11 功君はアイドル
※アイドルの話が出てきますが、過去の章の人生の一部ということで、ストーリー全体としてはスパイスぐらいにしか出てこないです。
それはひどい。最悪である。
今、この話は口にしないけれど、確かお見合いをしたのだ。星付きホテルで正装でお見合いして、年収100万とか言う男性、聞いたことがない。家事手伝いの方がまだしっくりくる。
「こんな章君、誰かに紹介できます??」
こんな人、もう少しどうにかしないと他の人にも紹介できない。しかも、次に譲るのか。
「できません。」
「むしろ、功君はもう結婚しない路線で行くんじゃ……」
「でも将来の夢は『お婿さんになること』って、書いてましたよ。」
和歌曰く。ファンも知る、プロフィールブックにそう書いてあったのだ。中学生の時から。
「功君、かわいそう………」
「功君がそう書いていると、ファンサービスなのか、本気で書いてしまったのか分からなくてつらいですね……」
と、尚香が呟くと、みんな尚香を見上げてしまう。
全然興味関心もなくて、まだ数回しか会っていないだろうに、ふてぶてしい男のなぜそんなコアな性格まで知っているのだと。おそらく功君は真面目に書いたのだろう。一般的な幸せを求めて。
功が本当にバンドのボーカルだと、今、知ったばかりの尚香。
「あ、でも、女性にも人気があるって自分で言ってたくらいなので、きっとファンもいるし、来てくれる女性もいるだろうし……」
その手の世界を知らないので、尚香は純粋に言ってしまう。
もちろんスタッフは頷けない。
「憧れで来る子やファンっぽい子はダメなんだよね……。この世界。」
「ファンの子と何かあったら問題です……。」
よくニュースになっている話題だ。
「でも、バンドなんですよね?ビジュアル系でもないし、顔や自分を売りにしているわけではないから……」
尚香の知っているバンドのボーカルや歌手は、30前後に結婚している人も多いし、結婚してからメジャーになった人たちもいる。映像を見る限り、普通のTシャツにズボンで見た目を売りにしている感じでもない。バンドごとに片寄りはあれど、ファンだって老若男女いろんな層がいるイメージだ。
「功はダメなの……」
「ダメとは?」
「お付き合いしてもいいんだけれど、あんま、誰とでもって立場じゃなくて……」
「……?」
「功はね……元アイドルだったの。」
「??」
尚香、また目が点になる。
「……尚香さん?」
「はい……え?アイドル?」
「功は元アイドルで、その時のファンもまだ繋がってるから………」
「???」
尚香、やっぱり飲み込めない。
「所属していたグループへのメンツもあるしね……。今でもよくしてくれてるし。」
アイドル?章君がなれるの?違うよね?
しかも、今も存続しているグループ?あるの?
と言ってしまいたいが、これ以上言うとくどいであろう。
でもアイドル??
尚香の中だけで疑問が反復する。
尚香から見れば、章は見た目、推しに熱狂する女性が見向きもせず嫌がりそうな、派手なヤンキーなタイプである。サーファーとか、車をいじってそうなヤンキー系。茶髪だし。
根暗そうな部分もあるから違うのか??
女性に人気があるというのは、ただ一般的にモテるということだと思っていたのだ。
「……えっと………それが事実としても、もうやめたんですよね?」
なにせ、元である。
はあ………と、みんなため息をつくが、尚香はもう本当に迷宮入りである。全く関心がなかった世界の上、今日の入力情報が多過ぎて、遂に情報を処理できなくなってしまった。
「……アイ…ドル?……アイドル??男……しかも男?」
だんだんアイドルの定義も分からなくなってくる。アイドルイコール女性と思うくらい、男性アイドルを知らない。
尚香もバラエティー番組に出ているような、男性アイドルは知っている。最近の若手は知らないが、友人に連れられて昔一度だけコンサートにも行ったことがある。それとも、男性にも、女性のようなご当地アイドルや地下アイドルとかあるのだろうか。そういうの?
「グループ名は何ですか?」
「功のバンド名は聞きもしなかったのに!」
和歌が真理をなだめる。
「まあまあ、真理ちゃん。静粛に。
それにはお答えしましょう………」
みんな黙った。
「その名は………
『エナジードリンクモーメントX』!!!」
「?」
尚香、また思考が飛ぶ。
「エナジードリンク??」
……??
これまでの全ての怒りがどこかに飛んでしまう勢いである。
「やめなよ。尚香さん、もう付いて来れないよ……」
「エナジー……?モーメント??エックス???」
「略して『EDMX』……エディミックスです!!」
「ファンはエナドリと言いますね。」
「ちょっと変なバンドじゃなくて??」
逆にバンドならありそうだ。
「ザ・アイドルです!」
「……………」
もう、コメントもない。
「……」
「…………」
誰もが黙る。
仕方ないので一言。
「………日本のアイドルですか?」
「ズバリ、韓流です!」
「あ、やっぱり。名前がそんな無理やりな感じです……」
本人たちすら、自分たちのグループ名に呆気にとられるらしい、k-pop。まあ、日本もだが。
もう何か、どうでもよくなってくる尚香。
正直どの答えもぶっ飛ぶ過ぎて、現実に思えない。
何がどうしたら、章がケーポップアイドルになれるのだ。尚香も日本で有名になった『東方義侍録』くらいは知っている。そんなレベルの高い世界で活躍するような仕事など無理であろう。技術の以前に、厳しい練習生活に3日も耐えられなさそうである。章君はお友達を作れるのか。チームを組めるのか。
「…………」
少しノって来たのに、バンドからアイドルに飛んで、国境も飛んで、現実味も全くなくなり、尚香の心は今や平常心である。
いきなり歌の世界に足を踏み入れたけれど、もう功君うんぬん抜きにしても、早く自分のディスクに帰りたい。出社したい。
けれど、初めて会って、忙しいだろうに時間を作ってくれた皆さんにお礼だけはしておこうと思う。今日の酒もつまみもナオさんたちの奢りと真理の家にあったものだ。
「今日はありがとうございました。お礼はいつかしますので。」
「えっ?!これからが本番です!!」
「待って!ここからどう帰るんですか!午前1時半です!」
「…普通にタクシー拾って帰ります。」
「このマンション、出口が遠いですよ?途中に共有トイレがあるくらいですから!」
「迷子になりながらでも帰ります。どうせ今、迷子なので。」
「女性の夜歩きは危ないです!」
「尚香さん…!功が、どうして『元』、なのか知りたくないですか?」
もう、自分たちどうこう前に、この女性を攻略したい皆さん。
「……いえ、とくに……。グループや現場に馴染めなかったとかですよね?」
「っ!?なぜ説明なしで分かるんですか??」
「………」
ここまで来て、分からない方がどうかしている。
「おそろの服とかキラキラとか着たくない、愛嬌振り撒くのヤダとか、このポジション嫌だとか言ってそうです。メンバーにも変なこと言ったんじゃないですか?下手したらプロデューサーに。」
「むしろ、カメラが回ると超愛嬌ふりまいてくれるんだけど、だいたい合ってます!!」
「メンバーだけじゃなくて、社長にも言ったんですけどね!そこまで分かるとは!!」
「すごい!」
「……………」
何一つすごくない。
「でも、そこにはすっごい感動秘話もあるんです!!」
「………」
真顔で見てしまう。なぜ、章君の感動話を聞くのか。バラエティー番組の秘話とかも興味がない。
「尚香さーん、聞いてくださいよ~!」
「じゃあ、一文くらいでお願いします。」
「エディミックスのリーダーは向こうの人なんだけど、ちっちゃい功君が田舎の従弟に似てるって、本当に本当に大好きで、同級生なのに誕生日が1か月早い自分はヒョン(兄)だって、問題が起こる度に間に入ってくれて、一度は土下座までして、日本から来たのにめげずに一生懸命な功のためにって、スケジュール管理もして、ご飯まで見てくれて1年は頑張ったんです!!」
k-popに詳しい和歌さん、力説である。
「……一文が長い……。
でもダメだった、ってわけですね。」
「最初から結論付けないで下さ~い!!」
「だって、もう結論出てるし…。じゃあ、帰ります。」
「だから、この時間、女性の一人歩きはダメです!さあ、飲み直しましょう!!今度はアイドル時代のMVです!!イットシー関係ないけど!」
「帰ります……」
「なら、波打ち際に捨てられた功を、うちの社長がどうやって拾ってきたかをお話しします!!」
「すごく投げやりになっていたところ、たまたま拾ってもらったか、何かしつこく喋りまくってたんじゃないですか?」
「その通りなんですけど、その二択はなくないですか??頑張ってオーディションを受けたとか、キラキラ輝く研修生が目に留まったとかあるじゃないですか!」
「そうなんですか?」
「違いますけど……。打ちひしがれてただけですけど……」
「功はね、打ちひしがれていたけど、すっごい目立ってたんです!!」
真理が言い切る。
「打ちひしがれて、あの頃はまだ小っちゃくて、すっごい突っ張ってて、目つきも悪くて、学校にもまともに通えなくて、学祭や同級生のバンドでひんしゅくを買って………」
「……真理ちゃん、それ、褒めてるところないし、歌とあんまり関係ない……」
まだ小っちゃい功君ならかわいいのかなと思えば、目つきが悪いとな。
「あ~~っっ!!とにかく、功君は功君なんです!!」
「…………」
プレゼンテーションや演出、出演のプロが揃っていて、そこらの会社員一人説得できないどころか、みんな何を目的に尚香と飲むことになったのか、分からなくなってしまう。
「尚香さん、もう、もういい………
普通に飲みましょう!!」
遂にナオ、ウイスキーに弱いくせに一本開ける。
「これは、プロデューサー戸羽さんの奢りでーす!!!」
と、夜は更けていく。
実はお酒に強い尚香。
仕事明けで疲れていたみんなが寝入ってから、毛布やタオルなどを掛けて簡単に周りを掃除し、一言メモを置いて一人で帰って行ったのであった。
***
そして、朝6時に起きたナオは、唖然とする。
あれ?真理ちゃんち………、今日仕事……11時からだっけ……。
ん………
そこで、尚香の残したメモに気が付く。
「あーーーー!!!!!」
「何々……?」
と、一人誰かが起きるが、時計を見てまた寝る。
「うそ!負けた!!なんか負けた!!!」
「ナオさん、朝から騒がしいんですけど。寝させてください……」
「あーー!!なんか、くやしい!!」
と、ナオが呻くのであった。
※この小説は、2000年代の末の頃作ったものです。今の事情と混ぜていますが、話の大枠としては現在のKPOP事情はあまり汲まずに作っています。お話の舞台もほぼ日本で、今の功や尚香の会社の事情が主な舞台になります。(音楽のことも、細かくは踏み込まないです。)全てフィクションです。ファンタジーと同じ感覚でお願いします。




