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スリーライティング・上 Three Lighting  作者: タイニ
第十章 手と手はあるのに

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75/90

75 蒼白のバイオリン



「真理~。いい加減に機嫌直して~」

スタジオで困っているのは、この前騒動を起こしたラナだ。


「どっか行って!なんでウチにいるの?まり、来月は半分アメリカなのに。この前がみんなとゆっくりご飯食べられる最後だったのに!」

「真理ちゃん~。」

「大っ嫌い!」

「与根君、真理ちゃん説得してあげて~。和歌さんも怒ってるの、どうしよ。」

「自業自得だし。」

「与根くーん。私、可哀そうだからコンビニでおいしいもの奢って!」

「なんでそうなる。」


今日のライブが終わって、一部メンバーは仕事に入るもラナがうるさい。

「だって、功。まだ一人でふらふらしてるんかなーって、思ったんだもん。」

「まあ、フラフラはしているが、急に帰って来た人間がすることではない。」

伊那も辛辣だ。


「でもさー。道さん親子の間って、すごく居心地いいじゃん?もうそこのお嫁さんになって、一生道さんと暮らせたらすごくいいし?」

「………」

いや、結婚したら暮らすのは功とだろう。とみんな思うが、ラナは道さん大好きっ子なので、そんなこと毛頭もないのだろう。むしろ、道のアパートに通い詰める勢いだ。

功の性格は良く分かっているので、トキメキもないが幻滅もしない女。それがラナ・スンである。




そして、部屋の隅っこで黙っていた功が突然言い出す。


「……尚香さんからレインが来た。」


「??!!」

乗り出す真理。

「なになに?!」

ライブのお礼レイン以外、尚香からは何一つ連絡がなかったのだ。しかも、功に?あんなことの後に?



「『功君、こんばんは。元気ですか。忙しいと思うけど今度会って下さい。いくつか日付を指定するので、会える日を決めて下さい。』」

「おお!!」

みんな乗り出す。

「この日はいいだろ。」

と、伊那が切り出し、勝手に日にちを指定する。



「『少しいいところで食事をしたいので、少しフォーマルな格好でお願いします。もちろんご馳走するので、気兼ねなく来てね。』………。え?ナニコレ?」


これはヤバい。ここ最近で、一番謎なメッセージである。


「プロポーズ!?」

「……正式なお見合いお断りの返事じゃね。」

「いや、最初にお断りされてただろ。」

周囲は好き勝手言うが、功は不安だ。

「……これ、欠席していい?」

「いいわけないだろ、行けよ!」

「てか、この日仕事だよ?」

「行けよ!!仕事が大事なのか?人生が大事なのか??」

「いやいや、仕事はせねばならんだろ。まあいい、この日は俺らと仕事だし。行ってこい。」

伊那も、「俺ら」との仕事は適当な奴なのである。


「……普通にデートのお誘いじゃないの?」

前後事情を知らぬラナが率直に言う。

「え?デート?尚香さん、怒ってないのかな?」

功、急に元気が出てきた。


「ねえ、どんな人?私も行っていい?」

功の反応にラナも興味が出て来た。

「いいわけないだろ!!」

伊那が怒ってくれる。いい奴である。

「ならまりが行く!」

「真理は仕事でしょ。今日までに仕上げて下さい。」


「何?行くの?私無視?私と付き合ってよ。ちゃんとあんたの面倒見てあげるからさ。」

「ラナは嫌だ。どうせいろんなライブ行って、俺とか関係ないし。」

功の中でラナは、真理ちゃん枠である。

「それを言ったら尚香さんも、多分付き合っても全然会えないのにな。」

と、最後に伊那は言わなくてもいいことを言うのであった。




***




そんな感じで迎えた当日。


都内ビルの、なかなか高級なレストランの個室。



「章君、お疲れ様。お仕事大丈夫だった?」

そう優しく迎えてくれた尚香は、章を慰労していろいろ声を掛けてくれる。


……?

ほんと、なにこれ。


「尚香さん、待って。仕事抜けてきたから、みんなにメッセージ打っとく。」

と言って、たどたどしくレインをする。

「え?大丈夫だったの?」

「いいよ。あいつらだし。」



[個室なんだけど、尚香さん異様に優しくて怖いんだけど]



一方、現在身内だけのスタジオ。

「おおーーー!!!」

「これはやっぱりプロポーズ??」

「功君にもやっと春が……」

「あの展開から、プロポーズにはならんだろ。」

「何なら縁を切りたいんじゃないか。」




と、レストラン側。


「あ、来られた!」

「来られた?」

「章君待ってて。」

「……?」


と、そしてもう一人、尚香の案内で部屋に入って来たのは、これまた綺麗なお姉さんであった。

カジュアルなワンピースをフォーマルに着こなし、シンプルなのにオーラがある。


「は?」

章、頭が追い付かないが、一旦立ち上がる。



え?は?

尚香さんからの告白でなく、女性紹介されるん?



まじ、なんなん?これ。



そして、ニコニコ顔の尚香。

「こちら、私の知り合いで、音楽をしている高坂(こうさか)さんです。高坂さん、私の知り合いの………あ、章君、名前、どっちがいい?」

「え?あ?じゃあ、功で。って、あ?え?音楽?」

「高坂さん、こちらバンドのお仕事をしている、功君です。」


「あ、功と言います。よろしくお願いします。」

と、慌てて章が先に挨拶をすると、彼女も余裕を含ませた雰囲気で挨拶をする。


「初めまして。お会いできるのを楽しみにしていました。」

「………」

楽しみ?え?


「バイオリニストの高坂(こうさか)里愛(りあ)と申します。」

「?!」


世界が固まる功。

は?だから何?


そして、席に座って話が始まるも、功は少しレインを打たせてもらう。これはどうなのか。


[デートのお誘いかと思ったら美女を紹介されている]




スタジオ側。

「はーーっぅつっ!!!!?」

「美女?写真送れ!!!!」

「もうこれ終わりだろ。」

「まさか、尚香さん側から紹介が来るとは。」

「なんで、尚香さんそんな知り合いがいるわけ?」

「ちょっと押さないで!!」

レインを受け取っている真理が怒る。




レストラン側。

「ちょっと、功君!お客様の前で長々スマホはやめてくれる?」

打つのが遅いし、面前で音声入力もできない。

「……あ、ごめんなさい。」

「いいよ。忙しいでしょ?言葉崩していいかな?」

高坂さんは結構気安い感じだ。

「どーぞ、どーぞ。」

「功君もね。」

「あ、はい。」



……つうか、バイオリニスト??!



急にものすごく動揺する。


なぜ?しかも、尚香の方から芸能世界の人間の紹介?




そして里愛は切り出した。

「あのね。事後報告で申し訳ないんだけど、功君のお家……お母様のご自宅でバイオリン見せてもらったの。」

「!」

「調律や修理の内容も見てアドバイスさせてもらいました。ピアノの方も少し。」

「………」

信じられない顔をしている功。あれから尚香は里愛を洋子の自宅に招いていた。


「そっちはそっちでお話しさせてもらって、今日はあなたとお話がしたくて。」

「……?」

なぜ!


「ちょっと顔見せてくれる?」

と言って、里愛は立ち上がりいろいろ角度を変えて見て功の顎を触る。


「っひ!」

と、縮みあがるも大人しくしている。

「なるほどね。」

一見形は崩れていないが、一部が硬い。

「歌は大丈夫なの?」

「…?はい。」


「今日、バイオリン持ってる?」


戸惑う章に対し、尚香はニコニコ笑っているだけ。



そうして、洋子の楽器の話やいくつかの会話をしてから、章の車で場所を変えた。




***




そして来てしまった。功の知らないスタジオに。


床は木材。一面が鏡張りでバレエスタンドも設置されており、グランドピアノが置いてある。


「…………」

連行された気分の不安気な功を置いて、簡単にそのピアノを弾き里愛は雰囲気を作る。


「好きな曲は?」

「………えっと………」

「バイオリンで好きな曲。何でもいいよ。」

「『テイラキ』」

功はおずおずと答える。

「『テイラキ』?……ほんと?」

昔、中国が中国になる前の、西洋と文化が入り乱れた時代の曲だ。かなりの難曲である。


「弾ける?」

「!!?」

功、青くなって首を振る。


「……スワニー川は?」

「………」

「エーデルワイスは?」

「………」

「蛍の光?」

「……っ~」

「キラキラ星!!」

「………尚香さん!!」

ついに我慢できなくて、助けを求めて叫んでしまう。


「功君、失敗してもいいからさ。何かちょっと弾いてみない?カエルの歌でいいよ。」

「そうそう。ゆっくりでいいし、間違ってもいいから。」



里愛は立ち上がって、功にバイオリンを持たせ、自分もバイオリンに持ち替えた。そして、キラキラの部分だけ弾いて、自分の物は一旦置き、功に指示を出す。

「……じゃあ、そこ、キー、ラ……」

と、手を挙げると、功も仕方なく音符のド、ドと弾こうとするが、ブワーと音が飛び散った。


「………」

蒼白な顔をしている。


尚香が休ませようと思うも、里愛は遮る。



「うん、大丈夫。いい感じ。ウチらのことジャガイモだと思って気にしないで。」

「……?こんな怖いジャガイモはいない……」

「………ははは!」


里愛は続ける。

「昔、アニメで緊張をなくすために、観客をジャガイモに例えてるのがあったけど、私全然その風景がピンと来なくて。」

「………むしろ、ここは自分だけのステージだと思うことにしたの。ジャガイモさえなくて。」

「………」


「……誰も見ていない、素敵な自分だけの空間。」


愛理は上を向いく。



けれど、尚香から見ると、章は既に心ここにあらずのように見えた。休憩させた方がいい気がする。





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