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スリーライティング・上 Three Lighting  作者: タイニ
第四章 あの日のライブ

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28/90

28 世の中ってひどい



「………」

バンドはそれだけでモテると知って、衝撃の尚香は顔を上げる。


言うことは言わねばならない。



「私は、モテる人とは付き合いません………」


「?!」

「!!!」

「え?なんで??モテるなら、尚香さんにもモテるんじゃないの?」

と、意味不明な発言をしだすボーカル。


「尚香さん!なんでですか??ネットからは私たちがお守りします!!」

「でも、現状そんなの無理ですよね。有名どころでもできないのに。」

「…………」

それは言い返せない。

「だから尚香さん、そこまで有名じゃないってば。話題にならないってば!」

「……」

尚香は変な虫でも見るような顔で功を見てしまう。章君は一体何を考えているのだろう。どういう女性が好きなのか。元々の趣味がおかしいのだろうか。聞いてみるに限る。



「………功君、好きな女性のタイプは?」

「サリカちゃん!!」

音速の即答である。



「『サリカ』」と、早速尚香がスマホに聞いてみると、それはそれはかわいい女の子が出てきた。スクロールしてみると、k-pop8人グループの日本人メンバーらしい。ネコ目だけど口が小さく、ほどほどに肉が付いているのにウエストが非常に細い。なるほど、これは男子が好きに間違いない。尚香も好きだ。


「サリカちゃん、かわいいっしょ?」

「……そうだね。かわいいね。」

章の女性の趣味が一般男子だったことに安心もし、これはどうなのかとも思ってしまう。やはり結婚は地味な女とするタイプか。探せばいるだろうから、顔も性格もタイプの子にすればいいのに。


「………」

皆さん功にいろいろ言いたいが、今言ったら逆効果な気がするので黙っている。



「じゃあ、これで私は先に上がらせていただきます。ありがとうございます。」

と、尚香が立ち上がろうとするので、ナオが止める。

「尚香さん!まだ全然食べてないじゃないですか!」

「付き合わないので、従姉弟のお姉さんのままでよろしくお願いいたします。」

「まだ功がモテるかは分からないのに、なぜ早とちりするんですか?それに、モテる人でもいいじゃないですか。モテても功はそういう部分は誠実ですよ?ねえ、道さん!」

「……そうねえ。彼女いたことないし……」

というと、イットシーメンバーは知っていたのか頷く。


「…え?そんなわけないです。」

「いないよ?」

「だって、章君でしょ?」

いないわけがない。

「なんでそうなるの?」

「女の子とよくご飯食べに行くんでしょ?イコール遊んでるんでしょ?」

「ご飯とそこと繋げるなんて、尚香さん、どうかしてる?」

「普通繋げます!」

怒る尚香。20代の盛り。遊んでいないわけがない。


「尚香さん怖い……」

功がビクビク言うも、睨まれる。

「……尚香ちゃん……。多分私の知る限り、功は………」

道が功の方を見る。


「……童貞だよ。女の子家に入れたことないし。」

と功が言うと、これはネットが飛びつく会心の一言のはずなのに、既に尚香は世の中の何も信じていなかった。



「………嘘つかなくてもいいです。それならまだ、『今まで遊んでいたけれど、結婚を機にやめます』って言ってくれた方が誠実です。信じないけど。」

「なぜ?!」

なぜそうなる。


「浮気癖は治りません。それに、家でしなくても外でできるでしょ?」

「っ!?」

尚香の発言に、ギャップで驚き、同時に人生経験の多い社長や戸羽の方が何も言えなくなる。そもそも家で浮気って外よりゲスすぎるのに。

「……尚香さん、ちょっと座って、落ち着いて。」

ナオが座らせた。



「あの、私………」

と、尚香はまず一口水を飲み落ち着いて話し出す。


「男性の半分は信用していません。」

「!?」

「僕も?」

「………」


答えず続ける。

「私、大学の時からいろんな会社で働いたんですけど、

私って他の女子とは違って舐めていいと思われたんでしょうね。男性の不倫現場を山のように見て来ました………」


「………!!」

それは嫌である。


「飲み会で酔って、100人切りを自慢する2児のパパもいて……」

「っ……」

道がアワアワした顔をしている。

「そこまでは他の女子もいたのに彼女たちが席を変えたら、横から自分は千人目指してるって言い出す人もいて…女性のリストの交換をし合っているんです。」

「…ひぇ……」

「…その人も既婚者なんですけど………」

はぁ、とため息をついて、前を向くのでみんなビビる。


「社内にかかってきた奥さんの電話を会議中って取り持つように何度か言われて、数カ月後にそれが不倫のアリバイ工作だったことが分かったこともあります……。片棒担がされたんですよね。私、すごいショックでした………」

スマホに出ないから、会社に電話を掛けて来た奥さん。


「それから………、アジアの他の国に研修に行った時に、女子は別行動にされて………」

「それってつまり………」

尚香は頷く。

「売春ツアーです。急遽連絡があって、現地の人と当時の役員を呼びに行った時に私にバレて。社会勉強だね、と肩を叩かれた時は、あの服捨てました。まあ、若手以外女性もみんな知ってたみたいなんですけど。この時代でもこんなことがあるのかと、あの頃はただただショックを受けただけでした。」

「………」


「飲み会の後にお客さんをタクシーで指定の店まで連れて行って、それで見送るだけだったのにお店の中まで連れていかれて。クラブだって言うから女性とお話をする、銀座の上品なのを想像していたんです。ドラマで見るみたいな。

そうしたら、そうじゃなくて………なんというか、女子社員や奥さんに見せられないような所で………。

あの時なんで私、連れていかれたんだろ?お店の女の子が、座っている私の様子を見てこっそり外に出してくれたんです……」

懐かしそうな顔をする。


大人勢(おとなぜい)は思う、そのままその場にいたら、多分ヤバかったであろう。


「最悪なのは、海外で買春してネットにアップしていた人ですね……。今なら通報するけど、あの頃はただ見ているだけしかできなくて………。ネット仲間もいるらしいのに、何で取り締まりされないんだろうって。さすがに周りの男性も引いていたので、少しは救いがありました………。」



「…………こういうことがもっともっとあるんですけど………」


「あー!もう言わなくてもいいです!!」

ナオが遮る。


「大学の時から、仕事もこういうことも人生で初めてだらけで、必要以上に動揺してはいけない気がして。戸惑っていたのに、多分、相手には許容されたと思われてたのかもしれません。」

「…………」



「………というわけで、男性の浮気をしない、浮気はやめますは信用していません。」



それは信用できない。と、みんな思う。よく人間不信にならなかったものである。

いや、既に人間不信か。



「この業界の方が、もっとひどいですよね?」

「………………」

誰も何も言わない。


功も唖然としている。



「私みたいなのにも絡んでくる男性も、けっこういるんですよ。既婚者や彼女持ちも。遊べればいいんですよね。どうかしています………」

話さず下を向いてしまった尚香に、今度は社長が答えた。


「尚香さん。

この業界を信用していないのは分かりますが、かといってみんなではありません。一昔前よりは、かなり変わってきています。だからこそ、付き合いに一線引いている人も多いですし。」


「でも功君は、いろんな女性と食事に行くそうですけど。」

「尚香さんだって、会社の男性とご飯行くでしょ?」

「………行くこともあります。」

「一緒だし。」


そっと道が言う。

「尚香ちゃん、功がこんな環境にいるから信用できないのは分かるけど、功は大丈夫だよ。」


「…………」

功は何も答えない。

「あと、私。私も尚香ちゃんの家が好きだから。高齢のご両親とか分かっていたことだし。」

と、笑った。


「………そうですね…。うちの両親を悪く言わないだけ、章君や道さんは理想かもしれません……。」

その言葉に、道が思わず顔を上げた。

「……前に付き合った人は、そういう人じゃなかったから……」


と、言う言葉に「へ?」と、道と功が顔を上げる。

「尚香さん、お付き合いしたことあるの??」



周りも「え?」みたいな顔になっている。

「え?ありますよ!だって、もう大台に乗る歳だし。」

みんなの反応に驚いてしまう。この人たち、自分を何だと思っているのだ。


「??」

ゲスの中のゲスな世界さえ知っていそうな社長すらこんなんだ。


「結婚直前まで行ったんです。」

「?!」

「まさか!!」

「それはない!」

「そんなことってある??」

「あります!勝手に決めないで下さい!」

あると言っているのに、なぜ認めないのだ。意味が分からない。



「………」

ここにいるメンバー。なぜか金本さんは、お付き合いをしたことがないと思い込んでいたから、驚いてしまう。


社長も戸羽も、普段仕事的に人を見て、この子は堅実そうだとか、彼氏など作ることもなくこの道を突っ走ってきたんだろうなとか、遊んでそうだなど察知してしまうのだが、完全に外れていた。そして、なぜか、仕事に関係ないのに聞いてみたい。



え?それは清い関係で?


と。



流石にそんなわけない?



しかし先の話の後であるし、気持ちとしては他意はなく知りたいだけなのだが、これでは正にセクハラである。近しい仲でもないし。でもなぜか知っておきたい。



「どちらにせよ功君とお付き合するとか決められませんし、問題になるなら事務所から控えるように言って下さい。父にも話しておきます。」


「でも、なんかいい感じじゃないですか~。功にしときましょうよ~。」

ここまで来たら、前後事情関係なく仲を取り持ちたいナオ。なにせ、まだ観せていないMVがたくさんある。

「この前、飲み会逃げたじゃないですかー!」

「違います。皆さんが負けたんです。」

「尚香さ~ん!」


「ナオちゃん、いい加減にしなさい。」

「でも、戸羽さん~。」

真理級の駄々っ子になっている。


『尚香さんなら、あとのこと任せられますよ?』

と、ナオ、戸羽にこっそり言う。つまり、私生活のマネージャーになってくれそうだということだ。



なにせ、考えてみれば、家族のことはあれど、社会人の面では尚香は強いのである。


都内世田谷区に、車持ちの一軒家を持っていて家事代行が雇える。ジノンシーは社員の平均年齢が低いのに、平均年収は900万と出ている。東京のコンサル系外資だと上位企業は1000万を優に超えるが、ジノンシーは小規模やローカルな仕事も多いため多少低くなるのだろう。


定年まで中堅企業で真面目に働いた父がいるからとはいえ、すごいのはこれを維持しているということだ。古い家と聞いたので管理も安くない。そして、そんな親に頼るだけでなく、今から将来設計を立てている。まだ若い功が、堅実に生きていくにはいいのかもしれない。

だいたいこの世界は、仕事の切れ目か、少しの心身の疲労や衰弱、悪意ある知人関係で一気に身持ちを崩す。


……むしろ、功にはもったいないのでは?と思ってしまう。




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