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スリーライティング・上 Three Lighting  作者: タイニ
第十章 手と手はあるのに

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74 意図していたことはこれじゃない




尚香は思い出す。


()()()の家で夕食を一緒にした時、尚香はいつもかしこまって縮まっていた。



『尚香さん、その肌、どうにかならないんですか?』

『……肌?』

『前にも言いましたけど。腕のボツボツしたのです。足にもありますよね?』

尚香はドキッとする。足どころかお尻にもある。顔にさえも。


『あ、これ、言われてから病院に行ったんですけど、ある人にはある良性の皮膚疾患みたいで、あっても問題なくて、歳とともに消えるみたいです。気になる人には緩和させる方法はあるから、一応クリームもらいました。』

『……私の知っている人たちにはないけど?今度親戚の結婚式、腕が隠れる服にしてくださいね。』

『………あ、……はい……。』

『私たちの結婚式までにはどうにかして下さい。』

『……はい……』

治らない人もいると言えば、この人は何というだろうか。


自分のお尻を見たら、触ったら、引いてしまうのだろうか。



病院の先生は、「女性は気になりますよね。でも、見ても気にしない人も多いですよ。どうしても気になるのならまた相談に来てください。保険外になりますが美容医療もありますし」と説明してくれた。



……けれど尚香は考える。



この人はこの前、美容外科に行く女性たちを、外見だけ変えようとする金食い虫だと言っていた。人の価値は外見を磨いたところでどうにもならないのに、そんな女性とは付き合えないと。


美容院に2カ月毎2万円以上を掛けている女性の同僚の話も、同じように嫌悪していた。髪のほんの少しの違いのために、女はそんなにも金が掛かるのか。あなたは違うからよかったと。



『…………』


多くの女性が、何もせずにツルツルな肌だと思っているのだろうか。生まれた時からみんながサラサラストレートだと思っているのだろうか。


それを求めているなら、尚香はもっと努力しなければいけない。

脱毛もしていないので、毎日手入れをしなければ体毛だって生える。今のストレートヘアも毛先の跳ねがひどいので、美容院で定期的にパーマを当てているのに。



自分にそんな努力が一生できるだろうか。

この先ずっと、見た目に欠陥ない毎日を生きられるだろうか。直したところで、元が良くてキレイにしている人には敵わない。


尚香自身の収入がなくなった時に、この人はそれを維持するお金をくれるのだろうか。



でも知っている。

学校や会社の男性も、尚香のことを地味だと言っていた。毛先だけ大きくカーブするので、昔はいつも後ろで一つに結んでいた。お金を節約するために、省けるところは省いていたからパーマなんてかけようと思ったこともなかった。



インターンで外回りに付き添うことになった時、女性の正社員にアドバイスされて、少しいい美容院に行き、服や靴、カバンも揃え、メイクもするようになったのだ。


外見も仕事を決めるからと。仕事によっては活動報告や記念、取材などで写真を撮ることになる。


どうせなら、きれいな自分を残したいでしょ?と楽しそうに。


お金は掛かったけれど、確かにそれは本当だったと思う。




『尚香さん。』

『はい。』

『うちはお皿を洗ったら、拭いて片付けるんだけど。食器は外に出しておかないで下さい。』

『あ、ごめんなさい。』


そして、ニュースを見ながら、インタビューを受けている主婦に対して言う。

『子供が3歳になっても、パートにも出ないんだな。こんな共働きの時代なのに。』

『………。』


この前は、女が外で働くから子供の教育ができず、少子化も進む、国の失策だと言っていたのに。

けれど、「パート()()」。専業主婦でもパートでもダメなんだと複雑に思う。


そして地域によっては園児持ちのパートは、プラマイあって無いような支出になるかもしれない。それでも女性が働くのは家のため?自分のため?お金のため?


生きる意義を感じたいため?


そのどちらにも、あの人は共に考え、共に悩むことを理解してくれるだろうか。



『…………』


たくさんの沈黙が尚香を覆う。



ここは息苦しい。

自分はこのまま進んで、この人生を全うできるのだろうか。


でも、自分に正しい選択ができるとも思わない。



ここで溺れるのか。

外の世界で溺れるのか。


その違いだけだ。




『尚香さん、仕事の飲み会には行かないでもらえますか?』

『でも、仕事でもあるので……』

『時間外ですよね?その会社、今の時代にどうかしてるんですか?』

時間外の交流も積んでいかないと、顔が広がならない職種だ。自分次第であるし、その分給料も多い。

『業務外で勉強会までしているのに。あなたは結婚相手がいる女性なので、もう少し身の振りを考えて下さい。』

『………分かりました……』


最初に会った時は、少し硬いけれどもう少し優しい人だと思ったのに。でも、今の会社の人たちよりはいい人だと思う。贅沢はダメだ。自分だって、彼の理想ではなかったのだろう。お互い様だ。



あの頃の尚香は、自分には意見を言える立場も権利もないと思っていた。それに、ここまで進んでしまった結婚話。


ひっくり返してたくさんの人に、また迷惑を掛けたくなかった。




***




「山名瀬章、聞いているのか?」

「久保木さん、だから、本名言わないで下さい!しかもフルネームで!!」

「……すまん、庁舎。」


ぐったり落ち込む功は、なぜか尚香の上司久保木とメックで昼飯を食っている。


兼代が噂する、できる上司久保木と尚香を繋げたくなかったのに、なぜか自分が久保木と食事をする仲になってしまった。本末転倒である。


「だからな、この前は章にきちんと自立を理解し自立すべく話をしたが、あの後いろいろ考えて違う結論が出た。お前は自分でできなくていい。」

「……はあ……」

「どうせ出来そうにないし、お前の面倒を見てくれそうな女性が周りにいるだろ。そういう人間に任せろ。」

「………」

それは反論できない。先日2、3人現れたばかりだ。



「だからそういう風に頑張ってるんですけど。」

「違うだろ、姉に頼るな!自分でそういう相手を見付けろ。」

「だから尚香さんに……」

「姉でなく、自分のパートナーは自分で捕まえろ!……って、章に寄ってくる女も見極めないとな。変な女に引っ掛かるなよ。会社もマネージャーも見極めろ。芸能人の金を絞ってくのもいるから。

そんでお前は、自分の出来ることに集中したらいい。」

「…………」

章はガクッと項垂れる。


「なぜ落ち込む。」

「いや、だからそう努力してきたし。先日もそういう人がいたんですけどね。レベルの高いダンスできて、アイドル頑張っている()だったのに…」

「芸能界目指してる人間はダメだろ。」

「だから人の話を遮らずに聞いてくださいっ。」

「……あ、すまん。」


「俺のために業界やめていいって言ってるし、簿記とかいう資格かなんかも取って、会計士とか勉強してる女性が来ました。」

「……………」

久保木が、黙ったままだ。


「………?なんすか?」

「章の好みのタイプか?」

「……タイプも何も、世界レベルのオーディションの上位まで行った今時の子ですので、少なくとも彼女の容姿を嫌いな男子はいないと思います。一見おっとりだけど、MVではキリっとしてて、ダンスするのに胸もあって。……寄せてるのかな?できる系で、タイプではあります。」

そこは素直に言ってしまう。時空(とき)は、大型オーディションの決勝前バトルで落ち、拾われて違うグループに入ったのだ。


「……それ、すごくないか?」

「???」

「そんな人物、普通滅多に現れないだろ?」

「はい?」

普通の人に、そんな都合のいい女性は現れない。


「そんな幸運、掴む以外ないだろ!」

「え?そうですか?時々いるけど、そういうこと言ってくる人。」

「……まだ20歳のくせにすごい人生を歩んでるな……。でも、まあ分かる。お前を見ていると、ちゃんと生活できているのか気になって落ち着かない。」

気になって呼んでしまった。


「だったら掴め。」

「……でも……」

「だから弱気になるな。何がそんなに不満なんだ。すごくいい条件だろ?しかも選べるなんて。悩む必要ない。付き合いだけでも一度してみればいいし。」

「……そうですか?」

「そうだろ。でも最初から全部任せるなよ。財産持って行かれそうだから。」



章、腕を組む。


そういえば何を悩んでいるのだ。

管理能力がいるなら、いい人を見付けたら付き合えばいいと、尚香にも散々言われてきた。


なぜこれだけの条件を提示してきた相手を、これまで跳ね除けてきたのか、だんだん分からなくなる。そして、少なくともラナは絶対に性根(しょうね)は悪くない。既に道との信頼関係もある。ラナは道が好きすぎて、功が他の女と結婚して姑いびりされるくらいなら自分が道を守ると宣言していた意味の分からない女である。


尚香さんが「章君とは嫌だ」と言うのに、「功が良い」というそれなりの女性たちがいるのだ。これで、尚香さんの心配事も減る。なぜ悩む。



「…………??」

「また何を考えている。」

「……理解したことと、何か飲み込めないことがある。でも、それが頭の中ではっきりしない。」


「考えすぎだ。……贅沢にあれこれ選ぶなよ。ただ、遊ぶのはやめろ。後でツケが来る。というか、お前と話していると、最初に言いたかったことが分からなくなるのは何でだ?」

久保木も戸惑う。平気で無理難題を言う、南米、中東や西アジアの常識を飛び越えた人々にすら引けを取らずに会話できていたのに。今まで相手にしてきた人間と逆の、ハッキリせずクヨクヨ弱いタイプなのでかえって推測不能なのか。



「分かりました。ちょっと冷静になります。あ、それで最近、尚香さん会社で元気ですか?」

「普通に元気だが。」

「……ならよかったです。数日会えてないので。」

「数日従姉妹に会えないくらいで、何を言っている。普通大人になるとだんだん縁も切れるだろ。」

「そうですか?ウチは大人になってからの方が親戚と距離が近いです。」

子供の時は、大人の事情で子供の親戚関係が左右されたのだ。

「……いい親戚だな。」


章はまた考える。

「……いい人はいい人ですけどね、後はどうかな?」



兼代に連絡すると話があっちこっち行きそうだし、柚木は怒っている。一応この前、川田と連絡交換をし、あの日の後は、尚香は普通に何事もないように出勤しているという情報を得た。


驚くほど、普通だと。




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