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スリーライティング・上 Three Lighting  作者: タイニ
第七章 進むのに進めない

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46 尚香はどこを見ているの?



イットシー事務所。


「…………」

自由功君は、自分の目の前に提示された来年度の計画に呆然としている。


「なにこれ?来年からこれするの?」

全国ツアーが2回、2期に分けて入っていたのは知っているが、聞いていたより多く組まれているし、これまで組んだことのない人たちとのライブも入っている。


「……習い事始めたのに?」

「取り敢えず3カ月だろ。」

三浦がいろいろ説明していく。

「その代わり功と組んでいけそうなクリエーター見付けたから、会ってみるか?MVの方だけど。」

「男?女?怖い人?気の強い人嫌なんだけど。」

「……顔はお前の方が怖いから堂々としてろ。男だ。」

LUSHのMVを一緒に作っていく新しいメンバーだ。アニメーション以外も作っていくので、新しいクリエーターが必要になる。最近は、画家や童話作家の人たちにMVをお願いしていた。


「ねえ、三浦さん。俺、スライム切りたいんだけど。」

「スライム?」

「スライム切って切って切りまくりたい。スライム愛好家が泣くぐらい。山本さんがキレ散らかすぐらい。」

「……分かった。なら、話に聞いてたけど殺陣(たて)もやっとけ。ネタは漏らすなよ。」

「ほーい。」




***




そんな話をしてから功はLUSHメンバーと作業になり、三浦やテンちゃん、和歌や社長たちとミーティングがある。


「で、功は大丈夫なのか?日舞。」

「問題なく通っているどころか、笑顔がステキなもう一人の男性先生に対し、寡黙な新星として教室ですごく人気だそうです。」

「……なんで寡黙なんだ。」

数回通っているが、彼は未だクールな男なのである。

殺陣も習いたいと言ったら、先生の知り合いにお願いして取り敢えず1か月集中して学ぶらしい。



「普通、ああいうタイプのバンドマンに日舞(にちぶ)とかやらせないですよね…。まあ、元アイドルではあるけれど。」

LUSHは大きくはポップスで、ロックバンドに分類されるバンドだ。あらゆるジャンルをカバーしているが、和楽器はこれまで入れない系で来た。アウト・オブ・キーなところもあり、ダレてはいないが時々気怠い系もあるので、和楽器とは今のところあまりそりが合わない。


売れ行きもそこそこなら、男4人で組んでいた時の雰囲気そのまま行く予定もあったが、やはり異星人功。もう少しいろいろできそうなので、他のメンバーに無害なら、あれこれしようと方向性は元々一致している。ビジュアルにも多様な入れていこうという話だ。

ただし、全員バンド以外のことはしたくないタイプなので、やるなら功に任せると言っている。



「……部外者で素人だから考えられるんですかね?」

今までとちょっと違うことができるので、みんな最近ワクワクしている。この暇そうな男が日舞を習うとは、誰も思ってもいなかったのだ。


イットシーが一つの安定した形態を組み入れたと言っても、この業界は生き物のようにある時あっという間に姿を変えていく。数曲ヒット曲を持っているだけでも息は長いが、こちら側からも常に新しい力を生み出していくことが業界全体の生命力にも繋がる。


「動画や写真は?」

「現場はお任せして先生がセーブしてるんですけど、ネットに載せない約束で多少は撮ったりしています。他の生徒さんたちの練習確認もありますし。1回だけ自分も撮りに行きました。」

と、三浦が答える。

「あとで見せろ。」

社長がいろいろ考えている。



どうせ激務なら、最高のものを作りたい。


所属の他のバンドもいろんな個性を持っているが、理想を出力できるかは別だ。速攻であらゆる技ができるのは俄然、功である。



そこに突っかかってくる人物もいた。

「でも、コウカさんって普通にお勤めの方なんですよね。」

「そうですけど。」

「なんでうちの資本であるボーカルに、余計なことやらせますかね?身内でもないのに。」

興田(おきた)はちょっと嫌そうだ。

本当はこっちがもっと功を使いたいのに、顔も知らない人間に知らないところで看板商品をいじられたくない。興田の中ではLUSHは歌と楽器だけのシンプルなバンドだ。それがかっこいい。



「……それなんですけど……」

と、テンちゃんが話し出す。


「尚香さん、功の実のお母さんに会ったらしいんです。」

「え?!」

「なぜ!」

伽見子かみね駅で功といて偶然出会ったみたいで。」

「伽見子?!」

「え?それはどういう流れで……」

みんなちょっと気になる。

功の家の最寄り駅だ。洋子さんの登場で、尚香はそこが最寄りと知らないままなのだが。



「どうにもこうもありません。功の独走でしょう、多分。」

イットシーの社員もバンドメンバーも、功の実母には会ったことがない。


「……それで尚香さんが……、章君は多分、エンタメの家系だよって。」

「エンタメであろうが、母親はピアニストとして売れなくてピアノ教室をして、それもやめてしまったとは聞いたが?」


「でも、イギリスか日本の、元……なのか分からないけれどおそらく上級家庭だったんじゃないかって。お母さんの振る舞いがそんな感じだって。」

取って付けた感じではなく、生まれた時から植え付けられた一般の人とは違う何か。時代に取り残されたような浮遊感と箱入り感。


「まあ、庶民でも貧乏でもそういう見栄であったかもしれませんが。でも、尚香さん。母親(がた)は音楽家系で、昔からそういう場所で生きてきたなら、代々舞台も噛んでるだろうって。」

「舞台?」

「複数のバイオリンやピアノなどを維持できる上流層。」


話を聞く限りたくさんありそうな楽器は、洋子一代で揃えたものではないと見た。彼女を見る限り、洋子だけではピアノは買えもしなかったであろう。夫が買ったとしても、楽器を仕事にする時点で幼少期の頃から弾いていたはず。もし章の大好きな父親が買ったものなら、章ももっと執着し傾向しそうだがそうでもない。



それに、彼女がピアニストなら、バイオリンはどこから来たのか。


………バイオリンは一体?




「それから、()える見た目……。一昔前のヨーロッパは音楽イコール教会やオペラなどの舞台。だから、家系的な感覚でいろいろできるんじゃないかって。」

「は???」

「スタイルを見てバレエも噛んでるのかと思ったけど、イギリスバレエは歴史が浅いみたい。」

「まあ、いろんな血が行き交ってそうだけどね。」


「あと、尚香さんが道さんに聞いたら、お父さんの山名瀬家の方は、戦前戦後から町の役員や議員や事業をしてる人が多いらしくて。そうなると、その街の公共に尽くしてて、お寺や神社の維持にもそれなりの出資をしていることも多いそうです。それで、子供もそういう場に出してもらえる。」

「で?」

興田、なぜそんな話になるのか意味が分からない。


「そうすると、だいたいどこかで見て聴いてるんですよね、子供も。実際、そういうことをきちんとする家らしいです。門松や初詣。仕事始めの祈願、例えば神社の奉納の舞やいろんな伝統音楽。

地元のそんな行事にも呼ばれたり頼られるから、そういうのが代々感性に刻まれる。今の時代は希薄な東京だし、お父さんも早々に亡くなっているからどうかは分からないけれど、どこかにその感覚が流れてるって。」

推測ではあるが。

「………」


「きっと、お兄さんが社会性を持っていってしまって、違う部分が功に残ったんじゃないかなって。他の兄弟や従兄妹がいるとしても、家系に何人かそういう要素が出ることがあるらしくって。

芸術を仕事にしている人の家系を見ると、先祖親戚、だいたい直近に芸術関係の人物がいるそうです。医者も同じじゃないですか。

だから、功君、いろんな感性があるから、もっといろいろできるよって。ちょっと方向性によってはファンに嫌がられる変化になるかもしれないけれど、音楽そのものが好きだからきっと大丈夫って。」



社長に興田、唖然とする。他も一部メンバー、意味が分からない。


「……金本さんって、文芸系でもクリエーターでもないんだよね?」

和歌、ちょっと困る。そんな抽象的でロマンティストな話をされても。尚香さんらしくもない。尚香は理系に近い文系らしいが、本人としては経済関係だから日本だと文系?でも理系も要るよね?と脳内は分けて考えていない感じではあったが。



テンちゃん続ける。

「それで、何でそんな話をするのか聞いたら、自分の仕事をする時もそうやって、対象の前後関係を全部洗い出すんだって。」

「へ?警察なの?」

「一つの会社や組織だけ見てても、地方だととくに解決しないし、で、全部見るそうです。」

「検事じゃん。」

「あらゆる方向からきちんと土台固めしないと、時代の変わり目や世代交代でで、あっという間にダメになるって。」


「ウチらも洗われてるのか?!」

三浦が恐怖に怯えるが、ナオは知っている。

「尚香さんはウチには関心がない。功の売上と収益以外は。」

「………」

それは寂しい。


「章君に習い事を勧める上で全部調べたのかな?」

「あ、それはただの思い付きらしいです。」

「………」

「じゃあ、何で尚香さんはそんな話をするんだ。」

「地を固めたいんじゃないんですかね。理屈も作っておかないと、僕みたいに反対するのがいるし。」

「…………」

みんな何も言えない。



「コウカさんの会社って何してる会社なんですか?」

興田、何もかもが分からない。

「コンサルらしいです。イベント企画もしているらしいですが、そっちは部が違うみたいで。」

「………。」



「………最後に言ったのは、『ウチで使う時間がもったいないから、10代20代はとにかくいろいろ学んで実地したらいい!』でした。」


「うちく来んな!ってことですね!」


「女性のいる家で時間を潰すのやめなさい、将来によくないよって責めてました。」

「決定的だな。」

「まさに正論だ。」


「てか、功はその家で何をしているんだ?イチャついているんか?」

「会えないことの方が多いし、触ったこともないそうです。靴で足踏まれた以外。」

「なら何しに?」

「尚香さんの高齢のお父様とご飯を食べたり、オセロや将棋をしたりしているそうです。」

「オセロ??親から囲い込むのか?」

「……功にそんな忍耐と知恵あります?」

「………ない。あいつはこの前、音楽番組のプロデューサーの飲み会からも即逃げた。」

三浦もメディアに掛け合ってはいるが、奴が逃げるので様々な音楽番組にも出演できていない。



「尚香さん、うちでディレクターとか営業とかやってほしいですね……」

「ですよねー。」

「まさか理論だけでなく、感性でも攻めてくるとは。」

「憶測でも、ロマンと合理性が詰まっていますね!」

「めっちゃ功君動かせそう。」




そういうわけで、章は日舞にも真面目に通うのであった。





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