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スリーライティング・上 Three Lighting  作者: タイニ
第二章 どこまでの話?

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13 もうここはライブハウス



バイオリンを弾いてみろと言われるも、ケースを抱いたまま章は動けないままでいた。



そんな中、友人がいるのでバスケ部男子たちが軽音部に顔を出しに来た。クラブのあとは放課後練習があるが、文化祭前なのでこの時期は遅れても休んでもいい。

けれどみんな、一瞬で雰囲気の悪さに気が付き部室に入るか迷う。それでも、さらに女子バスケ部員も友達数人と7人ぐらいやって来て、彼女たちに押されて教室の後ろに入ってしまった。女子たちはバンドに向かって手を振った。



しかし、こちらはそれどころではない。


章の言葉が許せない軽音部。

「あ?偉そうなこと言って、お前、なんにも出来ないんじゃねーかよっ。」

「クラシックでも習ってたのか?だいたいただの学校のただの教室だろ?ここでいい音なんて出せるかよ。代々使っているアンプだしな。機材残してくれた先輩たちに失礼だろ!」

部活と違って予算はなく、個人でコツコツ集めた機材を先輩が置いていってくれたものだ。

「オーケストラにでも行けよ!!」


「おい、大丈夫かよ……」

バスケ部メンバーが止めるべきか、小声で話し合っていた。




少し言われっぱなしになるも、章はどもりながらもまた言い出す。


「……その、あの……。物理的に欲しい音が出せなくても、もっと聴き心地のいい音とかあるだろ?不足ならこっちが環境に合わせるんだよ。」

「は?やってんだろ?」

「違う。お前ら、毎回与根が指摘してること、全然できてないし。」

「!??」

「なんだ?!マジ何様のつもりだ?!」


「っ!?」

お、すごいことを言うな……と与根は思うとともに、巻き込まないでほしい。これでは与根も身の置き所がない。


「今どこかで聴こえる音も、勝手に響いてる音も、符合して調和する音を絶対に持ってるから、そこに合わせるんだよ。」

「…はあ?」

「……?スプリチュアルかよ。こいつ気持ちわりーな!!」

「こっちが世界を迎合すれば、世界もこっちに合わせてくれるようになる。」

「ヤベーよこいつ。学校来なくて正解だわ。」

「そんな話してない!まず発声がダメだ。喉で声出してるだろ。喉で声出してたらすぐに潰れるし、だから音が気持ち悪いんだよ。」

「!!」

「バスケしてるんなら、腹に筋肉はあるだろ?発声の基礎からした方がいい。そこ、肩幅に足を開らいて立ってみろよ。仰向けになってもいい。」

「?!はあ?!………」


大勢のいる前で、自分の不足を晒されたボーカルは怒りに満ちた顔をしていた。章としては、体はできているので、基礎を学び直せばもう少しいい声が出ると言いたかっただけだ。


きれいな声が出ていれば、多少音を外しても人の耳に感動が残る。




そこで、完全に血が上ったボーカルが章の前に出た。


「なら、お前が歌えよ!」

バッと章の前にマイクを突き出す。

「?!」

「できもしないバイオリンじゃなくて、歌にまで口出しするとはな。お前は評論家なのか?!」

「っ……」

「お前、こんなところで何、完璧求めてんだよ!」

バンドメンバーは、自分が完璧な音だと思って格好をつけていると思われるのも癪なのだ。

「………」

あれこれ言われて動揺の顔を見せる章。


「歌えよ!偉そうなこと言いやがって。お前から見ればカラオケのような音源で、カラオケのようなマイクにでも思えるんだろうな!」

「……でも、カラオケはそれでもプロが作ってるから音は正確だけど……」

「っ!?!」

また怒らせることを言う章。


「だからやれよ!」

完全に怒ってしまったボーカルに、周囲もどうしたらいいのか分からない。


「ほらっ!」

「………」

「ああ゛!?」

グッとマイクを突き付けられて、思わずその柄を握ってしまった。



「……………」

立ちつくす章。


与根は何も言えず、二人にそれぞれどう声を掛けるか悩んでいた。バスケ部の気の強そうなメンバーは、怒り狂いそうな自分たちの友達と、タジタジしている男子を気まずさやおもしろそうな顔で見ている。中2やまだ小学生から上がったばかりのメンバーに、こんな修羅場を解決できるわけがない。





「………分かった……」


けれど辺りを見渡してから、突如、章は動き出した。


「お前らの得意なカバーは?」

「え?」

「何でもいい。」

「……えっと……」

「最近やったのとか、好きなのや弾きやすいのでいいよ。1番だけ。」


「………ズーニーの『西の彼方』……」

ギターが答えるも、あえて歌いにくく地味な歌を選ぶ。章は歌詞を見ていないと題だけでは分からない。少ししっとりとした、UKロック(イギリスロック)に影響を受けているバンドの歌だ。

「一部でいいから歌ってみて。」

「え…?」

突然言われてギターは言葉が出ない。

「なら動画見せて。」

ギターが急いでスマホで出し、出だしの音だけ聞くと章は止め、「分かった、大丈夫。知ってる」と答えた。


「??」


機材の音は先、見ているので、マイクを軽く確認してそのまま続ける。


「与根、リードしろ。」

「は?」

与根はギターのバッグの力持ち、ベースだ。ギターが戸惑いドラムが焦る。

「よく分からないんだけど。」

普段ボーカルが引っ張っているので、急に言われてもみんな咄嗟に何もできない。

「まあいいや。じゃあ、いつも通りでいいからそれ弾いて。」


「あと、スマホで写真とかやめて……」

章は自分が写されるのが嫌いだ。

「…は?クソかよ。誰がお前なんか。」

「バカにされんネタだからだろ。」

メンバーが怒ったり、誰がお前を撮りたいんだよと羞恥心まで感じる。けれど女子たちが、小さな子を庇ってくれるようにOKをマークを出して笑ってくれた。




バスケ部が数人また入って来たが、誰かがしーと、静かにさせた。




トンっと、ドラムが最初を打つ。



先、与根がリードしろと言ったのを意識したのか、それからは余裕な顔をしている与根に合わせている。普段音楽に関わらない人には分からないほどのズレやリズムが、整っていく。



いや、整っていくというより、完全ではないけれど、どこか聴き心地がよい流れを掴んだ。



最初、少ししっとりとした部分から歌は始まる。



マイクを両手で握る章から、言葉が流れる。




―――風、


空が降る――――




「…………」

静かにしながらも、(つつ)き合って騒がしかったバスケ部が、一瞬で章に注目した。男子も女子も、静かになる。


与根やバンドメンバーも弾きながら思わず章を見た。



低いのに、澄んで通る声。




―――この風 あなたのいる、


あの都市(まち)で そこでも吹いて いるのだろうか―――




ゆっくりとしているのに、時々強いリズムが入る曲調に変わった。


小さな体から出る低くて重い音。でも、まだ成長の微妙な時期だからか、ときどき甘い。




こいつ、子供なんか?

と、与根。


ベースを(そら)で演奏するも、意識は完全にボーカルに向かってしまった。




そしてサビで、さらに驚く。



英語部分が完全なネイティブだ。


いや、むしろここにいるメンバーは、完全なネイティブ英語など全員聞き分けられない。それでも、歌にすると与根にもなんとなく分かる。



澄み過ぎておらず、濁り過ぎてもいない独特な声。

口パクかと思うような上手さだけれど、演奏も含めて垢ぬけきらないので、きちんと生の音だと分かる。でも、聴いていて不快な部分がない。



歌い方も、際立つ。

恥じらいが一切ない、もう何度もステージを経験したかのような貫禄。


素人が歌って聞く方も少し羞恥があるような、そんな空気を全く感じない、もっともっと、もっともっと聞きたくなるリズム感覚。



そして、間奏で与根が区切りをつけた。




教室がしーーんとする。



まだ、両手で口元でマイクを握ったままの章。



それからそっと、礼をした。



「すごい、いい!!」

と、急に女子が一人手を叩くと、わああ!!と拍手が起こった。


唖然としてしまうボーカル。


ドラムとギターが驚き混じった表情で、でも楽しそうに顔を合わせた。

陶酔して演奏していると自分たちはかっこいいと思ってしまうが、録音を聴いてしまうと荒さが分かるので、上手くはないと自覚はしている。半分は格好をつけるために始めたバンドだ。でも、先は、ただただ演奏が楽しかった。



「ねえ、他に何か歌える??」

と、女子が聞くと、章ではなくギターが言う。

「『ボイス』!」

軽音部に二人ギターがいるが、一人が最近人気のJ-ロック男性歌手の歌を挙げると、このノリのまま、章と与根が演奏をリードする。


章はその歌も難なく歌いあげた。



教室は既にライブ会場。


フルで歌が終わると、やはり拍手喝さい。



「マリアベルの『君が大好き』は?」

「!?」

女子の一人が、今、巷で大人気の歌手を出してしまう。音楽好きは演奏をしない、ちょっと見下しがちな、いかにもな流行曲。アイドルのような格好でアイドルのような歌を歌う女性のデュオだ。

周囲はさすがにそれは……と引いてしまう。



しかし、章が何も言わずバンドメンバーを見ると、「弾けるけど……」と、ギターの一人が言った。


すると、「じゃあ弾いて」と、体と手でリズムを取る。


アワアワするも、ギターがその動きに乗せると、女子が手拍子をし、それに合わせてバスケ部男子もノリノリでオーバーに手を打った。



しかしバンドメンバーは想像がつかない。どう歌うのだ。女性が歌うポップで楽しい、なんならかわいい系の曲だ。


そんな中、与根も曲は知っているので、演奏が始まってからそこに合わせる。



そしてやはり、章は全くひるまず歌い出した。

どこか似た特徴があれど、先とはまた違う声でかわいらしく歌うのだ。何なら、ダンスまで合わせている。


しかも、ダンスのキレがめっちゃいい。

「??」

これにはさすがの与根も驚いてしまう。


「わああ!!!!」

「わお!」

「おおお!!!」

女子も男子も大喜び。特に女子たちは歌や手の振り付けも合わせて大賑わいで、一緒に歌い切ってしまった。


間髪入れずに別の女子がリクエスト。


「『スキだけどキライ』!!」

SNSで有名な、ボカロのクセのある曲。もう、バンドが追いつかなくて、女子がスマホでカラオケをかけてしまう。そして、やっぱり上手い。男がウケ狙いで歌っているのとも違う。伴奏のアレンジなく聴かせる歌になっている。



結果、バンド……というより、後半はカラオケ大会になってしまったが、ボーカル章君のミニライブは大成功であった。

「すごーーい!!!」

「めっちゃ楽しいね!!!!」

「ねえ、みんな呼んでこうよ!!」



一旦これで終わりとなると、急に章は真顔で大人しくなって、マイクの手入れを始めた。まるで、初めからこの教室にいなかったように。黒子のように。




「……………」

一番余裕だったのに、今、一番信じられないのは与根だ。



多少の歌心さえあれば、歌は誰にでも歌える。少し楽器ができれば演奏もできる。でも、人を乗せるのは難しい。

しかも、始まりがあの雰囲気だ。音楽好きが集まり、わざわざ誰かが盛り上げてくれるライブハウスでも、時に白けた空気になることがあり、ふつう、その雰囲気に飲まれてしまう。まだ中1。

そして4曲とはいえ、思い付きで言った全く違うジャンルの曲を、歌詞も見ずに正確に歌いこなしてしまった。与根でも一応タブレットで楽譜を開いている。


でも章は、知っている曲は、動画も楽譜も開きもしなかった。


ダンスもおそらく完璧。しかも、途中途中でいらんポーズまでさりげなく決めている。最後はもう独壇場だ。






一方、面目を潰されたのはボーカル。


みんな身内なので、時々聴きに来るとノってはくれるが、明らかに反応が違う。

バスケ部もバンドのメンバーも、先のあの感じがよかった、あの部分がこういうふうだった、発見ってこういうことか、こうすればよかったのか!、あのポーズ目に残る!と楽しそうに話している。



その楽しそうな雰囲気の中、章は先と打って変わってなぜか寡黙な少年だ。そして、突然「じゃあ……」と言って、教室を出て行ってしまった。


「え?ちょっと待って!」

「ねえ、今度の学祭歌ってよ!!」

みんなが言うも、章はもういなかった。


教室の興奮は止まらない。

「すごかったねー!!今度リルたちも呼んで来ようよ~!」

友達たちのことだ。

「今の子、誰だっけ?」

「他中?」

「動画取ればよかった~!」

背は150越えたかくらいで、茶髪で完全私服男子。ほとんどのメンバーが学校で見たことがない。



「………」

けれど、何人かはボーカルにどう声を掛けたらいいのか分からなく困っていた。強気だったギターの一人も身の置き所がないし、すごかった章を素で認めるほどの器量もまだない。


友人たちは、これだけ演奏の場を盛り上げて、これからどうしたらいいんだ?という感じであった。




こんな雰囲気を作ってしまった章は、もちろんもう軽音部には顔を出せなくなるのであった。




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