表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スリーライティング・上 Three Lighting  作者: タイニ
第四章 あの日のライブ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/90

23 テンプレいっとく?



「やっぱりないですねえ………」


イットシーのスタジオで、スタッフの一人がパソコンに向きながらつぶやく。


「ないねえ…。」

与根もPC画面やタブレットを見ながら唸っていた。

「先、真理から連絡があって、真理も見付けられないって。」

与根が功の方を見ると、大きな椅子に半分寝転ぶ形で座り込んでブスッと考え込んでいた。


「………」

少しして口を開く。

「俺も分かんないです……」

と章が言うと、社長と戸羽もため息をついた。



尚香はどこかで聴いたような曲、ではなくあの曲をはっきりと『カバー』と言った。


あの曲は、作詞作曲全部功だ。今の時代は、メロディーの一部だけでも世界中の曲に類似のものがないか調べられるので、数人で該当するものがないか調べたが、今のところはない。功も、可能性がありそうな楽曲を探したが分からない。


似た雰囲気の曲はあるので、尚香が勘違いしたのかもしれないし、尚香の感性がそう感じたのかもしれない。



この時代、全く重ならない音なんてないから、同じ音、似たものなどいくらでもある。


それ以上に日本の音楽シーンも、洋楽をベースどころか微妙に変えてそのまま使っているようなヒット曲もたくさんあるのだ。有名どころですらそうだ。著作権などほとんど問題にならなかった時代もあるため、複数似た曲があり大元が分からない場合もある。最後に行き着くのはクラシックや昔のブルース、ジャズやロック、民謡や土着音楽の場合もあるが、そこまで来ると文句も言い難い。



多少同じでもあまり何も言われないが、LUSHは今までそういうことはあまりしてこなかった。


あまりというのは、スマホ時代以前の楽曲は、ヒットしていてもそのまま消えてしまったものが多いからだ。1990年代2000年代は邦楽も洋楽もトップからインディーズまで盛り上り、驚くほど良作が生まれ、そして消えていった時代でもある。

メガヒットやメディアで使われたような曲、発信力のある人に見出されている曲でないと、ネットに上がらず消えてしまったものも多いので、多くの歌手やいい曲が埋もれたままだ。だから、「ない」とは言い切れない。


功がそのまま誰かの曲を使ってしまったのかということも、これまでの仕事ぶりからは考えにくい。こういう系統、雰囲気の歌が歌いたいと曲を作るなら、先にそのベースを報告していたので、逆に同じにはならなかった。掘り起こしならきちんと表題にする。



しかもあの曲は、まだLUSHが売れる前、アルバムに目立つこともなくそっと入れた昔の曲。

ライブで歌う以外では、外に出していないし、功の希望で登録などもしていないためライブビデオにある以外はネットでは売っていない。題名も付けていないため「あの歌」とか「あの曲」と言われている。大きな規模のコンサートでもあまり歌わないので、ライブに来れるファン、昔のファンだけが知るような曲だ。



「…………なんだろうな……」

今まで音楽関係者にさえ、メロディーの類似性を指摘されたことはない。ジャンルくくりにはされるがそれは問題ない。ネットには似ている楽曲を探す人たちがいるのだが、そういう人たちにもアンチにも言われたことはない。言われるのは専ら、章の発言や性格や見た目の話だ。



全員また考える。


普段気に入った曲を時々聴くくらいの素人に言われただけだ。気に掛けることでもない。


でも、みんなが引っ掛かるのは、「聴いたことのある曲」でもなく「似ている曲があった」でもなく、『カバー』だったということ。きっとイットシーが聴かないだけで、これまでもどこかで言われていることかもしれないが。


けれど、気になる。



みんな、功を疑っているわけではない。でも、功もあまりに考えて込んでいるのでいるので、心配になってくる。

「……功………」

「ここまで探して分からないなら、ひとまずこれ以上はできないだろ……」

社外の知り合いにも聞いてみている。

「もう一度尚香さんに確認してみたら?言葉の間違えってこともあるし。」


「………まあ、俺も世界全ての歌を知ってるわけじゃないしね……」

調べても分からないこと、見付けられないこともあるだろう。気になるのは、それが尚香だということ。尚香の聴く範囲の曲なのに、なぜ自分たちに分からないのか。



「功、その曲、昔から頭の中にあったメロディーだって言ってなかった?」

「まあ……。」

そうではあるが、章の中には昔からたくさんの歌やメロディーがあった。



功の中の聴いた楽曲、記憶の分野とは違う、すみ分けされた場所から流れる、編み出された色の世界。


どのパーテションから来た曲なのだろう。




そこで、和歌が変なことを言い出す。

「実は小さい頃ハミングしてて、小さい頃の尚香さんが、聴いていたとか?」

「!!?」

「!」


「何それ、斬新すぎる。」

「20年ぶりの出会い?」

「それ、赤子過ぎるだろ。功まだクソガキ前じゃん。」

もしかしてガキンチョにもなっていない。章君は赤子の頃から問題児だったが。



「………皆さん分かってないな。」

そこで照明オタク……ではなくオタクの照明、今や尚香が功のあのお見合い相手と理解した山本さんが語りだす。


「斬新なんじゃない!『子供の頃、実は出会っていた系』!!

………それは女性向けの物語で使い古されて、今現在も定番な設定。もう、古典。ヒロインとヒーローのすれ違いや勘違いを、中盤以降にLOVEにどんでん返しする素材………テンプレネタだ!!」


おおおお!!とみんな騒めく。一部傍観だが。


「女子はそれに感動するの?」

「めんどくない?」

「面倒とか言って主役が務まるか!!!溜め込むんだよ!愛のフラストレーシションを!!!ラストのために!!!」

「そこに感動があるの?」

「お前ら、人に感動を与える仕事をしてストレートで行く気か?手ぇ抜くんか?!!」

「僕、ストレートがいいよ。」

「人生なめんな!ストレートでいくことなんてほぼねーよ。思い知れっ。」


しかし、こんな激務な業界スタッフにも山本さん以外にオタクがいた。

「最近は努力なしで、息吸っているだけで敵が死に、美女とみんなに愛される系もあります。」

「お前じゃん。」

と、功が指される。功としては不満だ。息以外もしている。


「まあ、子供を越えて前世で出会った系もあるけどな。」

「え?そんなんやってられない。」

「もうそれ別人だし。」

「それって俺、尚香さんのヒロイン?」

功が急に元気になる。

「いや、お前がヒーロー側だろ。」

「そうなん?俺、結婚できるならどっちでもいいけど。」


しかし山本さんは許さない。

「世の中を甘く見るな!!」

と、功を叱咤した。

「少女漫画は案外、あとで出て来た当て馬野郎が全てかっさらっていく場合があるからな!!子供向けなのに嫌な現実を叩きつけて来やがる。」


「ええ??俺、かっさらわれるの?」

「お前が捨てられんだよ!!!サブキャラエンドだよ!!」

もともと根暗なくせに何もかも前向きで、最近章がムカつく山本さんである。


「僕が主人公になるほどには、僕を認めてくれているんですね!」

「人生の例えの話だよっ。お前の人生の話だろ!お前がメイン側に立った場合だ!!」

「功、捨てられてんじゃん。」

男主人公になったところで、作者の気分でサブキャラに持っていかれる話をしているのである。



「まあ、案外、当て馬の方がいい奴だったりするから、許してしまう場合もあるんだがな……というか、子供向けなら最初から相手役男主人公にしろよ!!!」

と山本、一人憤慨している。何があったのだと思うが、お気に入りの漫画がヒロインと思っていた相手とくっ付かなかっただけである。しかも、思わせもなかった相手とだったのでネットに不満を書き込んだばかりだ。


「女性はちょっと悪ぶったところに憧れますからね。」

と、和歌が言うも、

「ちょっと悪くてモテるのは、イケメンは限定です。」

と、男三浦が教えてくれる。


「ねえ。俺、見た目だけなら反社って言われたよ?」

と、功はネットに書かれた悪ぶりをアピールする。しかし、

「そこまでいったら、普通の人に愛されないだろ。」

と、山本さんは今度は普通にやさしくアドバイスをしてくれた。

「………そうなの?加減って難しいんだね……」

と悩んでいる…………



……も、すぐ切り替える。


「じゃあ、尚香さんには『――僕たち昔、出会ってるかも――』系で行こうかな!」

と、デカい椅子からデカい上半身を上げた。

「え?なんで、この話で元気出るわけ?」

「やめなよ。超気持ち悪がられるよ?」

「こんな東京の、狭い世田谷周辺なんて、所詮誰でも何度も出会ってるだろ。それこそ、事務所の前の通りすがりのおじさんだって、何年も前から出会ってるかもしれないんだぞ。」

伊那も味方してくれない。



「だいたい、コウカさんな記憶あんの?」

「功、記憶力バケモンだろ。」


「ない。」


はっきり言って、全くない。

何か覚醒せねばならんのか。


「会ってても、何もなさ過ぎて覚えていないのかな?」

と首をかしげる。それって何もなかったってことだし、とみんな思う。人生のただの背景。おそらく東京を歩いて視界を通り過ぎた、人類数億人の記憶の一片の話であろう。東京の人口分いそうな話である。

「尚香さんと出会って覚えてると思う?すっごいインパクトのない顔してんだよ?」

と、鬼の記憶力のくせに余計なことまで言うので、またみんなドン引きだ。




「ねえ。尚香ちゃん、真理のこと褒めてた?」

そこで真理が話を変えてしまう。そもそも何を話していてそんな話になったのだ。


「なんも?というか、あれから尚香さんに会ってない。昨日の朝は2階でぐーすか寝てて起きてこないし。」

「うそ!またライブ来たいとか言ってなかった??」

「そんなことあの人が言うわけないし。」

「なんで功が、尚香ちゃんがぐーすか寝てるとか、来ないとか分かるの!?勝手に決めてるでしょ!!」

「信頼関係があるから。」

「てきとうなこと言わないで!!」




「………」

社長と戸羽が、揃って呆れている。


なぜこの二人は噂のコウカさんにこんなにこだわっているのだ。ついでにナオと和歌も気にしている。それに、功のこういう話はあまり変な形で横に漏れてもらっても困るのだ。


しかも、功はそこに通っているのか。どういう状況で、どういう家なのか。



二人とも金本尚香の顔は見ているが、全くもって普通の女性だ。なんというか偏見だが、目立つこともなく、どこにでもいそうな普通の女性。体型もはっきり言ってしまうと欲張って6等身あるかないか。だからと言って、かわいい!というふうでもなく、目立って若見えもせず、SNSをしていても身内だけでいいタイプ。顕示欲もない。まあ普通な感じだ。



ただ、相手が誰であろうと、ポンポン言葉を返す。


そしてジノンシーに中途採用。有名大卒や海外組がゴロゴロいる会社である。新卒は少なく、いてもインターン済み。ナオをやり込めているくらいなので、頭はいいのだろう。




二人は頭を抱えてしまった。




***




そして、もう一人頭を抱える人がここにいる。



金本家に来ると、時々自分より先に章がいる。これは一体どういうことだ。

午前に行くと、なぜか朝食を食べているのだ。


困ってしまったのは道である。



お見合いはなかったことにと言っていたのに、尚香ちゃんは何を考えているのだろう。

まあ、お父さんが呼んでしまうので仕方ないのだろうが。


けれど、尚香は一人娘。あのお父さんを見ていても、真面目で堅実そうである。あんなラフな格好をした、成人してから知り合ったような男が家に遊びに来ていて、何とも思わないのだろうか。自分の息子ながら、尚香の親の立場になってみたら相当嫌な話である。


しかもお父さん、「うちの息子に似て章は賢そうだ」とまで言い出した。



……


……息子?



「……あ………」




でも、そこで初めて気が付く。


気が抜けていたのか。



お父さんがあまりにもしっかりした人に見えて、自然で、これまで気が付かなかった。いくつかの施設やお宅で働いた経験がある道なら、本来なら気が付くべきだったのに。



もしかしてお父さん、認知症が進んでいるのではないかと。






前作の下町ズみたいな人たちですが、脳内構想はこちらの方が先方です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ