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スリーライティング・上 Three Lighting  作者: タイニ
第七章 進むのに進めない

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47 光と影

この小説、いつも食事風景ばかりですみません!



「尚香さーん。お昼しましょうよー。」

という、ジノンシー社員の誘いを断って、また昼休憩に抜け出した尚香は、駅の反対に行きビルの谷間を駆け抜ける。




「いやー、金本さん。本当にすみません。」

と、頭を下げてくるのはロン毛と髭のイットシー社長政木と、以前の飲み会の清算をしてくれた功のマネージャー三浦。そして、きちんとした姿勢を崩さないも警戒を感じるスタッフ興田。そして申し訳なさそうな顔をしたナオであった。


またイットシーに夜の食事に呼ばれた尚香は、最初は速攻で断った。ただでさえ、仕事の都合で家で夕飯もできていないのに、これ以上時間を潰されたくない。それでも会いたいと言われるので、1時間というお昼休みならと出てきたのだ。時間が限られているので、深い話にもなるまい。




と、食事に出てきたものの、

しかしなんだ。


これまで、社長とバンドメンバー以外は基本女性としか会っていないのに、今日は男性スタッフだ。しかも一人はなんだか胡散臭く、一人は明らかに尚香を警戒している。尚香は上辺だけの笑顔など信用していない。必要以上に意識もしないが。



「こちらは功のマネージャー。」

「三浦と申します。先日は功が本当にご迷惑をおかけしました。」

「どうも。金本と申します。その節は、ありがとうございます。」

三浦は名刺を出すも、尚香は名字の紹介だけだ。


もう一人、明らかに尚香を好いていないだろう、興田(おきた)も尚香に名刺を出す。肩書は舞台監督であった。


「それで、お話とは?」


「………」

ナオ、言葉がない。ここ最近、LUSHの功のことであれこれ世話してしまったコウカさんに対し、スタッフの間でも賛否が割れている。それで興田が、話したいことがあるしどんな人か見たいと言ってきたのだ。

ただ、仕事に関わらなくもないが、プライベートと言えばプライベートなので微妙なところ。どんなにイットシーに関わっても、尚香は章や真理、和歌やナオとはプライベートの仲だ。ただ、あまりにイットシーの顔ぶれ過ぎるのが問題なだけで。


社長としても、正面から何か言えば、金本さんなら「なら、後はイットシーさんの方でお好きにしてください」で、終わってしまいそうなので言いにくい。今日だってナオに任せればいいのに、なんとなく気になるので他のスケジュールを調整してまでここに来てしまった。



そもそもあの男が悪いのだ。

スタッフが功と出会って数年間、これだけしたいことを押さえてきたのに、なぜコウカさんのお膳立てしたスケジュールで動いているのだ。本来なら章自身で管理すべきことなのに、奴が公私の別ができないのであらゆることが混合している。


普段なら仕事の顔を脱がない社長とナオが何も言い出さないので、興田が話し出した。

「功に様々なきっかけを与えてくれてありがとうございます。」

「………」

顔だけ向けて、尚香は何も言わない。それで何でしょう?という顔をしている。

「功も何かとうまくやっっているようで、感謝しています。」

「………あ、はい……。」

「…………」


困ってしまう興田。間が持たないので、思わず言いたかったことを言ってしまう。

「金本さんはウチのバンドをよく知らないみたいですね。」

ライブにも来なければ、検索すらしないらしい。

「………」

コウカさん、まだ何も言い出さない。


「色々するのもいい事ですが、僕たちには僕たちの描きたい世界があります。それで………、何かをさせるのも少し慎重に内容を決めてからがもっといいですよね。何も知らないわけですから。」

「………」


いつもポンポン話す尚香さんが無口なので、どうしていいのか分からない社長たち。これは想定外である。

「………」


なんとも言えない沈黙が漂うも、ここで初めてコウカさんが話し出した。

「……私は、皆さんに差し障りのないように、功君のスケジュール確認をしただけです。その中で自分が知っている個人的にお勧めできるものを紹介しました。仕事そのもので役立てようとかではありません。それは功君次第です。そもそも私の時間に差し障っていますし。」

「…………」

「何かを学ぶことは、今使えなくても将来的に役に立つこともあります。仕事としてでなく、自身の生活の豊かさや幅にも広がります。

私が仕事だけでなく、気分転換に習ったように、章君にもそうしてほしかっただけです。様々な場に出るようになれば、しぐさや作法が身につくことは損ではないと思いますし。」

よく分からないほどの、模範解答。面接か。


そんな、趣味の範囲みたいな話しをされて、興田は何か頭にくる。

「……趣味でものを考えられていいですね。」

笑顔で棘のある言葉を放つ。こちらはLUSHだけ抱えているわけではない。音楽やファン、イットシーやスタッフ、関係会社、たくさんのものを抱えている。



同時に、興田の話にイライラするのはナオである。

しょっぱなからこんな話で、興田の首根っこを掴みたい。こっちが無理やり尚香をあれこれ引きこんだようなものなのに、「なら、うちに来させないで下さい」と言われたらどうするのだ。いつも言われているが、尚香の堪忍の尾がどこまでか分からない。



しかし、予想外にも今度はコウカさんがニコッと笑う。

「……そうですね、それで自分もゆとりができて、いろんな考え方ができるようになりました。」

「?!」

一見、興田の話を何の捻りなく純粋に受け入れた素直な娘のように見えるが、ナオと社長は絶対に違うと思った。怒らせたのか?そしてやっぱり強者、ここで皮肉が言えるとは。


しかし、コウカさんと初めて面して、見た目は噂通り「普通の()だな」としか思わなかった興田は、内心戸惑う。「まあ、いい子はいい子なのかな?世の裏を知らない、純粋な娘なのかな?」と感じてしまい、だんだんどう反応していいのか分からなくなってきた。


「私も、お見合いお付き合いどうのとかいう関係でなければ、皆さんの音楽を純粋に楽しめたかもしれませんが………」

という尚香に、さらに興田が困ってしまう。



けれど、ここでナオ。今度はナオが許せない。

それは尚香の完全な体面の言葉だ。何が純粋に楽しめただ。見てもいないのに。最初はそれで避けていても、ここまで来たらもう少し関心を持ってくれてもいいだろう。せめてかわいい従弟、功君が歌う姿くらい見てあげてほしい。


「それは違います!!」

どうなの?と乗り出してしまう。

「尚香さん、ならもっと関心持ってくれてもいいじゃないですか?本当はどうでもいいのに!そんな口だけのこと言わなくていいです!私たちの仕事、評価するしないの前に見てもくれないなんて!」

と、ナオ、思ったことを現実に出力してしまった。

「??!」

尚香も皆さんもビビる。方向性の会議や現場はともかく、こういう会食でナオが声を張り上げるところを見たことがないからだ。


「あっ……、すみません………。」

と、ナオは我に返って大人しくなった。

「……好みでもないものを押し付けるわけにはいかないだろ。金本さん、すみません。気にしないでください。」

社長が謝る。趣味や推しを押し付けることほど鬱陶しいこともない。この場合、無理やり営業にもなってしまう。

「はあっ~!」

と、唸ってなぜか操縦不能になっているナオを見て、興田が慌てた。ナオは騒がしいメンバーを宥める役でもあるのに。



「最終的にすると決めたのは功君です。しかも取り敢えず3カ月で、好きな日に週数時間。今のところスケジュールに問題はないはずです。大きな変更があれば、功君と話し合えばいいですし。それではいけなかったんですか?」

「…………」

俺たちが動かせなかった奴の行動を動かしたのが気に食わないとは言えない。半日フラフラしても、それでお金になっていたので事務所も文句が言えないのである。変わりがいくらでもいる世界だが、そうでないものもあるのだ。とくに日本は今、新しい才能において行き詰っている。


そして尚香が付け加えた。

「それに勿体ないです。」

「?」

「大学生の年齢の男が、あの狭苦しい家でうちの父としょっちゅうチェスとかしてるんです。どうせ毎回負けるのに。私は大学生の時、勉強して働いていました。動かしましょう、彼を!!仕事させたいなら、させてください!」

「はい?」

「でも、今の子はあまり無理をさせると……」


「それなら、自分の家で籠っていればいいだけでしょ?」

まあ、そうではある。

「うちにはウチのルールがあります。うちに上がる以上、ただのニートでは困ります。」

「ニートじゃないし!」

「少なくともウチの空間ではニートです。せめて学ぶニートになって下さい。」

「家事手伝いって言ってましたけど?」

三浦付け足す。皿洗いもしていると言っていた。

「なら、お料理教室にでも通わせてください。基礎も学べると思います。こっちは台所を荒らされて困っています!」

「これ以上章に何させるんですか!!」

今度は興田が怒る。韓国では男性有名人の家事お料理、飲食店番組などウケるが、韓国事務所でさえ功に期待していなかったことをさせるのか。バンドマンはバンドマンであるのに。他でどうあれ、日本ではバンドマンなのだ。



興田、許せないどころか、素で言ってしまう。

「金本さん…。言わせてもらいますが、余計なことをしないで貰えますか?」

「余計なことってなんですか?」

「功に余計なことをさせないで下さい!」

「許可をいただいたのに、余計なことなんですか?余計なことはダメなんですか?」

顔はキョトンとしていても、ここぞと衆議院を責める政治家みたいなことを言うので余計に頭にくる。

「功にそんな余裕はありませんっ。」

「なら、うちに来て余計なことをさせないでくれますか?」

「うちの功は余計なんかじゃないです!!」

今度は三浦も参戦。カオスである。



「………」

なんだか、子供のケンカような状態になってしまい、社長はどうすべきか考える。前後事情を並べれば、明らかに失礼なのは興田と事務所だが、金本さんにももっと大人な対応をしてほしいと要求してしまいたい気分になる。勝手なことに。



正直、事務所側としては、功が金本家に出入りしてまっとうなことで時間を潰しているなら、少し利としていることもあった。

それは、功の行動を把握できることだ。この業界は簡単に言えば水商売で、人生流れのような生き方をしている者も多い。様々な思惑とお金と悪意も飛び交う。


社長は思う。

もし道さんが功の母親でなければ、功がアメリカでお世話になった教会の牧師が功によく言い聞かせなければ、功はすでに人生の道を踏みはずしていただろう。女も男も簡単に言い寄って来る世界だ。


実際、功が日本に帰って来てライブハウスで歌っていた時、既に様々な者がすり寄って来ていた。変わり種の功を客寄せにしたい者、韓国関係やアイドル落ちこぼれとしてネタにしたい者、何とも言えない不安定さと危うさに惹かれて来る者、出入りしてほしくない集団やライブハウスに誘う者、ガキのバンドだといいながら酒を飲まそうとする者。


政木は急いでいた。


まだ、契約前。飲もうぜと男たちにマンションに連れ込まれそうになっていたところを、どうにか止めたこともある。政木は彼らが女性問題を起こしていることを知っていた。




功と仕事をする前後、韓国の事務所にもアメリカにも連絡してみたことがある。

アメリカのエンタメ業界は最悪であった。正確に言えば、光と影がはっきりしていた。


影では未成年者も簡単に貞操を失い、簡単に大麻や薬物に走る。日本にも同じ図式はあるが、アメリカはその後クスリで死んでも、精神を病んでも気が狂ってもミュージシャンやアーティストはそんなものだと片付けられることも多い。あまりにもそういうことが多いからだ。



教会にはそうして人生が終わりそうだったアーティストたちも、最後の力で身を引きずって、たくさん来ていたのだ。



アメリカは崩れやすい。ただ同時に信念も強く、救いも大きい。


日本は過激さでいえばアメリカよりはましだ。でも、救いが少ない。核が見えず、いつも揺らいで、助かっても心身自傷する者が多い。



どちらがいいというわけではない。

けれど功のような人間が、きちんとどこかに安定した居場所があるということは何よりも重要なことだった。





そんな時、急に後ろから声が掛かった。


「金本さん?」

全員声の方を向くと、そこにはスーツの男性が数人いた。






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