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スリーライティング・上 Three Lighting  作者: タイニ
第十一章 捕まえた時計ウサギ

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85/90

85 女の子の大っ嫌い


※過去までの話数の、設定、名前など細かい部分を一部変更しています。

メイン人物の名前はそのままです。他にもちょっとした部分の名前や名称、設定の変更があるかもしれません。大きな変更なしです。





東京の明るい夜。

大勢の若い女性たちが、それぞれチームで合わせた衣装であちこちに集っている。



その会場の入り口。


「尚香さん!」

仕事帰りの尚香を呼ぶのは、やっと会えてホッとしたような、泣きそうな顔をする、今日もきれいな洋子さんである。


残業を素早く切り上げて来たのは、都内の屋内ステージ。看板を見て分かったことは、ここは『ガールズ・ダンス・ムービング』会場。なぜ洋子がこんなアクティブな場所に来ているのか。




会場内に入り少し遠くのステージを見ると、若い子が躍るような激しい曲が流れどこかのチームが踊っている。ステージ下にはブカブカのパンツスタイルの子もいるけれど、かなり際どい衣装の学生のような子たちも多い。まさにダンスだ。



「ほら、見える?」

洋子がもう少し前方に近付いて、ステージを指す。

「一番あっち。ちょっと長めショートのような子!」

「……?あの子かな?かわいいですね。」

「……ああ、もう終わっちゃっいそう。」

みんなかわいい。大会なのか、発表会なのか。こんなイベントもあるのかと感心して周りを眺めた。少しして終わってしまうが、それでも洋子と拍手を送る。後半しか見られなかったが、洋子の目的の人を観れてよかったと思う。



すると、しばらくして先のショートヘアの子がジャケットを着てこちらに来た。

「良子!」

「来てくれたんだ…。どうだった?!」

「うん、すっごくよかった!!」

と、抱き合っている。


「………?」

一息したその子が、洋子の横にいる尚香に気が付いて、顔をじっと眺めてくる。



そして分かる。この子の正体が。

「……!」

手足は細く、背は普通。横にいる洋子に比べれば低い。顔は小さく整っている。でも、この目、このスッキリしているのにキツめの顔。なのに、キョトンとしている曖昧さ。見慣れたこの顔。


「ママ、この方は?」


当たりだ。娘である。



「……娘さん?」

尚香は一人動揺してしまうも、慌ててこんばんはと礼をした。

「そう!良子、この子がね、尚香さん。私のお友達。」

「……ふ~ん。」

と、何とも言えない顔でじっーーーと見られるので、帽子と眼鏡を着けたまま答えた。

「都内の会社に勤めています、金本と言います。」

「良子、あなたも挨拶しなさい。」

「……あ、そうだね。…………私は、えーと、良い子って書いて良子って言います。お名前は……こうかさんなんですか?」

「はい。」

「………なら、私も、こうかさんって……呼んでもいいですか?」

「…はい。」

「わーい!じゃあ、こうかさんも私のこと良子って呼んでね!」


「……」

性格がきつそうと思ったのに、良子ちゃんは話してみると、なにか間が抜けている。


「ママー。私、ちょっとだけ振り付け間違えたんだよ~」

「大丈夫、世界で一番上手だったよ!尚香さんどうだった?」

「上手だったしカッコいかったですよ。」

「わぁ!!うれしい~。」

と、砕けたような顔でにっこり笑って、かわいい。


「ママ~。この衣装ね、みんなちょっとずつ違うの。」

と、くるっと回る。先のダンスをしていたと思えないほど全部がふんわりだ。突然の会場入りと、ステージの雰囲気補正で分からなかったのか、かなりのんびり屋さんである。

「いっちばんかわいい!」

「ママ好き~」


「………」

なんだこれは。言葉尻は似ているのに、真理の弾けている感じとも違いテンポがぬるい。


そして、また分かったことがある。洋子が娘と買い物に行けない訳が。

もう少し話をしてみないと完全には分からないが、良子ちゃんもおそらく一人で何もできない系ではないのか。このテンポだと二人して迷子になり、二人して計算もせずに買い物をし、二人して街で騙されそうである。




「尚香ちゃん、これだけのことだったんだけど、ごめんね。」

洋子は被っていた帽子をさらに深く被り尚香に笑う。

「一人でここに来て、一人で会うのが怖くて……」

「尚香さん、ごねんね…。ママ弱虫で。」

「大丈夫ですよ。」

でも、思う。せっかく会場に来たなら、洋子さんももっと近くで見ればよかったのに。ここは会場の端だ。


「あ、ママ。待って、巻ちゃん呼んでくるね。」

「待って!巻ちゃんはいいから。」

と言うも、良子は向こうに行ってしまう。


マキちゃん?



しかし、その向こうを見て驚く。

向こうに見える背の高い男。すっぽりフードを被っているが分かる。


章だ。


なぜ章が?と思うが、洋子の子供なら、良子は章の妹でもある。『そういえば妹?!』と、心で二度驚いた。


「!?」

尚香はサッと帽子を深く被り、なんとなく洋子の後ろに身を隠した。あれ以来初めて会うのだ。


「……なんで、あいつまでいるわけ?」

今までのニコニコから、洋子も急に嫌悪を表す。そしてよく見ると、章は誰か女性と揉めていた。良子と同系のデザインの少しセクシーな衣装を着た女の子が、章の肩下をドンと押して怒っている。章はさらにその女の子に何か言い寄っていた。大人っぽいロングウェーブの髪に整った横顔。雰囲気だけ見ても、きれいでかわいい子だと感じる。


「…………」

尚香はそれを呆気に取られながら見て、また帽子がオバちゃん扱いされそうだと、さらに自分の身を隠した。


続けてその様子を見ていると、知り合いか誰かを呼びに行ったはずの良子がそこに入っていて、そのロングヘアの女の子に、一緒になじられていた。少し離れたところから見る限り。


どうしようかと、洋子を見ると、洋子はショックな顔をしながらもボーと彼らを見ていた。

「……洋子さん?」


「…………どうして………………」

そう、つぶやくだけの洋子。


……いや、違う。洋子は動けないのだ。

「……洋子さん?」

ああ、これはもうだめだと思った尚香は、洋子をもっと端に連れて行き、待っててくださいと言って章の方に向かった。



しかし尚香が近付く前に、怒っていた女の子が「あんた大っ嫌い!」と、章に向かって言って去ってしまった。

「…………」

今さっきの洋子のように、章が呆然とその女の子の後姿を見ている。そしてその横で、良子は泣きそうになっていた。

「章兄ちゃん……」

………分かってはいたが、………やはり兄妹である。




「…………」

声の掛けどころを失った尚香は、どうしようか迷って洋子の方に戻ろうとして気付かれた。


「尚香さん?」

「……」

よく考えたら尚香はいつものダサい変装姿。ここはカメラを抱えた人も多いし、スマホも基本自由だ。目立ちそうだし章に会いたくないので、ササっと逃げようとすると止められる。


「尚香さん!!」

「やめてっ。名前呼ばないで。」

「あ、ごめん。尚香さんも芸名付ける?」

「いりません……。」


仕方なく尚香は章に向き合った。


そしてホッとして顔を綻ばす章。

「尚香さん……」



帽子姿の尚香は相変わらずダサいが、章からするとそれもまあおもしろい。

「……章くんお久しぶり。元気だった?」

「うん。尚香さんは?」

「普通……。じゃあ、私行くね。洋子さんと来たから。」

「………」

尚香が来た方にいる洋子の姿を確認して、章は少し嫌な顔になる。

「あの人と絡むのやめたら?」


「……だって…………」

何となく放っておけない。その間でキョロキョロ見ていた良子は戸惑っている。

「章兄ちゃんともお知り合いなの?」

「………良子も?」

「あ、私……私はね、今、ママに紹介されたの………」

「あいつ………」

「章君、人前でやめて。」

良子は母親を慕っていそうだ。そんな言葉聞かせないでほしい。


「尚香さんだって、俺の家族と仲良くしてどうするの?」

「!」

「尚香さんは結局どうしたいわけ?」

「……………」

言葉がない。



章と洋子は尚香の中で別枠の存在だった。思いも空間も別。


そうはならないのに。どこかで分かってはいたのに。


今日だって、まさかここで章と会うとは思っていなかったのだ。それぞれの存在だから。

でも、それでも、二人は親子だ。



良子が分けも分からず二人を眺めている。




気持ちが整理できなくて、取り敢えず今起こっていたことを聞いてみた。

「あの女の子、怒らせてよかったの?章君一生懸命、話してたのに。」

「嫉妬した?」

「………人が多いところだから心配したの。章君は背格好だけでも目立つし、良子ちゃんも戸惑ってたよ。」

嫉妬はしていない。多分。

「それにもう、章君が功君である限り、どうしようもないよね?」

なんだかもう、板についた感じだ。この風景。若いフリーのバンドマンに何か言っても仕方ない。

「はぁ?何言ってんの?」

「………だって………」




と、そこに空間を割って入る新たな誰か。


「あ~~!!章くーーーん!!」

また現る、別のダンス女子。


「きゃ~!!」と、章の腕に絡んできたのは、これまた背の高い、黒髪ゆるカールロングヘアの、そして肉付きのいい……ぽっちゃりかっこいいパワフル系の女子であった。

「章く~ん!」

「やめろ!」

がっちり章の腕を掴んでいる。

「私を見に来たんだね~。愛だね~!!」

「巻っ。やめろ!!」

「やだ~、絶対に離さない!!」


「………」

尚香はくっ付く女子に変な顔をしてしまうも、もうどうでもよくなってくる。本当に章の周りは女性が多い。


「なら、私は戻りますね。では!」

「違うっ、尚香さん!巻、やめろ!!」

と、章に頭を叩かれ、やっとその子は離れた。

「何々?章兄、マネージャーさんじゃないの?」

「違うっ!道さんと俺のお友達。」

「っえ?」

その女子は驚いて今度は尚香に向いた。

「あ、お姉さん、待って。行かないで!私も章(にい)の妹です!」


「えっ??」

流石に尚香も、この声に止まる。

「先の、怒ってた女子も!」

「ええっ!!!」

それは驚き過ぎる。


「え?ええ??みんな?」

「まだ家に、お兄ちゃんもう一人いるよ。」

「へぇっ??」

ちょっとぶっ飛ぶ。洋子さんは一体何人子供を産んだんだ!





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