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スリーライティング・上 Three Lighting  作者: タイニ
第十章 手と手はあるのに

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78/90

78 燻り

※人の悪口が出て来ます。苦手な方はお控えください。



「章君、何してるの?!」

朝、久々の世田谷の家で会う二人。出勤前の尚香は、突然現れた章に驚く。今も時々来るけれど、尚香の出勤後だ。



「ジョギングで走って来た。先、小さい馬、見た。」

こんな都心の住宅街で馬かロバを飼っている人がいるのだ。本当に走って来たのだろう。

「……馬じゃなくて、章君。もう家に来ちゃだめだよ。」

「……なんで?おじいちゃんからも、メール来るし。」

「章君目立ってるから。」

朝、運動や清掃をしている近所の人が、「章君、おはよ!」と、名指しで挨拶までしているらしい。不審者のようにすっぽりパーカーを被っているのに、若者より年配層に存在がバレている。


「帰りはタクシーで帰るよ。」

「そういう問題じゃないから。」

尚香もさすがに、LUSHの露出が増えてきたことを知っている。

「真理ちゃんも会いたいって……。」

「今は控えた方がいいよ。」

「章君、おはよう!ご飯だけでも食べて行って。」

「お母さん!」




居間のちゃぶ台でお父さんが、章におかずをたくさんあげてしまっている。

「章君、あのね。もう、距離を置かないとダメだよ。」

「………。」

ブーと、怒って何も言わずに朝から唐揚げを食べる章。

「お父さんも言って!」

「……尚香との関係の前に、章とはチェス仲間だからな……」

「お父さん!章君、本当に有名人なんだよ?」

「………だからって、なんでプライベートの関係まで切らないといけないんだ。」

「……っ!」

最初がお見合いで繋がったからだ。そして、執着されている。


「お父さんは知らないかもしれないけど、章君の周りにはいい人がたくさんいるの。家族以外の異性のいる家に出入りするのは非常識だし、相手に失礼だよ!」

「……まだ、相手いないし……」

ブツブツ愚痴る。

「いるでしょ!」

「ラナ?ラナはもう与根や伊那と似たようなものなんだけど……」

「それでも、未婚で女性じゃない。章君と結婚したいって言ってたし。」

お父さん驚く。

「章、もてるんだな……」

「……尚香さん、余計な事言わなくでくれる?ラナは道さん狙いだから。」

「……道さん?」

それは分かる。尚香も人のことは言えない。


「それに他にもいるし!」

「……この前だと……時空(とき)ちゃん?………」

「知らないけど、その人とか!」


「………時空ちゃんとだったら、尚香さんがいいな………」

「!」

尚香、ちょっと赤くなる……

「おお!章、なんでだ?うちの子がかわいいか?かわいいだろ!」

「?なんでだろ。………尚香さんだと気が抜けてもいいし。あれこれがんばらなくてもいいし。」

……も、すぐ冷める。


「だから、その基準は何なわけ?頑張らない人となんて、正直こっちも嫌だし!」

「へ?そうなの?」

「当たり前じゃない。私を何だと思ってるの?スパダリでなくてもいいけど、それなりに相手への気遣いってあるでしょ?!」

「…なんで怒るの……?スパダリって何?」

ジノンシー川田の大好き、全ての人がうらやむものを全て持ち合わせた癒しのスーパーダーリンである。


「それにね、章君。世の中には章君のそういうところを許せる、包括力のある女性もたくさんいるの。」

「ふーん。」

「惚れられてるなら、章君の嫌なところ見たからって幻滅したりしないよ。してもそのくらいで離れたりしないし。」

「……でも………」


「………」

尚香、苛立って仕方ない。そもそもそういう話ではないのだ。なぜこの男は控えろという、それだけのことが通じないのだ。変に噂になったらどうするのだ。




「……それに……」


尚香は自分の手を握り、そして手を開いてその手を見つめた。


この中にはたくさんの、火薬が入っているのかないのか分からない弾のような、大きさも分からないしこりがあるから………



………。




そこでお母さんが止める。

「尚香、やめなさい。章君、おばあちゃんカリン蜂蜜に漬けたの。仕事前に飲んで行って。」

「うん。」

章は尚香を見送ってから、おじいちゃんとカリンジュースを飲んで、考えながら仕事に出掛けた。




***




「金本さん、弟さん、あれからどうですか?」

ジノンシーのオフィスで楽しそうに声を掛ける久保木。


「あれから?」

「庁舎君です。なんか、いい人がいるって聞いたけど彼女できそうですか?」

「………」

なぜ久保木がそんな話をするのだ。


「……功君はなんだか自分の立ち位置を分かっていないみたいです……。」

「……?そうなんだ。でも、いいよね。金本さんの周り本当に賑やかそうで。庁舎君がもし結婚したら、お祝いくらいはしたいな。」

「…?」

なぜ?しかも、まだ20歳のよく知らない若者の結婚まで話がすっ飛ぶのだ。有名人だから?本部長までエナドリのコウママ軍?


尚香は二人が別で会っていることを知らない。しかも、久保木が前より明るい……というか、勢いがある気がする。



「あ、金本さん。もしよかったらクリスマスの前後になるんだけど、私の知り合いのパーティー行きませんか?……えっと、まだ日にちは確定でなくて。」

「……パーティー?」

「半分外国人なんですけど、こっちに家族がいなくてクリスマス年末騒ぎたい人がたくさん集まるんです。ビジネスで来ている人も多いし、人脈作りにもなりますよ。」

「……英語できないです。」

「仕事ではないし、日本語出来る人も多いし、日本人と日本語で話したい人もたくさんいますから。」

「………」

「羽目を外す感じではなくて、日本人から見たらちょっと騒ぎすぎかもしれないけれど、親子で来る人もいるし、小さい子供も来ます。」

「…………」

子供も?気分転換にいいなと思ってしまう。そういえば、周りにあまり子供のいない生活をしていた。ここ長い間、子供との関わりと言えば、この前会った陽君と星ちゃんの子と太郎君だけだ。




久保木は悩んでいる尚香を見つめる。



久保木にも、もう1つ思惑があった。


尚香の人脈は日本国内が殆どだ。でも…………もう少し広げてあげたい。





それが逃げ道となるように。





「予定が確定できないなら、飛込みでもいいですか?」

「大丈夫ですよ。」

「……なら、行けたら行きます。」


「……よかった。」

と久保木は安心して笑った。




もう少し道を作ってあげたい―――




久保木はそう思う。


こんなに仕事ができて、頑張る人だとは思っていなかったから。

いや、仕事ですべきことを頑張るのは当たり前だ。



でも―――




***






噂は広まる。


切り抜いた現実を絡めながら、でも現実の事情とは関係なく。



それが良くも悪くもどこに向くのかは分からない。



「ねえ、見た?」

「何を?」

「ネット!」

「功、付き合ってる人がいるんだって。ライブ民情報」

「え?誰?ヨソン?ずっと仲良かったじゃん」

「ミイカじゃない?」

「いいよ何でも。バンドマンに何求めてるわけ?」

「別に悪く言ってないし」

「自分は分かってますファン気取りwww」

「頭冷やしたら?」

「やめなって」


「でもヨソンもミイカもアイドルだし」

「日本と事情が違うから、不誠実でなければOK!」


「違う、一般人みたい」

「日本人だってば」

「付き合ってないってさ。女に付きまとわれてる。」

「ライブ情報じゃない。身内情報」

「ライブ民も言ってるし」



それは最初に、女性板から漏れた話だった。



「あの、タオル女」

「髪型が同じだった。黒ボブ」

「チビじゃん」

「いいよ。ほっときなよ」


「ヤバいのに狙われてんじゃん」

「KOUもバカだから」

「かわいい。バカなのかわいい」

「私が養うのに」

「かわゆ」


「LUSH全員おかされてる。真理ちゃんと飲んでたんだって」

「チビってなんなの?男にかわいいって思ってもらえるとでも思ってるわけ?」

「そんなチビじゃなくない?単に不格好なんだよ」

「見たの?」

「友人の知り合いが内部人から聞いた。」


「そんで好かれるし!」

「狙い当たってるし」

「あざとwwwww」

「やるじゃん」




けれど、そのさらに最初は、ファンからではない。



一部の内輪やスタッフが洩らした愚痴。


「マジウザい。つうか、あの女、何?」

「模範生みたいな女に執着すんなつーの。」

「コンサルらしい。」

「コンサルってどうなん?キラキラ職?」

「頭よいらしくて、調子乗ってる。」


「もう少しいい女に惹かれろよ。絵にもならない。」

「その女味方にして、功、動かせばいいだろ?」

「そいつ、めっちゃ口悪いし。」

「俺らに楯突くのよ。」



それを横で聞いていた、一部の女性たち。

ああ、この話はスタッフも嫌がっているんだ、みんな納得していないんだと、誰もが思う。



「功、最近食事してくれないんだけど」

「変な女に没頭してるから」

「なに?その女最悪!」

「私は睨まれた。大嫌い!!」


「興田さんに悪口言ったんだって」

「スタッフ、仕事思い通りにできないって、なんか疲れてたよ」

「そいつの周辺も最悪。事務所関係の場で威張り散らしてた」

「なんか、関係者に指示まで出してるらしい。ヤバくない?」



同業者の女性に横聞きで伝わり、それがさらに横々に流れ、種火が散らかる。


そして、どこかでいつか、火がつく。




………けれど、誰も、ここまで火がつくとは思ってもいなかった。



それを本当に恐れていたのは、尚香と美香だけであったから。




なぜなら、芸能界とも、恋人騒ぎとも、全く違う場所からだったからだ。




でも、それは見えない草や枯葉の中で(くすぶ)っていて、まだ誰も、


気が付かない。







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