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スリーライティング・上 Three Lighting  作者: タイニ
第十章 手と手はあるのに

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70/90

70 構い過ぎじゃないのか?

あまりに誤字が多かったので、再掲載です。すみません。



「え?じゃあ、もう定期ライブなくなるの?」

話の流れが変わり、ライブハウスに関して話していると兼代が驚く。


「………なんかCMとか顔出しとかしたら、反応が大きくなって、定期ライブの予約システムがパンク状態になって形を変えていくって。」

LUSH狙いが多くなり対バンもまともにできない状態になってしまい、世間が落ち着くまでは準備していた企画に切り替える。ただ、もともと予定にあったことではあった。


「そうだね……」

尚香は音楽の世界など分からない。でも他の業界に当てはめて大まかな予測はする。ネットを開いて少し各音楽会社の概要を見てから、チューブユーで人気の数曲について聞く。

「兼代君。これ、一曲1000万再生ってすごいんだよね?」

「1000万でもすごいし、でも日本人でも1億以上ってそこそこいますよ。」

「個人と法人でも扱いが違うよね。会社規模でも違うかな。」

章はなんの話だろうと大人しく聞いている。久保木も聞き役だ。


「ただ、曲にもよるけど一曲ドデカイのが来ても、それで消える場合もありますよね。これが数曲あるとまた違うし、曲の種類にもよるし。ノリだけの歌じゃないとけっこう長く持ちます。チューブユーだけじゃないですしね。音楽アプリ。国ごとに他にもアプリいろいろありますし。」



世の中の人気など、どう動くか分からない。今は再ブレークの可能性もある。

一先ず今年の春からCMやSNSでLUSHの様々な曲が盛り上がっているので、来年が上手くいき、なおかつ乗り越えたら3年にピークを置いて規模を拡大する。


一旦そのピーク時の規模を保って、後は様子を見るという感じだ。儲けられる時に拡大して儲ける手法もあるが、一気にしぼむと事業自体を大きくしてしまった場合反動も大きいし、大手ではないので支えきれなくなる。

イットシーには再正数1000万を超える楽曲を数本持つ歌手やグループが3組いた。全グループ、ネットで拡散した系でファンは海外からの直結勢も多い。今後ビッグヒットが出なくてもピークの終息後も含めて5年は値が付く。

ファンが根付けば、特大のヒットが出なくともライブなどで継続ができる。



「………尚香さん、何話してるの?」

不安になって来た章が思わず聞く。遂に自分が査定されるのか。


年収いくらあれば結婚の範囲なんだ。


章は自分の年収と手元にいくら残るのかは聞いているが、道からは生活と付き合いの分しかもらっていない。必要なものは申告制で、知り合いのお祝いなども道経由でお金を貰う。ただお小遣いの定額が月たいしてないのでそれが年収だと思っている。


章に昔、キャッシュカードでの引き落し方を教えたら、フラッと出掛けて数万や数十万円のものをポンと買って来たことがあるからだ。しかも、そういうものを人にあげてしまったりする。お金に困っていると言われると、借用書もなく人に貸す。もちろん詐欺にも引っ掛かったこともある

洋子のことをあれこれ言っても大して変わらない。似た者同士だ。


章はお金がないならないなりの生活をするが、あったらあっただけ使ってしまうし、教えても叱っても頑張るのは最長2週間。今も持っているのはデビットカードだ。

道としては章がもし結婚してもその女性の素性や性格、本当に続くのかが分かるまでは通帳を明かさないつもりである。こういうのが、道の遺産狙い扱いに拍車をかけていたりするのだ。


だからこそ、安心できる尚香だったらいいのになと思うのだ。



「だから、何してるの?」

章はオドオドしながら、尚香と話す兼代のタブレットを見つめる。

「……LUSHを中心としたこの先5年のイットシーの将来計画をしてる。」

「なんで?」

章が二人が書いたメモを見ると、この前イットシーの会議で書いてあったことと、そう変わりない内容であった。


「……尚香さん、うちの会議出たの?ナオさんに聞いたの?同じこと書いてある。」

「こういうビッグヒットを狙うような業界の仕事はしたことがないし、3分で考えるあくまでも大まかな見立て遊び。このくらいは多分みんな普通に考えるし。今は、1年半年未来も分からない時代だけどね。」


「売れたら、3~5年内に回収しまくる!熱いうちに!」

兼代が楽しそうだ。

「!!」

使い捨てか。恐ろしい!

「ただ音楽のことは分からないから……。一発屋か、息が長そうかは見分けられない。ちゃんとしたレーベルで100組デビューした歌手がいても、残るのは1、2組だろうしな……。日本と海外のファンも傾向が違うだろうし。」

「もっと少ないんじゃない。……世間に連帯感があった昔ほど、歌手や名曲を愛してくれる人もないかもしれない時代だし……」

と、チラッと見られる。こわ!



「それに功君、会社内の話、外で言っちゃだめだよ。ふーんって見るだけね。」

と、尚香が人差し指を口元に「しっ」とした。

「だったらそんな遊びしないでよ。見定められているみたいで怖いし。尚香さん、いつもお金のことしか考えてないんだね。」

「でも、お金で考える人がいなければ、会社も業界も人も回していけないんだよ。」

「…………。」


そう、ジノンシーはお金で考える人たちなのだ。ただ、その儲けで遊んで暮らせると思っているわけではない。それは社会や会社のお金であるし、世の中でお金をどう回すか考えているのだ。常に。



「尚香さん、次は音楽業界とかどうですか?コンサルじゃなくてもスケジュールマネージャ―とか。」

と兼代が言うと、芸能関係にセンスがないし、体力もないからダメだと笑う。

「え?尚香さん、イットシー楽しいよ?」

と章もうれしそうに言うが、絶対イットシーで働きたくない。

「……ははは。イットシーでもみんなに好かれているわけではないので……」

苦笑いでごまかす。


「ナオさんも真理ちゃんも大歓迎だよ。」

「庁舎君、うちのエース連れて行かないでよ。」

と、部長が困った顔をするので、久保木も笑った。

「金本さん、みんなに愛されてますね。」

「…え?」

その言葉に少し驚いてしまう。

「あ……」

固まる久保木。家族的な和気あいあいという意味で言ったのだが、今の日本でこの表現はあまりないのかと。でもお父さんな部長と弟兼代、楽しい従弟ではないかと思う。


「楽しそうだなってことですよ。」

「はは……」

分かるのだけれど尚香は笑えない。そしてそれでも笑ってから、知っている人がいないか周りを見渡した。



「あ、そうだ。尚香さん、アルバム買ってよ。応援してくれるって言ったのに。」

「アルバム?」

「うん。応援してくれるって言てったよ、前。」

「……?」

いつの話だ?SNSをしたらフォローしてあげるという話だろうか。

「ほらこれ。」

と、章はカバンからCDアルバムを出した。


「え?今も現物のCDって作ってるの?!」

これは驚きである。ジャケットには功1人がカバーに写っていた。

「買って飾って。映像も付いてる。」

「飾る?……これ、ソロなの?」

「LUSH+だよ。」

「なんで功君しかいないの?」

「そんなん、どうでもいいじゃん。あいつら写りたくないって言うもん。俺も嫌だって言ったら、お前はダメだって。」

「飾るの?聴く物でしょ?それに私のノート、CDとか入れるとこないよ。」

ドライバもないのにどうやって見るのだ。


ジャケットは、透明でイエローグリーンのクリアケースに、横向きの功の顔が逆光で写っている。夕焼けのようななんとなく憂いを含んだ感じだ。

「……限定版なのに……」

「………。」

これには、功だけでなくみんな憐れんだ顔をした。


兼代は知っている。尚香さんはピタッとはまる整理整頓が好きな系で、ディスクもきちんと全部収納してある感じだ。貰ってもどこかの棚どころか、箱に収められて忘れらるであろう。

でも会社の机には、小さなキャラクターは置いている。何故なら、兼代が商品のおまけを勝手に置いていくからだ。



「かわいい功君の出世作を、トロフィーみたいに飾っておいてくれないの?」

と、章、自分で言う。


「尚香さんの中にはジャケ買いって言葉ないの?」

「……パケ買いならあるけど……。」

「………。まあいいや、買って。」

「これ買うの?……え?!5千円もするの?!」

「………通常盤の安い方でいいから。」

「………おじさんが買うよ……。」

部長、見ていられなくて応援してくれる。


「……功君も部屋に飾ってるの?」

「………いや………別に…。」

章も自分の部屋には、自分の姿が写っているジャケットは飾っていない。


なぜ家でまで自分の姿など見ねばならんのだ。

撮影嫌いな与根どもの気持ちがよく分かる。奴らはライブを撮られるのは構わないが、あえて自分を撮影するというのが苦手らしい。真理は、男世界の中に写りたくないとほぼ拒否である。


「…まあ、功君モデルみたいだしね。様になるからいいよ。」

「もういい。尚香さん買わなくていいから。尚香さんは音楽業界の仕事には絶対就けないね……。ホント、意地悪なんだね。」

「私の部屋、そういうの似合わないし狭くて場所がないから。ずーずーもずく君の置いてある隣に飾ってもいいの?」

「何でもいいけど。」

別に何の横に置かれてもいいが、雑に扱われそうなので恨めしい顔で見ておいた。雑に扱ってもいいのだが、ここまで関心がないと所有されるのも逆にくやしい。もずく君キャラを退()かして功君を飾るという発想もないらしいのだ。ファンでない人に好かれるのは難しいと痛感した瞬間である。




食事が済んで、お店で部長と功が写真を撮っている。家族には飲み屋で偶然見かけたという設定で、功がOKしたのだ。


それから、ビル周りを少し歩く。


「本当に仲がいいんですね。」

久保木が楽しそうに尚香に声を掛けた。

「……よく…見えますか?」

「そうですね。親族楽しそうで羨ましいです。」

「楽しそう?」

「うちは、最近クリスマス以外会わないし、去年はクリスマスもブラジルにいたしな。」

「金本さんは、みんなと仲いいよね!」

部長、横から上機嫌である。



その後ろで、兼代と納得のいかない章。

「……なんであの二人仲いいわけ?」

「…だから言ったし。」

「兼代先輩、どうにかしてよ。」

「他人の距離感に口出しできんだろ。別にパワハラセクハラでもないのに。」

「……セクハラじゃん。」

「それを言ったら、お前の方が距離感バグってるぞ。」

「…………」





「というわけで、今日はありがとうございました。」

割り勘のつもりが、一度くらいLUSHに奢りたいと部長が出してくれた。それゆえ奥さんには本当のことを報告必須である。


「尚香さん、送るよ。」

「いい。残業の美香を待って、今日は美香の家に行くから。」

「…じゃあ、美香さんも送るよ。」

「今日美香、社外なんだ。いつになるか分からないし、最寄り駅のどこかで待ってるつもりだから。」

「そこまで送るよ。仕事終わるまで一緒にいようよ。」

「いい、みんないるから地下鉄で帰る。」

「三人で飲み直したりしないよね?」

「部長、ご家族が待ってるから解散だよ。」

と、線が同じな部長と兼代、尚香は楽しそうに地下鉄の方に行ってしまった。



仕事の事情で車だった久保木だけが残される。


「………」

「………」

慣れない男二人になり、何とも言えない沈黙になった。取り残されたようで、切なすぎる章。


「………………なら、庁舎君。またね。私、あっちだから。」

と、久保木が去ろうとするので、章が止めた。

「……あの、久保木さん。」


「……?」

「尚香さんと距離縮めないで下さいね。」

「………?距離?」

「………。」

「?………あっ、距離ね。考えたこともなかった。」

「は?」


「お姉さんが心配なんだ。大丈夫だよ。」

久保木が笑っている。

「………」

章は、何か墓穴を掘ったとしゃがみ込んでしまった。意識範囲ではなかったのか。そうですかで笑って済ませればよかったのに、先の飲み会で気力を使って疲れていたのか。


そんな様子に久保木は少し驚く。

「大丈夫か?……。

何て言うか、ちょっと、お姉さん、構い過ぎじゃないか?」

「………」

ふと、章は顔を上げた。


「お互い大人だろ。少し離れた方がいいぞ。」


久保木も、ハッとしてしまう。日本では言葉が過ぎると問題になることもあるので、そのラインと意味が分かるまではプライベートには何も言わず大人しくしていろと、アドバイスされていたのだ。


でも、言ってしまった。




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