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スリーライティング・上 Three Lighting  作者: タイニ
第二章 どこまでの話?

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10/90

10 ウチを見て




「だから私、ディレクターじゃないんですけど。」

「いいえ!お仲間です!お仲間に違いありません!!」

そう言いながら都内の真理のマンションで一杯交わすのは、尚香、真理、ナオを始めとする女性数人。



ディレクター仲間と言われ、ブーと怒る尚香。ディレクターとは、業界や会社によって役目や範囲は違うが、プロデューサーとマネージャーの間のような役割である。


「じゃあ、尚香さんは何なんですか?」

「次期課長です!」

「それはウソ!そんなのおじさんじゃないですか!まだ20代なんでしょ?」

日本の会社で女性が20代で課長などあまり聞かない。万年会社で耐えて来た、男性たちの嫉妬の的になるであろう。

「本当です!でも責任を全部受けるのは無理なので、永遠の次席です!」

「尚香さんおもしろーい!」

「はいはい。そうです。全部ウソです。私はどこまで行っても、永遠の落ちこぼれです。」

「えー!なんでそこで卑下するんですか?」

「まり、課長も部長も分からないんだけど。」


初めての場に来て、少し酔っている尚香に、演出の和歌(わか)が言い寄る。

「わあああん。尚香さーーん。初日に意地悪してごめんなさい~。」

和歌は初日のあのレストランで、尚香に攻撃を仕掛けようとした女性スタッフである。飲み始めたら、初日の暴言も気にしていないっぽいし、すっかり仲良しだ。酒の力ではあるが。


「さあ、真理ちゃんも謝りなさい!!」

「イヤです!!まりは謝りません!!!」

「真理さんこんなにいい家に住んでて驚いたよ。普通住めないよね……。」

「まりの家はお金持ちです!!家族みんな音楽家なんです!!」

「…それはすごいね……」

都内の高級マンションの上に、グランドピアノまで置いてある。大きな戸を閉めると、なんとリビングそのものが防音仕様になるらしい。そんなことできるの?と思うが、一戸自体が大きいので一部強化すればあまり近隣に影響しないらしい。


真理がツンケンしているので、和歌が続けた。

「なら次期専務!!信じてあげるから、功の永遠のマネージャーしてあげて下さーい!!このままだと功も永遠の独り身です!」

「まだ20代で何言ってるんですか。それに人気なら誰かしら貰ってくれるでしょ?」

黙っていれば悪くはない男だ。少なくともスーツの時はまだまともに見えた。


「でも、ダメなんですよね~。」

「功はどっかでバシっと一線引いちゃうし。」


それは尚香も同じである。

「私も、功君みたいな人には一線引きます。怖いし……」

最初はだらしなくナヨっとして見えたけれど、それなりにしっかりした体つきで正直怖い。

「えー?そうですかー?怖くはないけど~。」


「それに、いざという時、せめて頼れる人がいいです。」

「功君、背、高いし、何かの時の威嚇にはなるよ?態度デカいし。」

「あ、そうじゃなくて、家計とかきちんと管理できて、引っ越すならローン組むのも話し合えて、財産や遺産の詳細の相談もできて、保険も無理なくいいのに入ってくれるような………」

「それは無理だ!」

「儲けて一括で買いましょう!家は!!」

「たまに、全く違う業界の人と女同士のお話も楽しいですね~!!」

完全に酔っている。





今夜は対バンが多かったため、7時スタートで10時終了、11時撤収。


先のライブハウスはイットシーが管理しているため、全撤去しなくてもいい。他の会社のバンドには枠と場所を貸す形になっている。そして今日は定期ライブ。今回は少し長いが、することは決まっているのでスムーズに終わった。最後の1時間が功たちのタイムテーブルだ。


イットシーはそんな感じで東京に2か所、スタジオ込みのライブハウスを持っており、功のバンドと、他2グループがとくに大きな稼ぎ頭になっている。他にも様々な音を提供したり、BGMやテーマソングなど作っているが、今一番大きいのが功たち。


自分たちが歌わない平日昼間など、曲さえ認めてもらえれば、ライブハウスは様々なバンドや歌手などが比較的低価格で使用できる。片方は着席型で演劇もできる小舞台になっているため、簡単な舞台やミュージカルなどにも使えた。


ライブが終わるまでナオと真理と尚香は、真理の家で飲んでいた。ライブ中に抜けていいのか聞いたら、定期ライブはいいらしい。真理は一部のライブは自由参加。ナオも元々時間外労働が多過ぎるくらいだ。



仕事後に他のスタッフが合流。


「それでですね。ここに来ていただいた目的は、うちのMVミュージックビデオを見ていただきたくて呼びました!!」

ナオが、プロジェクターを指さして威張っている。

「あ、もうそれはいいです。今日で最初で最後にしますので。」


「ダメです!!私も初対面の人を家に上げたのは初めてです!初めて記念に見て下さい!!」

「まりの家だけど?」

申し訳ないので、真理にも話を振ってあげる尚香。

「真理さんは音楽一家ってことは……作曲とかバックバンドとかしてるんですか?」



「?!!」

そこでついにみんな戦慄する。

尚香は功について、バンドについて本当に本当に知らないのか?!と。尚香もみんなの反応に、もしかして真理さんもボーカル?と申し訳なく思ってしまう。



「………尚香さん……本当に、なんっっっにも知らないんですか??」

「……最近はちょっとメジャーになってきたから、以前からのファンに少し嫌がられてるくらいですよ!」

「まず、うちのバンド名知ってます??」

「……功君のバンド?知らないです……ごめんなさい。」

検索すらしていない。

「!!?」

皆さんショックを隠せない。


「……好きな歌手は?」

「え?普通にいっぱいありますよ。……シルバールトンやヤヤナ……それから、夏樹佳とか……名前まで知らない歌手も多いかな……。洋楽は有名どころはいろいろ聴きます!70年代80年代の曲も。」

「………本当に有名どころだ………」

尚香のマイチューブをスクロールしていくと、誰もが知る、CMや映画にも使われているような曲ばかりである。言葉にならない。


「………」

みんな、憮然と尚香を見る。



「なら、最近のコレットのCF(シーエフ)知ってます?」

コンパクトカーのCMの事だ。

「コレット?」


和歌がCMを流してくれる。


「ああ、知ってます!最近ラジオでも流れていますよね。会社の子が聴いています。」


「それウチです。」

「うち?」

「ウチの歌です。」

「え?イットシーさんのところのバンドですか?」

「そうです。」

「えっ!すごいじゃないですか!!」


「こっちもウチの会社です。」

と、もう1つ音楽が流れる。



聴き心地のいい、耳に残る、初めて聴いた時にもどこか懐かしく感じる、古くも新しくもある音。


一瞬洋楽にも感じる。



「こっちも知っていますよ!よくSNSで流れてます!」

尚香とて無知ではない。仕事上、様々な会社のホームページもSNSも見るのだ。

「イットシーさんって、今本当に今盛り上がってるんですね!」

尚香脳は考える。仕事のために知っておかねばと。



「……それ、全部功です。」



「………」

ナオの一言に固まる尚香。



「……え?作曲ですか?」


「一部作曲作詞。歌もです。」



「………???……??」

尚香さん。何も飲み込めていない。

「歌??功君、歌うんですか?」

「だからボーカルって言ってるじゃないですか!!」

ナオ、遂に怒る。


「この声は違うでしょ?」

まだ本気にしてない。

「ひどい!尚香さんってやっぱりひどーい!!」

真理も遂に泣く。



そしてナオ、今までで一番会心作である昨年のライブビデオを壁に映す。

「うちの初のアリーナ単独ライブーーーー!!!!!!」


「オオオオーーーーー!!!!」

と、イットシー陣が拍手喝さいで盛り上がった。




そこは神奈川県の夜のピューマアリーナ。



爆音と共に上がる煙。


夜の会場に大歓声が響く。その桜道をダーと駆けていくのは紛れもない、あの男。



………へ?


というのが、尚香の率直な感想。



今はとにかく盛り上がる楽曲。それもどこかで聴いたことがある。

歌っている。あのふざけた男が本当に歌っている。


しかも、いつも自信があるのかないのか分からない顔をしているのに、そんな気配ひとつ見せない。

むしろ、全てを引っ張っている。



次に少し賑やかな曲。先のコレットの挿入歌だ。



そして次に移り、なるほど。これがバラードか。

先と全然雰囲気が違う。




でもこれは―――




どこかで聞いた優しくて切ない音。



懐かしい、


でも思い出せない。



記憶の片隅の、さらに向こう側の音。




バンドというのも分かった。



走っているのはあの男だけだが、時々メンバーらしき者も映されていた。


一曲終わると、

ウワアアアアーーーーーーーーーー!!!!!!!

というすごい歓声が入り、そのまま次の曲に移っていく……というところで、ナオが止めた。





「お分かりいただけました?尚香さん。」

「……え?合成とかじゃないですよね?」

「もう、あまりにひどいーーー!!」


「………」

イットシーって本当に今、すごいのかと呆気にとられる反面、歌はもう出尽くしたというほど世の中に溢れている。


どこかで聞いたことがあるのだけど………、昔の人気曲を引っ張って来てるの?カバー?と思ってしまうも、それは作成陣にあまりに失礼だと飲み込んだ。出会ったばかりの人たちであるし、業界内である程度の許容範囲があっての暗黙の了承部分もあるだろう。他の業界だってそうだ。



「どう?これが、うちの功です。」

「………これ、本当ですか?」

「そうです。」

本当は裏方から始まるビデオのオープニングから見せたかったが、尚香が飽きてしまうと思い、告知ダイジェストの走って歌い出しから見せたのだ。苦肉の策である。


「……ピューマアリーナ。今、全席埋まってましたよね?ライブ会場にすると、1万7千人収容可能だから……。今チケットっていくらくらいです?」

尚香はいきなりスマホを見始める。

「一般席が1万円ぐらいかな?」

「え!コンサートってそんなに高いんですか!私が学生の時は6千円でした!」

「………」

曲より値段が気になるのか。


「埋まれば億行きますね……。でも、スタジアムと周辺諸費用込みで一日1千万円として……少なすぎます?こんな大きな箱、自分で借りたことないから……。準備撤収……スタッフに貸し出しや持ち込み、周辺の整備、チケット…運搬……。大きいと2日以上しますよね……。宣伝もしたら………」

この人は何を計算しているのだ。


「……回収できるのかな………」

しかも、やっと興味を持って検索し始めたのかと思えば、ライブのチケットのカレンダーやタイムテーブルを見ている。そして半独り言。

「あ、そっか。ネットや曲自体の売り上げもあるのか!大規模コンサートより、このライブハウスの儲けの方が確実なのかな?回数こなさないと大きな儲けにならないですよね。この業界って、どういう給料形態なんだろ。功君はお給料?歩合制?」

「……尚香さん……何を考えているんですか?」

ナオが不安気に聴く。


「功君がきちんと音楽で食べていけるか計算してるんです。」

「は?」


またみんなあんぐりしてしまう。この人は何を言っているのだ。


「まり、ほんっと、許せないんだけど!!うちや功、どれだけバカにされてるの???お金もらってないとでも思われてるの??」


そう言われて、尚香は真理を直視する。

「だって、功君。

私に『年収100万くらいあればいいですか?そんくらいですけど?』みたいな感じだったんですよ!!」



「!!!」

何それ、みんな納得のひどさである。






※対バン…複数のバンドが出演する形

※CF…コマーシャルフィルム。広告の中で動画を指す

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