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スリーライティング・上 Three Lighting  作者: タイニ
第二章 どこまでの話?

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15 世の中は簡単?



「え?それで功、本当にコウカさんと結婚する気なの?」

「うん。」

コンビニのサンドイッチ、3袋目の封を開けながら功はスタジオで頷く。


「…………」

なんとも言えない与根。

「………それ、向こうも承諾したの?」

「……するする。そのうちするし。」


「…………」

周りにいたメンバーやスタッフもドン引いて、仕事どころではなくなる。


「あー!功、コンビニのサンドイッチそんなに食べるなら、めんどくさくても少し高くてもカフェのにしなさいって言ったでしょ?!」

今この部屋に入って来た女性スタッフに3パック目のサンドイッチを取られ、女性の手に持っていた物と替えられた。不摂生で体を壊す人が多い業界なので、気を使ってくれているのである。



そして話は戻り、恐る恐る与根は尋ねた。

「功、コウカさんに惚れたの?」

「………」


今度は功が考える。


「…………いや?」

「いや?って、お前………。」

その答えに周りはさらに引いてしまった。


「だって、尚香さんだよ?

惚れる惚れないとか関係なく、道さんが紹介してくれなかったら、記憶にも残んない人じゃん?でも、尚香さん、コンサルしてんだって。」

だから何だと思う。

「コンサルってよく分かんないけど、うちの兄ーちゃんと同じような仕事なわけ。尚香さんも外資だって。それって、もう堅実で家庭とかしっかり回してくれそうだし。」

章の兄もコンサル関係の仕事をしていた時期がある。章と違って、彼はサラリーマンだ。ただ、外資系だから家庭をしっかり見てくれるとは限らない。というか、なぜそう思う。


「道さん、確定申告大変だって言ってたけど、尚香さんそういうの楽勝そう。」

「………」

尚香さんなら芸能人の確定申告などプロに任せそうであるし、そんなこと章が心配しなくても、既に事務所が税理士にお願いしている。


「でも、兄-ちゃんには会わせない方がいい。兄はまさに尚香さんが望む、人生安定ルートタイプだ。」

兄と同じ世界の人なら、難なく世の中を生きていけるどころか他人の世話までしてくれるであろう。父がいなくなってから、道にできないことは兄が代わって来た。


「功。自分じゃなくて、相手に楽に生きてほしいと思わないの?いくら今の共働き当たり前のご時世で、お見合いでもさ。コウカさんどうこう抜きにしても、相手が動けないなら功が全部やるべき時だってあるんだぞ。」

「…………」

道が完璧すぎて、結婚相手が家計が回せず家事ができない状況など考えもしなかった男、それなんの話?と考え込んでいる。

「相手の幸せを願うなら、兄さん紹介してやれ。」

「いやだし。というか兄ちゃん結婚済みだし。」


「みんなこんな業界にいるのに、しっかりしてるね……」

まともな女、太め目女子のラッシュマネージャ―、テンちゃんが驚いていると、他の女子スタッフが力説する。

「こういう業界にいるからこそ、自分がしっかりして変な男捕まえないようにしないと!」

みんな切実なのだ。



「じゃあ、明日から家事や光熱費支払い習って頑張る。」

「いや、功は余計なことしなくていいからさ、コウカさんにも余計なことしないように。」


「でも、尚香さんがいいのに。ただの地味とかじゃなくて、多少の騒動起こしても縁切りされないし。なんかさ、喋らなきゃ存在薄くて空気みたいで、楽ちんだし。」

「…………」

「………功。もう結婚あきらめなよ。」

「全てやめとけ。」

「婚活なんて10年後でいいだろ。」

皆さん頷く。


「……なんで?」

「好きとかじゃないんだろ?」

「………好きも何もこの前知り合って、数回しか会ってないってば。」

「向こうはその気ないんだろ?」

「……知らない。でも、お見合いしたってことは結婚したいんだろ?向こうも手っ取り早くていいと思ってるんじゃない?しかも、アラサー女子は結婚に焦ってるってネットに載ってた。」


「………」

それは、相手に少しでも好みの部分があって、結婚するのに適していると思えばだろう。いくらアラサーでも、そこまで焦る必要もない。むしろ誰が焦ってこんな男と結婚したいと思うのだろうか。ネットは騒がしいが、アラサーなら普通に結婚できる年齢だ。

モテなくないとはいえ、功に惚れるような女性も半分ヤバい系である。実際、そういう感じだから事務所が功の周りに来る女性関係をセーブしているのだ。


「そもそも尚香さんも、結婚出来れば誰でもいいって感じだったし。なら、俺でいいし。」

「絶対違うだろ。」

「お見合いくらいで勝手に結婚決めてる時点で、多分向こうは功のこと犯罪者認定だから。」

「なんのミステリーなん?功、被疑者?」

「間に道さんがいなかったら、速攻警察案件だな。」


「そう?だからお付き合いからって言ったんだけど。」

「付き合って勝手に結婚決めてるのもだめだからな。」

「でも、お見合いからのお付き合いなら、結婚じゃないの?」

「ケーズバイケースだろ。」

「え?!」

本気で驚いている。この男、本は読むのだが、人生の何も学習していないのか。


「少なくとも、相手の気持ちを汲み取れよ。」

「でも、興田(おきた)さんも、この前彼女にひっぱたかれてたじゃん。」

アドバイスをしたスタッフ興田。仕事を優先し過ぎてこの前フラれたばかりである。

「だから俺は、身を引いただろ?」



「でも、『それでも愛してるっ!』て気持ちも大切だし。そこで押して結婚に持っていく!……尚香さんにもそうしとこ。」

と功は愛嬌ボーズをする。

「………」


あまりにも相手が不憫で、男性スタッフが聞いてしまう。

「コウカさんのこと、…………あい……愛してるの?」

日本人には言いにくい言葉で照れる。


「……いや?だから愛とかいう雰囲気でもないし。日本人だし、あえてそんなセリフ要らないっしょ。そもそも世の何人が愛で結婚するの?人生の都合の足し引きで結婚するんだよ。」


今先、興田に愛を語ってこの低落。伊那が怒る。

「………お前、口だけで『愛してる』とかそういうこと絶対に言うなよ。」

女性一人の人生が掛かっていのだ。このままだと功君のお守り人生押し付けである。


「でも、時が育んていくものもあるからさ。」

未だ得意そうな功。

「……育む気あるんか?」

「尚香さんが頑張ってくれそうだから大丈夫。仕事のノルマを確実にこなすらしいし、真面目らしいもん。決めたことは使命感で最後まで頑張るってさ。それに俺も頼まれればすることはあれこれするつもりだし、荷物持ちとか。

思ったより婚活楽勝だった。興田さんに申し訳ない。」



「…………」


みんな思う。

こいつはものすごく世の中を舐めているか、そうでなければ、尚香さんをものすごく舐めているのであろう。一度、世の中というものを知るがよい。




***





「で、尚香さん。結局章君はどうなったんですか?」

株式会社ジノンシー側では、ミーハーな柚木さんがバンドの功君が尚香の家に来ると分かってから、ちょっとしつこい。


コンサル部の企画課女子、リフレッシュルームで声を潜めつつもウキウキ話す。


「尚香さん~。」

「どうもなっていません。たまに家でお茶を飲んでいるだけです。」

「えー!!結局、家に上がってるんじゃないですかー!」

キュンキュンしている柚木さん。

「………」


時々お父さんが呼んでしまうのである。昨日はチェスをしていて、歌のプロという特技を持っていたくらいなので実は他もめっちゃ強いのではないかと期待したが、呆れるほど弱かったという。仕方なく尚香が章側に付き、最終的に父娘決戦になり、章は横でお菓子を食べながらじっと見ていただけである。いちいち柚木さんには言わないが。



「……でもね、柚木さん。章君は結婚できるレベルじゃないよ。」

「すればいいですよー。楽しそう。あのシルエットだけでも目の保養になるし~。」

「柚木さん、視覚でだけでは理想の結婚生活はできないから。」

「視覚だけで頑張れるかも!」

尚香はため息が出てしまう。背が高いのに背筋もシャキッと伸びカッコいいとは思うが、別に尚香のタイプではない。あんなモデルみたいな男は街で見掛けるだけでいい。


「それにね、章君は結婚以前の問題だし。」

「まだ20代前半ですもんね。」

「そういうことじゃなくて、……あまりに簡単に結婚、結婚って言うから、婚姻届け自分で出しに行ける?って聞いてみたんだけど……」

「ほう。」

柚木だけでなく、横にいた川田も注目した。美香は部署もフロアも違うので今はいない。


「そしたらね、章君はね………『行けるよ。俺、都庁登ったことあるもん』って言うの………」

「都庁?」

二人とも話が飲み込めない。


「『都庁の上は観光地でしょ?結婚は何階で降りればいいの?』とか聞くの。」

「え?婚姻届けって、都庁でも受理されるんですか?!」

「……そんなわけないです。」

「…それって、婚姻届けは都庁に出すと思ってるってこと?」


「それで、説明してあげたんだけど。章君、都庁に戸籍関係の届け出は出さないんだよって。」

「……はあ。」

そうであろう。


「そしたらね、こう言うの。『じゃあ、公民館?』って。」

「……!!」

それは一同、ショック過ぎる。

「でもまあね、まだ社会人になったかならないかの年齢だし、都庁でもパスポートや免許関係ができるから、間違えることもあるだろうし、人生に何度もあることじゃないからその都度調べる人も多いだろうし。市町村によっては公民館や会議場が役場と近かったり併設されているところもあるからね、間違えるのもしょうがないと思って。」

「……そうですね。」


「『章君、基本は本籍地や所在地のある役場だよ』って。」

「なるほど。」

優しく教えてあげたのだ。こんな業界にいるのだから、章君の未来のお相手も社会性があるとは限らない。


「なのに章君はね、『え?都庁がいいな』とか言うんだよ。」

「へ?」

「都庁しか知らないから、都庁がいいから、都庁にできるか聞いてみないとって。都民のための都庁なのになんでしてないの?確認してよって頼まれた。」

「??」

「なんでそこまで都庁?」

こっちこそ章に確認したい。

なぜ都庁。


「自分では確認しないんだ。」

「いたずらやカスハラ扱いされるからイヤなんだって。」

「都庁好きなんですかね?」

「都庁がチートとでも思ってるのかな。映画とかでチートですもんね。」


「まさにテレビやネットでよく出るから都庁しか知らないらしくって。地下通路で新宿駅から行けるのもポイントだって言ってた。」

「それただの都庁ファンじゃ……」

「区役所は行ったことないし、お役所関係は怖いからいやみたい。自分で窓口か電話で確認したら?って言ったら、電話も嫌いだって。」

「……都庁のあのビルが無敵にでも見えるんですかね?」

「都庁もお役所だし。」


実際は道と何度も区役所に行っているが、都庁のように「区役所でーす!イベントしまーす!」と、派手に宣伝していないので章の印象に役所として残っていないだけである。



「…………」

答えのない柚木と川田。


そんな男と結婚したくない。子供か。今後も全部任せられるであろう。なんなら詐欺に貯金を全部持っていかれそうなタイプである。高学歴集団ジノンシー。話が合いそうにないし、それはときめかない。






その時、後ろから声がした。


「え!!……金本さん、結婚するんですか……?」

「!!?」


この話はこの前の女子5人の秘密だったのに、端っことはいえ部署内フロアで話していたのがまずかった。尚香のいる部署には、ミーハー柚木の男版、壁に耳ありの兼代(かねしろ)君がいるのだ。

「まさか、都庁で結婚式!?」

そんなわけがない。しかも、あれはPR含むメディアイベントである。


「金本さん、結婚式絶対呼んでくださいね!!身内だけとかだめっすよ!金本さんのためならご祝儀3万余裕っす!!都庁なら5万包みます!!」

みんなこっちに注目してしまう。


「おお、金本さん遂に?」

「そんな話全くなかったじゃないか!」

フロアが浮き立って拍手をしそうな雰囲気になって来たので、首を振る。

「しません!違います!!」

「ごまかさなくても大丈夫です!しかも、年下ゲットですか?!」

「おおお!!今流行りの年下っ!!」


「違います!!親戚の子の話です!私ではありません!」

「本当ですか~?」

「本当ですってば!尚香さんの従弟のお話です!都庁が好きすぎて、都庁で冠婚葬祭をしたいそうです。」

ここは柚木もきちんと尚香側に付いてごまかしてくれる。

「生まれも都庁がよかったとか……」

……だけでなく、余計のことまで言う。


「なんすか?その間抜な従弟。なぜ都庁?」

そんなのこっちが聞きたい。



こうして、お見合いの話は広がらないも、変な都庁マニア、従弟の話は課で広がるのであった。



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