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スリーライティング・上 Three Lighting  作者: タイニ
第八章 夢のまた夢

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58 思いがけないお見合い



「??」


なぜ?なぜ?という顔で、道子と洋子の前に座るのは正一(しょういち)




『そういえば、お礼にご馳走して下さるって言ってましたよね?』

と、道子から電話が掛かって来たのだ。


あれ以来遠慮していたけれど、自分のパーティーでも歌ってもらっているし、約束していたのでさすがに申し訳ないときちんと食事の場を設けたのだ。会社の人も誘ったが、どう転ぶか分からないから、お前だけで行って来いと送り出された。



たわいない会話をしながら食事も済ませ、夜景のきれいなラウンジに行く。


「………」

珍しく洋子が夜景に釘付けになっている。

「どう?洋子、きれい?」

「………あそこに赤いのが見える……」

「東京タワーだよ。何か飲み物飲む?」

「………いい。少し、ここで見てる。」


窓際にいるので、その近くの席に正一と道子は席を取った。



「…………道子さん、今までありがとうございました。」

きっと、これで終わりだろう。

「………いえ。こちらこそ!」

そう言って、道子は洋子ごと都内の夜景を包み見る。



「あの……、山名瀬さん……」

「………?」

「洋子、どう思います?」

「洋子さん?あ、はい。ステキな方だと思います。」

「…………」

そんな正一を、道子は安心したような、胸が締まるような思いで見る。

「少し難しい子ですが、とてもいい子なんです。」

「……ええ。」


「洋子!」

と、道子が洋子を呼ぶと、気の強そうな、でも内面はオドオドした女性が二人の元に来る。人が苦手と聞いていたので、道子や真奈美を間に入れなければこれまでほとんど会話はなかった。演奏をする時、そして歌う時の変化に驚いたくらいだ。


夜景を背に浴び、長いストレートの髪に前髪を軽く切りそろえたその女性は、その通路ですらちょっとしたランウェイのように舞台を作る。



「…………」

そして、何も言わないでいる二人の席に洋子は座った。


「山名瀬さん。洋子とお付き合いはどうですか?」

と突如言う道子と、少し顔を赤らめて違う場所を見る洋子。

「はは。ちょっと私にはキレイすぎます。」

と笑ってカクテルを口に含んでから正一は………、


ぶはっ!となる。


「……うっが!」

「大丈夫ですか?!」

情けないことに、カクテルのハルクを吹き出し、グラスも傾けスーツにもシミを作ってしまった。道子はサッとおしぼりを出す。


「…………」

それを洋子は呆然と見ている。また嫌がられた?という思いと、目の前で相手がなぜむせたのか、状況を瞬時に判断できないのだ。


「え?え?え?え?っ、何をおしゃってるんですか!!ダメです!ダメ!」

「…………」

「…………」

今度は姉妹に4つの目でじっと見られてしまう。

「それは無理です!」

雰囲気は違うのに、よく見るとこの双子は似ている。と、そういえば双子である。


「どうしてですか?」

「どうしても何も!」

妹がダメだから姉に手を出すとかなんの最低野郎だと思う。

「絶対無理です!!」


「………」

またしても姉妹にじっと見られるも、正一は思う。姉がダメって、自分はなぜそんなことを思ってしまったのだ!あまりにも驚いたからだが、口にすればあまりにも失礼な話しだ。


しかも道子は別に、こちらが付き合うフラれただの話をしていたことは知らないのに。

「その、あの……無理ですから……」

と言ったところで、目の前の黒髪の女性が呆然自失の顔をしている。

「………………」

「!!」

それはそうだ。自分は妹のファンっぽくて、なのに彼女には彼らしきものがいて失望して、だからと言って姉に手を出すとかどうかしてるだろ!という正一の胸の内を知らなければ、洋子に対するただの否定だ。「絶対無理」とかどうかしている。他に言い方があっただろうと、正一は自分を責める。


「………………」

洋子はいろいろ言いたそうな顔で、でも何も言わずに下を向いてしまった。

「あの、違います。変な意味でなくて!その!」


「……………」

ハイチェアをスーと回転させて洋子は向こうを向いてしまう。


「……あ、あの…………」

「…………」

道子も、今になって正一の気持ちを考えていなかったと後悔してしまった。しかも、安心しきっていた分、洋子に本当にいい人なんだよと何度も言ってしまった。


「あの……、あの、洋子さん。違うんです。」


洋子は顔を見せず、後ろ姿のまま、先の夜景の方に歩き出す。それを追いかけていく正一。




道子はまた夜景と一つになっていく、二人の後姿を眺めていた。


そこには大きな景色が広がるのに、道子には二人の方がずっとずっと大きく見えた。







結果、正一からの返事は、様々謝りながらも『お付き合いはできません』であった。



仕方ない。

道子はため息をつくも、正一は悪気があって言ったわけではないと洋子にも伝えて謝った。




けれどその裏で、三人が知らないうちに動いていたのは、ステイ先の娘の真奈美であった。




***




「お見合い?はい?」

正一はまたしても頭が??になる。


普段会わない母方の祖母が、突然電話をしてくる。


正一と道子がいい感じだと、真奈美が静岡旅行の後から母親に話していたのだ。双子が両親も両祖父母にも先立たれたと知っていた真奈美の母が、二人の将来を心配してしまう。そして、この前の事務所のパーティーに来ていた()()()()()()()()()()に出会った真奈美が、そのことを母に告げると、母は自分の母に伝える。


かつての商工会婦人部長でバリバリ活躍していた真奈美の祖母は、孫が受け取った山名瀬のデザインの凝った名刺にサッと連絡し、山名瀬家を割り出す。



そして、あれよあれよとお見合いの場を設け、本人たちにお互いを知らせずになんと本当にお見合いさせてしまった。

山名瀬家の方も、孫たちがなかなか結婚しないので渋れを切らしていたのだ。



「本当にお見合いですか?職場を任されたばかりなので、落ち着いてからにしてください。」

「何言ってるの!そう言ってまたどんどん、数年後、数年後になっていくんでしょ!」

「同世代で結婚してない人はいくらでもいますけど……」

「これは強制です!!会うだけでも会ってみなさい!」

と、仕方なく動く。



正一はふとあの人を思い出す。まだ気持ちは浅い。あの人を好きになる前でよかったと。




もちろん、正一の気も知らずにバックグラウンドは二人の見合いの場を準備。



そしてもちろん、そのお見合いの場に来たのは………


これには山名瀬側も驚く。

真奈美の言っていた道子という女性ではなく、着物で美しく着飾った洋子であった。




***




「それで、『一旦様子を見ましょう』と言ってしまったのか………。」

「結婚してしまえ。」

「バカだな………」

「すごい運勢の波が押し寄せてないか?それを断ち切れるのか?」

「その後はあと10年後しかなさそうだな……」

「双子二人分だから20年だろ。」


新事務所でディスクに顔を伏せている、山名瀬正一。

驚いたものの、結局返事は濁したのだ。



あの夜の、洋子の落ち込んだ顔を思い出すと、バサッとは断れない。

相手の機嫌を取ろうとかではなく、本当に芯から気落ちしてしまったような顔であった。だからと言って、いきなり「はい!では!」という気持ちにもなれない。



それに断った極めつけがあった。


苦悶を浮かべて正一は語りだす。

「彼女たち………」

「彼女たち……?」


「10代だったんだ…………」


「…………!!」

「っ!!!」

それは驚く。


みんな驚愕するが、一部女子社員のみ驚かない。

「知らなかったんですか?」

「知ってたらお見合いなんてしない!!」

「……えー。いいじゃないですか。」

「すごい!!このチャンスを活かさない男がいるのか?」

「昇格に嫁に、今しかないだろ。こんなボーナスステージ!」

「10歳差だぞ!10代だぞ!少し前まで高校生だろ!」

「……すごくしっかりした子ですよね……。道子さん。」

「僕なら行きます!!どこまでも!」

「うちのインターンより若いじゃないか!」



「……はあ……、大学生だとは知っていたから………。それでも22、3歳だと思っていた………。」

背も高いし、道子は考えも大人でまさか10代とは思わない。

「それでも若すぎるのに…………」

そもそも、お見合いの場にリース姉妹が、洋子が来ると思ってもいなかったのだ。




そこに現る、勝手に縁を繋げた張本人の一人。正一の従兄の息子だ。

「こんちはー!(しょう)ちゃーん、お見合いどうだった?」

宏大(こうだい)!なんであんなこと!!」

「えー?正ちゃんのためだよー。」

勝手に名刺を作った、勝手な男、宏大である。


「宏大の方が歳が近いだろ!!」

「え?そうだっけ?あまりにも正ちゃんと雰囲気がいいから、頭になかった!」


「宏大さん、でもお見合いしたの、大人しかった洋子さんの方ですよ。」

「え?そうなの??なんで??」




そんなふうに、職場もプライベートも固められてしまった正一は、周りに押されてあれよあれよと洋子と縁を結ぶことになる。



双子は一旦イギリスに戻って、様々なことを畳み、次の年には二人は揃って日本に。道子は一旦大学休学しを日本に留学。洋子一人では、とても移住なんてできなかったからだ。


そして、真奈美の家ではなく、今度は正一の近所の独り身のおばさんの家にホームステイをすることになる。おばさんは夫に先立たれてから暇々(ひまひま)していたので、物珍しい双子を大歓迎であった。



このおばさんが、二人の面倒と、後に生まれる山名瀬兄弟をよく見る若葉(わかは)おばさんである。


親戚でも何でもない、本当に近所のおばさんだ。以前正一のゴミ捨ての曜日が違うと注意して、おばさんが近くのスーパーでバイトをしていて再度会い、そんな脂っこい総菜ばかり食うなと叱って時々おかずを正一に持って行くようになってから仲良くなったのだ。今の時代だったら、なかなか作れないご近所関係である。

これまでたくさんの男を落としてきたスナックのママと言われるが、若葉は結婚前に美容の仕事をしていただけで、後は安いレジ仕事しかしたことがない。




新しい家を準備し、きちんと入籍するまで二人の姉妹は若葉おばさんの家で暮らす。


とっくの昔に結婚した一人息子は、出張以来ずっと大阪に。おばさんにとってちょっぴり変わった双子は娘のようにかわいかったのだ。






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