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スリーライティング・上 Three Lighting  作者: タイニ
第四章 あの日のライブ

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22 どこかの




高校生の時に友達と行ったのは、歌手の表情も見えないほどの大きなコンサート。



こんなに距離が近いライブは子供の時以来だ。

昔、両親と行ったコンサートはレストラン。テーブル席なのでそこは似ているが、空気は全然違う。


あの時はステージと言えるほどの段差もなくて、演奏者は時々客席を歩き、直接会話ができるようなコンサートだった。




―――ドキドキして、そのコンサートを思い出す。


遠い、遠い記憶。




『みなさん!今日は二人ですが、リサイタルと呼んでもいいでしょうか?』



そう言っていた、きれいな歌手。


歩くと弾むような長い髪で、床に付きそうなドレスを着て、あんな美しい人も初めて近くで見のだ。



あの頃の尚香は、コンサートもリサイタルも同じだと思っていた。同じではあるし、敢えて調べてはいないので違いなんて考えたこともなかったけれど、一生懸命見て聴いて、一生懸命拍手をした。


正直、細かいことはあまり覚えていない。どこのホテルかも、歌手の名前も、演奏された曲もその題名も覚えていない。よかったという雰囲気だけが抽出されて残っている。


だって、あんなホテルに行ったこと自体が、当時の尚香には初めてだったのだ。


今は仕事でもあちこちホテルを駆け回っている、当時なら信じられないような日々を送っているが、大きなエントランスホール、絨毯の床、自分より大きなフラワーアレンジメント、柔らかい笑顔で接してくれる接客員。全てが初めてだった。


とてもきれいな歌だったし、お父さんとお母さんと、おめかしして出掛けた特別な日が本当にうれしかった。



それは、本来の尚香にはなかったものだから。



きっと、その嬉しさと感動の記憶。






けれど今は、こんなに近いのに章君はステージの上。


きっと、そこを降りてきても、自分には顔を向けないであろう。

そんな気がする。



楽譜も読めないのに、プロの人たちに完全に溶け込んで歌っている。



章君の見ている世界は、大きな大きな音の世界だ。


自分をスッと通り過ぎて。




前奏が始まると、有名な曲なのか、音を邪魔しないような小さな拍手と歓声が起こる。



どこか懐かしい、あの音。



そして、今度は、最初に功が歌い出した。静かに座ったまま。





―――はじめてじゃないよね


君の名を呼ぶと―――




「……?」


なんだろう、この歌。

うちに来る人物と乖離(かいり)しているような、胸を打つ声。


それに、尚香は思い出せない記憶を感じて戸惑う。




―――聴こえてくるのは あの懐かしい

あの日のあなたの声―――




「!」

ドクン、ドクンとする、胸。


しばらく空間に酔うように聴いていた。




ボーとしていると、突然拍手が起こる。

曲が終わったのだ。慌てて尚香も拍手をすると、ワーーー!!と、スタンディングオベーションが起こった。小さなライブハウス。派手ではなけれど、熱い歓声。



『尚香さーん。功、こっち見てましたね!このままこのラブソングを受けとったらどうですかー?』

柚木が隣から寄ってきてこっそり呟く。

『はは………。兼代君いるからその話やめてくれる?それに功君は私を見てるわけじゃないよ。』

『またまた~。』



尚香には分かる。

章君は別に自分に向けている訳じゃない。




それにこれは、恋人に向けた歌ではないから。






***




「真理さーん!!」

「尚香さん!」

ライブが終わって一般客が出てから、尚香は真理の元に行く。章はレリアと一緒に、別の人たちに囲まれていた。


今回は半分身内なので、撤収までの時間まだ多くの人が残っていた。

「真理さん、よかったよ。はい!」

と、花束と渡す。

「尚香さん!!」

「私たちみんなから!職場の同僚たちです。」

柚木と川田も礼をして、差し入れの紙袋を渡した。

「あの、チケットありがとうございます!!」

「すごくよかったです!」

「いえいえ、楽しんでいただけてうれしいです。こちらこそありがとうございます。うちの功が間抜ですみません。」

と、プレゼントを横に預けて握手をし合う。


「………」

え?と、尚香はジトっと見てしまう。真理が普通に余裕な顔で、一般的に会話をしている。あのキャラは演技なのか、それともこっちが演技なのか。



そして、んん?と思う。兼代はどこに行ったのだ。


そう思ってあちこち見ていると、真理が寄って来た。

「尚香さ~ん。まり、みんなに真理ちゃんって言われてるから、尚香さんも真理ちゃんって呼んで。」

「え?」

突然過ぎて、返事ができずにいると、

「それで、真理も尚香さんのこと、尚香ちゃんって呼んでいいい?道さんが、『尚香ちゃん』って言ってたもん!」

と、ブリッコする。

「へ?いいけど?」

反射的に訳も分からず答える。なぜ事務所の人がそれを知っているのかと思うが、章は事務所でも道さんにいろいろ言われているのだろう。成人しても仕事に保護者が要るのか。


「わーい!尚香ちゃんだ~!!」

と、真理はお花を抱えてくるくる回っている。そうするうちに、横で他の人に声を掛けられていた。




「みんな、この後どうします?解散する?どっか飲みに行きます?」

川田が聴くので、ジノンシー組はどうしよっかという話になった。

「私は疲れたな…。若い子たちで行って来て。」

「またまた~。尚香さんも行きましょう!」

「感想会しましょうよ~。」

「帰りたい……」


というところに、

「わー!!おねえちゃーん!!お姉様方~!!来てくださったんですね!!」

と、アホの声が広がる。

「………」

章である。

「真理ちゃん見に来たんだけど。」

「尚香ちゃん!功、尚香ちゃんが来るって知ったらライブ割り込んで来たんだよ!!」

と、真理が怒っている。ただ、真理の出るライブは元々大物が来ることもあり、それも含めて料金が高い。だからと言って割り込みはなかなかないが、レリアが歓迎したのだ。


「違いまーす。お姉様たちの顔が見たくて!」

ホストか。


『ほら~。尚香さんのために歌ったんじゃないですか!』

柚木が嬉しそうだ。

「……………」

そういうノリはあっても、この男の真の目的は、空気のように尽くしてくれる結婚相手だ。狙うはお手軽で気軽な、気を使わない人生のパートナーである。


大人女子は、こういうキャッキャしている男子を、子犬や毛むくじゃらの大型犬に例えると川田が言っていたが、尚香にはその感覚がよく分からず、相手の人生をテキトウに考えている陰謀持ちの宇宙人にしか見えない。しかし宇宙人相手にも、絡むよりはサッとあしらう方がいいと知っている。絡めば絡むほど、こっちがあれこれ言えば言うほど喜ぶから、その反対をするだけである。


「あ、そうだね、功君もよかったね。お疲れ様、じゃあね。」

と、背中を見せ帰ろうとした。


「えー?それだけ??」

と、首をかしげるも、尚香が出入口に向かうので、

「金本さ―――ん!!具体的な感想聞かせてくださーーい!!!!」

と、騒がしい会場が注目するほどの大声を章が出した。


「?!!」

周辺が本当に注目する。


「ひっ!」

去ろうとするも、

「金本さんっってば!!」

と、また大声を出されたので、振り返って章の元に戻る。


思わずまたカバンをぶつけそうになるが、それはヤバいと思いを胸に押さえて、ガツッと足を踏んでやった。

「アたっ!」

「功君……。ホントそういうことすると、お父さんにこれまでの行いを全部報告するよ?」

怒りを隠し笑いながら小声で怒る尚香。金本家出禁になるであろう。


「……ごめんなさい……」

「そもそも功君は、変態なの?自分の歌の感想聞きたいの?」

尚香なら自分が歌った姿の感想など、絶対に聞きたくない。

「尚香さん、僕が何しても変態扱いしかしないんだね……。変態好き?」

「犯罪者扱いしないだけいいと思ってほしいんだけど。」

「……ごめんなさい………」

宇宙人が2度謝るので、地球人類としては許すしかない。これ以上話を拗らせるともっと襲撃されそうだ。


「………っ」

知り合いだけでなく、近くにいる人たちも自分たちを見ているのに気が付き、会話を変える。



「あ、そうだ、しょ……あ、功君。あの歌!ずっと気になってたの!小さい頃からなんか好きで、最近思い出して……」

「何?」

「なんのカバー?」

「カバー?」

数曲カバーはしていた。


「ほら、何だっけ?ほら!頭の中で時々メロディーが回ってって、ずっと知りたくて。」

ここで歌ったりハミングで聴かせるのは恥ずかしいので、歌詞を思い出し棒読みで言ってみる。

「ほら!『君の名を呼ぶと』って歌ってたの。」


「?!」

「…………」

そこでまた、功や真理、一部の人間が固まった。


「え?カバー?」

功が真顔で驚いている。


「え、あ、違うっけ?」

尚香、音楽のプロに囲まれて、急に恥ずかしくなる。

「あの、あ、ほら、座ってレリアさんと一緒に歌ってたの………」


「…………」

周りを見ると、知っている顔以外のスタッフぽい人もこちらを向いて驚いた顔をしていた。

「あ、えっと、間違えました!ならいいです!」

と引こうとすると、功が言った。


「……尚香さん、それ、カバーじゃないよ?」


「え?あ、そう?子供の頃聴いた歌だったから……かな?」

よく思い出せないけれど、知っている歌だと思っていた。もしかして、既存の歌をこっそり引用したのであまり触れてほしくないのか。いや、そんな分かりやすい事するだろうか。LUSHが既に有名なのでどこかで聴いていたのかもしれない。


見たことのない渋い雰囲気の男性が、功と顔を見合わせて戸惑っていた。





「尚香さん、この後はどうするの?」

「………」

気が抜けてしまった尚香。

「………どうしよう………」

また目立ったかなと、少し気が動転している。


「はーい!尚香さん!!」

ここで登場。勝手に盛り上げてくれる兼代君。

「そんなの、これから飲みに行くに決まってます!!まだ9時前なのに!」

「……明日仕事だよ?」

「土日出たんだから、昼出勤でいいでしょう!明日代休取ってるのもたくさんいます。尚香さんも休みましょう!」

困ってしまうが、この空気を抜け出すのにちょうどいいと切り替える。


「あ、ならどうしよう、少しみんなでお茶して帰ります。」

「………え?」

章が戸惑うも、こうなると行動が素早い。


「真理ちゃん、本当にありがとう!」

そう言って頭を下げて柚木や川田も一緒に去って行った。





いろいろな思いが交錯するも、真理は功を見る。

「……功……」

先、目を合わせてた男性、イットシーの社長も近くに来た。


「………いえ……。ないと思いますけど……」

功は考えながら答える。


社長もじっと考え込んでいる。



功の中には、既に数万曲の歌や曲がある。




少なくともその中に、系統が同じものはあれど、先、歌った曲に類似した曲はない。







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