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スリーライティング・上 Three Lighting  作者: タイニ
第九章 猛進の始まり

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65 好青年章君



今日は晴天。


久々の愛知県。名古屋駅で知り合いの車に乗り合わせた尚香は、ハイキングコースの麓でみんなと落ち合う予定だ。


この前は散々であった。

章がこの会についていろいろ聞いてくるので、愛知のどこどこの山に登る、何時ごろという話をしたら、章が自分も一緒に行きたいと言い出したのだ。目上の方が多く来るしそういう場じゃないと言うもしつこい。家族参加OKでも、知らない人を連れて行くような場ではないのだ。



そうして山の麓の駐車場に付き、横の広場に集合する。


「尚香ちゃん!!」

「社長、お久しぶりです!」

「尚香ちゃん!元気だった?」

奥様も喜んでいる。

「高木さん、こんちには!」

「おー!金本さん!」

数人を社長と言うも、ここは半分以上が中小企業や個人事業の社長会長である。運転をしてくれたのも、酒蔵の社長御夫婦だ。


「尚香さんが来るって聞いて、うちの息子も連れて来たよ。」

「あ、こんにちは!」

「お久しぶりです。」

茶髪だが、人の良さそうな青年が礼をする。

「結局あれから息子が継いでね。」

「本当ですか!」

色々揉めていたが、息子が父親を見て仕方ないように笑った。

「私はもうご隠居だな。」

「まだ若すぎますよ。」

と、和やかな会話が続いている。



みなさんと、あれこれ挨拶をしていると、電話が鳴った。

ん?と見て見ると、山名瀬章だ。

「…………」

無視するも、また掛かってくるので、仕方なく出る。


「ちょっと章君なんなわけ?!今日は出ないってば!」

と怒ると、どこにいるのと聞かれた。

「だから今日は山に登るんだって言ってるのに。」

『だから、どこの駐車場?』

「へ?」

どこだっていいだろうと思う。


『宵の丘?』

「よいのおか?」

は?と、駐車場の先にあるお店に『ようこそ宵の丘』とある。


……え?


嫌な予感がする。


そして、ジーと目を凝らすと、ありえないことに奴が立っていた。



「なっ??」

「あ、尚香さーーん!!」

「??!!!!」

尚香は信じられない顔でそこを見て固まってしまう。


あの、長い手足。間違いない。山名瀬章だ。


……………信じられない。


「……うそっ!」

しかもこっちに来る。

「知り合い?」

いえ、と言いたいが、奴は容赦ない。

「金本尚香さーん!!」


「金本さん、お知り合い?」

「…………」

違うと言うには遅すぎた。

「………偶然………」

ちょっと泣きそうになるも、東京から愛知。しかも田舎の山裾。偶然と言うには運命が過ぎる。


が、運命のわけがない。




尚香は奴がこっちに来る前に、急いで章の元まで走っていく。

「あ、尚香さん。来たよ!」

「来たよじゃない!何考えてるの!!ストーカーじゃない!!」

「…………」

尚香が泣きそうなのに、章の方が泣きそうな顔をするのでむかつく。


「なんのつもり??!」

「ストーカーではないつもりなんだけど……」

シュンとしている。

「それはされた方が決めます!!こんなの知ったらナオさんが超怒るよ!」

「……戸羽さんの方が怒ると思う……」

「分かってるんじゃない!」

というと、恐ろしいことに皆さんの一部がこちらに移動してくる。水でも買い足しに来たのか。



「しかも何?その恰好!」

タンクトップに近いノースリーブだ。

「……暑いから。」

「暑くありません!着替えないの?」

「あるけどなんで?」

「冬前の秋の山にその恰好は何?」

「暑いんだってば。上着持って来てるし。寒かったら着る。」

「TPOを(わきま)えて!せめて袖付きを着て!」

「えー。」

と不平を洩らしながらも車まで連れて行き、どうにか車内でTシャツに着替えさせた。若者同士で遊びにくる場ではないのである。

「指輪とかも全部外して。」

シルバーの腕輪、指輪。そして、腰にチェーンまでしている。


「そのダメージジーンズもやめてほしいんだけど!」

「え?ここで脱ぐの?脱いでいい?」

「ストップっ!」

この男ならやりかねないので慌てる。車内で着替えているのでいいのだが。


「腰のチェーンもダメ!いつの人なの?」

「……尚香さんて、年なんだね…。今の若者にはこれが斬新なだよ。尻尾も着けるんだよ。もう流行5周くらいしてるし。」

お財布を無くさないために繋げているだけである。

「私の時代よりもっと前です!財布は鞄に入れてっ。」


「指輪くらいダメ?」

「幅2ミリ以下のシンプルなの以外は全部外して。」

全部外す対象であった。

「怖いなあ……」

「全部しないなら今すぐ帰って。」

「リストバンドはいい?」

「だめ。」

「なんで?!」

「こうなったら徹底的に!」

でもバンドを外すとテーピングがしてあった。

「……怪我したの?」

「…少し力が入って。」

「ならバンドはいいよ。ごめんね。」




………本当に信じられない………。


と思い、山に登る前からげっそりである。



「尚香ちゃん?お知り合い?」

そこに一人の奥様が声を掛けに来た。

「すみません。偶然知り合いが……」

「あら、おひとり?ご一緒する?」

「彼、友達と……」

「一人です!さみしいです!!」

と、章、元気に答える。




そしてみんなに簡単に自己紹介されて、章もなぜか混ざってしまった。


ここでは初めて参加する人が一人でもいれば、一旦全員自己紹介をする。一人やたら背が高いのと若いので目立っているも、さすが自営業者の集まり。章にまでよくしてくれ、みんないい人である。違和感ありまくりなのに。


山木くんも自己紹介をする。

「今年から山木フォトを継ぎます、山木義人(よしと)と申します。普段は青年部会の方で連絡役をしていますが、今日はあいさつで来ました。」

と礼をすると拍手が起こった。


『ほら、尚香さん。若い人もいるし。』

と、章がこそっと言うと、だから何?と叱られる。


そして、会長が挨拶をしてから、尚香の方を向いた。


「えー。そして、今日のゲスト。東京からいらっしゃった金本尚香さんです。」

尚香が少し照れ臭そうに頭を下げた。

「金本さんが以前の会社にいる時に、我々も非常にお世話になりました。私たちの事業アドバイスもしてくれて、あの頃会員もまた増えました。」

数人の新顔以外、だいたいみんな尚香のことは知っている。事業主が少なくなっていた頃に、活動方針を改めて若手の自営業者を青年部会に繋げたのが尚香だ。


「そして、少々遅くなりましたが、今回は金本さんの仕事復帰祝いでもあります。」

その言葉と同時に拍手が起こった。


……?

なんだそれ?と、章は思う。


「なんだかんだ予定も合わずに、もう2年も経ってしまいましたが、金本さんが再就職された時……本当に安心しました。」

なぜか会長の目が潤む。

「金本さんの今の会社の上司や同僚の方たちに本当に感謝です。」


そこで尚香に話が振られた。

「あの、皆様。心配して下さって本当にありがとうございました。今回、ご招待いただいて本当に感謝です。」

尚香が最後に頭を下げると、大きな拍手がまた起こり、尚香にいろんな声が掛かる。よく見ると、尚香も少し泣きそうだった。


何なのだ。再就職はそんなにすごい事なのか。わざわざこんな遠方の人が祝ってくれるほどなのか。





ハイキングコースは1時間半。

山の中に入り込む経路ではなく、他の山裾に向かう。その先に昼食を取れる休憩所があり、また1時間半かけて別のルートを下って戻り終わりである。



木に思いっきり囲まれた道もあれば、少し膝を上げないと登れない階段もたまにある。久々の全てが自然だ。


慣れた人たちは、通りすがりの人に「こんにちはー。」と挨拶をしながら先に進む。




「尚香さん、山登りって言ってたのに、これ登山じゃなくて散歩だし。」

参加させてもらっている立場なのに、章が太々(ふてぶて)しい。

「尚香ちゃん。忙しく働いているだろうから、簡単なコースにしたんだよ。」

と、おじさんが笑っている。



「……おかしい……」

そして、歩き始めて40分ほどでたった一人、音を上げた。

「都会人ってよく歩くっていうから自分、平気だと思ったのにけっこうキツイ………」

東京ジャングルの地下や街をあんなに歩いているのに、尚香ちょっと辛い。

「……一緒にジム行く?」

章が憐れな目で見ている。

「いいです。」



「はは、尚香ちゃん。ゆっくり行こうか。」

会長の奥さんが気を遣ってくれるので、少し水を飲んでまた歩き出す。

章は既に他のお父さんたちとだいぶ前に進んでいた。もう全部白髪の人もいるのに、おじさんたちの方が全然疲れていなさそうだ。


「ねえねえ、尚香ちゃん。もしかして彼氏?」

「かっこいいねえ。」

「ちょっと意外なタイプだけど、今時の子はみんなあんな感じなのかな。」

そんなわけがない。

「義人君もラフな感じだしね~!」

「どうなの?彼、付き合ってるの?」

奥さんたちが楽しそうに聞く。

「……違います。親戚です。」

「えー、そうなの?」


「……ラッシュの功だよね?」

夫人の一人がこそっと言った。

「!!」

そこで、止まってしまう。


「え?違うの?」

「……」

「ラッシュ?」

「歌手!うちの娘が大好きなの!」

周りに4人ほどいるが、みんなザワザワする。

「……違います……」


「でも、功ですよね?」

なんと義人君も知っていた。

「!!??」

後ろから追い付いた義人君が奥さまたちと騒ぐ。


「お忍びデート?隠さなくていいから!」

「違います!!!」

「大丈夫、黙っておくから。章君がいいって言ったらサインだけちょうだい。娘にあげたいな。」

サインとか、章君のあの汚い字がほしいのかと、尚香にはなかった発想で驚くしかない。


そんな会話をしながら行くと先にゴールが見え、章は既に目的地に着いているようだった。



お父さんたちと一人にして大丈夫だったかな……と心配していたのだが、意外や意外。まるで普通の人のようにその場に馴染んで話し込んでいる。日舞とは真逆だ。


「いやー、尚香ちゃん。彼いいねえ。」

会長たちが楽しそうに声を掛けて来た。

「章君ですか?」

「お父さん、建築家だったみたいだね。うちも住宅建設だからいろいろ気が合って。」

「富田さんとこは、スペースデザインでけっこう大掛かりなことしてるから、今度現場見せてあげたらどうだ?」

「スペースデザイン?」

インテリアや店舗などだろうか。

「彼もそういう仕事してるって。」

「………」

章と話が盛り上がるなど考えられないと思いつつ、まだ向こうで他の人と和やかに話していた。


「?…??」

なに、何あれは?日舞でのだんまり章君は何なの?と思うも、考えてみれば章は最初のお見合いで全くの好青年を演じていたのだ。尚香だって騙されていた。なんて男だ………と思わざる負えない。演技もできるのか?



でも、それは詐欺案件である。


演技まではよくても、そういう嘘は許せないと尚香は章を呼んだ。





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