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スリーライティング・上 Three Lighting  作者: タイニ
第十章 手と手はあるのに

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72/90

72 激しすぎる。



ダンッ!ダンッ!ズダン!ダンッ!ダンッ!ズダン!とくる重低音。



キャーとかワー!じゃない。


「ゥオオオオオオオーーーーー!!!!」

という叫びに、ズドン、ズドンとクる音。


全てがスタンド席で、異様な熱気。400人収容のライブハウスが揺れる。

お腹に響く振動。


しばらく耳を塞ぎ、尚香は動揺しかない。歌っているのは分かる。でも、パンクのような音だ。

ステージがはっきり見えなくて、みんなが何に興奮しているか分からないでいると、川田が音にノリながらも、尚香にステージが見えやすいよう少し場所を動き指で示してくれた。


「!」

その先に功がいる。


白いTシャツに腰に長袖の服を巻き、ステージから落ちるギリギリのところでヤンキー座りをし、観客を手で煽っている。前線にいるのはおそらく男性客たち。ものすごいノリとリズムでたくさんの手が上がるのが見える。



あれ?これは何?

これは歌?


LUSHってポップ歌手じゃないの?これはロック?パンク?メタル?ヘビメタ?


すると、尚香の中で大学のゼミにいそうな与根君が、衝動的なリズムに馴染んでベースを弾いているのが見えた。と、そこに上手側から中央に来るのは、真理だ。



真理ちゃん!


サックスではなくギターかベースのようなものを持っている。真理はベースを体に対して垂直にも持ち(もも)で支え、そして与根と合わせて弾くと、また大歓声が上がった。

格好はかわいいのに、女らしいところを全く感じさせない重みと勢い。


「??!」

戸惑っている尚香はやっと少し場と音に慣れて来た。


LUSHは一体どういうバンドなの?と、脳が追い付かない。



と、下手サイド、一瞬真理と目が合った気がした。


いや、合ったのだ。

真理が目を見開くも、そのまま曲は続く。そしてもう一曲そのままのノリで行き、曲が途切れた時だった。


「Ladies and gentlemen!!! Thank you for coming to our live!!!!!」


真理は四方に大きく手を振る。

「今日はまりの大事なお友達たちがやっと来てくれました!!みんなありがとう!!!!」

とジャンプすると、またワー!!!と盛り上がる。


「!?」

「!!」

柚木と川田、尚香と三人目を合わせてしまい、おお!と笑い合った。ただ、真理はもう目は合わせない。注目を分散させるためだろう。



なのに、

なのに呆気に取られてしまったのはこの男。




……は?尚香さん?



実はこの規模のハコは、ステージからは思ったよりも客席が良く見えるのだ。一瞬固まってしまう。


なんで尚香さんがいるの?



「?」と思った与根も、功の見ている先に気付いた。



尚香と目が合うも、尚香はなんかこっちの方を見てるのかな?くらいの感覚だ。でもお互い知っている顔、きっと目は合っただろうから、はにかんで手は振る。ただ、周りの大勢もみんなすごい勢いで手を振っていた。周囲はみんな女性だ。




功は一旦勢いを止めて咳をするように自分を落ち着けた。


そして、またダン!と合図を出す。曲を変更しそれまでのリズムを保つも少し雰囲気を変える。有名な聞いたことのある曲だ。


コアなファンは功の変化に気が付きながらも、真理たちの友人への贈り物だと受け止めた。



そのライブはそのまま1時間。



終わる頃には尚香はげっそりであった。







「尚香さん、大丈夫?」

ロビーで柚木が冷たい紅茶を買ってきてくれる。


「………うん……。知らなかった………LUSHがあんなバンドだったなんて………」

超絶スッキリした顔をしている川田の横で、尚香は少し足が震えて椅子に座り込んでしまった。すぐにビルから出ていくつもりだったのに人酔いしてしまい、サイドから入った女性だけの控室で休ませてもらっている。


「……まだ、お腹に音が響いてる……」

「尚香さん、それ、快感じゃないですか?!」

「へ?!快感??」

恐ろしい。普段弱気な川田なのにレベルMAXの戦士に見える。



実は尚香。真理や和歌たちに、定期ライブが少なくなるから一度でいいから来てほしいと頼まれていた。12月はもう予定が合わないかもしれないと言ったら、来れるライブに15分前までに連絡をくれればどうにか入れるからというので、定時に帰れる日とライブの日と時間を合わせたらまさに今日である。後があるか分からないので、急いで連絡をしたら、和歌に繋がり会場入りさせてもらえることになったのだ。



「尚香ちゃん!!」

そこに現る最強女子、真理。

「真理ちゃん!!」

「まりうれしいよ~!!柚ちゃん川ちゃんもありがとう!!!」

「はいはい任せて~!!今日はありがとう!!」

「真理ちゃん、めっちゃ楽しかった!!」

二人もちゃん呼びになっていた。いつの間に。

「ごめんね。会社から急いで来たからなんのお土産もお礼もないよ。」

「そんなのいいよ~!!!」


「尚香さ~ん!!」

真理宅の飲み会をした、知っているスタッフも来て盛り上がる。和歌にお礼を言おうと思ったが、和歌はまだ仕事があるそうだ。




***




しかし、別室のこちらは荒れていた。


「なんで尚香さんが来てるわけ??」

功である。

「真理と和歌さんがずっと誘ってたんだって。」

「そーじゃなくて、なんで今日!!」

そんなことは知っている。功も誘っていたのだ。でも、来るとは思っていなかった。


「あーーー!!なぜ銀バンの日に……」

「かわいそうに。」

伊那が憐れんでいる。



それもそのはず。LUSH、定期ライブには2種類あり、ネットでブレイクした一般受けする聴きやすい歌と、バンド結成時に男ばかりの勢いでノリまくっていた雰囲気を分けてライブをしていたのだ。前者を『白バン』、後者を『銀バン』という。ファンも分かっているし、お前どういう生き方してきたんだ的な弾けている男性ファンはだいたい銀バンに行く。選曲にキッチリ線はないが、雰囲気は全然違うのだ。

銀バンは安全対策のために女性と男性で一部席が分けられており、現在は高校生以下禁止。ファンクラブに入ってなく初回の女性ファンは女性だけのエリアにしか入れない。


コアなファンと、メンバーの気分転換のために来年も会員限定でこのライブは続いていくが、今の定期ライブのような回数はなくなる。


「今日、思いついたように来たらしい。1回くらい行ってあげないとかわいそうだとでも思ったのだろう。」

情報の早い伊那である。


「尚香さんは帰ったの?」

「人酔いして控室で休んでるって。」

「え?!」

「会いに行くなよ。わざわざ女性部屋に行ってるのに。」

「…人酔いして1時間あの中にいたって拷問だよね。」

与根も心配する。周囲が女性だけだったことが救いであろう。

「……尚香さんに嫌われたかな……」

「まあ、嫌われただろうな!」

伊那は容赦ない。




それでもしばらく通路で待っていると、帰り支度をした女性たちが出て来た。


「尚香さん!」

「……章君?」

みんな挨拶をし合うと、章はやたら心配する。


「送るよ。」

「……いい。」

「大丈夫?死なない?」

「……もう大丈夫だって。」

「怒ってない?」

「……いいライブだったよ。」

「…酔い止め飲む?」

室内にいるスタッフも呆れて見ている。

「和歌さんはなんで、銀バンに呼ぶの??」

「だって、今日を逃したらもう年末に入っちゃうかもしれないし!」

仲間のスタッフが答える。

「だからって!」

「功君、大丈夫だよ。ウチらが連絡したんだし、みんな楽しんでたし。」

尚香が安心させた。

「でも……」


こういうふうに過剰に構って来るので、尚香の位置が悪くなるのだ。幸い興田(おきた)はいないが、尚香のことをよく思っていない人が来たら困るし、鬱陶しくなってきた。

「功君、ここは功君の職場なんだから、功君は功君の仕事をして!」

「……でも……もう終わったし……」

「趣味のバンドじゃないんだよ。職場は職場!」


「……けど……」

「功君!」

「………」

「大丈夫だって。私たちのためにいくつか選曲してくれたんだよね……。」

柚木と川田も笑顔で頷く。

「ありがとう。うれしかったし、今日のこと、お父さんやお母さんにも報告しておくね。ちゃんと歌手なんだよって言ったら喜ぶよ。」

こんなライブをしていると知ったらおばあちゃんが仰天しそうだが、尚香たちが笑うので、功も少し落ち着く。

「…………うん………。」




が、しかし。



それをぶち壊すなにか。



「功~~~!!!久しぶりーーー!!!」

「っ!!?」

功が思いっきり引き、周囲にいた人間も注目する。


「ライブ楽しかったよーーー!!!」

と、誰かが功に飛びついて来た。


は?と、みんな驚く。


見れば分かる。明らかに歌手かモデル。

長いソバージュでハーフ顔の綺麗な女性。


と、その女は、功の顔を引き寄せ頬にそのまま一瞬のキスをした。

「!!?」

「っ!!」

「!!!」


やめろと功が離す。

「何~?照れてんの?ウチら、兄弟みたいなもんじゃん!」



「ラナ……。なんのつもり?功から離れて!セクハラ極まりない!!功、訴えなさい!!」

控室から出て来た真理がぶち切れている。

「真理ちゃーん!!真理ちゃんもかわいーー!!」

と、真理にも抱きついてキスをするので、バシっと真理が叩いた。

「痛っーい!ひどーい!!」


目を丸くするしかない尚香たち三人。


「?皆さんはスタッフ?営業さん?ウチのお客さんだよね?」

「……はい。身内でご招待してもらえて、少し休んでいました。」

と、尚香が丁寧に答えると、川田が気が付く。


「『ラナ・スン』??」

「そうです!1年新曲出してなかったのに覚えていてくれているんですか?!うれしい!」

「あ、はい!」


『ラナ・スン』。

シューナミュージックのR&B歌手で、音楽好きならまず知っている歌手。元々はイットシーだったが、社長同士の合意でシューナミュージックに移り一定の位置を築く。一時期アメリカに帰っていたが、今日、戻って来ていたのだ。



そしてラナ。功に振り向く。

「道さんは?」

「……家にいるんじゃない?」

「挨拶に行かないと!」

「先に社長や戸羽さんに挨拶に行きなさいよ。」

「真理ちゃ~ん。もうしたから~!」


そして、ニコッと笑う。

「功、道さんに挨拶に行こ?約束してたし。結婚してあげるから!」


「!!!」


みんな、追いつけなくて目が点にもならない。





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