表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スリーライティング・上 Three Lighting  作者: タイニ
第十章 手と手はあるのに

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

69/90

69 幅が広がる



「おい、功。オメー、ナナサちゃんと喋んな。」

「……あ、先輩、おはようございます!」

「先輩じゃねーよ!」


深夜の音楽番組収録でスタジオで、功に声を掛けるのは、年齢も番組デビューも同期の他社バンドのボーカル、鷹十(タカト)である。

鷹十、顔は自分の方がカッコいいと思うのだが、いつも女性共演者が功の方に声を掛けに行くので気に食わない。話す必要もないのに、女性たちがわざわざ声を掛けに行くのだ。しかも今日は、密かにずっとファンだったアイドルのナナサちゃんであった。


「鷹十先輩、自分で書けないような難しい漢字名にするから、みんなに覚えてもらえないんじゃないの?」

「言えるし書けるし、先輩じゃねーっつてんだろ?」


そこに、女子たちが寄ってくる、

「功君!TV出ないって言ったのに来てくれたんだねー!!」

「上司命令だし。ケーブルだし。」

「これからも頑張ってよ。」

「功くーーん!まったねー!」

そう言って別の女性も功に手を振り、鷹十には笑顔で礼をしてお疲れ様ですと去っていった。

「ばいばーい。」

と、笑顔もなく手を振る功なのに、女の子は嬉しそうだ。


「………」

「じゃあ先輩、お疲れ様…」

「おい、待て!」

「はい?」

「だからなんでお前はいつも特別扱いなんだ!!」

「え?先輩の方が敬われているのに?僕も敬っています!」

「~っ!!………」

どうにかムカつく気持ちを抑える。


そして、功に時勢の話を振る。

「なあ功、ちょっとスマホ貸せ。ネット賑わってるの知ってる?」

「知らない。」

「お前最近、またネットにいろいろ書かれてるから。」

章は素直に先輩にスマホを出す。


そして、鷹十が見せてくれた画面には、功のことがたくさん載っていた。


『でも太郎復活した。くんな』

『待ってました!』

『CMちょうしこいてめちゃムカつく』

『アイドル上がりのアイドル崩れ』

『ステージでは超態度デカくても、超陰キャ。アリーナの裏方やってたから知ってる』

『俺も。挨拶もしない』


「ねえ、鷹十君。僕、みんなの前だと緊張するんだよね。ほら、業務中以外で会ったら気まずいでしょ。」

「うるせえな。ずっと仕事中なんだから挨拶はしろよ。」

「でも、アリーナなんて人も何も同じ人に会いまくるし。横っちょにいた人には挨拶してたとかあるからさ。」

「最初全部に挨拶して、また通路で会ったら会釈でもしておけばいいんだよ。後は知るか!」



もう一度スマホを見る。

『ロック野郎が、裏でヘコヘコ頭下げるんかよwwwwww』

『マジ真理(しんり)

『いや、しろよ。クソかよ。』

『コンプライアンス時代』

『しゃーない』



「…………」

ずーと見ていくと、だんだんもっとひどい言葉が出てきて、もう女子には見せられない。

「功、よかったな。真実しか書かれていない。」

「……鷹十君が書き込んだの?」

「アホかよ!んなわけあるか!!」

「こうやって、僕のこと毎日検索してくれてるの?」

「………」

鷹十は功の性格を知っているのでいつも絡みに行くが、だいたい負ける。


「功、噂で聞いたんだが彼女できたんか?」

「手前かな。ちょい嫌われてるけど。いい感じ手前なのか、避けられてる手前なのかよく分からない。」

「嫌われる手前だろ。その人に会わせてくれたら、俺がお前がマジ遊んでないってちゃん教えてやろう。」

「えっ、ホント?」

でも時々勝つ。



「功、行くぞ。先輩お疲れ様です。」

と、乗せられそうになる功を与根が引っ張った。

「お前も先輩とか言うな!!」

同級生であり、与根の方が業界人としては完全な先輩だ。

「じゃあ鷹十君グッバ~イ!」

と、功がブリッコして手を振る。


「あいつら、ムカつき過ぎる!!」

「鷹十、やめとけってば。」

そうやって他のメンバーにたしなめられた。これもいつものことだが。


「なんであいつはモテるんだ?」

「女性を大切にするからじゃないか?」

「いい加減だし、遊んでんだろ?!」

深い仲の子はいなくとも、なぜか女子が一緒に食事をしたがる。あんなにいい加減で、ダンマリの時もあるし気分屋なのに。

「お母さん大事にしてるのとか、みんな見てるし。」

「継母なのにな。」

「だから、なんであいつは、マザコン扱いされないんだ!!」

「されてるし。」

「『結婚したら、相手が可哀そう』扱いもされないだろ!!」

「……楽しそうだからじゃね?」

道さんと周りのみんなも仲がいい。


アイドル時代ほど道は仕事の面倒を見ていないが、時々来ると雰囲気がいいので、みんなけっこう気になるのだ。最初は功が怖いので近寄らないし、寄ったら寄ったで不愛想なので敬遠するのだが、何かのきっかけでそこを越えてしまうと、あの周囲は居心地が良くなるらしい。


ただし功も女子には比較的愛想がよく、自分が好きな女性には自ら挨拶に行くどうしようもない男である。




***




別の時間、功は先、鷹十に開いてもらったサイトをじーと見る。


『でも(すけ)、バンドマンのくせにまだ独り身』

『んなわけねえだろ』

『わらかす』

『結婚できてもぜってー高速離婚』

『結婚離婚セット』

『その後、身持ちを崩すまでセット』


功はLUSH公式のサイトの自己紹介にも、夢は結婚と書いているので狙い撃ちされていた。この後に続く言葉はもっと汚い。


くっそ、こいつら……、と苛立ってくる。


『お前らも俺と同類』

とだけ打って送信しようとすると、与根に叱られる。

「あほか、学べ!」

と、スマホを取り上げられた。

「最近エゴサはしていないと思っていたのに……」

「だって、鷹十君が……」

「鷹十は関係ない。功の責任だろ?」


と、そこで気が付く。


『お前らも俺と同類』が送信されていたのだ。

「え?」

「うおっ!」

なぜ?と、よく見ると、ログインなしで書き込めるらしい。送信を押してしまったのか。


「まじか……」

「テンちゃん……」

そこにやって来たテンちゃんに頼る。

「はぁ……。報告事項だね………。管理人にお願いしないと多分消せない。」


放置した方がいいか、消してもらった方がいいか。まず上に報告になるが、サイトは『本人降臨?』『でも助アホ~~wwwww』『まさか』『なりすますな』と賑わっていた。それから、功はまたこっぴどく叱られたのであった。




***




そして仕事帰り。


「尚香さん!」

尚香がアベニュービルから駅に向かおうとすると、聞きなれた声。

「っい!章君!」

と、言ってしまって周りを見渡す。


「なんで!」

「最近、シューナによく行き来するから~」

「ライブは?」

「これから定期ライブ減らすことになってて。今は他のバンドが枠取ってるんだ。」

「……?減らしたら他の仕事は?ないの?」

「あるにはあるけど……、だから今日はシューナで!」

と、2階ロビーに上がるエスカレーターを指す。

「来年からスケジュール変わっていくから、来年から忙しくなるかも。」

「………なるほど……。がんばってね。」

「え?さみしくない?」

「……章君とここで会いたくないんだけど……。」

と、周りを見ると既に、他の社員も降りて来ていた。



「あっ、久保木さん!」

「へ?」

そこに現る、部長や久保木本部長。


「……あ、チョウシャさん。」

「お!君が庁舎君!」

「え??」

久保木や部長がなぜ庁舎君の本体まで知っているのだと、尚香が戸惑う。

「庁舎君!私、金本さんの上司です!握手いいですか?!」

と、60代後半のおじさん部長が目をキラキラさせながら言ってくる。

「上司?いいですよ!」

と、章は両手でがっちり握手をした。


「やったー!!」

ウキウキの部長、こっそりながらハイテンションだ。

「都内のどっかで偶然見かけたってことにしとくね!娘と孫に自慢できる!!」

「……こちらこそ、金本さんをよろしくお願いします。」

と、章が礼をするも、部長の孫まで功を知っているのかと尚香は震える。しかもなぜ章君に自分をお願いされるのだ。



そしてそこに現る、ジノンシー側の問題児兼代(かねしろ)。ここでは目立つため、飲みに行くというのでやめさせようとすると、なら尚香さんは来ないで下さいというので、見張りも含めて仕方なく動員されるのであった。




***




部長の乾杯で食事が始まる。


既に部長と兼代は程よく酔いが回って気持ちが良さそうだ。兼代と章を尚香が睨むも、全然堪えていない二人。

「兼代君、お酒弱いんだから自制してね。」

「尚香さんが強すぎます!」

「ははは、まさか庁舎君と飲む日が来るとは!」

「……………。」

そんな庁舎君は頷くだけで、聞かれたことしか話さない。

「庁舎君、いいお姉さんを持ってよかったね……」

部長が語りに入るので、尚香が嫌そうだ。


なお、会社課内の認識は、尚香さんの従弟はLUSHの功と思っている人と、いや従弟でなくて結婚の線もあった人ちゃうの?という人がいる。こんな時代だから、話題に出したり本人が言わないのであえて確認しないだけだ。兼代はもちろん後者だが、久保木と部長は従弟だと思っている。


「もう本当に金本さんはね、昇進させてあげたいんだけどね。昇格で留まって勿体ない。」

「…自分で決めてるからいいんです。最近は40、50で復帰してそれから管理者になる方もいるので、もう少し考えます。」

「えー。尚香さん、それは産休や育休のことを考えてですか?」

兼代、何の遠慮もなく尚香には聞いてくる。やめてほしい。



20代から一直線でこの道に来れたら今、それもありだっただろう。でも、尚香はあっちこっち職を変えて、そうはなれなかったし、まだ完全に結婚の線が消えていない。それにイットシーは子育て後復帰の主婦が、ナオともう一人いると聞いたのだ。人によっては更年期など挟むし、思い通りの役は持てないかもしれないがそれもありかなと。


「兼代君。それ、他の社員に言ったらアウトだからね。この時代。」

「尚香さん、怖いです………。」



でも、尚香には昇進したくないもう1つ大きな理由があった。


尚香は目立ちたくなかった。



たとえ東京でも目立つのだ。20代で女性が大きな役職を持ってしまうと。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ