブの髪に整った横顔。雰囲気だけ見ても、きれいでかわいい子だと感じる。
「…………」
尚香はそれを呆気に取られながら見て、また帽子がオバちゃん扱いされそうだと、さらに自分の身を隠した。
続けてその様子を見ていると、知り合いか誰かを呼びに行ったはずの良子がそこに入っていて、そのロングヘアの女の子に、一緒になじられていた。少し離れたところから見る限り。
どうしようかと、洋子を見ると、洋子はショックな顔をしながらもボーと彼らを見ていた。
「……洋子さん?」
「…………どうして………………」
そう、つぶやくだけの洋子。
……いや、違う。洋子は動けないのだ。
「……洋子さん?」
ああ、これはもうだめだと思った尚香は、洋子をもっと端に連れて行き、待っててくださいと言って章の方に向かった。
しかし尚香が近付く前に、怒っていた女の子が「あんた大っ嫌い!」と、章に向かって言って去ってしまった。
「…………」
今さっきの洋子のように、章が呆然とその女の子の後姿を見ている。そしてその横で、良子は泣きそうになっていた。
「章兄ちゃん……」
………分かってはいたが、………やはり兄妹である。
「…………」
声の掛けどころを失った尚香は、どうしようか迷って洋子の方に戻ろうとして気付かれた。
「尚香さん?」
「……」
よく考えたら尚香はいつものダサい変装姿。ここはカメラを抱えた人も多いし、スマホも基本自由だ。目立ちそうだし章に会いたくないので、ササっと逃げようとすると止められる。
「尚香さん!!」
「やめてっ。名前呼ばないで。」
「あ、ごめん。尚香さんも芸名付ける?」
「いりません……。」
仕方なく尚香は章に向き合った。
そしてホッとして顔を綻ばす章。
「尚香さん……」
帽子姿の尚香は相変わらずダサいが、章からするとそれもまあおもしろい。
「……章くんお久しぶり。元気だった?」
「うん。尚香さんは?」
「普通……。じゃあ、私行くね。洋子さんと来たから。」
「………」
尚香が来た方にいる洋子の姿を確認して、章は少し嫌な顔になる。
「あの人と絡むのやめたら?」
「……だって…………」
何となく放っておけない。その間でキョロキョロ見ていた良子は戸惑っている。
「章兄ちゃんともお知り合いなの?」
「………良子も?」
「あ、私……私はね、今、ママに紹介されたの………」
「あいつ………」
「章君、人前でやめて。」
良子は母親を慕っていそうだ。そんな言葉聞かせないでほしい。
「尚香さんだって、俺の家族と仲良くしてどうするの?」
「!」
「尚香さんは結局どうしたいわけ?」
「……………」
言葉がない。
章と洋子は尚香の中で別枠の存在だった。思いも空間も別。
そうはならないのに。どこかで分かってはいたのに。
今日だって、まさかここで章と会うとは思っていなかったのだ。それぞれの存在だから。
でも、それでも、二人は親子だ。
良子が分けも分からず二人を眺めている。
気持ちが整理できなくて、取り敢えず今起こっていたことを聞いてみた。
「あの女の子、怒らせてよかったの?章君一生懸命、話してたのに。」
「嫉妬した?」
「………人が多いところだから心配したの。章君は背格好だけでも目立つし、良子ちゃんも戸惑ってたよ。」
嫉妬はしていない。多分。
「それにもう、章君が功君である限り、どうしようもないよね?」
なんだかもう、板についた感じだ。この風景。若いフリーのバンドマンに何か言っても仕方ない。
「はぁ?何言ってんの?」
「………だって………」
と、そこに空間を割って入る新たな誰か。
「あ~~!!章くーーーん!!」
また現る、別のダンス女子。
「きゃ~!!」と、章の腕に絡んできたのは、これまた背の高い、黒髪ゆるカールロングヘアの、そして肉付きのいい……ぽっちゃりかっこいいパワフル系の女子であった。
「章く~ん!」
「やめろ!」
がっちり章の腕を掴んでいる。
「私を見に来たんだね~。愛だね~!!」
「巻っ。やめろ!!」
「やだ~、絶対に離さない!!」
「………」
尚香はくっ付く女子に変な顔をしてしまうも、もうどうでもよくなってくる。本当に章の周りは女性が多い。
「なら、私は戻りますね。では!」
「違うっ、尚香さん!巻、やめろ!!」
と、章に頭を叩かれ、やっとその子は離れた。
「何々?章兄、マネージャーさんじゃないの?」
「違うっ!道さんと俺のお友達。」
「っえ?」
その女子は驚いて今度は尚香に向いた。
「あ、お姉さん、待って。行かないで!私も章兄の妹です!」
「えっ??」
流石に尚香も、この声に止まる。
「先の、怒ってた女子も!」
「ええっ!!!」
それは驚き過ぎる。
「え?ええ??みんな?」
「まだ家に、お兄ちゃんもう一人いるよ。」
「へぇっ??」
ちょっとぶっ飛ぶ。洋子さんは一体何人子供を産んだんだ!




