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スリーライティング・上 Three Lighting  作者: タイニ
第五章 帰って来たら

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35 俺を超える男



出先の会社で会議を続けるのは尚香と兼代。久保木は後ろで見ている。


「独自のアプリや機能は開発しないで、全て総合アプリのレインに落とし込みます。」

「言わんとしていることは分かるが、ウチの特徴が出せないだろ。たくさんの機能や他社に埋もれないか?既に、この機能がレインのトップにないじゃないか。高齢者も困るだろ。」

そこにも答えていきながら、システム会社トーノーから赴いている営業も説明を加えていく。



「では午後は、もしこれを導入していくならどこに任せるかに関して話していきます。」

そんな感じで午前が終わると、一緒に来ていた本部長の久保木が年配の重役たちと何か話していた。



尚香が間に入る。

「大丈夫ですか?」

「社長、レインが難しいみたいで。この前も何度か若手に聞いたから聞きにくいと……」

システム会社の人にも以前聞いたけれど分からず、これ以上聞くと呆れられそうだ。理解しきれないところは若手の副社長に任せてあるものの、きちんと把握しておきたい。

「社長。午後、個別で説明しますか?」

「午後は抜けるんだよ。」

「なら、昼食前に少しご説明します。今のお時間でもいいですか?15分か20分くらい……」

「いいのか?」

「大丈夫です。」

「よかった…。金本さんの説明、分かりやすいんだよね……」

尚香は相手の状態まで降りて話すのが上手だ。それに同じ質問をしても嫌がらない。

「……社長、私もいいですか?午後の会議の前に、もう1回復習しておきたくて。」

「あの…私も……」

他にも年配の社員が2人入って来る。


外においしいものを食べに行きたかった兼代が、心の内でウゲッという顔をした。長引くと外に行けない。

尚香は兼代に言いに行く。

「兼代さんは外で食べて来ていいよ。」

「なんで察してるんですか?」

察しなくても、兼代の考えていることなど身内はみな分かる。

「でも、金本さん一人にするわけにはいかないでしょ?」

「ただアプリの説明するだけだよ。」

「私が一緒に入るから大丈夫だ。」

久保木が言うも、そうすると兼代は一人だ。

「え~、それはないっす!昼休みは昼休みしないと。」


「いいよ。仕事って程の話でもないし。本部長も兼代さんとお昼行ってください。」

「そんなの仕事も仕事です!本部長こそ、日本のこいうところ嫌ですよね~。休みも休みなのかってところ。」

「まあでも、雰囲気を見ときたいからな。」

と久保木。

「兼代さん一人でも平気だよね。おいしいランチでもして写真撮って来たら?ウチも今週は出直せないし、社長が午後いらっしゃらないから仕方ないでしょ?」

「もういいっ、俺も入ります!」



「あの……」

そこにトーノーの営業が来たので、他社内で「俺」と言ってしまった兼代が口を紡ぐ。


「うち、分かりにくかったでしょうか?」

「あ、違います。もう少し前段階のレインの役目や操作の話です。トークルームや写真ぐらいしか皆さん使っておられなかったので。」

「うちも一緒に入っていいですか?」

「……昼休みに少し説明するだけですよ。1時10分から会議始まりますし。」

「大丈夫です。お願いします。」

そんな感じで、お昼はミーティングルームに数人が集まり、逆に社長がびっくりしていた。



結局、先の復習までして40分まで掛かってしまった。

けれど、終わると誰もがサッと食堂やコンビニに移動していき、時間がないと言いつつも、文句を言う者はいなかった。





そして、

「かんぱ~い!!」

という感じで、なぜか都内でジノンシーの別の営業と、この件を最終的に受け持つ2課のメンバーも合流し、トーノーの営業たちと盛り上がる。もう数回会っているが飲み会は初めてだ。向こうからのお誘いで、本部長と尚香もこれを機に繋げておくのもいいと思い、来れるメンバーを呼んだのだ。




全てが解散して、なんとなく兼代と久保木、尚香で最後に軽く飲み直すことになった。まだ会社にいた柚木も加わる。


「……なんか、今日。一日仕事しかしてなかった気分です……」

と、兼代はぼやく。

「だからもう、帰れって言ったのに。」

「いやっス!週末ですよ?尚香さんは鬼っすか?最後に息抜きくらいさせてください!」

さすがに他社と飲むとなると、昔のように全てが無礼講というわけにはいかず気は遣う。


「だからこそ、家で休めばいいのに……」

「ああいう、人と絡んでないとダメな人間もいるんですよ。」

と、柚木が教えてくれる。

「彼女は?」

「……別れました……。」

と、兼代が項垂れる。

「また?もしかしてそれで飲み会セッティングしたとかじゃないよね?」

「尚香さんひどすぎる……。そんなの普通に別の飲み会に行きます…。今日、野郎の方が多かったじゃないですか……。」



「本部長がいらっしゃるのに、ちょっと気を抜き過ぎじゃない?」

兼代の口が過ぎるので、尚香は注意する。

「それに、私のことは金本でお願いします。」

「またまた、尚香さ~ん!」


「本部長こそ、付き合わされて嫌じゃないですか?すみません。」

呆れて久保木に申し訳なく謝るも、久保木は楽しそうだ。

「本当に嫌だったら帰ってるよ。私も独り身だから帰っても暇だし。」

「え~!本部長、誰かとお付き合いとかされてないんですか?」

びっくり柚木。


「しばらく独り身だから、日本に来るのも楽だったというか。こっちも知り合いが多いから、挨拶がてらいろんな人と夜は会ってたんだけど……ああ、普通に仕事がらみや学生時代の知り合いにだけど……。

でも、やっぱりこの歳になると、けっこうみんな結婚しててへこむな。」

「本部長でも凹むんですか………」

なぜかときめいている柚木。分かりやすい。


「でも世界で仕事してると、日本とかイヤじゃないですか?堅苦しいわりにフレンドリーでもないし。」

兼代に言われて考え込んでいる。久保木、何にも動じないイメージなので一同、意外である。日本に負けそうに見えないのに、日本の友人たちに負かされるとは。


「………んー……。煩わしいと思うことはあるが、嫌ではない。日本は日本なりにおもしろい。」

「そうなんですか?」

「海外の人間ははっきりしてるからな、何主義にしても。日本は集団主義のようで個々人文化というか……宗教とかないから筋はないな……とか、曖昧で分かりにくいな……とは思うけれど……」

「………けど?」

尚香に兼代に、柚木。何を言われるのかと久保木を見てしまう。


久保木は、一瞬、グレープフルーツサワーを飲んでいるうちのエースを見てしまう。


「おもしろいはおもしろい。」

「…………」

それは何と答えていいのか分からない三人。この降下している日本の現状を見て、一体何がおもしろいのか。体力のない企業や、舵の切り替えができず、あと何十年持つか分からない自治機能もあるのに。



「正直、未来の人材を考えるなら、こんなに物事に萎縮する文化や環境を作ったら人は育たないとは思うけど…、それはどこの国もそれぞれの形である問題だし。」

若者全体の能動的エネルギーも薄いと言いたいが、最近尚香たちといろいろなところを回っていると、雰囲気の切り替えができないだけで、いい人材や要所はたくさんあるのではないかと思えてくる。



今日だってそうだ。国によっては環境に切り捨てられるような経営世代も置いていかない。

それは弱さであり、強さでもある。


変われば早いのだ。でも島国であることも理由かもしれないが、こんなにも他国と絡み合っているのに、その実感がなく変わることができないでいるのが現状だ。おそらく、日本が独特な成長をしたように、独特な方法が要るだけだ。そうすると、変化を急ぐ部分と、金本のように回りくどい仕事をする意味もなんとなく分かる。

コンサルなのに遠回りをさせているような感じがして、これまで疑問があったのだ。



ただ、経営者や営業職、企画に囲まれているせいか、久保木の周りは野心やパワーに満ちた者が多いので、閉塞感は感じにくいが。


その筆頭、兼代を見てしまう。

「……………」

「え?本部長、何で俺を見つめるんですか?いくらフリーでもだめです!」

「………そうじゃなくて、よく回る口だなと思って。」

「兼代さん、本部長困らせるのやめたらどうですか?」


「あ、というか、久保木さん!」

いきなり本部長との距離を縮める兼代。

「僕なんて何の口も回りません……。確かにいろんなところでうるさいと言われますが……俺は黙るところでは黙りますし……

………俺を超える男がいますから……………」



「……?」

「俺を超える?」

「……誰?4課の根室さん?」

柚木、よく話す先輩を思い出すが兼代の騒がしさとはまた違う。営業で世話焼きで口が上手いというだけだ。

「庶務の鈴木さん?」

営業をしてほしいと思うほど、PCに向かっている時以外は一日喋っていられるおばさんである。



「違います。………今度、奴と飲みに行く約束をしてるんです。」

柚木、しみじみ語る兼代が鬱陶しい。

「だから誰?ってば!」


「……あの男しかいないじゃないですか!」

酒が回っているのか楽しそうだ。

「もう!だから誰だってば!」

二人のやり取りを見ているしかない尚香と久保木だが、兼代がそんな尚香を見るので柚木が気が付く。

「……て、あっ……」


「………功?」

「ピンポーーーン!!」



………………?


楽しそうな兼代と反対に、へっ?となる尚香。


「えー??どうやって約束を取り付けたんですか?!」

「……?」

もちろん久保木は、何の話か分からない。


「………奴は俺の、弟分だから………」

「へー!すごい!!…………」

と柚木が言うも、怒っているこの人。


「兼代君?」

「はい?」

「どういうこと?」

「…………」

しまったという顔で、黙ってしまう兼代。柚木も目を逸らす。


「なんで、個人的に繋がってるの??」

「え?それは俺と奴の関係です!金本さんは関係ありません。」

「やめてくれない?」

「個人の自由じゃないですかっ。」

「兼代君は会社絡みだからイヤなんだって!」

急に怒る尚香に、久保木が驚いている。


「最初に声を掛けてきたのは向こうだし!」

「なんで?!」

「さー。尚香さんの同僚だから気になったんじゃないですか?」

「…………」

電話交換どころか会おうとまでしていたとか、これはどういうことだ。


「あ、でも、飲もうぜ!って言ったのは俺ですけど!暇だし!楽しそうだし!」

「功君、事務所からも厳しく言われてると思うんだけど?」

「あー知ってる、気を付けます!変なことはしません。会社を背負った大事な弟です。」


「…………」

事務所?どこかの経営者の話か?と考えるも、分からない久保木。



というところで、ついていけない本部長に気が付き、みんな我に返る。

「…………」

「………あー。すみません。尚香さんの……」

「従弟の男の子です!!」

と、言葉を塞ぐ。会社ではまだ都庁好きの親戚で通じているはずである。


「兼代君、もう席も次の担当も絶対に離してもらうから!」

「えーー!やめて下さい!!ごめんなさい!!」


久保木はこの二人は仲がいいなと思ってしまう。



こうして、夜は更けていくのであった。

なお、この日酔った兼代を介抱したのは久保木である。タクシーで家まで連れて行き、鍵を開けさせ家の中に入れて、自分も帰ったそうな。


災難である。





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