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スリーライティング・上 Three Lighting  作者: タイニ
第十一章 捕まえた時計ウサギ

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81 ねえ?覚えてる?



道はイットシーの通路で、功を見付け次第大声で呼ぶ。


「章、章君!!」

「しっ…なんで道さん名前で呼ぶの?いじめ?」

「あ~!!えっと、こう~功!それどころじゃないの!!」




「道さん、取り敢えず部屋に入ろ?」

と言って、功と道が個室に入ろうとすると、なぜか伊那と真理、そして二人に引っ張られた与根まで入って来る。

「あの……皆さん、ちょっと大事な話なので功君と二人で………」

「何言ってるんですか!道さん、私たちには尚香ちゃんのことなら聞く権利があります!!」

先、電話で「尚香ちゃんの話?」と言っているのを真理が聞いたからだ。権利など別にない。


「いや、お前ら出てけよ。」

と、功が言うと、「ごめん、待った~?」と、待ってないのにナオと三浦まで入って来た。

「待ってないけど?」

「お前を把握する必要がある。」

三浦、来年へのステップ前に何かあったら困るのだ。

「尚香ちゃんに迷惑かけたから、事情を知って謝るためにも聴く必要があります!!」

と真理も、言い切る。

「私たちも同じく!」

「功だけだとどうせまた失敗するし?」

と伊那が煽った。



「…………」

道は迷った挙句、彼らの前で話し出した。





「あのね、洋子さんの話をするけど、功、怒らないでね。」

「はあぁ??」

「怒んなってつってんじゃん!!!」

速攻真理も怒る。ここで説明を聞き、功の実母の名が洋子と初めて知ったメンバーたち。



そして悩んだ挙句、道は最初にスマホを出した。


「これ…」

「…………」


「……?」

見せられた画像を皆、飲み込めない。

写っていたのは、有名ホテルのレストランコンサートのチラシ。



そこにはドレスを着た、少し俯くように向かい合う長い髪の横顔の女性が二人写っていた。

ほぼシルエットのようなデザインで、一人は少し明るい髪色の、華のある女性。


もう一人は前髪がある、長い黒髪の令嬢のような女性。

二人ともバイオリンを持っている。



けれど題目は、『光の夜の、ピアノとバイオリンのアンサンブル』



「……?きれいな人だね?」

きれいなシルエットだ。チラシの出来や質、センスは今と大して変わらないので20年以上前ということに驚く。


「…………」

そして、功が驚いていた。

「……洋子……さん?………」

「そう。」

今と全然違うスタイルの黒髪の女性、これは洋子だ。道がそっと指を指した。

「これね、21年前のコンサート。」

「へー。」

みんな感心して見ているも、

「え?」もしかしてどちらかが功の母親?!ということに気が付いた。章と見比べる。そう言われれば長い首などなんとなく似ているが、正面ではないし写真の効果か雰囲気が違い過ぎてよく分からない。


「尚香ちゃんね。お父さんお母さんと、このコンサートに行ってるの。」

「ふーん。」

「奇遇だね。」


「……?」

しかし、みんな目が点になる。


「??」

「え?」


「尚香ちゃん、ホテルのレストランで、このコンサートに行ったの!!」



しばらくの沈黙の後…………


「えええっーーーーーー!!!!!!」

「マジっ?」

と、誰もが驚愕する。先、金本家でも驚愕していた。


「えっ?嘘?そんなことってあるの??」

「………」

章はずっと何の反応もしていない。ただ、固まっている。


「しかもね、洋子さん、妊娠してる時。」

「………」

みんなまた状況を考える。



ん?

それって、こいつ20歳だから……

こいつじゃね?

と、みんなで功を見た。



「……俺?」

やっと話した功に、道がコクンと頷いた。



「!!?」

「うそっっ?!」

「まじ???」

もうみんな、世界が信じられない。世界ってこんなふうになるもん?


「しかもさらにね、尚香ちゃん……お腹触ったんだって。洋子さんの……」

「??」

もう、もう想像すら追い付かない。どういう状況?



「章君の居たお腹、触ったの!!!」

「功のいた………お腹?」


「…………え?まじ?」

みんな、演出や作詞をする能力があると思えないほど語録の乏しい人になっている。





―――





そう、


あの日、



それは尚香にとっても金本家にとっても、大切な日だった。




その日のレストランは少し特別で、食事代プラス大人のみ1人千円がいるコンサートデイだった。


お母さんが浴衣を崩して作ったフレアのワンピース。

小学生の女の子はお母さんのに手を引かれて、今までで一番のオシャレをしてきた。胸には端切れで作った、服とお揃いのコサージュも付けてある。


このワンピースを合わせた時、少女は初めてその人を叔母さんでなく「お母さん」と呼んだ。

まだ恥ずかしくてチラッと見て目を逸らすと、その先にもまだ「お父さん」とは呼んだことのない叔父さんがいた。



家で少しマナーの練習もしてきた。フォークとナイフは外側から。料理一皿に付き、全部使い替えるらしい。まだ食べています、終わりましたの置き方も覚えた。


煌びやかな、でも落ち着いた空間。


天上も壁も床も、テーブルにも料理にも全部に魅入ってしまう。「テーブルの上にこんな素敵なお花を飾るなんて」と、目に見えるもの全てが珍しい。

気合いを入れて来たのに、ホテルのウエイトレスさんは、年配の方のいる席や幼い子供のいる席にお箸や子供スプーンを配ってくれていた。でも一生懸命スプーンやフォーク、ナイフを使う。



そして、大分場が落ち着いて来た時だった。中央のピアノの方が注目され、大きな拍手が起こった。


「!!」

そして、少女は驚く。

生まれて初めて見た、映画から出てきたような、お姫様のような女性たち。



裾の長い宝石のようなドレス。

洋画やアニメに出てくるような、整えられた髪。

きれいな足のラインを作り出す、華やかな靴。


一人はウエストの締まった青いドレス。彼女はヴァイオリンを持っている。

もう一人は、胸下から流れるゆったりとした紫のドレス。


全てが流れるように、美しい導線を描いている。



台に上がる時、一人が青いドレスの女性にエスコートされていた。

受ける女性も片手でスカートを掴み、片手を相手の手に添え、にっこりと相手に笑顔を向けてピアノの元に行く。


……わぁ……


その姿があまりにもきれいで、少女はただ見とれてしまう。


思わず見入って、後はもう、みんなに合わせて拍手をするだけ。予約していて大人しくしていられる年齢の子は優先的に前方に席が取れたので、少女には全てがよく見はらせた。



そして次々と展開される、虹のような演奏と歌声。

時々挟む、クスっと笑えるようなトーク。


そんな青いドレスの女性の会話を、楽しそうに優しく眺めるピアノの女性。二人ともヴァイオリン、ピアノ、ギター、歌、なんでもできる。



もう、どちらがどちらか分からない。


『みなさん!今日は二人ですが、リサイタルと呼んでもいいでしょうか?』



青いドレスの女性がそういうと、また大きな拍手が起こった。もし、子供を抱えた姉の調子が悪くなれば、妹一人でも出演するつもりであった。



私たちは一緒、離れていても。



だって、私たちは一つ。

私たちだって、どちらがどちらか分からない。





ロンドンの扉の奥で、

姉が見られない外の世界を妹が話す。



たくさんの雑踏、たくさんの街の音。


昔のままの、石畳を走る感触。

交差点で信号待ちをする、手を繋いだカップル。

道に落ちている誰も拾わないゴミ。

あそこのマートは不愛想なおばさんの店員がいるの。



地下鉄へと降りる階段。


その先には何があるの?



姉は怖くて地下鉄には入れない。そこは迷路みたいで、出口が見えないから。




私たちは歌う。




でも大丈夫。木のたくさんある公園なら。


なのに今度は虫か嫌だと言い出すから、呆れてハンカチを敷いて芝生に座らせた。

『いい加減に諦めたら?』

芝生は虫もいるしチクチクして嫌だと泣き出す姉を慰めて、妹はバイオリンを取り出す。


演奏を始めるとたくさんの人たちが集まってきて、リクエストやアンコールも起こった。

妹が急かすので、姉もケースを開けて一緒に弾き始める。



二人に楽譜はいらない。


姉の頭に全部入っているし、妹の苦手な部分は即興でアレンジしてしまえばいい。二人だけに分かる、演奏中にする妹のお願いの合図。


そして笑顔や拍手と共に、人々はケースの中に小銭や紙幣を次々に入れてくれた。



『私たちの初めての収入だね。もうプロだよ!』



大切なバイオリンまで持ち出して、勝手に外出したことを父は知らない。


でも、大丈夫。

今日、父は一日外出だ。ケースについた芝もきれいに取ったから。




子供だけの、二人のマザーグース。




東京のホテル、その客席はあの時の芝の公園のように拍手が沸く。



でも、浴衣のワンピースの少女にはまだ難しい曲が多い。

大人っぽいのによく見ると愛らしさもあるピアノの女性は、すごく渋い声も出していた。聴きなれない歌。


でも滑らかに動く手や背中、そしてサラサラと揺らめく髪に、少女の胸が湧く。



食事を忘れて、ポーとしていると、

「尚香、尚香が呼ばれているよ。」

と、横に座っているおじさんが言いった。


何々?

と思っていると、子供たちが呼ばれていて、かごの中から好きなお菓子が貰えるらしかった。


淡い髪の女性がマイクを持ったまま少女に話を振って来た。

「あら、ステキなお召し物ね。浴衣かな?あなたが選んだの?」

「……お母さんが……作りました。」

と答えると、驚いて

「ステキなお母さんね!えっと、あちらにいらっしゃる?今日はお父さんと三人で?」

と、マイクを向けられるので、

「はい…。お父さんと……お母さんです………」

と、言うと叔父さんは驚いた顔をして、それから堪らずに笑い、そして涙ぐむ。


「うちのドルティーみたいでかわいい!」

と妹が喜ぶと、姉が少しむくれて会場が笑いに包まれる。少女のおかっぱと姉のロングの髪型が一緒だ。



なにせ先、ドルティー本人が嫌がっているのに、最初のコンサートでチラシのデザインの期限までに、他のデュオ名の案が思い浮かばなかったらそれで行くと言って、本当にそのままお願いしてしまい姉を泣かせた話をしたからだ。

『ダムディー』は、イギリス童話に出てくる、かわいくない双子「トゥイードルダムとトゥイードルディー」からもじっている。




そして、妹がピアノからギターに持ち替え、マザーグースを歌い出した。



Twinkle twinkle, Little star.........


と、キラキラ星から歌は始まる。少女はこの歌が日本語でないことがよく飲み込めないが、それでも知っている歌なので楽しい。


「あ、そういえばドルティーは妊婦さんなんです。お腹が出始めた妊婦さんに、仕事だからって立ってギターを弾かせるなんて!」

と、拍手と笑いの中で姉からギターを受け取り、ハモって短く歌う。



「ではお嬢さん、お名前は?」

と、妹が言うので、おかっぱ少女が小さな声でつぶやく。

「尚香です……」


そして珍しく、姉の方がしゃべった。

「コウカ?かわいい名前!栄コウのコウ?」

「……?」

少女はよく分からないが、姉の間違えを妹が直す。

「栄光のコウは光のコウです!」

「あらそう?こんなかわいい子、お父さんお母さんも幸せだね。うちにもこんな子がいたらいいのに。」

と、ピアノの女性が始めて自分から発言し、言われて恥ずかしがる少女。

「でも、もう男の子なんだよね。」

と、お腹を撫でる。


「なら、お嫁さんに来てもらったら?」

と、間に入る妹のしぐさがおもしろくて、また和やかな笑いが起こった。


「動いてる!」

「………」

「お腹触ってみる?男の子って、やんちゃなの。」


「………?」

少女がそっと手を出すと、姉が自分のお腹の上の方にその手を導いた。

まだ柔らかい。

「っ!?」

すると、ポコっ!と蹴っ飛ばすので驚いてしまう。


「はは、蹴ったね。」

「……?!」

「あなたみたいな優しい子にお嫁に来てもらわないと。」

そんな調子を妹が会場に伝えながら進めると、みんなが笑顔だ。



そして子供たちは席に戻り、お母さんを見てから、少女は初めて「お父さん」と呼んだ叔父さんにも迎えてもらえた。

お父さんお母さんからの拍手が、何かとってもくすぐったかった。





※日本語、英語版Wikipediaより、歌詞の参照を頂いています。

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